虚空を翔ける鋼の騎士   作:匿名希望

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いきなり投稿間隔が空いたのでお詫びに初投稿です。
家庭の事情と言ってしまえばそれまでなんですが、遅れてしまって申し訳無い。
まあ待ってる人は居ないと思うんですけど。

そして。
はい、話が進みません。人死もまだ出ません。
今後の描写を考えるとどうしても入れないといけないシーンがあって、それを捩じ込んだら本編が進まないという本末転倒。ちゃんと計画立てて書かないからこういう事になるんでしょうね。

さて、あまり続けてもアレなので、そろそろ本編をば。
第十一話、始めさせて頂きます。


第十一話

 予定通りであれば、ベリアル達がクレイドルを襲撃するであろう日。

 その始まりは、いつも通りに穏やかな物だった。

 少し早く起きて、屋根に登って空を見上げた俺は、そんな事を考えていた。

 

 思えば、色々な事があった。

 その全てが五千年前から続くベリアルの計画だと考えると、変な感慨に囚われそうになる。

 そもそも、彼女がこうして来なければ、俺は天童蒼騎を思い出す事もなく、御童陽彩として生を終えたのだろう。

 特にやる事は変わらないとは言っても、記憶の喪失感はきっと俺の中に違和感や疼きとなって残り続ける。

 それを解消できたのは、僥倖だと言っておこうか。

 

「朝、早いのね。おはよう、陽彩」

「おはよう、アスタロト。……何かあった?」

「少し思い出したのよ。昔をね」

 

 音も無く、翼を広げた少女が隣に降り立った。

 憑き物がさっぱり落ちたような、爽やかな笑顔だ。見た目相応で、正直な事を言うと可愛いと思った。

 何に感化されたんだか。アスタロトに魅力なんか感じていたら人間として色々とお終いな気がする。

 

「ちょっと私は行く所あるから。朝御飯までには帰ってくるから、忘れないでよね?」

「用事ならさっさと済ませておけよ、昨日までは時間あったんだからさ」

「そうなんだけどね。連絡取れたのが今朝だったのよ」

「ふぅん……?まあ良いか。時間までに戻らないとオーリスが全部食うかもしれないから早めにな」

「それは勘弁ね……」

 

 すぐに終わる用事らしい。特に心配する事もないから、そのまま送り出す事にする。

 と、その前に。

 衝動的に、俺は彼女を呼び止めていた。

 

「なあ、アスタロト」

「ん?」

「……あー、その……」

「何よ、煮え切らないわね」

 

 少しだけ迷う。

 自分でも、何を聞きたかったのか解らないままに声を掛けてしまった。もう少し考える事を覚えろと言い聞かせたい。

 

「……ベリアルはさ。今はともかくとしても、あの頃は友達だったんだろ?」

「貴方が心配する事はないけど?」

「それは解ってる。悩みなんか無さそうな顔してるから」

「……微妙に褒められた気がしないわね、それ」

 

 褒めた訳でも貶した訳でもないが。

 何にせよ、俺の聞きたい事はそこではない。

 

「俺は……」

「……良い、陽彩。貴方の迷いは、悪い物じゃないの」

 

 何もかも見透かされたような、そんな笑顔。

 どこか姉のような表情は、ゼロを彷彿とさせる。

 

「友達を撃てるか、なんて、できる方がおかしいのよ」

「でもお前は」

「私だって怖い。でもね。……それ以上に、正さなきゃいけないの、あいつは」

 

 俺の頭に手を乗せながら、彼女は慈しむような声音で語る。

 

「そして私自身も。これはベリアルの罰でもあって、私の罰でもあるから。友達なんだからさ、せめて殴れる内に殴っておかないと」

「……アスタロト」

「なぁに?」

「辛くないの?」

「そりゃ辛いわ」

 

 その割には、どこか清々しい顔をしているが。

 きっと自分の行いが正しいと確信しているんだろう。

 キマリスの言った通り。

 正義の味方は、変わっていない。

 

「辛いけど、ね。境遇を嘆くのが許されるのは被害者だけよ。私は自業自得みたいな物なんだから、ちゃんと自分で片付けないとね」

「……強いな、お前は」

「そう?そう言ってくれるなら、もっと頑張れるわ」

 

 今も昔も俺に親は居なかった。

 一度目は事故。

 二度目はそもそも居るのかどうかも解らない。

 それでも、と思う。

 こんな姉が居たなら、きっと楽しかったろうな、と。

 

「……ま、嬉しい事言ってくれたし、お姉ちゃんとして少しは労ってあげないとね」

「……」

「今日はやけに素直ね、陽彩」

 

 アスタロトは楽しそうに、優しい手付きで俺の頭を撫でる。

 いつもなら子供扱いに反発していただろうが、今はどうしてかそんな気分にもならなかった。

 

「……あのさ」

「うん」

「ベリアルと刺し違えたりしたら、俺は怒るよ。子供の癇癪よりも酷い怒り方する」

「私も随分と愛された物ね。貴方はもっと薄情な人だと思ってたけど?」

「俺だって最低限の情はある」

「……そういう事にしてあげる」

 

 少しだけ、手付きから遠慮が無くなった。

 顔を背けてしまったのでその表情は見えない。

 

「それに、まだ言いたい事が残ってる。勝ち逃げも許さないからな」

「はいはい、解ってるわよ。アンドロマリウスにも言われたしね」

「……なら、良い。用事は?」

「ちょっと歌聞いてくるだけだから、別に急ぎって訳でもないけど。ま、そろそろ行ってくる」

 

 歌……?

 なんでこのタイミングで、そんな事を……。

 

「また朝御飯の時にね。他のみんな、起こしてあげて」

「ああ……また後で」

 

 結局、考えても解らない。

 それなら戻ってきた時にでも聞くとしよう。

 そう考えて、俺は屋根から降りた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 何も無い草原。

 そこに、ぽつんと一つ存在する大木。

 いつしか人類が世界樹と呼んだそれは、ある少女から生まれたアカシックレコードの一つ。

 地球の事であれば全ての叡智がそこにある。

 

 何処にでも在り、何処にも無い場所。

 世界の何処かに在る、という事を除き、一切の座標情報が存在しない地点。

 守り人と墓参りに来た友人以外に、ここに辿り着ける者は居ない。

 

『La────a────』

 

 不意に、歌が紡がれた。

 美しい旋律と、それに見合う声音。

 世界樹に捧げられた鎮魂歌は、一切の生命が存在しない草原へ響いていく。

 

「……相変わらず綺麗な歌ね、フェネクス」

 

 世界樹の麓。

 歌が一周した辺りで、そこに一人の少女が現れた。

 

「少し遅くなったわ。ごめんなさい、ユグドラシル」

 

 白い花を持ち、目を閉じて祈る。

 変わり果てた親友の姿に、雫が流れた。

 

「────誰にも救えない存在に、今も尚祈りは捧げられる。素敵(詩的)ね、アスタロト」

「もう歌は良いの?」

「あれは自己満足。ユグドラシルの魂は、今は眠りに就いている。貴女のお陰よ」

「それは良かった。苦労してお土産探してきた甲斐もあったわ」

 

 手向けの花を置き、その隣に腰掛けて、大樹に寄り掛かる。

 白い花弁を挟んで、反対側にもう一人の少女が腰を下ろした。

 いつの間にかそこに居た、世界樹に寄り添う少女の名はフェネクス。アスタロトの数少ない友人にして、たった一人の永遠の存在者。

 

「やっぱり誰も来ないのね、ここは」

「……女神ユグドラシルは世界にとって不利益な存在。因果律の外側に辿り着いてしまった時点で、それは世界から切り離すべきモノよ」

「だとしても、さ。昔の友達なんだから、墓参りくらいはしても良いと思うのよ、私は」

 

 それすらも嫌がって彼女を無かった事にしようとするから、アスタロトは神という物を嫌っている。

 それをよく知っているフェネクスは特に何も言わず、空へ視線を向けた。

 

「……不利益、と言えば」

「ん?」

「御童陽彩と言うべきか、天童蒼騎の成れの果てと言うべきか」

「……彼がどうしたの?」

「あの少年もまた、ただの人間に許されてはいけない所まで来ている。アンドロマリウスが何故手を下さないのか解らない程度には」

「あぁ……そういう事ね」

 

 覚えのある疑問に、しかし彼女は答えを持ち合わせていない。

 確証の無い推測でも良いのならと前置きしてから、アスタロトは語る。

 

「絆されたってだけよ、お互いに」

「……わたしには覚えの無い感覚だから、よく解らない」

「貴女はそもそもそういう機能が無いしね」

「……でも、一つだけ」

 

 空に向けていた瞳をアスタロトに向けて、ぼんやりとした視線に確かな光を灯して、フェネクスは言う。

 

「あの人形が、恋を知れたのなら。それはきっと、素敵(詩的)な事ね」

「……そうね。きっと、そう」

 

 フェネクス独特の特徴的な言い回しで、彼女なりの祝福を口にする。

 

 彼女は自分が永遠者であるから恋を知れない。

 しかし、その事で他人を妬む事も無く、友人の成長を喜ぶ事ができる。本人は否定するだろうが、間違い無くそれは聖人の振る舞いだ。

 

「でも、長居してて良いの?」

「そもそもここは時間から切り離されてるでしょ。折角来れたんだから、もう少し居るわ」

「……良いなら、居てほしいけど」

 

 確かな光は薄ぼんやりと掻き消え、いつもの何を考えているのか解らない表情に戻る。

 

「ああ、ユグドラシル、わたし怖いの。こんな良い友人が居て、わたしもそろそろ死んでしまうのではなくて?」

「それで死ねたら苦労はしないでしょうに……」

 

 苦笑いを隠さずに突っ込みを入れるが、意に介さずフェネクスは笑う。

 

 大樹はただ、見守るのみ。

 親友達の、変わらない笑顔を。

 

「……ねぇ、アスタロト」

「んー?」

「纏まって時間が取れたら、あの子を紹介してほしいの」

「……陽彩を?」

 

 予測から聞き返したアスタロトに、彼女は無表情なまま小さく頷いた。

 

「死を一度は超越した人間。魔弾(ロストバレット)でもなければ魔神(アンリミテッド)でもない存在になってしまったわたしとは違う。人間のままに、彼は生命を取り戻した」

「確かに、そういう意味では貴女と同類か」

 

 未だ原因不明とは言えど、御童陽彩と名乗る天童蒼騎の残骸は、確かに人の形を保って二度目の生命を得た。

 その代償に五千年の時間と幾つかの記憶を失ってはいるものの、明確な変化は無い。彼は彼として、そのまま生まれ直してきた。

 

 そこに、どう在っても死を得られない存在が目を付ける。

 

世界樹(アカシックレコード)に無い、本来であれば世界にある筈のない人間。居るだけで因果を歪めていくのに、ユグドラシルは彼を認めている」

「……優しいからね、ユグは」

「彼のその現象を、逆転させたい」

 

 アスタロトのぼやきを意図的に無視して、フェネクスは続ける。

 悲願の成就、その可能性を前にして、彼女の瞳には不可視の狂気が浮かんでいる。

 

「死にたいのね、フェネクスは」

「もう、良いの。人類の営みを見る義理は果たしたのよ。ソロモンは恨んでも恨みきれないけれど……これで、全て帳消しにできるかもしれない」

「馬鹿正直に人を眺めてる必要も無いと思うけどね?最初の主は異世界に逃げたし、咎める奴も居ない筈よ」

「……ユグドラシルとの約束を反故にするのはわたし自身が許せない」

「不器用ねぇ……私が言えた義理でもないけれど」

 

 世界樹にそっと寄り掛かり、フェネクスは長く息を吐く。

 熱を吐き出すような深呼吸が終わると、彼女は平常通りの自我の薄い顔に戻っていた。

 

 一連の会話を物静かに見守っていた世界樹が、ふとその枝を擦れさせた。

 

「ユグドラシル?」

「……何を言いたいの、ユグ?」

 

 これ見よがしに枝を揺らして、女神と化した一人の少女の成れの果ては何かを伝えようとする。

 物言わぬ筈の植物となって尚も、彼女は献身的だった。

 

「……ええ、いや、そうね。そろそろ行かないと、決意が鈍りそうよ」

「アスタロト……ユグドラシルは何を?」

「のんびりするのもいい加減にしろ、だってさ」

 

 勢い良く立ち上がって、軽く背を伸ばす。

 休息の時間は十分に取れた。

 心も落ち着いたし、体は元より万全だ。

 後は、かつての友人を正すのみ。

 

「いつものんびりしてたユグに言われちゃ仕方無いわ。行ってくる、フェネクス」

「……もうわたしは、誰かに置いていかれるのは嫌よ」

「解ってる。貴女を一人にはしないわ」

「今までそう言った人は全員死んだけれど」

「不吉な事言わないでよ」

 

 彼女流の激励と心配を受けて、アスタロトは翼を開く。

 それに魔力を込めて推力を得ると、少しの溜めを経てから一気に空へ翔け上がる。

 それを見送ったフェネクスが、世界樹に体を預けて目を閉じる。

 その体が少しずつ取り込まれていくのを感じながら、彼女は祈る。

 

「必ず勝って帰りなさい、アスタロト」

 

 目を開き、空を見据える。

 そこにはもう、アスタロトの姿は無かった。

 

「それが、責任と言う物よ」

 

 自分に余計な期待を抱かせた存在に、恨めしそうな感情を込めながら。

 永遠の存在者は、真摯に祈りを捧げていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 “何か”が来た。

 俺がそれを感知するのと、ゼロが反応を見せるのは同時だった。

 

 すぐに戦力全てが結集し、クレイドル07を守る、ひいては人類を守る戦いへの準備を始めた。

 そんな中、俺は出撃ゲートのすぐ近くの物陰で、何をするでもなくぼんやりと自分の手を眺めていた。

 

 最初は、訳も解らないままにバエルと契約して、戦いと向き合った。

 次は、自分の意思で戦場に赴いて、アルトリアスさんの力になろうとした。

 最期は柄でもなく決死の覚悟という奴を抱いて、揺り籠の礎となる事を良しとした。

 

 そして、今。

 俺は、再び決戦と呼べるであろう戦いへ身を投じようとしている。

 

「……ねぇ、陽彩」

 

 視界の端に、アルビノの少女が映り込む。

 グレイエンプレスの精神負荷と、トラウマに起因する重度のストレス。それらによって後天的に色素を失った彼女は、それでも俺からすれば強く眩しく見えた。

 

「こんな所に居たんだね。探すの、苦労したよ」

「……アリサ」

 

 言葉が続かない。

 どうして、こんな所まで来てしまったんだ。

 

「君が何かを悩んでる事と、怖がってる事は解る。それでも、敢えて私は言うよ」

 

 アリサは逃げる時間すらもくれない。

 いつもは誰よりも優しく思っていた彼女の、その優しさが今の俺には辛い。

 

「君が来てくれなければ、私はきっと戦えない」

 

 ……ああ、解る。

 アリサの言葉は、優しい嘘だ。

 

「私はアリアスとは違う。君をここに残して行くなんて事はできない。……君が近くに居ないと、私は何もできないんだ」

「……俺は、さ」

 

 もう戦いから逃げられる立場じゃない。

 その事は理解している。

 

「戦うのは、怖くないんだ。だけど、ベリアルとまた会ったら……俺は、今度こそ“混ざる”気がして」

「大丈夫……だって言っても、仕方無いよね。自分が変わっていくこと……それも、自分では抑えられないもの。それは、とても怖いから」

 

 そうは言うけど、アリサは耐えた。

 綺麗な黒髪が色素の無い白髪へ変わりゆくことも。

 黒水晶のような瞳が、真紅に染まっていくことも。

 見た目に限らず精神面すらも、グレイエンプレスは書き換える。

 それすらも耐えて黒鐡アリサで在り続けた彼女は、だからこそ今もこうして俺の前に居る。

 

「私にも乗り越えられた。君が手伝ってくれたから。今度は、私が君の手を引く番だよ」

 

 すっかり色の抜けた手を差し出して、彼女は言う。

 

「君を私が覚えてる。アリアスもゼロも、何ならアスタロトやバルバトスも。姫様やリタだってそう。君が君でなくなる前に、私達が君を取り戻してみせるから」

 

 二人きりだからか、珍しくアリサがよく喋る。

 それとも、俺が何も言えないからか。

 

「私を信じて、陽彩。陳腐な言い方だけど、君を守らせてほしいんだ」

「……アリサ」

「うん」

「俺が変わっても、変わらずに見ててくれる?」

 

 浅ましい俺の最後の確認。

 それに対して、彼女はしっかりと頷いてくれた。

 

「もちろん。どんな君だって大好きだよ、陽彩」

 

 好意(それ)を言葉にされた。

 逃げられなくなった。

 

 ────いいや。

 逃げるつもりなんて端から無いだろ、御童陽彩。

 

 自分の頬をそこそこの威力で叩く。

 跡が付かない程度にと思ったが、乾いた音は存外響いた。

 

「ひ、陽彩……?」

「ありがとう、アリサ。お陰で怖くなくなった。行こう、そろそろゼロが呼び出す時間だろ」

「……そうだね。行こうか」

 

 いつも通りを心掛けて笑ってみると、アリサは笑顔を見せてくれた。

 ゲートのすぐ近くに管制室もある。ここから少し移動すれば集合には間に合う。

 

 俺は魔神の反応は未だに把握できていない。魔弾であればバエルやキマリスの要領で何となく解るが。

 それは置いておくとして。

 ベリアルの放つ魔力や殺意は他とは別格だ。それを検知する能力が無い俺にも第六感として理解できる程度には。

 つまり、クレイドルに接近された段階で俺はそれを感じ取れる。迎撃のタイミングを間違える事は無い、筈だ。

 

 問題は桜花。ゼロを通じて連絡を取ろうとしたが、完全に無反応。家にも戻っていないと言うし、やはり捕まってしまったのか。

 それにしてはクレイドル05の連中があまり気に掛けていないのが気になる。他に予備戦力があるのか、それとも桜花が絶対に戻ると確信しているのか。

 恐らく後者は有り得ない。奴らがそんなに殊勝な人間だとはとても思えない。

 

 少しずつ膨れ上がる不安を圧し殺しながら、俺はアリサと共に管制室へ向かった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 こちらの戦力の殆どは既にクレイドル07に集合している。アーガナを除けば全員だ。

 魔導機鎧(アサルトフレーム)を駆る契約者(テスタメンタ)は三人、ゼロの作った外装を纏う魔神は二人。ついでに生身で飛べる例外が一人。

 それが管制室に居るメンバー。残りはクレイドル02に待機しているアルティエさん、未だ詳細不明のアルビレオの契約者(テスタメンタ)にアーガナ、そしてベリト。

 

 また、無人駆動の魔導機装兵(リフレクスアームズ)が多数。これらはクレイドルの防衛を務めると同時に、敵対勢力への撹乱要員としての使命も果たす。

 それらによって怪異(ホロウヘイズ)とベリアル達七人を足止めし、その間に魔導機鎧(アサルトフレーム)とこちらの魔神で一人ずつ撃破する流れとなる。

 

 後はアーガナが合流次第、作戦を固めてベリアルの行動に合わせて出撃、なのだが。

 

「……あぁ。見てると吐き気がする」

「嫌われたものね」

「斬って良い?」

「今は駄目よ。後でなら付き合うわ」

 

 オーリスの奴がアスタロトを見た瞬間に空気を変えた。

 ベリアルが扮していたアスタロトによって一度落とされている為、確かにそれは理解できるが。

 まさかこのタイミングで発露するとは思っていなかった。完全に不覚だ。

 

「……なら、我慢する」

「聞き分けが良いのね。アンドロマリウス、私と彼女は別の場所に振り分けてくれる?」

「流石に今のを見せられて近くに配置する程愚かじゃないつもり。アリアスヴェイン、陽彩と離れるかもしれないけど良い?」

 

 アスタロトの言葉を受けたゼロの確認に、オーリスは肩を竦めて答える。

 

「そこまで子供じゃないよわたしは。それに、陽彩は任せて良いんでしょ?」

「……まあ、ね」

 

 流し目をアスタロトに送ってから、彼女は逆に問い掛ける。

 

「で。キャバルリィは?」

「一応は形にした。テストも終わっていない試作品を実戦に投入するのは技術者としては不本意だけれど、きっと力になる」

「……だと、良いんだけどね」

 

 キャバルリィについては既に説明を受けている。

 一時的に機体と魔導炉のリミッターを廃し、装甲を変形させる事で高機動高火力状態に移行するシステム。

 問題は、魔導炉の出力も跳ね上がる為に、装甲が赤熱化する程の熱量が吐き出される事。長時間そのままで居れば俺の方が焼け死ぬ。

 俺には扱いきれないと踏んでいるので、発動も制御もトーリスリッター自身に任せている。

 

 因みにリタはキャバルリィとは距離を置いている。同じゼロから生み出されたシステム同士なのに、波長がまるで合わないとか何とか。

 

 含みがあるような微妙な笑顔のオーリスに、アリサが首を傾げた。

 

「キャバルリィ?」

「トーリスリッターの二つ目のシステム。機体の独自稼働と統制を主眼に置いたリタとは違って、暴走状態を意図的に引き起こす為の外部負荷装置。……だったよな、ゼロ?」

「概ねその通り。システム・トーリスリッター……リタは、機体を契約者(テスタメンタ)無しで動かす為の人格。キャバルリィは敢えて負荷を掛ける事で魔導炉のリミッターを解除させるもの」

 

 強制的に火事場の馬鹿力を出させるような物だとリタが言っていた。つまり、機体の方にも無視できない程度の負荷が掛かるんだろう。

 ゼロの説明を聞いてそんな事を考えつつ、俺は再び言いようの無い不安に駆られていた。

 

「……姫様もそろそろ新しい物が欲しいよね」

『わたしは現状に満足しています。強欲は罪ですよ、アリサ』

「そうなんだけどさ」

 

 グレイエンプレスは特異な戦闘スタイルからして、他の機体の武装が転用できない。トーリスリッターのフォトンライフルは規格が同じだから辛うじて流用できる程度で、アルティエさんの狙撃を反射したりしているのはアリサ自身の技量による物が大きい。

 まあ、姫様は他の色物が必要無い程度には心強い存在なのだが。

 

「考えておく。気が向いたらグレイエンプレスの武装にも手を付ける」

「良いよそんな、ゼロはトーリスリッターに専念しなきゃでしょ?」

 

 気を遣わせたとアリサが恐縮しているが、ゼロのあの表情は気を遣ったと言うよりも個人的な興味の方が強いような……。

 

「否定はできない、けどクレイドル06の連中がどんな仕事をしているのかも気になる。また今度、という事で」

「……解った。ありがとう、ゼロ」

 

 いつも通りの平坦な声で、彼女はそう続けた。事ある毎に気に掛けているので、やはりアリサの事も大事に思っているのだろう。

 

 

 

 それから暫く歓談していると、クレイドル組のいつも通りの光景を眺めていたアスタロトが、不意に弾かれたように視線を上げた。

 ついで、はっきりと感じられる魔力。

 

 遂に来た。この一連の騒動の、恐らく最後を飾るであろう戦い。

 

 湧き上がる恐怖を一度抑え込んでから、深呼吸を挟む。

 大丈夫、皆が居る。自分を見失う可能性が一番高いのは自分自身だ。俺さえしっかりすれば、皆は大丈夫なんだから。

 

 荒れる心拍数を落ち着ける間に、全員の意識が戦闘に移行する。

 覚悟は決めた。

 揺らぐ前に、全てを片付けるだけ。

 

「大まかには作戦通り。ただ……アスタロト、陽彩。もしかしたら、強制的に分断されるかもしれない。気を付けて」

「了解。陽彩は私が守るわ」

「分断……ラウムか。そういえば、敵は解ってるのか?」

「一応はね。ただ、能力の方は殆ど未知数だから、下手に先入観を与えたくないの」

「魔弾の時とは訳が違うって事か。解った」

 

 敵を強制的に分断する程の空間干渉能力なんてラウムくらいしか居ないので、それは特定できる。

 他は一芸に秀でた者が居れば解るが、それをアテにし過ぎて裏をかかれるのも良くない。

 とりあえず、前情報は無しにしておこう。

 

「それじゃあ、出撃準備を。アルビレオとベリトはこっちで呼び戻すから、アーガナはお願い」

「ああ、さっきのですぐに来る筈だ」

 

 一応端末から連絡を入れておく。

 そうして準備を進め、ゲート前に移動する。

 

 トーリスリッターはキャバルリィ用の外部冷却装置を含めて更に増加装甲を増やしている為、カタパルトは使用できない。

 なので、俺とアスタロトは別口から出る事になる。

 

『ガルディーヴァの反応、確認しました。既に敵の先遣隊と戦闘を開始しています』

「気が早い事で……アスタロト、行くよ」

「ええ……バエル、キマリス、終わらせましょう」

 

 彼女が両手に長剣と機械槍を取り出すのを横目に、俺は生身のまま虚空に躍り出る。

 浮遊感の直後に、身が竦むような降下。

 即座にトーリスリッターを展開して、背中の翼を全開まで開いた。

 

「……こっわ」

『いっその事クレイドルの端から直接出た方が良かったかもしれませんね』

「防護バリアを突き破れる程加速する距離がなぁ……」

 

 不意に口を衝いて出た言葉をリタが拾う。

 恐怖はそれで抑えられた。やっぱり、彼女には随分と助けられている。

 

「先に行ってるわ。それだと足が遅いんでしょう?」

「悪いな、すぐ追い付くから」

「貴方が来る前に一匹は沈めとくわ」

 

 軽口を叩くと、アスタロトは一気に加速してすぐに見えなくなった。

 羨ましい。あの、本物の翼は。

 俺も彼女のように、自力で空を飛べたなら。

 きっと、自由に戦えたんだろうな。

 

『……わたしは所詮、作られた人格でしかないので、主様が何を考えているのか、わたしには解りませんが』

 

 それに対する言葉を俺が出す前に、彼女はその続きを紡いだ。

 

『わたしは主様の翼ですので。思うがままに、お使いくださいな』

「……はぁ」

 

 一つ、大きく息を吐く。

 それからゆっくりと吸い込んで、目を閉じる。

 僅かな震えを、無理が無いように抑え込む。

 

「行こうか、リタ。いつも通りに、無傷で帰ろう」

『────はいっ、主様!』

 

 首から提げた紐には、二つのお守りが繋げられている。

 一つは漢字で想いを刻み込まれた物。

 もう一つは宝石を内包した金属製のペンダント。

 俺を守ってくれる、たった一つの大切なもの。

 

 その存在と、この(よすが)によって結び付けられた大事な人達を思い起こしながら、俺は自分の翼にそっと力を込めた。

 

 向かうはクレイドル07から二百キロ、太平洋上空。

 地上の被害は度外視できる。それは、ベリアルの粋な計らいという物なのだろうか。

 そんな益体も無い事を考えながら、生まれ変わった両手の愛銃を強く握り直した。




以上、第十一話でした。
新しい魔神の名前をしれっと出しておいたり。
因みにラウムくんの出番は恐らくもうありません。予定では名前だけの登場となります。姪っ子大好きカラス野郎は画面外で退場です。
フェネクスちゃんは世界樹とセットで出番があるのでご安心を。

あ、そうだ。
次回こそはちゃんと一週間後に投稿するぞ、と意気込んだ時に限って親という物は邪魔をしてきます。机に酒瓶を見つけたらその場から離れましょう。

それと蛇足になりますが、UAが二百を超えました。流石に気分が高揚します。
目標の千までこれで二割です。
十話で二割と考えると、五十話まで投稿すれば千を超えるという事なのでしょうか。この話をそこまで引き伸ばせるのか……。

何であれ、頑張ります。
とりあえずの一区切りまでは形になっているので、失踪だけはしない……筈です。
学校もまあまあ忙しくなりそうで先が読めないので何とも言えませんが、月に一回は確実に更新すると思います。

よし、この辺で終わりにしましょう。
それではまた次の投稿時に、十二話でお会いしましょう。
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