一度だけの指切り   作:ペンタくん

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竹林の小屋で

「本当に?」

 

四方八方真っ暗闇の空間に少女の声が響く。喜んでいるようで、その声はどこか弾んでいた。

 

「もちろん。だからホラ、約束の指切りだ」

 

今度は大人の男性の声が聞こえる。誰と誰が話しているのかいっさい分からないが、なぜだろうか、この会話を……私は知っている。いや、正確には知っている気がする。

 

どこかで聞いたことがあるはずなのに、どうしても思い出せない。

 

『ゆーびきーりげーんまーん ウーソつーいたーら 針千本のーます 指切った!!』

 

必死で思い出そうとしているところに、また2人の声が聞こえてきた。

『指切り』

誰でも一度は友達と交わしたことのあるもの。

 

それを少女と男性が交わしている?

そんなことを考えていた私は、無意識のうちにスッと前に手を伸ばしていた――――

 

 

 

 

 

「あ……れ?」

 

我に返ると、天井に向けて手をあげたまま仰向けに寝ていた。

 

「夢……?」

 

上げていた手を降ろし、ゆっくりと起き上がる。どうやらさっきのは夢らしい。

いや、今はそれよりもこの場所である。パッと見回しても、この一部屋しかなく、隅っこには玄関らしき扉、もう一方の隅は台所のようになっていて、ご飯でも炊いているのか、湯気が窓から外に出ていっていた。

 

見たことのない場所だ。恐る恐るベッドから足を出した時、扉がバンッと勢いよく開いた。

 

「ひゃっ!!」

 

突然のことに驚いた私は、布団を顔の前に持ってきて一旦隠れ、ソローリと開いた扉の方を見る。

 

「おっ、目が覚めてたみたいね」

 

そこにはカゴいっぱいにタケノコを入れた、膝下くらいまで伸びた銀髪の少女が立ってこっちを見ている。

その長い銀髪には何個もリボンがついていて、白いシャツと赤いズボンという容姿。

すごくキレイな人で、思わず見とれてしまうほどだ。

 

「もう少しでご飯出来るから待っててね」

 

少し怯えている私にニコッと微笑むと、その人はカゴの中から適当なタケノコを2個選び、台所で調理を始めた。

悪い人じゃないと私は本能的に確信したが、どうしてだろうか……あの微笑みにほんの少しだけ違和感を覚えた。

それから数分間、台所に立つ女性をジッと布団越しに見る私と、調理に集中する女性の間に沈黙が居座る。

話したいことは山のようにあるのだが、時間が経てば経つほど沈黙が邪魔して、こちらから声をかけることが出来なくなっていく。

 

 

「……あ、あの!!」

 

沈黙を破り、意を決して女性に声をかけた。

 

「ん、ちょっと待って……よし」

 

その女性は私を制止するとクルッと振り返り、テーブルに2人分の料理をおいた。ちょうどご飯を作り終えたようだ。

そして「よいしょっ」と椅子に座り、女性はこちらを見た。

 

「聞きたいことがあるんでしょ。ご飯食べながら聞くから、こっち来て一緒に食べよう?」

 

ちょうどその時、部屋にぐぅ~と情けない音が響いた。

お腹は正直者だ。私は顔を赤らめ、恥ずかしそうに小走りで女性の向かい側に座った。

 

目の前には炊き立てのご飯と、ゆでたタケノコが置いてある。

 

「ちょっと質素だけど召し上がれ」

 

「ありがとうございます!」

 

笑顔でどうぞと言われ、怯えていた頃がウソのように勢いよくご飯を食べ始める。

その様子にちょっとポカンとしていた女性はフッと微笑むと、自分のご飯を食べ始めた――

 

 

 

「ごちそう様でした」

 

あっという間に食べ終わり、両手を合わせて合掌をする。ほどなく女性も食べ終わり、本題に入った。

 

「で、いろいろ聞きたいことがあるみたいだけど……」

 

食器を流し台に置き、戻ってきた女性は少し真剣な表情で言ってきた。そして私をジーッと凝視している。

水色のスカートにベージュのトップス、胸には黄色いリボン――

 

どこか変だろうか?とちょっと不安になり、私も自分の服をあちこち見回す。

 

「あ、ごめんごめん。ちょっとこっちじゃ見ない格好だからさ」

 

苦笑いを浮かべて女性はよく分からないことを言った。それは私の中に疑問を1つ増やした。

 

「こっち……?」

 

「……そうだよね、1つ1つ説明しなきゃね。あ、その前に自己紹介してなかったね。私は藤原妹紅、一応ここに住んでるの」

 

「立花瑠梨です」

 

ペコリと会釈して自己紹介を終える。妹紅はそんな私を見てニコッとして、よろしくと笑顔で言ってくれた。

「えっと、まずここは幻想郷っていう場所なんだけど知ってる?」

 

「いえ、実は名前以外何も覚えていなくて……」

 

「記憶喪失ってこと?」

 

「みたいです」

 

瑠梨は申し訳なさそうに言い、しゅんと俯く。

幻想郷において、記憶喪失の人物は決して少なくない。ただ、その多くに共通している点が1つある。

 

 

『外の世界から来た』ということだ。

 

 

外の世界とは、幻想郷以外の場所全てを指す。幻想郷には外の世界で「幻想となった」モノがやってくるのだ。無論、人間も例外ではない。

 

 

『瑠梨は外の世界の人間』

 

 

妹紅にとって、この仮説はほぼ確信に近かった。

そもそも、瑠梨は竹林で倒れていたところを妹紅が見つけたのだ。女の子1人でこの竹林に入るなど、特別な能力でも持っていない限りまずありえない。

そして里では見かけない服装、記憶喪失――

 

 

(間違いなさそうね)

 

それならば、これは妹紅が解決できる範囲ではない。こういうのは専門家に任せるのが得策だろう。

ただ、自分で拾ってきた以上、ある程度の責任は果たさなければならない。

連れて行く前にちゃんと説明できることは説明しないといけない。全て丸投げでは無責任すぎる。

 

「ん~……たぶん瑠梨は外の世界から来た人なんだと思うけど、自分の住んでたところとかは?」

 

「思い出せないです」

 

瑠梨はフルフルと首を横に振り答える。

ニホンなどの答えが返ってきたら、なんていう一縷の望みを抱いたが、残念ながらそれすら分からないらしい。

 

「えっとね外の世界の人は、元々住んでいた世界に帰るか、幻想郷に住みつくかの二択になるんだけど……少なくとも記憶が戻るまでは幻想郷にいることになると思うよ」

 

外の世界とか、幻想郷とかよく分からない言葉を言われたが、とりあえず記憶が戻るまではここにいなければならないということは理解できた。帰る当てなど当然無いし、別の案があるわけでもない。

 

「はい。分かりました」

 

瑠梨は覚悟を決め、キッと表情を引き締めて頷く。

 

「よしっ、それじゃあ人里まで連れて行ってあげる」

 

「お願いします」

 

ペコッと頭を下げる瑠梨から目を背け、妹紅は軽く苦笑いを浮かべる。

ここまではなんとか我慢してきたけど……やっぱり耐えられない。

 

「あ~……あのね、出来れば敬語はその……くすぐったくてさ」

 

別に嫌なわけではないのだが、幼い子供に敬語を使われることに慣れていない。

むしろタメ口で来てくれた方が妹紅も話しやすいのだ。

 

「えっ……あ、すいま……ごめ…ん?」

 

「すいません」は敬語だからダメで、だけどいきなり「ごめん」はどうなんだろう?などと頭の中で悩みまくり、思わず妹紅に尋ねるように、恐る恐る謝ってしまう。

 

「うん、その方がいいかな。友達みたいでいいでしょ?」

 

笑いかけてくれたその笑顔が、瑠梨の小さな不安をかき消していく。そして「友達」という言葉が、瑠梨の心の距離を一気に縮めていく。

 

「うんっ!!」

 

表情がパァッと明るくなり、満面の笑みを浮かべる。

初めて見る瑠梨の笑顔、太陽のように明るいその笑顔は、妹紅も久しく見ていないほど無邪気で、その笑顔が自分にまで移ってくるのではないかと思うほどキラキラ輝いていた。

 

「よし、じゃあ行こ」

 

妹紅は立ち上がると、瑠梨の目の前にスッと右手を差し伸べた。妹紅にとっては何気ない行為なのだが、瑠梨にはその手があまりにも眩しいものだった。

 

その手を見て一瞬固まった瑠梨だが、すぐにしっかりと握る。小さな左手に、温かい熱がスゥッと伝わってくる。

胸に感じる安心感と信頼感が、そのまま言葉に現れる。

 

「うんっ、妹紅お姉ちゃん!!」

 

いきなりのことに「えっ!?」と戸惑いを隠せない妹紅だが、ちょっと頬を赤らめながら「まぁいっか」と思うことにした。

 

だって……そう呼ばれること、嫌いじゃないから――

 

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