虚空を翔ける鋼の騎士   作:匿名希望

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見事に間に合わなかったので初投稿です。
しかも思ったよりも話が進まない。これはもう筆を折った方が良いんじゃないですかね……。

まあ冗談も程々にしておきましょう。記念すべき十話、これにてこの作品の話数も二桁の大台に乗った訳です。
最初の一区切りまではまだ掛かりそうですが、一先ずはそこを目指していくつもりです。

それでは、第十話。
始めさせて頂きます。


第十話

 クレイドル01に着くと、すぐにオーリスが迎えに来た。

 アルティエさんから話の大半を聞いていたようで、現状についてかなり把握できているらしい。

 

 そんな彼女に連れられて向かった先は、格納庫。現在修復中のラプラスが待つ場所だ。

 

「あ……そういえば、オーリス」

「んー?」

「思い出したよ、全部」

「……そっか」

 

 少しだけ構造を覚え始めた施設内を歩きつつ、俺は彼女に記憶の事を話した。

 それと、俺自身が何者なのか。信じてもらえるかはともかくとしても、誰かに話したい気分だった。

 こうして悩んでいる俺を、今の俺を、覚えていてほしかったのかもしれない。

 

「記憶が戻ったなら……約束、ちゃんと思い出してくれた?」

「どれの事か解らないけど、大半は」

「じゃあ今度こそ、わたしの旦那さんになってね」

「……」

 

 さて、どう返すべきか。

 少なくとも御童陽彩は、記憶を失うよりも前に、彼女に……アリアスヴェインという少女に、淡い初恋のような気持ちを向けていた。

 それを忘却して、ゼロに出会って、彼女にまた恋をして。

 

 俺は何回、初恋を経験すれば良いんだか。

 

「まだ難しいんだけど……いや。全部終わらせてから、ゆっくり考えさせてほしい。俺は……今の俺は、誰を好きなのか、解らないんだ」

「だろうね。解ってて言ったの。でも、そうね……」

 

 俺を先導する為に少し前を歩いていた彼女が、くるりと反転してこちらを向く。

 後ろ向きに歩きながら、無邪気に微笑んで指を二本立てる。

 

「わたしは二番目って所かな、今の君の中で。……ご先祖様……アルトリウスの事、どう思ってる?」

「どうって……昔好きだった人、か?」

「今はどうなのさ」

「解ってたらそれを答えるって」

「それもそっか」

 

 何かに納得したように頷くと、また前を向いた。

 もう格納庫だ。ラプラスはどうなってるんだろうか。

 

「着いたね。かなり様変わりしてるから、驚かないでよ?」

「そりゃ楽しみだな」

 

 トーリスリッターとラプラスは、基礎フレームが似ている。

 どちらも同じ零号機、セラフという機体をベースに開発されているから当たり前なのだが。

 それを差し引いても、前と全く同じという訳にはいかない。

 

 どれだけの変化があったのかと思いながらも、俺は格納庫へ足を踏み入れた。

 まずは白銀の装甲を探すが、どこにも見当たらない。

 あの何にも染まらない白、見失うとは思えないが。

 

「こっちだよ」

 

 オーリスが指で示した方を見ると、そこには魔導機鎧(アサルトフレーム)らしき物が存在した。

 俺の愛機、トーリスリッターと似た黒い装甲。その洗練されたフォルムは、どうにもラプラスとは結び付かないが。

 

「ね、様変わりしたでしょ?」

「……これが?」

「そう、ラプラス。開発部で便宜上付けられたコードネームは“ロストセイバー”」

 

 ロストセイバー……これがバエルの言っていた事か。

 なるほど、確かに皮肉が効いている。

 ベリアルに剣を折られ、再び立ち上がった少女の翼、その名前が失われし剣(ロストセイバー)、とは。

 

「汚名返上の機会はアスタロトに取られたみたいだけど、これから名誉挽回してくから」

「……それはどうだろうな。ベリアルがあれで死んだとは、どうにも思えないけど……」

「それは勘?それとも経験?」

「どっちも、かな」

「なら信じておくよ」

 

 生まれ変わったラプラスを見上げながら、彼女は笑った。

 少し陰りのある笑みは、いつも俺以外に向けていた昔の笑顔だ。何もかもを敵視していたあの頃の、彼女らしい笑い方。

 今の底抜けの明るさみたいな物も側面の一つなんだろうが、この冷酷な感じの方が見慣れている。少し前までは違和感を感じたかもしれないが。

 

「……そうだ。お前に頼みがあるんだった」

「頼み事?良いよ、何でも言って」

 

 幾ばくかの病みを感じさせる雰囲気を霧散させると、彼女はこちらへ向いた。

 第六研究所とやらがどこにあるかは解らないが、この情勢だ。急ぐに越した事は無いだろう。

 

「第六研究所って所に行きたい。道は知ってるだろ」

「……あそこに何の用事?」

 

 唐突に目付きが変わった。やっぱり予想通りか。

 たぶん、そこも真っ当な研究を行っている場所じゃないんだろう。

 

「アーガナに、お前やアルティエさんの妹に用事がある。頼める?」

「良いけど……力を貸してくれるとは思えないよ。時間の無駄になる。それでも行くなら、案内するよ」

「解ってる。無理は承知だし、本題は他にもう一つある」

 

 単純に顔を見たいってだけだ。ここまで来たなら、たまには通話越しの会話だけじゃなくて実際に会って話をしたい。

 アーガナは気難しいが、良い友人だと言えるんだから。

 

「……仕方無いなぁ。六研(りっけん)の事は深く詮索しない事。それだけ約束して」

「そんなつもりは無いよ。アーガナに会えれば良い」

「たぶんあそこに居るから大丈夫。それじゃあ行こうか」

 

 ラプラスを回収、魔導機鎧(アサルトフレーム)の機能である質量変換によって持ち運びができるようにしてから、彼女は迷いの無い足取りで格納庫を後にする。

 

 クレイドル01の街の風景は、かつての日本という国の住宅街に似ている。

 違う所を挙げるとすれば、建物の高さか。どれも基本的に普通のマンション程度の高さで収まっており、高層タワーのような構造の物は少ない。

 

 暫く歩いた先、他と何ら変わらないような見た目の建物の手前で、オーリスは漸く足を止めた。

 ここから一人で帰れと言われても無理だな。少し歩き過ぎた。

 

「ここだよ。クレイドル01の第六研究所。通称六研(りっけん)

「……ここにアーガナが?」

「ここまで近付くと解る。あの子はここに居るよ」

 

 話も程々に、建物へ入っていく。

 外観こそ普通だったが、内部はかなり異質なように見えた。

 傷も埃も一つとして無い白い壁や床。それは掃除が行き届いているというよりも、人の出入りそのものが無いような……。

 

「……なあ、ここ本当に人が居るのか?」

「心配になるのも解るけどね。……アーガナ、出て来なよ。もう良いでしょ?」

 

 何度か階段を降りて廊下を歩いていく内に心配になり、俺は静寂が堪らずオーリスに話し掛けた。

 すると彼女は何も無い空間を眺めて、そこへ語り掛けるように────いや、何かに語り掛けた。

 

「────そうだね、もう良い。久しぶりだね、姉さん」

 

 通路の曲がり角、その影から現れた、銀髪の少女。

 オーリスやアルティエさんよりも、元になっているアルトリアスさんに近い容姿の彼女。

 今の俺としては少し複雑な気分だが、まあ別に接し方が変わる訳でもない。

 寧ろ幼い頃のアルトリアスさんを見られたような気がして、これはこれで良いかもしれない。

 

「陽彩お兄ちゃん、直接会うのはあれ以来だね。来てくれて嬉しいよ。どうしたの?」

「久しぶりにお前の顔が見たくて。それに、ちょっと用事があってな。あと、アルティエさんにも言われたから」

「……アルティエ姉さんか」

 

 ……嫌われている反応じゃないな。ただ、単純に仲の良い姉妹のような反応でもない。

 家庭事情が複雑過ぎるのも問題だ。俺がどうにかできる話じゃないが。

 

「ゆっくりしてく?それとも急ぎの用事?」

「急ぎだな。……端的に言おうか。お前の力を借りたい、アーガナ」

 

 ここでのんびりとして居られる時間も無い。彼女があくまで拒絶するなら、俺は引き下がってクレイドル07に向かう。

 

「別にそれは構わない。わたしとあの子は戦う為に居るから。……でも、その」

「うん」

「……言っても、怒らない?」

 

 一体どんな爆弾を抱え込んでいるのか。

 まあ、大した物じゃなさそうだけど。

 

「理不尽には怒らないつもりだよ。言ってみてくれ」

「……呼び方」

 

 もしかして名前の事か。

 

「アーガナって名前、好きじゃないから。お兄ちゃんに呼び方、考えてほしいの」

「んー……すぐにって言われても思い付かないな。考えとくって事で良い?」

「ん。それで良い」

 

 人の呼び方、ね。

 今まで名前そのまま、或いは相手に指定された通りに呼んできたから、そういうのを考えるのはあまり得意じゃない。

 だからと言って適当に済ませるつもりもないけど。

 

「……意外ね」

「なに、姉さん。何か文句?」

「いや、ちょっと不思議だなって。あなたほんとにアーガナ?」

「アーガナ=ディーヴァ・レイリッター。他の誰でも無いわたしだって、あなたはよく知ってる筈」

 

 ……そういえば。

 他のクローンはそれぞれの名字を名乗っているが、アーガナだけはレイリッターの名前を継いでいる。

 

 オーリスは自分がアルトリアスさんではない事を表明しているだけで、アルティエさんはそれに倣っている。

 それなら、アーガナは何を思ってレイリッターを名乗るのだろうか。

 

「気を悪くしたなら謝るよ、アーガナ。それじゃ行きましょ、どうせ時間は無いんだし」

「……先に行ってて。準備に時間が掛かる」

「ガルディーヴァ、出せるの?」

「勿論。お兄ちゃん、すぐに行くから。待っててね」

「解った、待ってるよ。オーリス、行こう」

 

 神装魔導機鎧(アサルトフレーム・ネクスト)一号機、ガルディーヴァ。

 それが、第六研究所が試験的に開発し、アーガナに貸与している機体の名前だ。

 オーリス曰く“性能だけなら既存機体よりも上”との事。実際の戦闘能力は確かめようが無いが、俺よりは戦力になるだろう。

 

「……まさかあんなに物分りが良いなんてね」

「手の掛かる妹なのか?」

「や、寧ろ不気味なくらい手が掛からないよ。わたしとアルトのデータがフィードバックされてるとは思えないくらいにね」

「姉を反面教師にしたんだろ」

「どうだか……」

 

 否定はしないのか……。

 

「何にせよ、これで少しは戦力も増強できた。アーガナはともかく、ガルディーヴァが居るのは心強い」

 

 何だかんだと言っても、妹を信頼してるらしい。

 アルティエさんに向ける物と同質の感情を見受けられる。姉妹愛と劣等感がないまぜになった歪な思いだ。

 

「……なあ、オーリス。アーガナの事、どう思ってる?」

「いつだって核心を突いてくるよね、君は」

 

 第六研究所を出て、出撃ゲートのある管制施設へ向かう。

 その道すがら、彼女に気になった事を聞いてみる事にした。

 

「よくできた妹だよ、あの子は。わたしとアルトの失敗を元に作られた、クレイドル01の最高傑作。本当の意味での、英雄アルトリウスの再来。……ラプラスを使うべきは、アーガナなんだよ」

「再来、ねぇ」

 

 毎度の如く、それを基準にしている。

 この場に居ない人間と比較した所で、何も見えてきたりはしない。

 

「本当の所がどうかは解らないと前置きするけど。アーガナは、そういう所は正直な奴だと思うよ」

「……と言うと?」

「お前がラプラスに相応しくない、自分の方が上手く扱える……そう本気で思ったら、なりふり構わず奪いに来る。四百九十六代目の英雄の座を、な」

 

 そうしないって事は、少なくともそうするだけの理由が無いって事。

 アーガナは理由及び動機が揃って、それを行うに値する状況が整えば、それを躊躇う事はしない。今までの会話からそれは掴めている。

 だから、彼女が何もしないという事は、少なくとも現状を認めている事になる。

 

「今のお前は、誰よりもラプラスに相応しいって事だよ。俺の所感だけどな」

「……わたしが……」

 

 こいつがそんな悩みを抱えてるとは思わなかったが。

 どれだけ人間離れしていようと、超然的な人物だろうと。

 所詮は人間、万能なんかにはなれない。

 

 アルティエさんはそういう意味では人間らしい。できる事とできない事の境界線がくっきりしてて、解り易い。

 でもこの阿呆は人間らしさが足りない。何せ、大概の事はやろうと思えば実現できる可能性を持っている。その異常性とも言える才能が、彼女を等身大の人間に見えなくしているんだろう。

 

「信じられないって言うなら、そうだな……」

 

 人の心を利用する言葉はあまり好きじゃないが、まあ仕方無い。

 いつも人の心を弄んでくれている仕返しという事にしておこう。

 

「お前の将来の婿を信じな」

 

 弾かれたように顔を上げる。

 解り易い驚愕が張り付けられたその表情に、何故か笑いがこみ上げてくる。

 そんな俺に、彼女は不満そうに腰に手をやるのだった。

 

「ずるいよ、それは。わたしの専売特権なのに」

「悪いな。やられっぱなしは性に合わないんだ」

「……まあ、良いよ。それじゃあ、そうだね」

 

 一つ息を吐くと、いつもの底抜けの明るい笑顔を見せた。

 “オーリス”を演じる彼女の笑顔ではなく。

 “アリアス=ヴェイン・オーリアル”という一人の少女の、とびっきりの笑顔だった。

 

「世界で一番信用ならなくて、大嫌いな奴だけど」

 

 やけに弾んだ声音で。

 言葉の内容に合わない嬉しそうな顔で。

 その胸に手を当てると、どこかで見た仕草で。

 高らかに歌うように、彼女は言うのだった。

 

「君の将来のお嫁さんを、信じてあげるよ」

 

 咲き誇る花を揺らすように、風が吹いた。

 白いロングスカートの裾をはためかせて、銀の前髪を風に揺らして。

 その奥で煌めく金の瞳が、左側だけ宝石のような緋色に染まっていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 緑色の魔導機鎧(アサルトフレーム)

 その傍らに佇むのは、黒髪黒目の少女。

 

「桜花ちゃん、行ける?」

「────」

「それは良かった。じゃ、行こうか」

 

 耳元に直接囁かれるような声音で尋ねられるも、彼女は特に反応を見せなかった。

 それでも声の主は一つ頷き、満足そうに笑った。

 

「────アーセナル」

 

 名前を呼ばれると、機体はその姿を消した。

 手元に残った緑色のペンダントを見遣るも、何を思うでもなく彼女は────深崎桜花は、空へと視線を向けた。

 

「────」

 

 人間としての機能の大半を封じられ、魔導機鎧(アサルトフレーム)を動かす為の外付け装置として運用されている彼女に、もう感情は無い。

 無い、筈だ。

 

「────あぁ」

 

 久しく使っていなかった声帯が震え、声らしき物を出力した。

 

「────空……きれい────」

 

 一瞬だけ芽生えた何かの揺らぎを大きな力で抑え付けられ、彼女の意識が黒く塗り潰されていく。

 

「その空をこれから君が壊すんだ。楽しそうだろう?」

「────」

「……もう壊れちゃったかな。アスタロトみたいに頑丈じゃない事、忘れてたよ」

 

 桜花の瞳には、その黒よりも暗い色の紋章が刻み付けられている。

 精巧に見えないように偽装されたそれは、彼女の脳へとあるイメージを送り込む為の物。

 これを使ってベリアルは桜花に限界まで苦しみを与えた後、精神が壊れる程の快楽を叩き込んだ。

 その影響は著しく、もう彼女にかつての面影は無い。

 

「いやぁ、陽彩くんには悪い事したなぁ。もう使い物にならないもん、桜花ちゃん。言いなりにはなるからそれはそれで使いようがあるかな?」

 

 瞳の奥の紋章に暗い光を湛えて、桜花は歩き出す。

 クレイドル04の直下、荒廃した大地を。

 

「────時間だ。終わりを始めよう。桜花ちゃん、解ってるね?」

「────」

「御童陽彩を殺す。君を見捨てた裏切り者を殺す。……これは君の復讐だ」

「────ひいろ?」

 

 心に響くその名前を呼んで、不思議そうな顔をしながらも。

 桜花は、ベリアルに続いてどこかへ消えていった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 クレイドル07、二番地区のとある大きな家。

 二人で住むには大きく、せっかく広いのならいつかゼロと共に暮らしたいとも思っていた我が家。

 そこには今、俺とリタ以外に、客が来ていた。

 

「ここに来るのは久しぶり。こんな状況だけど……嬉しい」

 

 俺の家にゼロが居る。

 夢見た風景の実現……ではあるのだが。

 

「何だって私まで連れてくる事ないでしょうに、アンドロマリウス」

『喜ばしいとは思っているのでしょう、アスタロト』

「そりゃそうだけどさ」

 

 なんか余計なのが居るんだよなぁ……。

 

「でもバエル、良かったの?陽彩の所に戻らなくて」

『今のマスターには負担が大き過ぎます。ただでさえ魔導機鎧(アサルトフレーム)の稼働に魔力の大半を削がれている中、わたしの実体化を維持する余裕は無いでしょう』

 

 他の魔神とは違い、バエルは自分で魔力の補填ができない。それは寧ろ、彼女達の在り方としては正しいのだが。

 本来は人間が魔力を補う事でその対価に能力を与え、力を貸す。それが魔神……いや、魔弾(ロストバレット)の存在意義。

 人を必要としなくなり、魔弾としての限界を超えたからこそ、アスタロトやゼロは魔神(アンリミテッド)なのだ。

 

「……私の負担は度外視するのね」

『わたし一人程度で音を上げるお前ではないでしょう?』

「信頼が痛いわ」

 

 まあ実際はそれくらいの余裕はあるが。

 恐らく俺に気を遣っているんだろう。まだ御童陽彩で居たいと思う俺に。

 もう少しだけそれに甘えるとしよう。

 

 さて、俺達がこうして家でのんびりとしている中、他のメンバーは交代での見回りに行っている。

 今の担当はアルビレオとバルバトスだったか。オーリスの出番は明日の午前から、アーガナの方は午後からだ。

 

「……陽彩」

「ん?」

「君は、怒ってない?」

 

 不意に尋ねてきたゼロに、首を傾げる。

 俺が何を怒ると言うのか。

 

「私は君が記憶を取り戻さないように、意図的に邪魔をしてきた。記憶の無い君は私にとって都合が良かったから」

 

 ……なるほど、その事か。

 

「君がこの土壇場で苦しんでいるのは、私のせい。私が最初から君を天童蒼騎に戻していれば……」

「あまり気にするなよ、ゼロ。俺を御童陽彩にしてくれて、戦う力をくれたのはお前だ」

 

 五千年前から変わらないな、アンドロマリウス。

 お前は……ずっと、変わらない。

 

「それに。俺の記憶が戻らないようにしていたなら、一つ疑問が残る」

「……疑問?」

「お前は俺に、昔話として五千年前の話をしてくれた。原初の英雄アルトリウスや、魔導機鎧(アサルトフレーム)の礎になった零号機セラフ。思い出す機会は幾らでもあったんだ。それを思い出せなかったのは、俺が悪い」

 

 ヒントは与えてくれた。

 それを使えずに……いや、使おうとしなかったのは俺だ。

 記憶が戻る事が怖くて、踏み出せなかった。

 そのままで良いと妥協していたのは、俺自身の弱さだ。

 

「君は厳しい。全部私のせいにしてくれれば、わたしも気が楽だった」

「その性格はどうにかした方が良いよ、アンドロマリウス。……いや、セラフィって呼ぼうか?」

「……ゼロで良い」

 

 かつてはアルトリアスさんの妹であった、とある少女。

 生まれ付き契約者であった彼女は、生誕と同時に七十二発目の魔弾であるアンドロマリウスと契約、融合した。

 それがセラフィ=アンジェ・レイリッター。魔導機鎧(アサルトフレーム)一番機、ラプラスの開発に携わった一人だ。

 

「やっぱり君には勝てそうにない。今も昔も、これからも」

「そりゃ、義妹に負ける訳にもいかないしな」

「ふふっ……あぁ、変わらないね」

 

 珍しく声を上げて笑うと、ゼロは少しだけ距離を縮めた。

 隣に感じる熱が心地良い。傍に居てくれるだけで、こんなにも安心する。

 

「そんな君が好きだよ、陽彩。ずっと、ね」

「ゼロ……?」

「迷ってる所に追い打ちを掛けるようで悪いけれど、わたしは諦めたくない。アリサは良いとしても、アリアスヴェインの奴にだけは譲れないから」

 

 姉のクローン、思う所はあるんだろうなぁ。

 そんな事を思わず考えて止まるくらい、頭が働いてくれなかった。

 

「目の前で見せられる側の気分にもなってみなさいよ……バエル、出るわよ」

『気分はどうですか、負け犬』

「叩き潰すわよ貴女」

 

 何やら会話しながら部屋を出ていく二人。外へ向かったらしいが、もうすぐ晩御飯だから早く帰ってきてほしい。

 

「今日はわたしがご飯を作るよ」

「良いの?」

「任せて。いつものお礼だから」

 

 らしくない、と言うべきか。

 どこか違和感を感じる、人間らしい笑い方。

 でも、それは。

 ずっと昔に見た、セラフィの────。

 

 無粋だな、これは。

 

 俺は素直に好意を受け取ろう。

 そして、自分の想いに素直になれば良い。

 伝えてくれた気持ちに、真っ直ぐ返すくらいなら、俺にもできるから。

 

「────なぁ、ゼロ」

「ん?」

「俺は、さ。これから混ざって元に戻れなくなるから、その後は解らないんだけど」

 

 御童陽彩と天童蒼騎の両者が混ざれば、それが誰になるのかは解らない。

 もしかしたら別段何も変わらないのかもしれないし、何かが致命的に変化するかもしれない。

 

 だけど、この想いだけは。

 きっと変わらずに、持っていたいから。

 

「好きだよ、ゼロ。俺は、お前が好きなんだ」

「……そっか」

「何があっても忘れたくないからさ。それに、今の内に、恥ずかしい事は言い切っておこうと思って」

 

 言える事は全部言っておかないと。

 契約者(テスタメンタ)はいつ言いたかった事を言えなくなるか解らない。

 ただでさえ俺は忘れっぽいんだ、覚えている内に伝えなきゃな。

 

「……(ありがとう)

「え?」

「何でもない。ご飯の準備をする。アスタロトを呼んできて」

「解った」

 

 何を呟いたんだろう。

 今回は全く聞き取れなかった。

 

 まあ、良いか。

 明日に備えて、食事は摂っておかないと。

 それは魔神も同じだ。折角居るんだから、仲間外れにする事もない。

 

 久しぶりに、大人数での食事だ。

 ゼロと一緒に食卓を囲むのは、いつ以来だろう。

 そんな二重の意味での楽しみが、少しばかり俺を戦いから遠ざけてくれた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 午前中、オーリスとベリトが見回りに行っている間、トーリスリッターはゼロに預けていた。

 最後に向けて調整をしたいとの事だったので、任せておいたのだが。

 

「……様変わりしたな、相棒?」

 

 セラフの外装、その一部を流用して作り上げた新規武装。

 元の色に合わせて黒く塗られたそれは、明らかなる変化としてトーリスリッターの姿に違和感を与えていた。

 

「セラフを元にした強化外装と、増大した重量に対応した推進力の強化。極め付けは特殊システム“キャバルリィ”。まだ排熱機関が不安定だから陽彩には少し辛いかもしれない」

「ラプラスがベースになってるんだっけ?」

「そう。姉様とアリアスヴェインだけが起動させた、感情変換システム。人の心を直接エネルギーに転換する、危険な物。使い所を見誤らないで、陽彩」

「そこはこいつに任せる事にするよ」

 

 戦闘に関する機微を感じ取る能力は、俺やリタよりもトーリスリッターの方が優れている。

 意思無き機械に頼るのもおかしな話だが、機体自身が使うべきだと判断した時が最優のタイミングだ。いつも以上に相棒の声に耳を傾けておかないとな。

 

「……なら、良い。トーリスリッター、陽彩を守って」

 

 見慣れぬ銃器を二つ構えた愛機は、光に溶けるようにして消えた。

 その残滓を見送ってから、俺は格納庫の外へ視線を向ける。

 

「ゼロ。ベリアルが来るのは、今日か明日って言ったよな」

「うん。どちらとは断言できないけど……恐らく、明日」

 

 彼女の勘は信頼できる。こと魔神に関する事だ、外しはしないだろう。

 

「今日は備える日。決戦前の、最後の余暇。……陽彩、やり残した事は、無い?」

「今はな。伝えたい事も伝えたし、心残りは無い。全力で事に当たるよ」

「……なら、良い。わたしからは、一つだけ」

 

 格納庫から出て出撃用のゲートに向かう俺に、ゼロは言葉を投げ掛ける。

 

「君が誰であろうと、わたしには関係無い。君はわたしに恋をくれた男の子。わたしが好きになったのは、“天童蒼騎”でも“御童陽彩”でもなくて、君だけ」

 

 ……名前には囚われるな、か。

 人の内面こそを捉えろと、そう教えたのは、俺とアルトリアスさんだったな。

 ああ、それを言われたら仕方無い。

 悩みなんか、捨て置かないとな。

 

「……じゃあ、わたしは家に居る。アーガナによろしく」

「ああ、行ってくる」

 

 今度こそゲートへ向かう。

 足取りはいつもより軽く、気負いも無く。

 最高と言って良いその調子で、俺は空へ飛び出した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 透き通るように晴れ渡る蒼穹を見遣り、流れる雲を眺めて時間を潰す。

 それにすら飽きが来たのは、何分前だったか。

 

『らしくもないですね、アスタロト。お前がマスターの言う事を素直に聞くとは。戦力の温存は理に適っているとは言え、正しいというだけで従う程に愛嬌があったとは思いませんでした』

「自覚はしてる。私自身もちょっと意外よ」

『では、何故?以前のお前なら、時間潰しに怪異掃討にでも出掛けていたでしょうに』

「そのやる気すらも無いのよ、今は」

 

 ぼんやりと空の彼方に思いを馳せながら、バエルの質問に答える。

 ああ、それですら億劫だ。今の私はノイローゼ気味なのだ、少し放っておいてほしい。

 

『……大方、罪の意識に苛まれているのでしょう。お前らしい傲慢です』

「相変わらず言葉が鋭いわね、貴女。何でもかんでも斬り裂いてたら、陽彩に捨てられるわよ?」

『斬る相手は心得ていますよ。それに、わたし程度の言葉で滅入るような可愛げのあるお前ではないでしょう』

「……さぁね」

 

 その信頼は嬉しい物だけど。

 かと言って、冷めた心に火を灯すかと言われると、微妙な所だ。

 

『思いの外、深刻なようですね。無様なものです、同胞を五十も殺しておいて、今更』

「解ってはいるんだけどね。友達を止められないで、恩人を殺されて……五千年も掛けてマッチポンプした挙げ句、また恩人に苦労を強いる。何やってんだか、私は」

 

 軽くため息を吐いておく。

 幸せが逃げると、陽彩は言うんだろうけど。

 その程度で逃げる幸せは、とうの昔に逃げ切ったのだろう。

 

『……馬鹿者』

「知ってる」

『痴れ者、恥を知りなさい』

「十分過ぎる程に知ってる」

 

 いつもの罵声に力が無い。

 バエルらしくもない、と言っておこうか。

 

『どうしてお前はそこまで愚かなのです。形の無い虚妄の正義に囚われ、喪わなくて良い物を捨て去り、終には必要の無い物まで背負って────』

「今の私はやる気ないけどね。私の正義を馬鹿にするなら、私ごとでも殺すわ、バエル」

『────自分の涙に気付けない正義の味方なんて、居て堪るモノですか』

 

 そこで漸く、私は彼女の声音が震えている事に気付いた。

 どうして貴女が泣くのか。貴女には、何も辛い事なんて無い筈なのに。

 

「……そうは言ってもね。正義を翳して善性を気取っても、振るわれた悪意が帳消しになる訳じゃない。別の何かに肩代わりされるだけ。誰かが流すかもしれなかった涙を預かれるなら、正義の味方にだって意義はある」

『それが愚かだと言っているのです。傷付く事を躊躇わない強さ、他人の涙の為に戦える正しさ、自分の名誉すら投げ捨てて汚名を被る事を厭わない自己犠牲…………大いに結構です、正義の味方(アスタロト)。ですがお前は、前提からして崩れている』

 

 そんな事は五千年前に言ってほしかった。

 今更止まれない。止まりたいとは思えない。

 正義を御旗に同胞を殺したこの腕は、まだ命を喰らおうとしているのだから。

 

『それはお前の“正義”なのですか?』

「…………」

『誰かの為に。ええ、実に美しく、素晴らしい事です。それが借り物でしかないという事を除けば』

 

 バエルはどこまで見抜いているんだろう。

 私の弱さと、忘れてきた本当の目的を。

 

『誰かの為に何かを成す、それはお前の心から生み出した願いではない。所詮は借り物、死人の夢の残骸に縋っているだけ。わたしの知るアスタロトは、そんな殊勝な者ではなかった。悪辣で邪悪で、それでも善に憧れる、無垢で純粋な少女だった』

「……少女なんて年じゃなかったと思うけどね、今も昔も」

『物の例えです、受け流しなさい』

 

 まあ、私が最低の存在だった事は誰の目に見ても明らか。

 正しい事が解らなくて、誰にも教えてもらえなくて、だから自分なりに“良い事”をしようとした。

 

 ……それをすぐに諦めてほっぽり出して、最終的には自分が楽しい事に逃げて人を傷付ける、そんな奴だ。

 あの頃のベリアルは、私にとって最高の親友だった。

 とりあえず手を引いて何かをさせてくれて、その結果に関わらず笑ってくれた。褒めてくれた。

 

 友達が笑ってくれるから、これはきっと良い事なんだと。

 

 私は余りにも、愚かに過ぎた。

 

『仇討ちなどらしくもない。そもそもお前にとって、マスターは単なる七十億分の一でしか無いでしょう』

「そうでも無いわ。あれはあれで、私の淡い初恋だったのよ」

『……えっ?』

「夢破れたり、だけどね」

 

 私がアルトリアスやらアンドロマリウスに勝てる訳も無く。

 というかあの姉妹なんで揃いも揃ってあんなに強敵なのよ。そのどちらにも好かれるなんておかしいわ、陽彩は。

 

「仇を討つ理由はあるわ。屑は屑なりの矜持を持ち合わせているものよ」

『……初耳でした。そういう事は早く言いなさい、アスタロト。(応援でも何でもしたものを)

「ん?」

『聞き流しなさい、戯言です』

 

 おかしい、精神的に繋げて会話してる筈なのに聞き取れなかった。

 ……私も耄碌したかな。

 

『まあ、良いです。……そんな善悪の区別が付かない小娘が、たった一度犯した過ちを、いつまでも責めるのは非生産的に過ぎます。お前はもう少し、諦めというものを学びなさい』

「子供はいつか大人になった時に自分を振り返るのよ。反省もできない能無しになった覚えは無いからね。そもそも小娘なんて年でも無かったと思うけど」

『だから比喩だと言っているのですよ阿呆』

 

 辛辣ぅ……。

 いつも通りでやり易い事この上ないけど。

 

「じゃあ何、全部諦めろっての?私がもう少しだけ上手くやれば、陽彩もアルトリアスも救われたかもしれなかった可能性を」

『……だから傲慢だと言うのです、アスタロト。視野狭窄は治っていないようですね』

 

 傲慢強欲、承知の上だ。

 それに、その可能性だって捨てた物じゃない。

 ベリアルに回収されたあの胎盤、あれを取り戻せば私は時間遡行だってできるかもしれない。

 時間の能力を持つ魔神なんて片手で足りないくらいには殺した。その力は、あそこにある。

 

 そして、陽彩の力。

 バエルと契約した、天童蒼騎の能力は。

 

 有り得べからざる今を実現する、過去への帰還。

 何人にも再現できないその力、私が少しでも扱えれば。

 今度こそ私は、未来を変えられるのに。

 

 ────それを、諦めろと言うのか、貴女は。

 

『それは現在の世界の否定、遍く全ての否定になる。マスターとアルトリアスの覚悟を以てして空へ飛び上がった揺り籠、ここで開花した全ての可能性。誰かの期待を受けて、また誰かの目標と成り得た希望の花達を、お前は否定するのですか』

「こんな物、私が欲しかった希望じゃない。誰かを踏み台にして得られる物なんて、私は受け取れないわ」

『これは異な事を。それは先程、お前自身が肯定した正義の形です』

 

 ……それは。

 

「そう、だけど……」

『矛盾こそが生命の本質、そこは見逃すとしましょう。ですがアスタロト、今を認められない以上に、お前はこの世界を認めている』

「そんなこと────」

『有り得ない、ですか?ならばお前は何故、マスターを“陽彩”と呼ぶのです?』

 

 ────。

 

「…………」

『五千年の時を経て変生した彼を受け入れた事が、お前の今の受け止め方の答え合わせになりましょう。あの名前は、アンドロマリウス────御童零が授けたものなれば』

 

 そう、だ。

 でも私は、ゼロをアンドロマリウスと……。

 

『セラフィを頑なにアンドロマリウスと呼ぶのは、お前の純粋な憧憬でしょう?魔神を統べる最強に相応しいと、相応しく在れと願うからこそ、お前は彼女をそう呼んでいる』

 

 ……ああ。

 それは、そうね。

 

『お前が否定したい過去は、マスターの死でもなければ、アルトリアスの悲劇でもない。お前の存在そのものでしょう』

「人の心に土足で踏み入るの、得意よね」

『アルトリアスのクローンと同一視されては困ります。そうしなければ伝わらない物を、こうして伝えているだけです』

 

 アリアスは……まあ、何というか。

 不器用なのよね、彼女。色々と。

 

「……貴女の読み通りよ、バエル。私は過去から私を消す事で、私が抱えたこの罪から逃げたかった。正義なんてどうでも良いのよ、それはただの言い訳だもの」

『あまり自分を見縊らない事です。お前が居なければ、全ての事柄が変わる』

「そうね。私の代わりに、もっと良い人が────」

『何もかも好転しません。悪化するでしょうね、あの惨状が』

 

 あれ以上何が起こると言うのか。

 それに、誰であろうと私よりは適任の筈だ。

 陽彩の隣に一時でも居られた僥倖、その栄誉は。

 

『他の魔弾に真っ当な者は居ません。マスターを真に案じ、寄り添えたのは、一重にお前がお前だったから』

「まるで貴女は寄り添わなかったような事を」

『ええ。わたしはあくまで、剣ですから』

 

 おかしな事を言う。

 誰よりも彼の傍に居たのは、他ならない貴女だろうに。

 

『お前でなければマスターは戦い続ける選択をしなかった。或いは、わたしも』

「バエル……」

『勘違いはしないでください。都合の良い盾が居なければ、剣を振りづらいというだけの事です』

 

 その照れ隠しで、一体何を隠せるというのか。

 素直じゃないのは相変わらず。可愛い所も変わってない。

 

『良いですか、アスタロト。お前の否定は、お前と関わった全ての否定となり得る。……お前は、わたしを否定しますか?』

「それこそ有り得ないわ。いつも大切な人を守ってくれたのは、貴女だった」

『お前に正義を教えてくれた、わたしのマスターを否定しますか?』

「同じく、よ。誰が否定しようとも、私は絶対に陽彩の味方をする。五千年前から変わらずにね」

 

 前言は撤回しよう。

 私を諭すなんて、バエルも変わったものね。

 

『この揺り籠に住まう全ての生命を。お前は、否定しますか?』

「……いいえ。私も焼きが回ったわ。憧れた夢を自分から閉ざすなんて、ね」

 

 ベリアルとまた戦って、過去と向き合って。

 その程度で挫けそうになるなんて、私もまだまだ未熟なのかもね。

 

「私、弱気になってた。初心忘れるべからず、よね」

『……過去の遺恨は正しく使いなさい。引き摺られるようでは、それは亡霊と変わりません』

「解ってる。ありがとう、バエル。持つべき者はやっぱり友達ね」

『誰がいつ友になったと?』

「辛辣ぅ……」

 

 いつもの切れ味だ。ああ、安心する。

 

『調子が戻ったのなら立ちなさい、親友(おろかもの)。退屈なのはわたしやキマリスも同じなのです、手始めにクレイドルを案内しなさい』

「私だって知らない所の方が多いわ。いつか陽彩にエスコートしてもらおうと思ってたんだから」

『……そうですか。なら、家に戻りましょう』

「あら、良いの?」

『気が変わりました。今日は明日に備えて休みましょう』

 

 ……お優しい事だ。

 私の乙女みたいな願望を尊重してくれるなんて。

 

「ねえ、バエル」

『なんですか?』

「……ううん、何でもない」

『変ですね。……今に始まった事ではありませんか』

 

 この口の悪さはどうにかならないのか。

 まあ、そこも含めて好きなんだけどさ。

 

「勝ちましょうね、絶対に」

『ええ』

 

 まずは帰ってのんびりとしよう。

 それから、アンドロマリウスと話をしよう。

 何から話せば良いのか解らないけど、まずは陽彩の事でも聞いてみよう。

 それから、思い出話や昔の事、いっぱい話そう。

 言いたい事や聞きたい事、五千年分はあるんだから。

 

 ……だから。

 その前に、この涙は拭いておこう。

 

『……アスタロト』

「なに、キマリス。珍しいわね、貴女から話し掛けてくるなんて」

『……いや。好きに生きて好きに死ね。地獄の果てまでなら、付き合う』

「相変わらず男前ね。それはアルトリアスにとっておきなさい。私はもう、十分よ。地獄に道連れにする相手は決まってるの」

『……?』

「一人しか居ないでしょ、察しなさい」

『……あぁ』

 

 昼食から時間も経って、女子会なんかをするには丁度良い時間。

 お茶でも飲みながら、たくさん話さなきゃね。




以上、第十話でした。
最後の方にアスタロトちゃんが急に弱気になったのは、今回の投稿が遅れた理由の一つでもあります。まさかあんなに文字数が増えるとは思ってなかった。

次こそはクレイドル防衛戦が始まると思います。かつての友との殺し合い、筆が進みませんので間に合うかは解りませんが。

特に書く事もないのでここら辺でお別れとします。
第十一話、次の週末にてお会いしましょう。
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