虚空を翔ける鋼の騎士   作:匿名希望

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実は前回の投稿から一ヶ月以上経っていることに気が付いてショック死したので地獄の底から初投稿です。
少なくとも五月中に投稿しないとまずいと思って無理矢理形にした感じなのでいつにも増してガバガバです。許して。
十三話も時間掛かりそうなので気長に待って……待ってる人居るんですかね?

今回初めて特殊タグ使ってみました。使い方合ってるかな。

因みに画面外で数人亡くなります。敵だけど。
味方側の死人はまだ先で、フェネクスちゃんの出番も次回です。世界樹はエピローグ手前辺りで。

前書きのネタが尽きたので本編開始。
十二話です。始めさせて頂きます。


第十二話

 太平洋上空。

 大気汚染による分厚い雲海の上に、三つの影が舞っていた。

 

 一つは機械の全身鎧。

 もう二つは高濃度の魔力を纏った、生身の肉体だ。

 

「世界とか魔神とか正義とか……正直言ってどうでも良いけど。これは陽彩お兄ちゃんの為。わたしを求めてくれた人の為に、ガルディーヴァ、力を貸して」

 

 猛禽のようなツインアイが光を漏らす。

 戦線は未だ優位。弾幕は途切れたが、向こうの攻撃は全て防いでいる。

 

 ガルディーヴァと名付けられた、現状において唯一無二の神装魔導機鎧(アサルトフレーム・ネクスト)。トーリスリッターとラプラスの戦闘データより形作られた、現行最高峰の機体。

 それを駆るアーガナと、相対するのは二人の魔神。

 

『アーガナ、無事だとは思うけど形式上聞くよ。大丈夫?』

「まだ余裕はあるよ、姉さん。これって殺しても良いの?」

『さぁ……名前はなんて?』

「アガレスだとかヴァサゴだとか」

『知らない。ベリアルじゃなきゃ好きにして良いよ』

「了解。じゃあ、殺すね」

 

 時折隙間を縫うようにして飛ばされるシェキナーの援護狙撃に手を取られ、二人は上手く攻めきれない。

 それを活用して、アーガナは現在に至るまで敵を完封。

 右手に持った複合兵装“イグニス”を用いた多彩な攻撃と、ガルディーヴァの持つ高い機動性を噛み合わせ、常に壁のように弾幕を形成している。

 

「……もう暖まったよね。行こうか」

 

 愛機に語り掛けると、アーガナは大きく息を吐きながら目を閉じる。

 それを開いた頃には、彼女の顔付きは変わっていた。

 

 

 

 

 

『────AGNIS DEVICE・UNITE HOLD────』

──────《A》──────
─────《G》─────
────《N》────
───《I》───

 

 

 

 

 

 視界の中央に赤い紋章が輝くと、アーガナの左の瞳が緋色に煌めいた。

 瞳と同じ色の光が装甲から溢れ出て、それはまるで炎を思わせるような振る舞いを見せる。

 

「……咏え、謠え、謳え…………!」

 

 右腕全体を覆うような形状のイグニスは、三つの兵器からなる。

 四門のガトリングキャノン、二連装レーザーバズーカ、そして六研(りっけん)の傑作、超高出力レーザーブレード。

 それに加えてリフレクターシールドを展開する事で、武装を一括に纏めながら汎用性を高めている。

 

 その異形の右腕が、全ての砲口を前方へ向けた。

 

「歌え、ガルディーヴァ────!」

 

 高らかなマシンボイスと共にイグニスが炎を吐き出す。

 絶え間ない弾幕の中に一定間隔で放たれる高火力の弾丸。

 敵の片方────アガレスと名乗った女を狙い、アーガナは距離を詰めていく。

 

 レーザーブレードの間合いに持ち込めば後は確実に勝負が終わる。

 ガルディーヴァの機動力を以てすれば、それはそこまで達成し難い話ではない。

 

「────来たな、こちらに」

「は?」

「時間切れ、というだけの話だ」

 

 二メートルを超える刀身を持つレーザーブレードをさらりと受け流し、アガレスは実体の無い影からできた斧のような物で切り返してくる。

 

 どういう原理か、それは物理的な現象をすり抜ける。

 そしてアーガナの目にはっきりと視認できるが、ガルディーヴァの(センサー)にはまるで映らない。

 アスタロトやゼロの纏う空気に似ているな、となんとなくは感じているものの、その正体までは辿り着いていない。

 

「……違う」

 

 似てはいるが同じ物ではない、と認識する。

 その斧が今度は弓矢のような形に変化したからだ。

 知己の魔神連中は己の武装の形を変える事はできない。それを形作る魔力は、持ち主の“力”というイメージを元にして現れる力場そのものであるからして。

 

「なら、殺せる」

 

 一度アスタロトを見て心に深く刻まれた一つの見識。

 自分では魔神という存在には敵わない、という事。

 それは彼女の揺らがない“正義”とかいう正直狂ってるとしか思えない信念から来る強さを見てのものであり、魔神だからという訳ではない。

 見たところアガレスはその手の異常者ではないらしい。

 ならば殺せる。

 

「もう十全だ。この場で見るべきものは見た。それ即ち────」

「堕ちなさい……っ!」

「────我らの勝利だ、アガレス」

 

 そこで漸く、アーガナは思い至る。

 ずっと、ヴァサゴの存在が希薄になっていた事に。

 考えてみればおかしい。こんな近距離に居ながらヴァサゴは何もしなかった。その状態をおかしいとすら思わなかった。

 この感覚は、バルバトスに似ている。彼女が獲物を狩る時の、世界と一体になっているような気配の消し方。

 

「……か、ふっ……?」

 

 気が付けば、背中から何かを突き立てられていた。

 それがヴァサゴの武器であると理解する前に、目の前からアガレスの弓矢が放たれた。

 無防備に影の矢を受けたガルディーヴァの胸部装甲から、炎が溢れる。

 

「幸先は悪くない。前哨戦だが、この結末は上等だろう」

「ああ。アムドゥキアスも喜ぶだろうさ」

 

 どちらがどちらに話しかけているのか、アーガナには理解できなかった。

 それはまるで、()()()()()()()()()()()()()()ようで。

 拭えない気持ちの悪さに顔を顰めながら、力を失っていく末端に意識を向ける。

 

 どうやら脊髄は無傷らしい。

 臓器はそもそも一纏めにされて下の方に集まっているので、ダメージを受けたのは空っぽの胴体部分だけ。

 だがそれでも、出血が大きい。

 更に、アスタロトとは別種の毒のようなもの。何の異常も無いのに、少しずつ意識を削り取られていく。

 

 

 

 明滅する視界の端に、彗星が疾走るのが見えた。

 

「間に合っては……無さそうね」

 

 彗星は魔神の片割れに勢いのまま斬撃を浴びせると、そのまま反転してもう片方へ何かを飛ばした。

 意識の片隅でそれがアスタロトである事を認識して、アーガナは感覚の抜けた右腕でイグニスを持ち上げる。

 

「よく知らない相手ではあるけれど、陽彩の妹分よ。守る理由は、それで十分よね」

 

 展開されたイグニスの弾幕でアガレスを封じている間に、アスタロトはヴァサゴを仕留めたらしい。

 魔神特有の特異な気配が消えていく。

 

「アーガナ、だったわね。まだ平気?」

「……ん」

「なら良いわ。もう少し耐えてね」

 

 弾幕を維持していれば、アガレスはこちらへ反撃してくる。

 弓矢を再び食らってしまえば今度こそ致命打であろう、とは解っていたが、その心配は無かった。

 何せ、既にアスタロトが最大速度まで加速していたのだから。

 

「……裏切り者か」

「よく言う。人を散々利用してから棄てておいて、どうしてそんなセリフが吐けるのか。わたしには理解できないわ」

 

 弓矢を素早く斧に戻すと、アガレスはアスタロトの攻撃を(すんで)の所で受け止めた。

 どうやらアスタロトの長剣と不定形の斧は同質らしい、とアーガナは記憶して弾幕を止めた。

 

「まあ、理解する前に沈んでもらうけど。アモンの所に送ってあげるわ。精々恋人同士仲良くしなさいな、あの世でね」

 

 斧を弾き上げると、がら空きの胴体へ一閃。

 斬撃の鋭さ、威力は、人類最強の氷剣にも劣らない。

 

「……やはりお前だったか」

「あら、淡白ね?」

「……さて、な」

 

 斧を維持できなくなったようで、アガレスの手から影が失われた。

 腹の大きな斬撃痕に手を添えながら、彼女は体の端から光に消える。

 その粒子は重力に引かれ、地上へと向かっていく。

 

「終わりだとは思うなよ。私は幾らでも、地獄の底から這い上がってやる」

「その度に突き落としてあげる。良いから死になさい」

 

 トドメと言わんばかりに、大振りな斬撃。

 今度こそ消滅したアガレスを見送ってから、アスタロトはアーガナの方へと視線を向けた。

 

「大丈夫?手当はできるけど……もしかして、死んでも戦いたい人だったりする?」

「……そこまで壊れてないつもりだけど。治せるならお願いしたい」

「解った。陽彩達に任せて一回退がりましょうか」

 

 それに頷き、ガルディーヴァへと最後の命令を下す。

 薄暗い視界の中で見えたのは、黒い重装甲の見覚えの無い機体が、凄まじい速度でこちらへ向かっている光景だった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 現在のトーリスリッターは、前までと比べてかなり様変わりしている。

 ラディアントマグナムは過剰威力の代わりに取り回しを改善され、ラウムシュトゥンデも大型だが銃器と呼べるサイズまで小型化された。

 腕部装甲内には小型のレーザーブレード発振機、背中に懸架するのはブレードランチャーという新規武装が六つ、それとセラフの装備であるラディアントバズーカが二つ。

 腰の両側には短銃身の二連装レーザーガン、増大した重量に対応して大出力の追加ブースターも装備されている。

 直列魔導炉があればこれだけの武装や推進機もエネルギーを賄えるが、念の為に各部に独立型のジェネレータも増設されている。

 

 魔導機鎧(アサルトフレーム)の構造上、いくら人型に近いとはいえ、これだけやると軽く飛ぶだけでも違和を感じる。肉体との差異がそのまま俺への負荷になるのであるからして。一応、追加装甲と装備は順次格納展開しつつ使い分ければ負荷は減るが、俺はそこまで器用じゃない。

 というか頭が痛い。割れそう。感覚的にはもう割れてる。

 六本腕と四脚で自在に動き回るアルティエさんは凄いのだろうと再確認した。

 

『陽彩、もし辛かったら制御をキャバルリィに任せれば良い。稼働限界まではそれで何とかできる』

「死にそうになったら考える。それより、アーガナは?」

『アスタロトが当たってる。特に何も無ければ快復する』

「……なら、良いか」

 

 戦端はもう開かれている。

 アーガナとアスタロトがシェキナーの援護を受けて、既に二騎の魔神を落としている。

 あと五騎。ベリアルと桜花を含めたとしたら、倒さなければいけない数は七。

 こちらの数を考えれば分の悪い勝負じゃない。魔導機装兵(リフレクスアームズ)も居るし、心配事は特には無い。

 強いて言えば俺の頭が無事かどうか。

 

「……ゼロ」

『なに?』

「いや。無事に帰ろう。お前も、俺も」

『……解ってる』

 

 先の話をすると鬼が笑うと聞く。

 鬼と笑い合うのもそれはそれでなんか楽しそうだが、今は遠慮しておこう。

 

 反応が見えてきた。今の俺には魔力が確認できる。

 トーリスリッターの凄まじい負荷で擬似的にリミッターが外れでもしたのか、瀕死の時と同じくらいの集中力を発揮できている。

 見えるのは……やはり、七つ。

 予想に違わず、桜花は向こうに付いていて、ベリアルもまだ生きていると。

 

 そして、戦闘はもう始まっている。

 アリサが全体に対して攻撃を仕掛け、バルバトスとベリトが撹乱を担う。

 オーリスとアルビレオが各個撃破に向かっているので、作戦通りに一騎ずつ落とすつもりなんだろう。

 ゼロは何をしているのかと思えば、視認できなかった。

 セラフの機動力はキャバルリィ起動時のトーリスリッターや、リミットブレイク状態のラプラスよりも高い。今の俺の目でも追い切れない。

 

「……行け」

『ブレードランチャー、射出します』

 

 いつまでも見ていないで、戦闘に参加する。

 

 俺の声を聞き届けたトーリスリッターが背中の重荷を一つ減らし、六つの機械剣が飛翔する。

 自立して火力支援を行う兵器の一つ、分類で言えば姫様(グレイエンプレス)のソードサーヴァントに近い。

 これは突撃による物理的な斬撃だけでなく、エネルギーで形成した刀身をそのまま飛ばすという離れ業もやってのける。

 基本的にはリタが誘導してくれるが、俺のイメージを送り込めばそちらを優先して動いてくれる。

 

『主様、アーセナルを確認しました』

「単独?」

『ベリアルがついています』

「……ブレードランチャー、向こうに回して」

『了解です』

 

 纏めて叩き落とせるような技量は俺には無い。

 だが、リタの手伝いもあればベリアルを抑えておく事程度はできる。

 その間に桜花に問い質す。

 魔神に与したその真意を。

 

「トーリスリッター、これより戦線に参加します。アーセナル及びベリアル両名はこちらで対処するから、こっちに任せて。特にラプラスな」

『なんで名指し!?わたしだって空気くらいは読めるよっ!』

 

 桜花さえどうにかしたらベリアルはどうにでもしてくれて良いから。

 それまでどうか、オーリスにはそのままそちらで暴れていてほしい。

 

「リモート武装の制御は任せるよ、リタ。バズーカなんて撃った経験ないしな」

『はい。セラフからフィードバックされた情報で、バズーカ兵器の扱いは一通り確認しています。主に牽制としてになりますが、全力で補助させていただきます』

 

 ブレードランチャーが六本ともベリアルへ向かった事を確認し、俺は深緑の魔導機鎧(アサルトフレーム)へと加速する。

 距離を詰める間にアーセナルはこちらを視認したらしく、その豊富な火器を向けてくる。

 射線を躱しつつこちらの射程に収め、まずは通信を開く。個人回線で十分だろう。

 

「桜花!聞こえてるなら返事してくれ!お前なんだろ!?」

『第二射来ます、回避を!』

 

 再び奔る光線を回避、また距離を縮める。

 触れられる位置まで行けば確実に勝ち、だが桜花の技量が衰えていないのならそれはかなり難しい。

 彼女は普段はおちゃらけては居るが、あれで公式序列四位だ。地味にアルビレオよりも上である。つまり状況次第では真正面からアリサと姫様を撃墜しかねない実力者であるということ。

 平時なら俺には万に一つも勝ち目は無い……が、今は隙がある。そこを突ければ俺の勝ち。

 できなければ……まあ、オーリスに勝ちを譲るだけの事だ。

 

『……ぃ……』

「────ん?」

『…………』

 

 駄目だ、ただでさえ声が小さくて聞き取れないのに、それに加えて酷いノイズが走っている。

 ベリアルのやつ、アーセナルに何をしたのか。

 

「リタ、音声解析。なんて言ってるか聞き取れない?」

『一度目は主様の名前を呼んだようです。二度目は不明瞭ですが……彼女にしては、どこか声が平坦なような……』

「平坦……?」

 

 桜花はもっとハキハキと喋る女の子だ。あんな風にノイズが酷くても、あの芯の通った声なら俺には聞き取れる。

 なのに、さっきは……。

 

「危な……考え事は後回しにしないとな。先にベリアルを撃つよ」

『はい、主様』

 

 気付けば目の前に光線が複数迫っていた。

 それを慌てて避けると、アーセナルまでの距離が開いてしまった。この距離は桜花の間合いだ。さっさと調節しないと。

 

 しかし、不気味だ。

 ベリアルはどうして、何もしない?

 

「……不思議でしょ、私がなんで動かないのか」

「……っ」

「図星ってやつだよね?」

 

 こいつは確かに人の心を読むのが上手かったな。

 慌てるな、それだけ解り易くなる。

 

「ま、そう警戒しないでよ。実を言うと私はもう何もできなくてね。桜花ちゃんの調整で力を使い果たしちゃって」

「……桜花に何をした」

「いや、別に?ちょっと楽しい事を教えてあげただけだよ?」

「……そうか」

 

 ラディアントマグナムを発射。

 退路を塞ぐようにラウムシュトゥンデを撃つ。

 それに合わせるように、ラディアントバズーカの砲撃がベリアルへ向かった。

 爆風を斬り払うように、魔力が荒れ狂い始める。

 

「割と容赦無いよね君も。もしかして戻ってきてる?」

「さあな。俺が天童蒼騎なのか御童陽彩なのかは俺にも解らない。ただ、一つ言えるのは────」

 

 ブレードランチャーが六方向から刀身を射出、更に角度を変えて突撃。

 腰のレーザーガンが俺の意思を介さず射角を合わせ、細い光を吐き出す。

 

「────お前を撃つのに、そんな事は関係無い」

 

 ラディアントマグナムを再度照準、射撃。

 手を休めたら何をするか解らない。

 

「相変わらず殺意が高いね、他の事が眼中に無いと見える」

 

 このまま、沈めてやる。

 五千年前の仇討ちだ。あいつらの……いや。

 

 装甲から漏れ出す赤い光に、俺は正気を取り戻す。

 

「落ち着け、トーリスリッター」

 

 キャバルリィは魔導炉のリミッターを強制的に解除するシステム。

 感情を食らうのは、魔導炉の方だ。

 それの制限が外れる……つまり、俺の精神全てをエネルギーに変換し、機体を限界まで駆動させる。

 まだそれは早い。俺を殺すのはもう少し後にしてくれ、相棒。

 

「俺は契約者(テスタメンタ)だ。クレイドルを守る正義の味方じゃなきゃいけない。……アスタロトじゃないけどさ」

「呼んだ?」

「呼んでないけど来てくれてありがとう」

 

 ブレードランチャーと戯れていたベリアルに、金色の彗星が激突する。

 紫色の魔力を纏う剣を携えた彼女は、紛れも無く正義の味方(アスタロト)だった。

 

「……お前は人の心を力にする為に居るんだ。使い時を見誤るなよ」

 

 赤い光が消えていき、俺の中で何かが強制的に燃やされるような違和感が消えた。

 冷静に戦況を見直す。アスタロトが戻った事でこちらの優勢が確定した、か。

 このまま押し切る。ベリアルは生かしてはおけないし、どの道アスタロトが殺すだろうし。

 問題は桜花だ。最悪、精神的に致命傷を受けているかもしれない。もしどうしようも無かったら……。

 

「……だから落ち着けと」

 

 視界の端にちらつく光を抑え込んで、ラディアントマグナムを構え直す。

 今のベリアルは相当に弱体化している。この五千年で何があったのかは解らないが、今なら問題無く倒せる。

 

「さて、ベリアルは貰うわ。陽彩はあの子を救ってあげて」

「……間に合うのか、あれ?」

 

 俺の不安の発露、その発言にアスタロトは肩を竦める。

 そして、あっさりと答えてくれた。

 

「ええ。情緒は不安定になるかもだけど、記憶も人格も無事に助けられるわ。ま、わたしがどうとでもしたげるわよ」

「頼もしいな、お前ほんとにアスタロトか?」

「もしかしたら偽物かもね」

 

 からりと笑うと、彼女はベリアルの方へと飛翔した。

 向こうは任せよう。俺は桜花と向き合わなきゃいけない。

 助かる事は保証済み。今は、彼女を無傷で無力化する方向で頑張ろう。

 

「……桜花、聞こえてるんなら声を聞かせてくれよ。何だって良い、お前だって解るような事を……っ!」

『…………』

 

 こちらへ砲火が向かうと同時に、またノイズが走る。

 つまり、通信回線は開かれている訳だが。

 桜花の声は、まだ聞こえない。

 

『主様、対話は無駄です。今はまず無力化を優先してください』

「解ってるけど……!」

『それとも、主様。我が儘の為に彼女を犠牲にしますか?』

「…………」

 

 どうしてそう、リタは不器用なんだか。

 もうちょっと言葉を選んでほしいんだけどな。

 

「リタ、帰ったらゆっくり話す事がある」

『幾らでもお付き合いしますよ』

「じゃあ────行くよ、トーリスリッター!」

 

 

 

───────《Chi》───────
──────《Va》──────
───『ReversalShift』───
──────《L》──────
───────《Ry》───────

 

 

 

 全身の装甲から真紅の閃光が迸る。

 時間制限を設けよう。桜花を止めるのに、一分も使わない。

 

 ブースターの出力が上がっている。魔導炉のエネルギーがそのまま速度に変換されるのだから、それも当たり前か。

 一瞬で距離を詰めて、こちらの戦闘距離へ。

 背中のサブアームがラディアントバズーカを掴んで前方へ向け、砲撃開始。

 同時にラウムシュトゥンデを撃ち放って退路を塞ぎ、ラディアントマグナムを直撃させる。

 フォトンフィールドで減衰される事を考えても、かなりのダメージを与えられる筈だ。

 

 爆炎を晴らしてアーセナルが距離を離す。

 こちらへ巨大なレーザーキャノンを向けて、引き金を引いた。

 

『────っ!』

 

 ノイズが走る。

 閃光が弾け飛び、装甲から漏れる光が強くなる。

 

「リタ!」

『残りおよそ二十四秒』

「避けてる時間は無いか……!」

 

 腕の装甲を展開、発振したレーザーブレードで光を切り裂く。

 俺には実体のある剣よりもこれの方が良い。性に合っている、と言う奴か。

 

『腕部装甲、剥離開始。排熱に異常が発生しています。一旦退避して体勢を立て直してください』

「キャバルリィの再冷却時間は?」

『……二分です』

「このまま行くよ──」

 

 地味に腕が火傷している気もするけど無視。

 このまま桜花を止めに行く。少し荒くなるけど許してくれる筈だ。……たぶん。

 

「──桜花、聞こえてんのか知らないけど聞いてくれ!」

 

 光の柱を切り抜けて、その先に待つ弾丸達をフォトンフィールドで無理矢理潜り抜けていく。

 腕が熱い、が、それを誤魔化していける。

 キャバルリィは精神を燃やし尽くす。その精神負荷を受け入れる事で、機体の性能を限界以上に高める。

 このままだと排熱が不完全で腕がイカれるかもしれないが、まあ桜花を取り戻す対価としたら安い物だ。どうせ俺は一回死んでいるのだし。

 

『────……』

「お前に何があったのかは後で聞く────」

『…………ぃ、ろ……』

 

 アーセナルが動きを止める。

 キャバルリィ活動限界、残り十三秒。

 ここを絶対に逃がすな。俺が桜花を助け出す、最後の機会なんだろうから。

 

『……たす、けて……っ』

「────帰ってきてくれ、桜花っ!」

 

 至近距離からブレードランチャーによる拘束。

 これなら逃しはしない。ここで止める。

 

 

 

───────《Chi》───────
──────《Va》──────
───『SystemDown』───
──────《L》──────
───────《Ry》───────

 

 

 

 視界がブラックアウトする。

 意識が消える前に右腕が何かを掴む。

 火傷に加えて、精神負荷のせいで感覚は消えているのに。

 

 ああ、俺はこの感触を知っている。

 女の子の手は、俺のそれよりもずっと。

 暖かくて、柔らかいんだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 黒い魔導機鎧(トーリスリッター)が堕ちていく。

 その様を見ても、何故かわたしの心は波立たずにいた。

 

『──アリアスっ!前線維持はアルビレオに任せてトーリスリッターを!』

「…………いいえ」

 

 目の前を阻む魔神の何れかを斬り裂いて、眼を閉じる。

 どうしてかは解らない。

 いつもよりも、頭が冴えている。

 

「陽彩は絶対に帰ってくる。攻撃を続けて」

『でも!』

「アリサ」

『……恨むよ、アリアス』

 

 視界の外から迫る攻撃を、目を閉じたまま斬り落とす。

 それが何だったのか把握する前に、次の動作へ移る。

 

「ゼロ、システム・トーリスリッターは搭乗者が気絶した時にこそ真価を発揮する。違う?」

『寸分違わず当たり。でも……本当にアリアスヴェイン?』

「さあてね。わたしにも解らない。今の()()()が誰なのか」

 

 落とした魔神の名前はラウムと言うらしい。

 わたしの知らない名前だ。

 誰かの思考が紛れ込んでいる。

 英雄(アルトリウス)、か。

 

「わたしの中から出ていけ──」

 

 わたしの名前はアリアス。

 アリアス=ヴェイン・オーリアル。

 

 陽彩だけの、オーリスだ。

 

「──アルトリアス・レイリッター……っ!」

 

 その名前はわたしにとって忌み名でしかない。

 でも、陽彩にとっては……天童蒼騎にとってはきっと、大切な名前なんだろう。

 そうと解っていても。

 わたしの中に土足で入って来られたら追い出すしかない。

 ご先祖さまには引っ込んでいて欲しい。

 

「これは、わたしの戦いだ……!」

 

 両手の剣を強く握り締める。

 壊れる程に力を込めると、それに呼応して刀身が煌めく。

 光を増していく複合大剣。

 刃からレーザーブレードを発振するロストセイバーの剱が、魔神を一匹喰らい尽くした。

 

「──アルト!」

『はい、オリジナル』

「一応陽彩を見といて!わたしはこっちを全力で片付ける!」

『了解です。……人の心が残っていたようで安心しました』

「みんなしてわたしの事何だと思ってるの!?」

 

 実に心外な話だ。わたしはこれでも正常な方だと思っている。

 恋に関してはまあ、甘んじて異常者の烙印も受け入れよう。ちょっと行き過ぎている感じなのは自分でも解っている。

 だけど、この状況ですべき事を見失う程に狂っているつもりもない。

 

「ラプラス!」

『Code Lhaplace────ON』

 

 残りの魔神はあと僅か。

 フォルネウス、ヴィーネ、オリアス、アムドゥキアス。

 見える影は三つで、もう一つはバルバトスが追い立てているらしい。じきに撃破されるだろう。

 と、なると。

 

「全力で行くよ!天眼、開いて!」

 

 

 

 

 

 

《HEAVENLY=EYES》
《OVER HEAT》

 

 

 

 

 

 

 最速でこいつらを叩き落とすのが、今の最適解だ。

 

 設計上の活動限界は三分半。だけど。

 魔導炉のエネルギー源は感情。それは、一度燃やせば全てが燃え尽きるように作られている、が。

 

 わたしの熱情を、その程度の焔で燃やし切れると思うな。

 この想いは──五千年の悠久よりもずっと強いのだから。

 

 世界も人類も魔神も正義も、全て等しくどうでも良い。

 わたしは剱、氷の剱。

 陽彩の為の──決して融けない氷。

 大切な人の為に、わたし自身の為に。

 

 今度こそ、わたしは────

 ────何もかも、斬り裂いてみせる。




以上、十二話でした。
誤字脱字の修正回数は過去最多でした。テスト中に何やってるんですかねこいつ。

投稿時点では十三話には手を付けていません。一ヶ月までは掛からないとは思いますけど、丸々一週間くらい空くかもしれません。

そういえば何もしていない間もUAは少しずつ増えてました。あれどういう事なんでしょうね。
とりあえず数字が増える事が期待の証だと思って、これからも頑張ります。

ここら辺で幕を引きましょうか。
たぶん五月中に……うーん、どうだろ。
六月の十日まで、と目標を立てておきます。

それではまた次回、十三話でお会いしましょう。
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