春のおとずれ 【完結】   作:バルボロッサ

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魔法の世界と闇の魔法

 ホグワーツ授業二日目。いずれはここでの日常が当たり前のものとなるだろうが、咲耶にとってまだまだ目新しいものの連続の一日が今日もまた始まる。

 たった一日にもかかわらずルームメイトと居室にはお互いすっかり慣れたらしく、朝起きて半覚醒のクラリスの髪の毛を梳くのが、早くも咲耶の日課となりつつあった。

 

 クラリスと自分の髪を梳いて制服に着替え、4人そろって寮の談話室に行くと、すでに起きていた数人の寮生が掲示板の前に集まっていた。

 

「ん? なんだろ?」

「何かの掲示みたいだけど……」 

 

 しばらくするとクィディッチの代表選手選抜のための選抜試験の掲示が行われるのが例年のことだが、流石に2日目は早すぎる。昨年、一昨年には見られなかった光景にリーシャとフィリスが首を傾げた。

 

「なんやろなぁ?」

 

 

 第6話 魔法の世界と闇の魔法

 

 

「例の新科目の受講の詳細が知らされているんだよ」

 

 後に続く咲耶とクラリスも小首をかしげており、リーシャは掲示板を見た手近な生徒を捕まえて尋ねようとして、その前に見覚えのある男子生徒が事情を説明した。

 

「セドリック君、おはよ~」

「おはようサクヤ」

「よっす、セドリック。新科目って?」

 

 箒に乗るのがうまいセドリック・ディゴリー。部屋でリーシャから何度も聞かされたその名前はクラスメイトの中でも比較的早い段階で覚えた名前だ。

 ぺこりとお辞儀をしてあいさつすると、セドリックも挨拶を返した。問いかける手間が少し省けたリーシャが、あいさつついでに質問を投げかけた。

 

「精霊魔法。新任のスプリングフィールド先生の授業の日程が掲示されているんだ」

「あ~。そういやリオンそんなこと言っとったなぁ」

 

 前列を陣取っていた一団が掲示板の前から捌け、リーシャたちが掲示板を見た。

 

 

 ――――――――――――――

  【精霊魔法(入門編)開講の知らせ】

 

 内容:魔法世界にて用いられる精霊を介した魔法に関して(その他、詳しくは学期前のシラバス参照)。なお期末試験は実技のみによって考査される。

 対象:新設のため4年間以上継続して学ぶことができる4年生以下が望ましい。(ただしリタイア自由)

 開講日:・・・・・・・・

 

 ――――――――――――――

 

 

「おっ、ようやく来たか! 実技重視とはいいじゃん!」

「うちのクラスは……金曜日ね。グリフィンドールとの合同授業だわ」

 

 掲示板の内容を読み進め、リーシャは楽しそうに声を上げた。あまり座学の得意ではないリーシャにとって内容の末尾に書かれた一文は期待のもてるものだったのだろう。

 授業は昨日リオンが、そして今しがたフィリスが確認した通り、金曜日から。

 

「これ。サクヤも受ける?」

「うん。受けるえ~。リオンのセンセー姿見れる機会やもん」

 

 すっかり咲耶に懐いたクラリスは、咲耶がある程度の精霊魔法を習っていることを心配してだろう。受講するかについて問いかけ、咲耶の答えにほっとしたような表情を見せた。

 

「いやー。少なくともサクヤが居てくれるから、試験については心配なさそうだな」

「あはは、どやろな~。リオン結構そーゆーとこ厳しいから」

 

 毎度期末試験に悩まされているらしいリーシャは、心強い味方に期待の眼差しを送っている。一方、期待されている咲耶は彼の容赦のなさを知っているだけに苦笑い気味だ。

 

「僕も是非お願いしたいな」

「なんだよ、セドリック。ゆーとーせーのあんたなら楽勝だろー」

 

 一緒に確認していたセドリックが微笑みながら咲耶に言うと、リーシャは悪ふざけのノリで、ただし多少の僻みが入っているような口調で咲耶を引き寄せながら言った。

 

「この授業の目的は、異文化交流でもあるらしいからね。僕も留学生と仲よくなりたいしね」

 

 リーシャに肩を抱き寄せられている咲耶はちょっと驚きつつも微笑んでおり、それに対してセドリックも微笑みを咲耶に向けて答えた。

 相変わらずにこにこ顔の咲耶に対して、フィリスは瞳を煌めかせ、クラリスはなにやら敵対心を立ち上らせ、リーシャはうげっとうめき声をあげた。

 

「やめろよー。せっかくの点差をつめるチャンスなんだから、セドリックは自分でがんばれよー」

「サクヤは渡さない」

「えーいいじゃない。異文化コミュニケーション。サクヤもセドリックと近くにいれば寮に馴染むのも早いだろうしさ」

 

 三者三様の答えを返し、空笑いをそちらに返したセドリックは確認するように咲耶に視線を向けた。

 

「ええよ~。うちの方もよろしゅうお願いします」

「よろしく、サクヤ」

 

 咲耶の答えに3人の友人はそれぞれの思いをこめた顔を表していた。

 

 

 

 リーシャの強い希望によりセドリックと離れた一行は朝食のために食堂へと向かった。

 

「リーシャ、セドリック君に対して敵対心いっぱいやなぁ」

「あ~、もうちょいしたら寮の代表選抜があるからなー」

「リーシャは去年、セドリックと一緒に選抜を受けて、彼だけ通っちゃったから悔しがってるのよ」

 

 なんだか遠ざけるようなことを言ってはいたが、リーシャの口調はそれほど陰湿なものでないことは雰囲気やリーシャの明るい性格から分かっていた。それでもなんだかリーシャはセドリックにライバル心をいだいているように見えた。

 

「いいとこまでいったんだけどなー。あの時外さなきゃ」

 

 セドリックだけが選ばれたと言っても、その勝負は僅差のものだったようで、それを思い出してリーシャは瞳を燃え上がらせている。

 ライバル心の方向性も決して陰険なものではなく、スポーツマンらしい向上心あるものに感じるのはリーシャだからこそだろう。

 

「胸が重い分、バランスが崩れた」「ひゃわぁっ!!」

 

 次回の選抜に意気を上げるリーシャだが、クラリスのとある部位へのつつき攻撃によって、奇声を上げて跳び退った。

 

「なにすんだよ!」

「クラリス、女の子の胸弄んだいかんえ~」

 

 よほどうまい具合に突き刺さったのか、リーシャは胸を隠して涙目になっており、咲耶がのほほんとした口調ながらも注意を入れた。

 

 昨日から見ているとクラリスはスキンシップが多めだ。他のクラスメイトにはそれほどではないが、リーシャやフィリス、そして咲耶にはなんだか多く触れている気がする。

 

 微笑ましい戯れに笑っていた咲耶だが、

 

「リーシャの胸はマシュマロみたいで気持ちいい」

「……そうなん?」

「こっち見んなぁ!」

 

 クラリスの一言で咲耶はくるりと立ち位置を変えてリーシャ(の胸)を見た。二つの腕に隠されているそれは、咲耶やクラリスのものや年相応に発展中のフィリスのものとは異なり、隠しようのないレベルにすでに達していた。

 

「あはは、冗談やって冗談」

「まったく」

 

 警戒心をあらわにして睨むリーシャに、咲耶は笑みを浮かべて雰囲気を和まし、

 

「ところでリーシャ。今日一緒にシャワー入れへん?」

「入らない!」

 

 本命の策略を告げて拒絶された。

 

 

 寸劇をしながら食堂へと着いた4人は広間の扉を開けようとして、2人組の男子とかちあった。

 

「あっ!」

「ん?」

 

 お互いに相手に振り向き、認識するとフィリスと相手の男子たちが驚きの声を上げ、リーシャは首を傾げた。

 

 そして

 

「あっ、ハリー君や」「ハリー・ポッターよ」

「サクヤ!」

 

 いろいろと言葉を被らせて驚きの声を上げた。

 相手の名前を声にだした咲耶とフィリスはお互いに顔を見合わせ、ハリーはもう一人の赤毛の男子に袖を引かれて何かを話している。

 

「サクヤ、ハリー・ポッターのこと知ってるの?」

「うん。入学前の買い物で一緒やったんよ」

「ハリー・ポッターって例のあの?」

「…………」

 

 フィリスはイギリス魔法界に詳しくない咲耶がハリーと知り合いである風なことに驚いており、リーシャは有名人とばったり出くわしたことに驚いているようだった。そしてクラリスは珍しく眼を大きく開いて驚愕を示していた。

 それぞれに驚くところが違うようだが、ひとまず咲耶は久々にハリーと話す機会ができたことに嬉しそうだ。

 

「ハリー君、おとつい以来やね。ゆーてもおとついは話せんかったけど」

「あっ、うん……えーっと、サクヤはこれから朝食?」

 

 ほわほわとした雰囲気そのままに手を振る咲耶にハリーは少し戸惑ったような反応をしており、その横の男子は少し顔を赤くしてぽーっとしたように咲耶を見ている。

 

「そやで。あっ、せや。こちらハリー君」

「いや知ってるから」

「わたし、時々あんたの行動がおそろしい」

「天然系」

 

 友達に知り合いを紹介し忘れていた、という感じで有名人を紹介する咲耶だが、その行動にリーシャもフィリスもクラリスも呆れ気味になっている。

 

「? ああ、せやったせやった。ハリー君、こちらうちのルームメイト。フィーと、リーシャと、クラリス」

「あ、どうも。サクヤ、こっちがロン・ウィーズリー。僕のルームメイトなんだ」

 

 3人からのツッコミを受けて、そういえばハリーが有名人であることを思いだした咲耶は、ぽんっと手を打つと今度はハリーに3人を紹介した。咲耶の行動にフィリスは手を額に当てて溜息をついており、リーシャは苦笑い気味だ。

 咲耶から友人を紹介されたハリーはぺこりと頭を下げると、お返しに自分の友人を紹介した。

 

「ウィーズリー? あの双子のウィーズリーの弟?」

「えーっと、フレッドとジョージのことなら、いちおう」

 

 ハリーから紹介された赤毛の少年の名前に聞き覚えがあるらしいリーシャが咲耶にとって初耳の名前を上げて尋ねた。なんだか因縁がありそうな口調のリーシャの様子に、咲耶は小首を傾げ、フィリスとクラリスがそっと咲耶に耳打ちした。

 

「ウィーズリーの双子は私たちと同学年なんだけど、グリフィンドールクィディッチチームの代表選手なの」

「厄介なビーターコンビ」

 

 クィディッチに関する説明はリーシャから一応聞いているため、基本的な得点、終了ルールとポジションがあることは咲耶も覚えていた。

 

「今年は私も選手に選ばれるつもりだから、アニキたちによろしく言っといて!」

「え、あ、はい……」

 

 リーシャは意気揚々と選手入り宣言しているが、後輩に言っても意味がないことを誰かツッコむべきだろう。

 

「しかもホグワーツきっての悪戯好きだから、サクヤも気をつけなよ」

「巻き添え危険」

 

 昨日までに受けた注意によると、ホグワーツでは悪戯や校則違反に対して管理人・フィルチの注意が厳しいらしく、ことによっては寮監から罰則が言い渡されることもあるそうだ。

 また双子の悪戯は基本的には周囲を楽しませるものが多いが、中には(大半の標的はスリザリンだが)周囲になんらかの害を及ぼして笑いをとる場合があるらしい。

 

「へ~、そうなんか~。じゃあリオン怒らさんように注意したらなあかんなぁ」

「基本的に先生方にしかけることはほとんどないみたいだけど……」

「サクヤ、スプリングフィールド先生って怒ると怖いの?」

 

 フィリスとクラリスの注意喚起に対しての咲耶の懸念に、フィリスとハリーが問いかけた。

 まだ入学式でちらりと見ただけのフィリスやクラリスにはリオンの性格までは分からないし、一度会っただけのハリーにとっても、わずかに会話しただけなので、素っ気ない人という印象しか持っていなかった。

 

「リオン、怒ると雷落すからな~」

「雷を、落す?」

「日本の言い回し。大声で怒鳴ること」

「へ~、スプリングフィールド先生は怒鳴るタイプなんだ」

 

 咲耶の独特の言い回しにハリーが首を傾げ、クラリスがどこで知ったのか出所不明の知識で補足した。

 フィリスの見たところでは、なんとなくリオンはマクゴナガルと同タイプの、風格で威圧するタイプに見えたため、フィルチのように怒鳴ってくるタイプには思えなかったのだろう。意外そうな声を上げるフィリスだが、

 

「違うえ~。リオンほんまに雷落してくるで」

「えっ!?」

 

 ほわほわの笑顔でさらりと言ってくる咲耶に表情を凍りつかせた。クラリスやハリーもぎょっとした表情をしている。

 

「精霊魔法ってそういうこともできるの?」

「リオンやからなぁ」

 

 

 ハリーたちとの会話の後、朝食をとった咲耶たちは魔法薬学の授業へと出席した。授業ではレイブンクローとの合同授業で、地下牢のような教室で受けることとなった。

 魔法薬学の担当教師スネイプは非常に厳しい態度で授業に臨む先生だが、その内容は非常に高度で、準備をしていた咲耶も2年分の遅れが響いて知識面での不利は否めなかった。

 

 しかしクラリスやセドリックの補助、手際の良さによってなんとか事なきをえて、授業を終えた。

 

 

「ふわぁ……大変やなぁ、まほー薬学って」

 

 授業が終わり、移動している咲耶は先程の授業の内容ですでに疲労困憊となっていた。

 

 事なきをえたといってもクラリスの手をかなり借りた部分があったのだが、作業自体においては教科書から逸脱したものはなく、スネイプも咲耶の提出した課題をふんっ、と一瞥しただけで特に講評することもなかった。 

 

「いや、でも初めての授業であそこまでできたらたいしたものよ。スネイプ先生のあれは、基本状態だからスリザリン生以外は減点されないのが優秀の証明よ」

「他の寮生が加点されることはまずない。2年受けてるリーシャに比べれば優秀」

 

 少し落ち込み気味の咲耶にフィリスとクラリスはフォローの言葉をかけており、他方リーシャは魂が抜けたように放心している。

 授業内においてもリーシャは鍋を過熱させすぎて失敗してしまい減点を宣告されていた。

 

「サクヤ、随分手際はよかったけど、魔法薬作りはやったことあったの?」

「んーん。うち料理作るの好きやから、材料切ったりお鍋みたりするのは得意なんよ」

「いや、材料って……ヒルとか蝙蝠は使わないだろ、普通!」

 

 知識面はともかく、フィリスが言うように作業自体はとても初めての魔法薬学とは思えない手際だった。だが、咲耶の返答に放心していたリーシャが復活して言った。

 

「あはは。そやなー。蜥蜴を鍋に入れたんは初めてやわ」

「意外と図太いわね、この子……」

「フィーなんて最初の授業で悲鳴を上げて、大減点されたのにな」

 

 魔法薬学特有のゲテモノ材料にまったくひるまなかった咲耶にフィリスは頬を引きつらせており、リーシャはフィリスの過去の失敗を例にあげた。

 

「あれはっ! あんたが段差に躓いて私の顔に蜘蛛を投げつけたからでしょ!」

「あはは」「あははじゃない!」

「二人とも魔法薬学ではだいたい散々」

「そう言うクラリスも2年の時、授業中思いついたって暴走して、縮み薬を萎び薬に変えたじゃんか!」

「……魔法の発展研究」

「うそつけ!」

 

 なんだか過去の失敗暴露大会が始まってしまい、咲耶もあははと笑った。

 

「と、まああの科目に関してはよくできる方が珍しいから、ちょっとの失敗は気にしない方がいいわよ」

「でも闇祓いの試験には必須」

 

 ひとしきり暴露したフィリスたちは咲耶に振り返ってアドバイスを告げた。実際、5年時の試験終了後には魔法薬学が選択制になり、履修するのは全寮合わせても20人にも満たなくなるのだ。

 それほど難しい魔法薬学だが、とある役職には必要な技能らしくクラリスがいつもの無表情に戻って告げた。

 

「闇祓い?」 

「そっちにはねーの? 闇祓い?」

「闇の魔法使いを逮捕したりする魔法省の職業よ。優秀な人しかなれないの」

 

 クラリスの言ったワードが分からずに首を傾げた咲耶にリーシャとフィリスが闇祓いについて説明する。

 

「んー……闇って祓わなあかんもんなん?」 

 

 その説明に対して、咲耶が不思議そうに首を傾げると、リーシャとフィリスはぎょっとしたように咲耶を見返し、クラリスも驚きに目を見開いた。

 

「いや! そりゃ!」

「サクヤ、知らないから仕方ないけど、そういう考え方はここだと危ないわよ」

 

 驚きのままリーシャは口をぱくぱくとさせており、あまり騒ぎ立てるのはよくないと考えたフィリスはリーシャの口に手を当て、そっと咲耶の耳元で小声で話しかけた。

 

「そうなん?」

「ハリー・ポッターが倒したっていう例のあの人とか、その配下だった死喰い人とか、闇の魔法使いっていうといろいろ問題のある魔法使いのことなのよ」

 

 クラリスはなにか暗い瞳で言いたいことを堪えるような顔をしており、フィリスが闇の魔法使いに関する注意を手短に伝えた。

 

「サクヤは……サクヤたちの使う魔法にも闇の魔法があるの?」

 

 リーシャがちらりとクラリスを気遣うようなそぶりを見せ、クラリスはなにか聞きづらいことを問いかけるように、心細げに問いかけた。

 

「ん~、うちは使われへんのやけど、そういう属性もあるよ。闇とか影とか」

「属性?」

「うん。こっちの魔法にはそーゆー区別あんまないみたいやなぁ」

 

 いつもと変わらぬ咲耶の様子に、クラリスの様子も少し落ち着いたようで会話が続いた。咲耶にとって闇の属性とは、身近に使い手のいる属性の一つに過ぎず、まだ強大な魔法を教わっていないがゆえに、そのリスクなども知らないのだろう。

 

「……知らない」

「リオンが教えてくれる思うけど、うちらの使うまほーやと、色んな精霊さんに来てもらうから、そうゆう属性があるんよ」

「じゃあ、その……悪さする魔法使い、とかそれを取り締まる人とかどう言うの?」

 

 イギリス魔法族の共通認識として闇の魔法使い=悪の魔法使いだ。咲耶の認識が魔法世界側においても稀な立ち位置から形成されたものではなるが、それでも闇系統に属する魔法、闇と火の魔法、影の魔法、魔獣使役などを好んで使用する魔法使いもおり、そのような人物が賞金稼ぎや人助けをしていることもある。

 

「ん~。まぎすとろまぎ、かなぁ?」

「まぎすとろまぎ?」

「立派な魔法使いて言うて、困っとる人を助けたり、悪い魔法使いを倒したりする魔法使いのこと言うんよ」

「へー、それ職業なのか?」

 

 咲耶の説明(しかし少し間違っている)に、クラリスは真剣な表情で、フィリスとリーシャも興味深そうに耳を傾けた。

 

「んーと、一応魔法の国から免許みたいなんでてるらしわ。うちのお母様がそれなんやって」

「へー」

 

 魔法世界の国、メガロメセンブリア連合国。その議会が認定する資格として立派な魔法使いがあり、たしかに咲耶の母はその認定を受けて、世界中で活躍している。

 話しているうちに次の授業の教室、魔法史の教室についた一向は、それぞれ荷物を下ろし、授業の準備を始めた。

 

 ただ

 

「闇の魔法は……許されない魔法……」

「えっ?」

 

 ぽつりと呟かれたクラリスの言葉は授業の始まりとともに壁をすり抜けて入ってきたゴーストのビンズ先生への驚きによって掻き消えた。 

 

 

 ・・・

 

「ふわぁ……眠たーい、お腹すいたー」

「というよりあんたは寝てたでしょ」

 

 魔法史の授業は、咲耶にとって初めて受けるゴーストからの授業であり、その壁をすり抜けてくるという来室姿こそ驚いたものの、多くの生徒にとってそれは非常に眠気を誘うものだった。

 リーシャは片手で瞼をこすりながらもう片方の手でお腹をさすっており、その歩みはどこかふらついているようにも見える。リーシャの横ではフィリスが呆れ顔でツッコんでいた。

 

「リーシャ涎たれてるで~」

「えっ、うそっ!」

 

 うそや~と笑う咲耶にリーシャは怒り笑いを返している。にぎやかな一行。その中で一人沈んだ顔の友人がいることを咲耶は見つけた。

 

「クラリス、どしたん?」

「……なんでもない」

 

 咲耶はクラリスに顔を近づけ、心配そうに問いかけるが、クラリスはふいっと顔をそらして、そっけなく答えた。フィリスとリーシャもどことなく気まずそうにクラリスを見ている。

 

「クラリス。うち、なんかあかんこと言うてもた……?」

「……」

 

 そっけなくしたにも関わらず、咲耶は自分にこそ非があると心底心配したような目でクラリスをじっと見つめており、少し黙り込んだクラリスはじっと咲耶を見つめ返した。

 黒く純粋な瞳。吸い込まれそうになるほどに純粋なその黒は、なにか悪いことをしてしまったのではないかという不安の色でいっぱいだった。

 

 別に彼女が悪いわけではない。ただの考え方の違いだ。そういった違いを学ぶことが彼女にとって、そして彼女と関わる者たちにとって大切なことなのだ。

 

「ううん。サクヤはなにも悪くない」

 

 ふるふると首を振ったクラリスは、ぽすんと咲耶の胸元に顔を埋めた。

 

 

 ・・・

 

 

「おい。手が止まってるぞ」

 

 放課後。今日もまた不足分の補習を行うためにリオンの元を訪れた咲耶は、テンションの高かった昨日とは逆にどこか上の空の感じだった。

 

「うち、あかんこと言ってもたんかなぁ……」

「あ?」

 

 午後の授業は咲耶の楽しみにしていた魔法生物飼育学だったが、期待していた楽しみは咲耶の胸に湧き上がってこなかった。

 昼食時にはいつもどおりに戻っていたクラリスだが、その後の授業で彼女は古代ルーン文字学の授業へと行ってしまい、クラリスの沈んだ理由はうやむやのまま放課後になってしまったのだ。

 

 リオンも暇ではなく、わざわざ自分のために時間をつくってこの空間に入れてくれているのは分かっており、そう割り切り、ルームメイトにも補習に行くことを告げて出てきた。

 だが、小さい頃からの知り合いのお兄ちゃんがいるという状況がゆえに、ふとした拍子に気になることが口をついて出てきてしまう。

 

 沈んだ咲耶の様子がリオンにも分かるのだろう。苛立たしそうに頭を掻くと読んでいた本を閉じて咲耶に視線を向けた。

 

「口に出してすっきりするならとっとと話せ。時間の無駄だ」

 

 ぶっきらぼうな口調で促すリオンだが、わざわざ自分の作業を中断してまで自分に時間を割いてくれたこと、それは自分を気にしてくれてのことだが分かり咲耶は少し驚いた表情となった。

 

「リオンやさしーな~」

「その口縫い付けるぞ。とっとと話せ」

 

 リオンの気遣いに咲耶は少し気分が浮上して微笑を向け、リオンは傍目にはイラッとした返答を返した。

 

「うん。あんな――――――」

 

 昼にあったこと

 闇の魔法に関わること

 闇は祓わなければならないものなのか

 闇とは悪いことなのか

 

 咲耶の喋るそれを、リオンは頬づえをつきながらもじっと聞いた。全部喋り終えると、咲耶はまた少ししょんぼりとした様子で俯いてしまった。

 

「うち、自分の使うとった魔法のことも、こっちの魔法のこともよう知らんから、それで知らんとクラリス傷つけてしもたんかな……」

 

 咲耶が住んでいたのは山奥の大きな神社の一角だった。小学校にこそ通っており、学校には友達も居るにはいたが、実家の特殊性ゆえに家に呼んで遊ぶようなことも、同い年の友達の家に遊びに行くこともできなかった。

 普通の学校に通っていたがために、周りには隠し事をした。隠し事をしているという罪悪感を無意識に抱いていたのか気の置けない間柄になれるほどの友人は作れなかった。

 

 魔法学校に来て、実家から離れて寮に入って、四六時中一緒にいる友人、自分のことを隠すことなくつき合える友人ができた。

 だから、そんな自分が、友人を傷つけてしまったかもしれないことがショックだったのだ。

 

 黙って話に耳を傾けていたリオンは、沈み込んだ咲耶を見て、ふぅ、とため息を一つはいた。

 

「お前は俺とか、あの人たちのことを昔からよく知ってるから分からんだろうが、闇の魔法使いってのは基本的に魔法世界でも嫌われもんだ」

 

 リオンの言葉に咲耶は俯かせていた顔をバッと上げた。

 

「でも、リオンもエヴァさんも、ネギさんも……うちの知っとる人はみんな、大好きなええ人やもん……」

 

「俺がいい人かどうかはともかく。ネギのことがあるから今はだいぶ認識も変わってるが、一昔前あの人がなんて呼ばれていたか知っているだろ?」

 

  英雄ネギ・スプリングフィールドが闇の技法を会得していることは知る人ぞ知るものとなっており、闇の魔法といってもそれを扱う者次第だという考えはかなり広まって入る。

 だが、それでも本当の闇の魔法は危険度の高いものであることには違いはない。

 

 闇の福音、悪しき音信、禍音の使徒、童姿の闇の魔王。あの人の異名は幾つもある。そしてそれと同様に、魔法界においてリオンが立派な魔法使いに認定されることは決してない。

 それを聞いているはずの咲耶は頬を膨らませ不満そうな顔でそっぽを向き、

 

「……キティちゃん」

「縊り殺されるぞ」

 

 誰に聞いたか知らない呼び方を口にしてささやかな反抗を示した。

 

「でもでも!」

「むこうよりこっちの魔法使いの好き嫌いは激しい。そこらへんを変えるのがネギ達の仕事だ」

 

 必死に反論しようとする咲耶の言葉をリオンは遮った。

 向こうの魔法使いも、昔は闇を嫌っていた。一般人とは壁を作っていた。だがそれはかなり変わりつつある。いや変える必要があるのだ。

 だが、こちらの魔法使いにとってそれは、あちらよりも難しい。

 

 魔法の使えない一般人を見下す。一般人から生まれた魔法族を蔑む。

 純血の一族同士で嫌いあう。一般人と慣れ合う者を侮蔑する。

 

 嫌いあう立場がいくつもあり、魔法使い同士がまとまらない。それはネギたちが為すべき事のためには重大な障害となってしまう。その障害に躓けば多くの命が夢のように消えてしまう。

 

 ネギや魔法世界にいる王女様、咲耶の母、母の友人の人たち、その他大勢の人が関わる夢の計画。魔法世界と地球世界を結ぶ夢。事の大きさは聞いてはいても、実感として分かるにはまだ咲耶は幼すぎて、知らないことも多過ぎる。

 

「闇の属性に関しては、授業でもそのうちやるから、とりあえずお前はこれ以上気にするな」

「……」

 

 そのことを突きつけられたようでしゅんとした咲耶にリオンはもう一つ溜息をついた。

 

「考え込むお前より、少しくらい頭にお花畑咲いてるくらいがお前らしい」

「……それって褒めてへんよなぁ」

 

 ふいっと顔をそらして付け加えた言葉に咲耶は先程までとは違う意味で頬を膨らませてリオンを見上げた。

 

「そろそろ時間だ。出るぞ」

「はーい」

 

 席から立ち上がり、出口へと向かうリオンに、咲耶も勉強道具を片付けてその後を追った。

 1日一度開く出入り口を通ると、そこは補習のために訪れてから1時間後のリオンの部屋だった。

 

「リオン……」

「ん?」

「ありがとうな」

 

 咲耶の顔には部屋に戻る前よりも明るさがわずかに戻っており、多少無理はしているものの笑みが戻っていた。

 

「ふん。それは俺じゃなくて、部屋の扉をこじ開けようとしてるバカどもに言ったらどうだ」

「え?」

 

 咲耶の顔を一瞥したリオンはつかつかと部屋の出入り口へと近づき、扉に手をかけた。

 悪戯好きの生徒やゴーストがいることは知っていたから、異空間に行く前に部屋全体に結界を施しておいたのだ。ダンブルドアクラスならばともかく、一介のゴーストやまして生徒には到底破れるものではなく、開けられた形跡のない扉をガラリと開ける。

 

「なにをしてるガキども」

 

 開いた扉の外には3人の女生徒が逃走寸前の体勢をとっており、気まずそうにリオンを見上げた。

 

「えっと、その……」

「授業も始まってないのに質問か?」

 

 金髪の髪を後ろで纏め上げた少女、茶髪のボブカットに赤いリボンをつけた少女、ショートカットの小柄な少女。

 

「サクヤを迎えに来た」

 

 金髪の少女がなんとか言いつくろおうと口ごもっている間に、ショートカットの少女が切り出した。それに対してリオンは特に表情を変えず、相変わらず不機嫌そうに見える顔で室内へと体を向けた。

 

「お迎えだそうだ、補習生」

「クラリス……リーシャとフィーも……」

 

 リオンが体をずらした扉の隙間からひょっこりと顔を出した咲耶はそこにルームメイトの3人の姿を見つけた。

 

「へへへ」

「1時間、ぴったしだったわね」

「…………」

 

 リーシャとフィリスはいつものように笑いかけ、クラリスは少し戸惑うように顔を俯かせた後、

 

「おつかれさま、サクヤ」

 

 微笑を向けて手を差し伸ばした。

 




オリキャラ多数となっているので1章が終わったくらいで人物のまとめをしようかと思います。
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