虚空を翔ける鋼の騎士   作:匿名希望

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投稿テスト失敗したので普通に初投稿です。
ガバガバ文法、語彙力貧困、へなちょこ文章力、圧倒的な説明不足、定まらない視点等に気を付けてください。
それでも読んで頂けるのなら嬉しいです。楽しんでいってくださることを願います。
読みたくない方はブラウザバックしてください。それから考え直してもう一度ご覧頂きたい。

さて、長々と前書きを引き伸ばすのも飽きると思いますので、そろそろ本編を始めさせて頂きます。


第一部 空歴4996年・魔神戦線──── ────クレイドル07攻防戦
第一話


 空中に浮かぶ人工の楽園。いつかの人類が夢見た光景は、ここに実現されていた。

 人々は何の恐れも抱かずにただ安寧を享受し、生まれ、育ち、やがて死んでいく。

 この楽園に住まう人間は絶対に安らか且つ幸福な生涯を約束される。

 無知な赤子を乗せて空に揺蕩う揺り籠。

 

 五千年前の人類の遺産。

 ────人はそれを、クレイドルと呼んだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 虚空に、黒い影が走った。

 

 剣の刃を思わせる鋭角的なフォルムに、背中に背負った人工物の翼。

 異様なその全身鎧を身に纏った何者かは、何人にも邪魔立てされる事はなく。

 魂の赴くままに、空を翔けていく。

 

『トーリスリッター、指定空域に突入。作戦を開始してください』

 

 機械鎧の中に組み込まれたシステムが声を拾い、自らの主に届けた。

 それを聞いた担い手は、短く返事を返す。

 

「了解──リタ、行くよ」

『はい、主様……ご武運を』

 

 視界に未だ映らない異形を認識すると、鎧は全身の装甲を変型させる。

 巡航モードから戦闘モードへ、蕾が花を開くように滑らかに移行する。

 変型が終わると、右手に光の粒子が集まり、それは銃の形を成した黒い金属へと姿を変える。同じく左手に、今度は少し銃身の短い銃を持つ。

 

「さて……オペレーター、数は?」

『下級種が九、上級種が三です。交差戦術を提案します』

 

 戦闘準備を終え、鎧を通じて確認を取る。

 特に異常は見られない。今回も指示通りに片付ける事にする。

 

「はいよ。リタ、聞いたな?」

『メインブースター、起動します!』

 

 主に尋ねられると、鎧は背中の翼に焔を灯した。

 いつでも準備は万端という合図だ。それを察した担い手は、両手に携えた兵装をしっかりと構える。

 

「────掃討作戦、開始する」

『システム・トーリスリッター、任務を遂行します』

 

 人工の翼が人ならぬ力の焔を吐き出し、鎧は超高速で直進する。

 やがて敵を視認すると、担い手は右手で握り締めたグリップを意識して、引き金に指をかける。

 有効射程距離に敵を収め、そしてゆっくりと引き絞るように指に力を込める。

 途轍もなく重い引き金だったが、しかし呆気なく弾丸は放たれた。

 

 ────否。それは弾丸ではなく、光の奔流だ。

 その光は容赦無く空を喰らい尽くし、一切の抵抗無く異形の存在に辿り着く。

 その巨体に風穴を開け、着実なダメージを与えた。

 そこへ左手の銃から断続的に放たれた光の弾丸が次々に直撃し、異形は撃沈した。

 

『良い調子です、主様。一度空域を通過します』

「ああ、調子も悪くないらしい。俺も捨てた物じゃないのかもな?」

『もちろん、主様はいつだって絶好調ですよ』

 

 巨体を一つ沈めてその脇を通り抜け、高速で反転。

 狙いをきっちり定め、右手の──ラディアントマグナムという──銃から連続して高出力の光線を射出、二つ目の異形を撃破する。

 更に左手の銃、フォトンライフルからも射撃を行い、小さな個体を二つ纏めて空域から叩き落とした。

 そして再び交戦距離から離脱。

 

「だと良いけどな。……でかいの一つ、小さいの七つか。リタ、最短ルート」

『表示します。極力被弾は抑えてください』

「解ってるよ」

 

 視界に映し出される仮想のラインに従い、翼の焔を偏向して高速域に突入する。

 ラディアントマグナムの一射は高火力な反面、撃ち切りな上に再装填の時間が掛かる。そちらは絶対に外さない。

 フォトンライフルは所謂アサルトライフルであり、多少は外しても残弾に余裕がある。そもそも残弾という概念はあって無いような物だが。その為、こちらは少し粗めの狙いを付けた。

 

『バトルレンジ、入ります!トリガーを!』

「────ッ!」

 

 右手の人差し指にイメージを送り込み、重くて仕方の無い引き金を一気に引く。銃身内で成形され、空間に弾き出された光の奔流が虚空を駆け抜ける。

 更にそこへ左手を差し向けると、比較的軽い引き金を引き絞る。

 

『上級種、損傷確認しました。下級種、残り四』

 

 鎧から届けられた戦況確認。それにより、二つの光による視界不良を物ともせずに彼は照準を再度合わせる。

 まずは数を減らす事を選択。一定のダメージが確認できた上級種は置いておき、先に下級種を撃破する算段らしい。

 

 少し手首を回しつつ、ラディアントマグナムを撃つ。薙ぎ払うように放たれた光線は、狙い通りに複数の異形を焼き尽くす。次いで撃ち損ねた最後の一つへフォトンライフルの弾幕を叩き付け、撃破。

 左手へのエネルギー供給を断ち切り、右手へ一極化させる事でリロードを加速、回復する前に上級種へ砲口を向けた。

 

「恨むなよ」

 

 間髪開けずに撃ち出された第二射により、三体目の上級種は呆気なく消滅した。

 周辺空域に敵対存在が居ない事を確認すると、そっと両の人差し指から力を抜いた。

 引き金から離した指を遊ばせながら、開いた装甲を閉じていく。

 

『状況、終了しました。お疲れ様です、主様』

「ああ、お疲れ様、リタ。……オペレーター、帰投許可は?」

『既に出ています。クレイドルに戻ってください、トーリスリッター』

「了解。じゃ、帰って録画したアニメでも見ますか」

 

 装甲が完全に閉じられると、システムが巡航モードへ移行した。

 それに従って愛銃達は光に還り、両腕を構成していたパーツも空気抵抗を考慮した形状へ変形を果たす。

 後ろへ向けられた翼から勢い良く焔を吐き出すと、黒いその機体は超音速で空域を離脱した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 とある空間に、立体映像が投射されていた。

 そこには七人の、それぞれ異様な雰囲気を纏った人間が集まっており、彼らは一様にその映像を見ていた。

 黒い機体────クレイドル07(セブン)に宛てがわれた魔導機鎧(アサルトフレーム)、トーリスリッターの戦闘記録だ。

 

「……やはり、あの機体は」

「ああ、間違いない。セラフの後継機だろう」

 

 鋭い目付きをした男が、不意に呟いた。

 それに対して年老いた男が頷き、肯定を返す。殆ど断定していると言って良いその物言いには、ただの確信だけではない物が宿っていた。

 

「となると、零号機は動くのか?」

「封印は何れにせよ解ける。それが今か後かは、事ここに至れば大きくは変わらない」

 

 二度目の発言をした男に、中性的な容姿の女が答える。“封印”という物をあまり重視していないような事を口にしたが、その実“零号機”の動向は気に掛けているようだ。

 

「……否。情報は依然足りない。決め付けるのは愚かしい」

 

 それまでの流れに反した発言。喪服を連想させる黒い装いの少女。

 他とは段違いの異常性を感じさせる彼女の瞳は、真実何も映してはいなかった。

 

「しかしな。宮殿から消えた零号機に、出所不明の七号機……それも、同じ意匠と来ている。断定しても、早計とは思えないが?」

「人はそれを客観性が無いと形容する。……零号機を早期に取り戻したいのは理解できる。それでも、無関係の可能性は取り除くべき」

 

 見た目から予想できる年齢よりも遥かに落ち着いた様子を見せる少女に、他の六人は沈黙した。

 

 そう、それは正しく早計と言うべきものである。

 未だ姿を見せない零号機に焦りを感じるのは人間として正しい反応ではあるが……この場でそれは禁忌である。

 寧ろ、人間離れした少女の態度の方がここに於いては正しい。この場所に、普遍的な人間性を持ち込んではいけない。

 

「……では、見送ると?」

「追加の根拠が無いのであれば、七号機の……トーリスリッターの撃墜命令は凍結する。危害を加えることも、捕獲する事も禁ずる」

「……チッ」

 

 誰かが、小さく舌を打った。

 それが誰かは明瞭であったが、同時に不鮮明だった。

 この場の六人は、互いを正確に識別する機能を阻害されている。最高格の少女を除いて。

 その為、何処の誰がこれを仕組んだのかは解らず終いという訳である。まさかこの場を抜けてから自白するような真似をする愚か者は居ないであろうからして。

 俯瞰視点からの思考を終えると、少女は再び口を開いた。

 

「既存六機に対しても同様。零号機に関連した情報は隠蔽する事を厳守、規定に変更は無い」

 

 それに反抗する発言は無かった。その心の裡は不明なれど。

 少なくとも、公の立場を以て彼女に敵対する存在は居ないという事である。私的な感情は彼女にとって些末な事であり、それだけ確認できれば良いのである。

 

「……以上、議会を終了する。各員、各々の責務を果たすように」

 

 一言のみ言付けると、少女は真っ先にその空間から消え去った。

 それを見た六人は次々に姿を消す。まるで、スイッチを落とした照明が如く、何の前触れも無く。

 

 その絡繰を説明するのであれば、小難しい言葉は必要無いだろう。この空間はそもそも仮想の存在、生身で議会に参加した人間なぞ一人も居なかったのである。

 

 誰も居なくなった円卓の中央で、装甲を閉じた黒い機体が虚空へと翔けていった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 不意に、目を開いた。

 何かの違和感を拾った訳では無い。

 或いは何らかの発見があった訳でも無く。

 単に、体を休めているだけの静寂に飽きが来ただけである。

 

「主様、お目覚めですか?それならお茶でも淹れましょう、今日の配給はアールグレイでした」

「……おはよう、リタ。元気だな、お前は」

 

 ベッドから上体を起こすと、部屋の外から差し込んだ太陽が眩しかった。

 目を細めて何も無い空を眺めていたが、それにも飽きて立ち上がった。

 

「はい、おはようございます。わたしはいつでも元気ですよ。よく眠れましたか?」

「少しは休めたよ。何か変わった事はあった?」 

「いいえ、何も。そもそも主様が帰投してから一時間と経っていませんから」

「……道理で太陽が眩しいと思った」

 

 白いシンプルな陶磁器に注がれた紅茶を口に流し込み、一つ深呼吸した。

 慣れた空気が肺を満たし、急な戦闘で緊張していた体が少しずつ解されていった。

 

「今日も美味しい紅茶ありがとう。目が覚めた」

「きっと茶葉が良いんです。さぁ、主様。今日はどうしますか?もちろんこの部屋でわたしと退廃的な一日を過ごすのも歓迎ですよ」

「冗談は程々にな、リタ」

 

 別に、それはそれでまた一つの幸せの形なのかもしれないが。

 さすがに相棒との爛れた生活に憧れる程に飢えているつもりはない。

 

「あら、残念です。それなら外に行きましょうか。時刻はまだ朝と昼の間です。散歩には丁度の良い時間でしょう?」

 

 欠片程にも残念に思っていないような表情で彼女は手を引っ張っていく。

 それに抗う事もせず、玄関で靴に足を引っ掛けてそのまま外へ。特に何も着飾らずに、ただの散歩へと繰り出した。

 

「クレイドルは変わりませんね。……主様が守った空です。少しは誇ってくださいね」

「驕って落ちるような下手は打ちたくないから少しだけな」

「もう、そうやって謙遜して」

 

 仕方なさそうな表情をするリタは、それでも楽しそうだった。

 魔導機鎧(アサルトフレーム)の統制人格────本来なら人の形を得られるような存在ではない彼女が、こうして担い手の身の回りの世話をしているのには、込み入った事情がある。

 しかしまあ、互いにそんな事は気にしていない。

 今はただ、こうして触れ合える幸せを享受しているだけで良いのだ。

 

「……ねえ、主様」

「何だよ、リタ」

「…………いいえ、呼んでみただけです」

「何さ、それ」

 

 見慣れた場所と人通りを抜けていく。今日は少しのんびりと歩く予定らしい。

 暫く歩いていくと小さな公園があった。決して寂れている訳ではなく、管理は行き届いている。

 遊具は少ないが、そこで遊ぶ子供達の顔に不満は見えない。この公園に満足しているようだ。

 

「……今日も平和ですね」

「子供があんな風に遊べるなんて、随分と穏やかになったもんだ」

「数年前までクレイドル7の周囲には大量の怪異(ホロウヘイズ)が跋扈していましたから……。それを全て片付けたのは主様の功績です」

 

 また、彼女はそう言って称える。

 過去の栄光に縋るつもりなんて無いが、少しくらいは自負を持った方が良いのだろうか。

 そんな事を考えつつも、足は勝手に適当なベンチへ向かった。

 ちょっと歩いた。足を止めてゆっくりと過ごすには良いタイミングだ。

 はしゃぐ子供達を視界から外し、何一つ変わらない空を見上げる。ここに怪異の影響は無く、クレイドルという空の揺り籠に居る事も忘れそうだった。

 

 ────どれくらい、そうして居ただろう。

 

 時間にして何分か、それとも何十分と数えるべきなのか。

 ふと、リタが呟いた。

 

「それでは主様、お昼にしましょうか」

「もうそんな時間……と言うか、いつの間に準備したんだ?」

 

 出掛けるときに何かを持っていた様子は無かった。魔導機鎧(アサルトフレーム)の機能を使ったのだろう。

 無駄遣いとは言わないし、言わせない。

 

「主様が休んでいる間にですよ」

「……俺が家に引き篭もってたらどうするつもりだったんだ」

 

 少し気になった事を尋ねる。

 すると、リタは何でも無いように答えた。

 

「その時は晩御飯になるだけですよ」

「お前の昼は?」

「場合によっては抜きます」

「やっぱり馬鹿だよお前」

 

 リタは魔導機鎧(アサルトフレーム)に芽生えた人格、普通の人間とは違う部分も多々あるが。

 しかし、生きている事には違いない。睡眠もすれば食事もするのだ。

 その重要な食事を何とも無い様子で「抜く」と言われてしまえば、あまり気は抜けなくなる。

 

「冗談ですよ。少しくらいは食べます」

「だと良いけど。リタはすぐに遠慮するから」

「わたしだってお腹が空いたら正直になりますよ」

 

 さて、それはどこまで本当なのか。

 その詮索については後の楽しみに取っておくことにして、リタが広げた昼食に視線を落とした。今日も美味しそうな食事が並べられている。

 紅茶を淹れる腕前もそうだが、彼女は基本的に女子力と呼ばれるステータスが高い振る舞いを見せる。料理などやらせればもう自炊なんてしていられない。

 

「まるで話に聞くピクニックですね。たまにはこんなのも良いかもしれません」

「たまにはな。俺は家でゆっくりしてる方が好きだよ」

「それはわたしを独占したいと?」

「それもある」

 

 特に動じずに答えてみせる主に、魔導機鎧は嬉しそうな顔で笑う。

 リタはこんな遣り取りを交わさなくても、自分へ向けられている信頼やそれ以上の想いに気付けている。

 それでもこうして、繋がりを確かめたくなってしまう。

 そんなどうしようもない自分に付き合ってくれる主に、従者は笑顔を向けたのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 目を開けると、まだ日は登っていなかった。

 日の出を見るなら丁度良い場所がある。何となしに、そこへ足を伸ばす事にした。

 部屋を出てベランダを経由して屋根に上がり、小さなスペースに腰を掛けた。

 

「……まだ、掛かるかな」

 

 どうやらかなり早い段階で目を覚ましたらしく、早朝どころかこれは未明である。

 だが、のんびりと太陽を待ち受けるのも一興。とりあえず朝食まではここに居る事にする。

 

 見ていると落ち着く色合いの空をじっと見上げて、さて何分が経過したのか。

 地平の果て────その表現が正しいのかは解らないが、視認できる限界地点に光が見え始めた。

 それと同時、視界の端に黒い影がひょっこりと顔を出した。

 

「……何か用かな、アリサ」

「あ、いや……その……」

 

 そちらを見ずに声を掛けると、彼女は驚いた様子で硬直した。こちらが気付いていないと踏んでいたらしい。

 見事に予想を外したアリサ────黒鐡(くろがね)アリサは、身を隠す事を諦めて素直に出てきた。赤い瞳は真っ直ぐにこちらを見る事なく揺れている。

 

「……遊びに来たんだ。少し早起きしたみたいだから」

「うちに来られても何も無いけどな。見てくか?」

「ん。良ければご一緒させてほしいな」

 

 少し横にずれて場所を空ければ、銀髪の少女は遠慮がちに腰を下ろした。

 視線の高さを同じくして、未だ開けない宵の空を見上げること数分。

 ふと、アリサが口を開いた。

 

「……ねえ。君はさ、自分が契約者(テスタメンタ)になった事に不満を持った事はある?」

「不満、か?いや、無いけど」

「……そっか」

 

 端的な返答に短く返すと、彼女はまた口を噤む。

 しかしそこには負の感情は無かった。不満は無いというその答えに異を唱えるつもりは無いらしい。

 

「君が契約者になったのは、半分は私のせいだから。もしその役目を嫌っていたら、どうしようって思っちゃって」

 

 安心したような顔で、アリサは呟いた。それは殆ど独り言のような物だったが、確かに否定しなければいけない事があった。

 

「……いいや。リタと会えたのは幸せな事だし、お前と同業になれたのは良かった。それに、この仕事はやりがいもあるしな」

「やりがい?」

 

 オウム返しに聞き返す彼女に、自然に笑顔を浮かべて頷く。脳裏には、真っ黒な服を着たプラチナブロンドの少女の姿が浮かんでいた。

 

「そう。俺がクレイドルを守れば、喜んでくれる人が居る。嬉しそうな顔をしてくれる人が居る。……まあ、上司なんだけど」

 

 本人が言う情報から推測するに、あの少女(ゼロ)はこのクレイドル07の管理者と呼ばれる存在なのだろう。

 上位者は、常に超然とした態度を保つ。というよりも、そんな形でしか他者と触れ合えないのだろう。

 それでも不器用なりに功績を称え、精一杯に喜んでくれる人が居る。

 一人の契約者を動かすには、十分に過ぎる理由だ。

 

「……少し、解るよ。私も、誰かの為に頑張ってるから」

「そうか。……ああ、そっち(シックス)は安泰か?」

「もちろん。私の居場所は私が守るよ。どうしてもって時は君の力を借りるけどね」

 

 にこり、という擬音が似合う表情のアリサ。そんな彼女に少し見惚れていると、不意に空の色が変わっている事に気が付いた。

 

「……時間だね」

「もうこんな時間か。……いや、そんな物か」

 

 時間の速度は、主観的に見た時の充実感に比例して加速する。親しい友人との会話なんてその代表と言えよう。

 だから不思議には思わない。ただ、考えていたよりもアリサとの会話を好ましく思っていた事に驚いただけ。

 

「今日も日が出た。あれがまた落ちるまで……せめて、少しでも平和だと良いね」

「……ああ。全く、そう思うよ」

 

 日の出を目に焼き付けると、アリサが立ち上がる。

 彼女の本来の居場所はクレイドル06、ここではない。

 魔導機鎧六号機────グレイエンプレスの契約者(テスタメンタ)である以上、クレイドル07で遊んでいる暇は無い。ここに来られたのは、日の出がいつもより少しだけ早かったからだ。

 

「それじゃあ、またね。これでも私は君の先輩だから、何かあったら頼ってね」

「できるだけ迷惑は掛けないつもりだよ。それじゃ、気を付けて」

「うん。そっちも。……姫様、起きて」

 

 静かに魔導機鎧(アサルトフレーム)を身に纏い、そっと飛び上がる。

 魔導炉によるブースターの推力で飛行するトーリスリッターとは違い、グレイエンプレスは反重力機構を用いている。その為、無反動且つ無音での飛行が可能なのだ。

 

「私は傍には居られないけど……リタとゆっくり過ごしてね」

「解ってる。姫様も元気でな」

『……お前に心配される謂れはありませんが、受け取っておきます。有り難く思いなさい』

「手厳しい事で。じゃあな」

 

 飛行というより浮遊に近い動きで空へ上がったグレイエンプレス。

 それを見送ると、再び太陽の方へと視線を向けた。

 

「……精々、今日も平和を祈っておくよ」

 

 数瞬ほど目を閉じていたが、すぐにいつもの調子に戻して部屋へと足を向けた。

 まずは相棒を起こし、それから朝食にする。

 今日は不思議と、良い事が起こる予感がした。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 一つ、息を吸い込む。

 そこから酸素を奪い尽くすと、用済みと言わんばかりに吐き出す。

 それを数度繰り返すと、落ち着かない場所にも慣れてきた。

 

「……陽彩?」

「いや、何でも無いよ」

 

 一応、確認する。

 俺の名前は御童(ごどう)陽彩(ひいろ)、十六歳の契約者(テスタメンタ)だ。

 相棒はトーリスリッター、魔導機鎧(アサルトフレーム)の中でも最新の七号機。

 よし、とりあえず頭の方は問題無さそうだ。

 

 そうなれば問題があるのはこの現実、という事になるのだが────。

 

「陽彩、そんなに凝視して、何かあった?」

「だから何でも無いって」

 

 喪服を連想させるような、真っ黒の装い。記憶が確かであれば、ゴシックロリィタと言うのだったか。

 旧世紀である西暦から存在する服装と言う事で、かなり格式の高い服装なのだろうが……。

 実際、この少女はかなりのお偉いさんである。

 

「だったら、どうして私を?特に理由も無く?」

「全くその通り。……いや、思う所が無いとは言わないけど」

 

 彼女の名はゼロ。名字は知らない。

 俺の暮らすクレイドル07、その管理者である。

 そしてここはゼロの自室。つまる所、このクレイドルにおいて最も豪華絢爛な一室である。

 

「……私はただ、いつも突然の依頼に対応してくれる陽彩を労う為にここに来た。この部屋が好ましくないなら、別の場所に行く」

「いや、わざわざそんな事しなくていいから」

 

 表情は硬いし口調もどこか事務的だが、ゼロは俺の事を一人の人間として大事にしてくれている。

 普通なら契約者(テスタメンタ)など人間として扱われたりはしない。アリサなんかが良い例だろう。基本的に自由は無い。

 だが、俺の所属するクレイドル7は違う。何せ管理者がこれだからだ。

 

「……?でも、努力に褒賞が与えられないのは誤り。なら、どうすれば良い?」

「別に深い事考えなくて良いから。単にご苦労様って一言があれば十分だよ」

「でも、それは……」

「俺が良いって言ってるの。だからそれで良い」

 

 何度言ってもゼロは聞いてくれない。仕方無いので、そのプラチナブロンドの髪を梳いて誤魔化しておく。

 無表情ながら煮え切らない雰囲気を漂わせるゼロに苦笑しつつ、俺は部屋を見渡した。

 相変わらず殺風景だ。一目見れば豪華絢爛さに目を惹かれるが、しっかりと見ればそこは空虚な伽藍堂だと解る。

 

「むぅ……」

「まあまあ、そう不満そうな顔するなよ」

 

 ゼロの表情は、アリサやリタに言わせれば殆ど変化していないらしい。しかし俺にはしっかりと、少し上目遣いで抗議するような感情が見えた。

 俺としてもそんな顔が見たくてここに来たわけではない。なので、とりあえずご機嫌取りから始める事にする。

 

「ほら、今日も話を聞かせてよ。西暦の話が良いな」

「……あんな昔話、楽しい?」

「俺は楽しいよ。ゼロが嫌だって言うならしなくても良いけど」

 

 俺が迷い無くそう言うと、彼女は少し考えてから言葉を発した。

 

「……なら、良い。つまらない女のつまらない昔話で楽しんでくれるなら、無駄な記憶にも意義はある」

「それを無駄とは言わないさ。それじゃ、前回の続きからお願いできるか?」

 

 頭に乗せていた手を離して、近くのベッドに腰を下ろす。ついでにゼロも隣に座らせる。

 さあ、これで準備は終わりだ。

 ゼロが乗り気になってくれると良いけど。

 

「……前回、どこまで話した?」

「クレイドル計画の発端まで。俺としてはセラフの話をもう少し聞きたい」

「セラフ……でも、うん、望むなら。……陽彩は物好き」

 

 少し複雑そうな表情をしていたが、ゼロはすぐに元の無表情に戻る。セラフ、と物語の中で語られる存在に、彼女は少し思う所があるらしい。

 とは言え嫌と言う訳でもないらしく、また口を開いた。

 

「でも、そんな物好きだから好き。それなら、まずは────」

 

 彼女は俺に語り聞かせてくれる。西暦という太古の時代の話を。

 最早どんな書物にすら記載されていない、遥かな昔。

 そこにも今と同じように人は生きていて、それも空ではなく地上に足を付けて生活していたという。

 そんな有り得ない話でさえ、ゼロが話せばどうしてか素直に真実だと思える。

 その不思議な力は彼女固有の物で、だから俺はこうしてゼロに話をせがむ。

 リタはこんな俺を、親に子守唄を歌わせる子供のようだと言っていた。

 

「────そう。それは、いつか人が零号機(セラフ)と呼んだ失敗作のお話。何でもできた最弱の魔神と、何もできない最強の魔導機の物語。最初の翼が大空に羽撃くまでの、長い長いプロローグ────」

 

 きっとこれは、俺にとっての子守唄なんだろう。

 だってほら。

 彼女の声はこんなにも。

 聞いているだけで、心が安らぐのだから。

 

 

 

 いつまでそうして居たのだろう。

 ふと気付けば、明るかった外はすっかり暗くなってしまった。

 話の合間に摘んでいたお菓子の類いは全て消え、ただ空き袋がいくつか散乱しているだけになった。

 

「……今日はお終い。また続きは次の機会に」

「ん、解った」

 

 机に広がった物を纏めてゴミ箱に投げ入れ、ベッドから立ち上がる。

 少し動いていなかった事で凝り固まった背中やら腰やらを解し、軽く背伸びをする。

 

「今日もありがとう、ゼロ。楽しかったよ」

「楽しんでくれたのなら、それで良い。私の話なんかで満足してくれる人間は、陽彩しか居ない」

「さあ、どうだろうな。アリサやリタ辺りも興味持つんじゃないか?」

「……それこそ、僥倖。だとしたら、無意味に重ねた記憶も無駄じゃない」

 

 どこか嬉しそうな微笑みを見せて、ゼロは軽い動作で立ち上がる。どこがお気に召したのかは解らないが、珍しい物が見れた。

 

 今日は昼御飯の時に唐突な招集を掛けられたが、それ以外は特に何も無かった。ほぼ一日中ゼロと喋っていただけだ。

 明日もこんな風に平和だと良いんだけど、俺は経験則的に知っている。怪異が少なかった日は、その翌日に大量、或いは超大型の怪異がやってくる。

 ……少し、気を引き締めておかないと。

 

「……陽彩?」

「いやさ、少し考え事。……なあゼロ、お前にもしも人を守る力があったとしたら。そんでもって、誰かに助けを乞われたら。……お前は、迷わずそれを助けてやれるか?」

「随分と唐突。でも……うん、きっと迷わない」

 

 少し考えてから、ゼロはそう言った。

 そこに迷いや揺らぎは無く、それが紛れも無い本心だと解った。

 

「そっか……ゼロは、凄いな」

「私はそんな褒められた存在じゃない。本当に凄いのは、陽彩のほう」

「へ?」

「自分の身を以て誰かを助ける事を実践している」

 

 ……いや、それが仕事なんだけど。

 

「仕事だろうと何だろうと、君がやっている事は誰かに讃えられて然るべきもの。だから、私は陽彩にはできるだけ自由にしてほしい。……それだけと言う訳では、無いのだけれど」

「え?」

「……いいえ、何でもない」

 

 最後の部分は少し聞き取れなかったが、相変わらずゼロは優しい。だってほら、魔導機鎧(アサルトフレーム)契約者(テスタメンタ)なんて、その為に調整された兵器みたいな物なんだから。それを人間として扱って、尚且つ適切な評価も下してくれる。

 

 彼女はただ、俺を甘やかしている訳じゃない。俺がだらけている時にはちゃんと叱ってくれるし、立ち止まった時には強引にも立ち上がらせてくれる。

 その上で、俺の働きに対してこうして何かを提供してくれる。専ら俺は昔話をせがむのだが。

 

「ずっと独占しているとリタに怒られる。そろそろ、家に帰るには良い時間」

「そうだな。後は今後の楽しみにとっておくよ。次はラプラスの話をお願いして良いか?」

「……セラフはもう良いの?」

 

 俺の言葉を聞くと、ゼロは不安そうな顔で俺を見上げた。身長差のせいで、自然と俺が彼女を見下ろす形になる。

 しかしどうして突然そんな事を言ってきたのか。そもそもゼロは自分からはセラフの話をしてくれないのに。

 

「飽きたって訳でもないけど、一つの話だけ聞いてても世界が見えて来ないなって。だから、その後にまた聞くよ」

「……うん、解った。それは、正しい物の見方」

 

 少し残念がっているが、それでも納得したらしい。ゼロは俺の目から視線を外して、思い出すように部屋の中を歩き回る。

 

「それなら、ラプラスの事も少し調べておく。リタも知っている事はあるかもしれないから、聞いてみるのも良いかもしれない」

「同じ魔導機鎧(アサルトフレーム)だもんな。解った、後で聞いてみるよ」

 

 昔話はゼロにばっかり聞いていたけど、確かにリタも知らない訳では無いだろう。たまにポツリと二号機であるシェキナーについて愚痴を言っていた気がする。

 トーリスリッターは七号機で、ロールアウトしたのもつい最近だが、その核となる魔導炉とコアは全て同時期に完成している。つまり、他の魔導機鎧(アサルトフレーム)達と知らない仲でも無い筈なのだ。

 問題はリタがそれを話してくれるかどうかだが、見た所姫様とも仲は悪くないようだし、他も特別仲の悪い相手も居ないだろう。きっと快く話してくれる。

 

「今日は家まで送る。……来て、陽彩」

「良いのか?ありがとう、甘えさせてもらうよ」

 

 ふと足を止めると、ゼロはこちらに向き直って手を伸ばす。

 それに対して俺も手を伸ばし、彼女の小さな手を取る。

 

「……邪魔が居る」

「え?」

「いいえ。帰る前に少し付き合って、陽彩」

「ああ、解った。何をすれば良い?」

「基本はトーリスリッターと同じ。右はキャノンで左はパルスになっている」

 

 まるで何の話か解らないが、トーリスリッターと同じというのはどういう事だろう。

 そう思う間に、ゼロは空間を開く。俺だけが知っている、彼女の力。世界のどこか二地点を結ぶ、転移能力。

 

「飛ぶ。備えて」

「いつでも」

 

 門から光が溢れ、視界が白く塗り潰されていく。

 その中で、俺は黒い影を見た。

 どこかトーリスリッターに似たフォルムの、灰色の魔導機鎧(アサルトフレーム)

 気付けばゼロはそこには居らず、俺は空へと足を踏み出していた。




以上、第一話でした。
何分実質的な初投稿なのでお見苦しい部分も多々あったであろうと思いますが、これが現状の精一杯なのです。誤字脱字やら何やらは頑張って直しているのですが、たまに見落としてたりするかもしれません。それはその都度教えてくれると嬉しいです。
描写不足やらぶつ切りやら、本当に申し訳無い。解り辛い所は後で修正するかもしれないし、しないかもしれないので気長にお待ちください。

それでは、また次回で会いましょう。予定では週末に投稿したいのですが……。

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追記
01/21-15:50、クレイドルのナンバリングを修正
01/27-13:24、ルビを修正
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