『お前は一体何者なんだ?』
達也の眼からは明らかに警戒的なものだったな。あの眼は何かを守るための忠誠心からでる眼と、常に脅威が近くにある者の仕草だ。しかし、あいつは何に気を張っているんだ?妹を守るためという理由はあり得なくもないが、それでもあの警戒は異常といえるだろう。できれば達也とはこれからも仲良くいきたいが、昨日の会話の切り方がいけなかったな。自分にも非があるか、早めに説明しておこう。
そう思いながら、朝食を食べ、家を出た。
「バダップくん、オハヨ~」
学校へ登校をすると、校門前で聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「七草会長、おはようございます」
会長はともかく、司波兄妹といつものメンバーと登校時間が重なった。達也の顔を見ると、まだ警戒的な雰囲気だった。
「みんな、おはよう」
全員に挨拶を交わした後、達也たちも軽く挨拶を返してきた。
今の状況は、どうやら七草会長が司波兄妹を生徒会室で昼食を一緒にとらないかという誘いだが、エリカが『遠慮する』ということを言った後、気まずい空気が流れている状態だった。
「じゃあ、深雪さんたちだけでも」
会長は先ほどの拒絶に動じることなく笑顔のままそう答えた。その問いに深雪さんは少し考えているようだったが
「……分かりました。深雪とお邪魔させていただきます」
「バダップくんはどうかしら?」
会長はじと目でこちらを見ながら問いかけてきた。これは、俺も行くべきだろう。断れなさそうだからな。
「では俺もお邪魔させていただきます」
そう答えると、「お待ちしていますね」と会長はそう言い、その場を後にした。
「いらっしゃい。遠慮しないで入って」
司波兄妹ともに生徒会室に入ると、会長に手招きされる形で椅子に腰をかけた。
「入学式でしましたけど、念の為、もう一度紹介しておきますね。私の隣が会計の市原鈴音、通称リンちゃん」
「…私のことをそう呼ぶのは会長だけです」
容姿やたたずまいは大人びた印象を受ける市原先輩には似合わないあだ名だと思うが、どちらかと言えばやはり先輩という単語が付属したほうがイメージあっているといえる。
「その隣は知っていますよね?風紀委員の渡辺摩利。それから書記の中条あずさ、通称あーちゃん」
「会長…下級生の前で『あーちゃん』は止めてください。私にも立場というものがあるんです」
小柄な容姿と、幼いような顔立ちからこのあだ名はかなりあっていると思えてしまうが、それは心の中にしまっておこう。
「もう一人、副会長のはんぞーくんを加えたメンバーが、今期の生徒会メンバーです」
なるほど、だいたいメンバーは理解した。だが、なぜ俺は呼ばれたんだ?深雪さんはともかく、達也と俺はどうしてなんだ?
「私は違うがな」
「そうね。摩利は別だけど。あっ、準備ができたようです」
生徒会室においてあるダイニングサーバーから5つの料理が乗ったトレーが出てくると、全員の昼食が始まった。
「そのお弁当は、渡辺先輩がご自分でお作りになられたのですか?」
「そうだ。…意外か?」
この時期に料理が一人前にできるのは、中々いない。以前いた世界でも、弁当を高校生一人が毎日作っている人物はいなかったに等しい。ただ、渡辺先輩からはあまり意外という感覚は雰囲気からなかった。
「そういえば、君も弁当だな」
渡辺先輩が、こちらへと話の話題をふってきた。俺の場合は単に以前の生活の癖が抜けていないだけだが
「毎日、全ての食事でバランスを考えたほうが健康的に過ごせますから。意外ですか?」
先ほどの先輩の言葉をオウム返しのように言った。
「いいや、君ならできそうだし、全てこなせそうだからな」
その後の会話というと、再び話題の主軸は司波兄妹へと戻り、達也の妹愛が炸裂し、話のキリがなくなっていった。
「そろそろ本題に入りましょうか」
一時的に盛り上がっていた会話を唐突ながらも会長の言葉で切り上げた。
「当校は生徒の自治を重視しており、生徒会は学校内で大きな権限を与えられています。生徒会は伝統的に、生徒会長に権限が集められています。生徒会長は選挙で選ばれますが、他の役員は生徒会長が選任します。解任も生徒会長に委ねられています。これは風紀委員も同じです」
なるほど、風紀委員も委員長が生徒を選任できるのか、確かにそうでもしなければ、会長になった際の抑止力がなく、まともにまとめることが出来なければ、学校全体のバランスも崩れるだろう。
「これは毎年の恒例なのですが、新入生総代を務めた一年生は役員になってもらっています」
なるほど。わかってはいたが、やはり深雪さんを勧誘することが目的だったのだろう。さしずめ達也と俺は、会長の気まぐれで誘われたものだろう。
「深雪さん、貴方を生徒会に入ってくださることを希望します。引き受けてくれますか?」
会長の問いかけに、深雪さんは達也の方を1度向き、達也はそれに対し、小さく頷いた。
「わかりました。精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願い致します」
その言葉に、その場にいた全員は安堵の表情を見せた。達也も、少し嬉しそうな笑顔をしていた。
「それでは、深雪さんには書記として、今期の生徒会に加わっていただきます。それじゃあもう少し時間があるし、お話でもしましょうか」
会長が軽く手を合わせると、そこで話が終わる…はずだった。
「ちょっといいか」
おもむろに手を挙げていたのは、渡辺先輩だった。
「風紀委員会の生徒会選任枠のうち、前年度の卒業生の二枠がまだ埋まっていない」
俺はその発言から大体のことが察することができた。会長達はまだわかっていないが、これは…
「第一科の縛りがあるのは、副会長、書記、会計だけだったよな?つまり、風紀委員の生徒会枠に、二科の生徒を選んでも規定違反にはならないわけだ。」
突拍子もないことに俺以外…いや、俺と会長以外は唖然とした顔をしていた。
「摩利、貴方…ナイスよ!」
会長の目は大きく開き、声も跳ねるような雰囲気になっていた。
「そうよ、風紀委員なら問題ないじゃない。摩利、生徒会は司波達也くんを指名します」
「私は君を指名しよう」
そう言うと、渡辺先輩は俺の方を向いた。
「ちょっと待ってください!俺達の意思はどうなるんですか?大体風紀委員が何をする委員なのかー」
「達也。まだ、深雪さんも生徒会の仕事については話してないぞ?」
俺は冷静に矛盾点を言うと、達也の顔はいたいところを突かれ、険しいものになっていった。
「風紀委員の主な任務は、魔法使用に関する校則違反者の摘発と、魔法を使用した争乱行為の取り締まりだ。例を上げるとすれば、警察と検察を兼ねた組織みたいなものだ」
仕事の説明したのは渡辺先輩だった。頬が少し上がっているものから達也を面白がっているのがわかった。深雪さんも目を輝かせて達也を見ていた。
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その後、達也の抗議は続いたが、先輩達の返答に全て返され、話の続きは放課後となった。
「達也、そう気を張るな。もう断ることはまず難しいだろう。受け入れた方がいい」
達也はどうも乗り気ではなく、かなり嫌々なのは見ていてわかった。だが、俺達は生徒会室の前に来てしまった以上逃げられないのはわかった。
「「失礼します」」
生徒会室に入ると、視線を下げていた男が、視線を下げ、こちらの方へ近付いてきた。顔を見て俺はすぐにわかった。生徒会副会長の服部刑部先輩だった。
「副会長の服部刑部です。司波深雪さん、生徒会へようこそ」
そう言うと、握手を交わそうとしたが、それをやめ、俺と達也を無視したまま席へと戻って行った。
「よっ、来たな」
「いらっしゃい、深雪さん。達也くんもご苦労様」
慣れているのかどうかわからないが、渡辺先輩と会長はそんな副会長の言動を気にも止めず、話は進められた。
「早速だけど深雪さんこちらに来てもらえる?あーちゃんお願いね」
「…はい」
ぎこちない顔をする中条先輩だったが、すぐに諦め、深雪さんを端末の方へ誘導した。
「じゃあ、あたしらも本部に移動しようか」
そう、渡辺先輩が言うと、風紀委員会本部へと向かおうとした。
「渡辺先輩、待ってください」
呼び止めたのは服部副会長だった。
「どうしたの?はんぞーくん」
会長は不思議そうな顔で言った。
「その一年生二人を風紀委員の補充に任命するのは反対です」
生徒会では一科生と二科生を差別すると言ったことはないとは思っていたが、まさか副会長がやるとはな。少なからず気づいてはいたが。
「おかしなことを言う。司波達也くんを生徒会選任枠で指名したのは七草会長だ。そしてバダップ・スリードくんは私が選任した。この二人にはそれなりの実力がある。それは会長や私が見て確認済みだ」
「何ですって…!!」
服部副会長は予想外といわんばかりの表情を見せた。
「しかし、渡辺委員長の主張があるとしても、風紀委員の本来の任務は、校則違反者の鎮圧と摘発です。魔力の乏しい二科生に風紀委員は務まらないと思います」
「待ってください!」
振り返ると、兄への冒涜に耐えきれなかった深雪さんが口を開いた。
「せんえつですが副会長、兄は確かに魔法実技の成績が芳しくありませんが、実戦ならば兄は誰にも負けません」
深雪さんの言葉に服部先輩は、
「深雪さん、身内に対するひいきは、一般人ならばやむ得ないでしょうが、魔法師を目指す者は身ひいきに目を雲らせることのないように心がけなさい」
その瞬間、一瞬だけだが、達也から殺気が漏れたような雰囲気がした。
「お言葉ですが、わたしは目を曇らせてなどいません!お兄様のー」
「深雪」
鋭く張りのある全体に聞こえる声で、妹の言葉を制止した。
「服部副会長、俺と模擬戦をしませんか」
達也の意外な申し出に、その場の全員が呆気にとられたような顔をした。
「思い上がるなよ、補欠の分際で!」
服部先輩の顔からは激しく血が上っている状態で、激しい罵声がとんだ。
「別に、風紀委員になりたいわけじゃないですが…妹の目が曇っていないと証明する為ならば、やむを得ません」
達也の言葉は独り言のように小さかったが、それはかなりの挑発的な態度だった。すると、会長がそこで口を挿んだ。
「私は生徒会権限により、二年B組・服部刑部と一年E組・司波達也の模擬戦を、正式な試合として認めます。時間はこれより三十分後、場所は第三演習室、試合は非公開とし、双方にCADの使用を認めます」
会長がそう宣言すると、その場には殺気と、はりつめた空気が流れた。
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時間が経ち、先ほど生徒会室にいたメンバーは、第三演習室に全員が到着していた。試合に関しては渡辺先輩のルール説明の後、達也は拳銃型のCAD、服部先輩は腕輪型のCADで試合に望んだ。結果をのべるならば、勝ち得ない方が勝ったと言うべきだろう。そう、勝ったのは達也の方だった。CADでの戦闘をイメージしていた服部先輩は、達也の身体能力の面を想定していなかった。今の俺の感じている達也の印象とすれば、常人とはかけ離れた何かに見えてしまっていた。しかし、昔の自分だったらたじろいてる所、今の俺にとっては気にするまでもないことだった。まあ、服部先輩とも和解も済み、俺としては解決と言いたかった。
「それじゃあ、生徒会室に戻りましょうか」
会長の言葉に全員がその場所から立ち去ろうとした時だった。
「少しいいか?」
この場で突然声をかけたのは、またも渡辺先輩だった。
「どうしたの摩利?」
「バダップくん。私はまだ君の実力を把握できていない。もちろん君の以前の実力である程度の腕があることはわかる。どうだろうか、私と模擬戦をしないか?」
意外な言葉に俺も驚いたが、他の全員も驚きを隠せないでいた。
「確かにバダップくんの実力も見たいけど、でも相手が摩利だと…」
「俺は別に構いませんが」
「うん、そうよねってえええ!?」
俺としては別に断る理由もないし、何より先ほどの理屈だと俺自身が本当のひいきされている対象になりかれないからな。
「バダップ、本当にやるのか?」
「ああ、俺自身もここで断ると、服部先輩に言われてしまうからな」
「まあいいわ。それじゃあ今から十分後に同じルールの正式試合ということでいいわね」
「私はそれでいい」
「俺も構いません」
こうして、俺と渡辺先輩との模擬戦が始まろうとしていた。