虚空を翔ける鋼の騎士 作:匿名希望
初投稿なので前回から時間が空いても優しい目で見てくれると思います。
言い訳は後回しにするとして。
冗談抜きでだいぶ時間が過ぎたので、文体が変わっているかもしれません。劣化してる事はないと思いたいですけど。
あと、誤字が多いかもしれません。気が付いたら容赦なく誤字報告して頂けると有難いです。
さて、味方側の死人が出ると言ったな。
あれは半分嘘だ。
という訳で十三話、始めさせて頂きます。
ふと、浮遊感が消えた。
気付けば俺は、何処とも知れない草原に立っていた。
「……陽彩」
「桜花?」
右手に握っていた感覚が、しっかりと熱を伝えてくる。
──生きている。俺も、桜花も。
「無事だった……訳ないか。ごめん、桜花。遅くなって」
「……私はずっと、君が私を見捨てたものだと思いこんでた」
桜花は俺と同じ黒い瞳を真っ直ぐに向けて、何かと葛藤するように声を絞り出した。
「君は、助けに、来てくれた……そうだよ、ね?」
「ああ。ベリアルの所に居るって知ってから、心配だった」
「……ひい、ろ」
桜花が胸に飛び込んでくる。
反射的に抱き留めてから、どうしたものかと悩む。
「……怖かった。ずっと、私が少しずつ消えていくような感じがして」
「今なら解るよ、俺にも。自分が消えていく怖さが」
桜花の体は、見た目よりもずっと華奢だ。
アーセナルを駆る実力者としての側面よりも、ただのか弱い女の子でしかない彼女の方が、俺はよく知っている。
だからこそ、こうしてあやすように背中を撫でる事にも、特に躊躇いや違和感は無い。
無い、が。
「私は…………私は、私で居られる?君の友達で、居られてる?」
「お前はお前のままだよ、桜花。俺の大事な友達だ」
痛ましい。
細い肢体が震えている。
……助け出したんだ。守りきらないと、な。
「……手を貸そうかと思いもしたけど……余計なお世話だったのね」
草原に、もう一人新たに人影が現れる。女性、のようだ。
初めは何故か輪郭がぼんやりとしていたが、やがてしっかりと視認できた。
陽光に煌めく金色の髪は、アスタロトのそれと似ている。
瞳には光が渦巻いているようで、色がはっきりとは判別できない。虹彩の色は金、瞳孔の色は黒に見える。
「はじめまして、御童陽彩」
見た目の雰囲気そのままの穏やかな声。
彼女はゆったりとした動作でこちらに近寄ってくる。
「わたしはフェネクス。短い付き合いだろうけど、よろしく」
「……なんで俺の名前を?」
「アスタロトから聞いているわ」
桜花を優しく離して、フェネクスと名乗った少女へ向き直る。
確か悪魔の一柱、序列は三十七だったか。
原典は不死鳥、命を終える度に死に絶えて燃え尽き、灰の中から蘇る神鳥。
「なるほど。俺達をここに呼んだのは貴女か?」
「いいえ、違うわ。ただ、こちらに少し近付いていたから招待しただけで」
もしかしてここは地上の何処かなのか。
フェネクスもまた魔神の一人なら、或いは有り得る話かもしれない。
「でも、予想外のお客さんまで来てしまったわ。本当はあなた一人だけを呼んで、すぐに済ませるつもりだったのに」
「俺に何か用事でも?」
「ええ。わたしにとっては、とても大切なこと。だけど、あなたからすればきっと身に覚えの無いこと。だから、今は良い。無礼の償い代わりに、その娘の傷を癒やすわ」
フェネクスは桜花に掌を向けて、どこかぼんやりとした瞳をゆっくりと開いた。
その美しい色彩に目を奪われている間に、彼女は穏やかな魔力の渦を束ねて光と成した。
「少し耐えて、すぐに片付けるから」
言葉通りに手早くそれを桜花へ放つと、魔力は柔らかく広がった膜のような挙動を見せた。
桜花本人には見えていないのだろうが、光のカーテンに包まれているようで神々しく見える。
「……終わりよ。倦怠感はもう残っていない?」
「ぁ……は、はい。ありがとう、ございます」
「礼は良い。それより、御童陽彩。ベリアルを退けた後で良いから、わたしの所に来てくれる?」
「それは構わないけど……どうやって来れば良い?」
「アスタロトに言えばいつでも来れる。暇がある時にでも来てくれると嬉しいわ」
やっぱりアスタロトと友達だったりするんだろうか。
ベリアルの事も知っているとなると、最近も交友がある相手だろう。
「いきなり呼び寄せてしまってごめんなさいね。わたしには何もできないけれど、せめて応援しているわ。……それじゃあ、頑張って」
特に何を聞く事もできずに、空間から弾き出される。
咄嗟に桜花の手を掴んで、俺達はそのまま空へと落ちていった。
「御童陽彩。あなたの物語を見守っている人が居る事を、忘れないでね」
物寂しそうな、それでいて満足げな表情。
それが妙に心に引っ掛かり────。
いつかのアスタロトみたいだな、なんて感想を懐いた。
◆
風を斬る音。
それに伴なってレーザーブレードの振動音が響き、二人目の魔神が撃破された。
奇妙、と言うのだろう。
何と言うのか──斬ったという感触がしない。
まるで虚像と戦っているような、そんな空虚な手応え。
「フォルネウス、撃破した。そっち二つ、どう?」
『オリアスとヴィーネも落とした。後はバルバトス達の方のアムドゥキアスだけ』
「随分と上手く行ってるのね」
ここまで来ると不思議な話だ。
あれだけ苦戦したベリアルと、同格の筈の五人。
それが何故、こうまで呆気なく落ちたのか。
わたし達の成長、と安易に認められないのは、単にわたしが捻くれているのかな。
『早く陽彩を探しに行くよ。ゼロ、良いよね?』
『うん。地上まで落ちる前に再起動は間に合う筈だけど……いや、まずは行こう。アリサとアリアスは一緒に来て。アルビレオはここで待機』
どうやらアルビレオだけでなく他の魔神もここに待機させるらしい。何に警戒しているのか。
わたしには言わなくても良いけど、アリサとは長い付き合いというのだから、彼女には教えてあげても良いのに。心配性が悪化したらどうするのか。
『反応はずっと捉えてる。アーセナルと一緒に雲海の真下に居るみたい』
『……雲海を突き破る。アリサ、グレイエンプレス、わたしの射撃を反射して』
『ん、姫様いくよ!』
『言われずとも』
この局面でわざわざわたしまで出しゃばる必要は無いはず。とりあえず見守っておこう。
天眼を閉じて、機体の冷却を進める。今の内に冷やしておかないと、最悪動けなくなる。
程なくして、ラプラスの冷却が終わる。それと同時に、セラフの腕に保持されたラディアントバズーカが火を吐いた。
グレイエンプレスから放たれた無数の剣達が一枚の鏡のように隊列を成して、その砲火を受け止める。
ゆっくりと回すように連続で反射させ、人の腕程度の太さでしかなかった光の束を、人体を遥かに上回る大きさにまで膨れ上がらせた。
『狙いは一箇所……姫様、合わせて』
『────避けなさい、ヒイロ』
鏡が閉じる。
一つだけ開けられた隙間から、光の柱が飛び出る。
雲海へ突き立ったそれは、大量の水蒸気を上げながら雲を溶かしていく。
膨大な熱量はそれでも消費しきれず、大地にまで届いた。
「……随分と豪勢ね」
鏡が閉じる直前。
何らかの高エネルギー反応が二つ、雲海の下で急速に移動していたのをラプラスが確認している。
あれは恐らくトーリスリッターとアーセナルだろう。
「巻き込まれてないと良いけれど」
両手の剣を握り直して、一足先に雲海の下へ向かう。
まだ大気が熱い。フォトンフィールドが無ければ肺が焼けて死んでいるであろう程に。
これではトーリスリッターは耐えられない。ただでさえキャバルリィのせいで機体の排熱機関がおかしくなっているのに。
……軽く払おうか。熱気も、雲も。
「ラプラス、もう少し頑張って。まだ隠し玉を出し切れてないでしょ」
紅く染まった視界に、なお紅く映り込む文字。
この機体の真の力はこの先に在る。
もう居ない
まあ、わたしとしてはどうでも良いけど。
「────神話を此処に」
起動コードはうろ覚えだけどなんとでもなるだろう。
さて、わたしのオリジナルことご先祖様……アルトリアス・レイリッターの生きていた時代。
西暦と呼ばれるその年代には、廃れていたとはいえ魔術という物がまだ存在していたらしい。
魔神達の扱う超常の力を、一部とはいえ人間が使っていた。
つまるところ、人間にだって魔神と同じ事ができる。
ラプラス・ロストセイバーは、魔術を人為的に再現できる。
設計にはゼロが大きく関わっているが、基礎はわたし。
わたし自身の中に在る
これはその一つ。
ご先祖様の記憶にあった一振りの魔剣。
神話より生み出された、最新の神話を担うもの。
「斬り払え────
二本一対の剣を接続し、一本の大剣に変形させる。
源流は竜殺しの魔剣。
ニーベルングに謳われる英雄ジークフリートの財宝。
北欧神話におけるグラムに相当する、らしい。北欧神話はよく知らないけど。
アルトのシェキナーに搭載されているシステムも北欧神話関連だった気がする。
鍔に魔導炉が搭載されているこの剣を二本接続する事で、瞬間的にセラフ以上の出力を確保。チャージしたエネルギーを圧縮した後に全方位へ放出する。
そのままではただの爆発になるけれど、この剣を通せばわたしでも魔術を行使できる。
その爆発に風の概念を付与して外側への斥力を発生させ、更に現象そのものを魔術と成して魔神にすら届き得る一撃へと昇華させている。
残っていた熱を吹き飛ばし、ついでに水蒸気も一気に晴らす。魔導光線の残り火も纏めて一掃すれば、少しは見晴らしも良くなった。
陽彩ならわたしを見つけてくれる。あとはゆっくり降りるだけで良い。
「……お疲れ様、ラプラス」
太陽の光が差し込む雲海の合間を通り抜けていき、高度を少しずつ下げる。
つい先程できたばかりの大地のクレーターが見えた所で、遠くに黒い影が見えた。早く拾いに行こう。
『……ん?』
『ゼロ、どうしたの?』
『いや……アリアス、待って!
──機体を加速させる。
黒い影がこちらへ接近してくる。
それが何かを撃ってきた事を脳が認識する前に、意識が途切れた。
◆
目を開く。
ここは何処だろう。
地面がひび割れている。何だか、空気が乾いている。
「陽彩、ここ地上みたい。見覚えがある」
「来た事あるの?」
「一回ね」
なんで地上に……や、そういえば一度墜落したとか何とか言ってたな。
思えば、その時にベリアルと会ったのかもな。
「じゃあさっさと戻らないとな。オーリスが怖い」
「怖い?拾いに来てくれるんじゃないの?」
「他の女の子と二人だと怖い」
「なるほど」
そういう所にも理解があるから桜花とは接しやすい。
と、言う訳で一刻も早く戦線復帰しなければいけないのだが。
「……アーセナル、来ないな」
「トーリスリッター?……駄目だ、こっちも寝てる」
何故か機体がスリープしている。これがフェネクスのせいだったらアスタロトを恨むことにして、だ。
感じる魔力が変質している。
七つあったのが一つに……いや、二つが溶け込んでいる、のか?
少なくとも四つは無事に撃破されたらしい。アスタロトのものと思われる魔力に、新たな色が付け足されている。
ベリアルは……どこだ。アスタロトの中にも居ないし、まさか逃げたか?
でも、逃げたとしても長くは保たないだろうな。
「
「いや、流石にそんな都合の良いのは──居たわ」
「居るのかぁ……」
問題は声が届くのかどうか、だけど。
……魔力ってどうやって捻り出すんだっけな。
「────ふぅ」
軽く息を吐いて、余計な思考を外へ吐き出す。
さて、誰を呼ぼうか。誰を呼んでも来そうだけど。
……そうだな。俺の築いた絆に賭けてみようか。
「来てくれ、バエル」
もう俺の右手に
第一の魔弾、
だから、彼女がこんな俺にまだ忠誠を誓ってくれているのなら。
きっと、応えてくれる筈だ────。
「…………」
「陽彩?」
「……主を揶揄うのはどうかと思うぞ」
『勘は鈍っていないようですね。安心しました』
声だけは聞こえる。姿は見えないのは……アスタロトの中から抜け出してきたんだろう。
再契約すればすぐにでも実体化できるだろうし、機体の方も何とかできるだろう。魔導炉の原理は魔弾や
「えっと……そちらは?」
『
「俺の時とはえらい違いだな」
『それはそうでしょう。愚鈍で蒙昧なマスターと、聡明で優秀なご友人とあれば、対応も変わるというものです』
「お前ほんとに俺に対して辛辣だよな」
その辛辣さが俺への信頼の裏返しだと、最期の最後に知る事ができた。
だからこそ俺は、こうしてまた彼女と共に戦おうとしている。
「まあ、良いか。バエル、魔導炉に火を入れてほしい。俺達じゃ細かい調整はできないんだ」
『解りました。多少手荒くなりますが、再起動くらいはできるでしょう』
トーリスリッターの本体は俺の体内にある。
流石に人体の内部に魔力的に干渉するような真似は魔術師見習いを最期まで卒業する事の無かった俺には不可能である。自分ならともかく、桜花の中を弄れるような技術は無い。
しかしバエルはロストバレット、存在そのものに魔力が関わっているような存在だ。人間よりも遥かに緻密な魔力制御が可能だろう。
『時に、マスター。一つ聞いても良いでしょうか』
「ん、何かな?」
俺の背中に手を当てた金髪の少女が、いつも通りに平坦な声音で尋ねてくる。
桜花は所在無さげな視線を地平線に向けているが、悲しいくらいに何も無い。今の地上には、ごく限られた生命しか存在していない。
……ユグドラシルは健在なのだろうか。地上と一緒に焼き払われたりしていないだろうか。
そもそもの座標を悟らせない彼女ではあるが、世界丸ごと破壊されてしまえば位置の秘匿は意味を失う。無事だと良いんだが。
『マスターはなぜ、わたしを選んだのです。アンドロマリウスでもアスタロトでも、或いはバルバトスでも。
「らしくないな、バエル。汐らしいのは似合わないぞ?」
バエルは決意を持たないから魔神にならなかったのではなく、強い意志の力を以て覚醒を自ら封じていた。
見れば解る。バエルの内部には自前で魔力を精製する器官が存在する。活動停止状態だが、つい最近生まれたものには見えない。
いつでも次の段階へ踏み入れられる自分を押し留めていたのは、彼女自身の覚悟だ。
『茶化さないで真面目に答えてください。どうしてまた、わたしを選んだと言うのです』
「……さあ、な。でも言えるのは……」
背中に当てられていた手が離れる。
トーリスリッターの鼓動を感じる。キャバルリィによって破損した装甲も、修復は終わっているのだろう。
「俺の相棒はトーリスリッターだけど。俺の剣は、バエルしか居ないんだと思うよ」
『……』
「桜花の方も頼んで良いか?俺は一足先に空に上がる」
『了解です、マスター。すぐに追い付きますので、少しの時間を頂きます』
装甲展開、全身の状態を確認する。
次に武装を順次展開。ラディアントマグナム、ラウムシュトゥンデ、共に正常。冷却機関に異常無し。キャバルリィ再使用、即刻可能。
「システムトーリスリッター、起動。起きろリタ、行くぞ」
視界に光が灯る。
駆動音が響き渡るに連れて、聞き慣れた機械音声が流れた。
『メインシステム、通常モードで起動します。システムトーリスリッター、正常な起動を確認しました』
文字列が一瞬で流れていき、視界の端に消えていく。
それを見届ける前に、相棒が目を覚ます。
『主様、おはようございます。申し訳ありません、記憶領域が一時的に機体から切り離されていました』
「おはようリタ。変な所は無い?」
『問題ありません。戦闘行為、再開できます』
「よし。桜花、俺は先に行く。頃合いを見て来てくれ」
「解った。気を付けてね、陽彩。すぐにそっち向かうから」
背中の翼を広げる。魔力の流れていくイメージがはっきりと感じ取れる。
規則正しく並べた回路に雷を通すような、そんな情景。
魔導炉が順調に稼働し始めた。機体が一気に温まる。
『メインシステム、戦闘モード!上がります、主様!』
「戦線復帰、それとゼロ達が戦ってる相手を捕捉して。たぶんだけど、あれが最後の敵になる」
あの感覚を知っている。
五千年前、クレイドル防衛戦の最終決戦の折に現れた“ウラヌス”という魔神。残った二騎がアガレスとヴァサゴだとしたら、あれはあの時の焼き直しだ。
俺を殺した直接的な相手。因縁に決着を付ける時が来た。
『ターゲット、ロック。彼我の距離、一万二千。戦闘空域の高度が上がっています。気温が低下するので、先程よりもキャバルリィが長く展開できるかと』
「それは良いな。そのまま宇宙まで行ってくれたら戦いやすそう」
『流石に宇宙空間での戦闘は想定されていません』
リタは俺の軽口にちゃんと対応してくれる。
緊張を適度に解し、意識を上手く調整すれば、後はもうひと頑張りするだけ。
あの時の、一人でクレイドルを守った時とは違う。
相手は同じ、自分も同じ。ただし、心強い味方が居る。
オーリス、アルティエさん、アルビレオ、桜花、アリサ。
バエル、バルバトス、アスタロト、ベリト、キマリス。
そして、ゼロ。
負けるとは思えない。俺一人でも何とか抑え切れたんだからな。
『見えてきましたよ、主様』
「……オーリスが居ない」
『え?』
「ラプラスの反応、拾ってくれ」
『────暫定戦闘空域に確認できず。これは……っ』
戦場の感覚のズレ。それを消去法で割り出せば、何が居ないのかはすぐに解る。
剣も極光も見える。たまに奔る細い線も。
だが、あの影が見えない。
誰よりも疾く、鋭く、剣のように戦場を翔ける彼女が居ない。
人類最強の“氷剣”が不在とは、どういう事か。
『ラプラス、地上です!損傷は軽微……ですが、
「…………アーセナルに通信」
息を吸う。一つ考える。
息を吐く。言葉を纏める。
「桜花、聞こえる?」
『うん、どうしたの陽彩?』
「そこから近い所にラプラスの反応がある筈だから探してみて。見つけたらそっちに行ってほしい」
俺が直接行くよりも桜花に行ってもらう方が速い。それに、彼女のアーセナルには医療用の設備も搭載されている。トーリスリッターには戦闘機能しかないので、どの道俺が行っても意味は無い。
『ラプラスの?解った、少し待って…………見つけた。そこに行けば良いんだね?』
「お願い。できるだけ早く」
『オーリスさんの事はこっちに任せて』
安心はできないが、桜花なら大丈夫だろうと心配を押し込める。
一度忘れて、戦場へ意識を戻す。
「オーリスと俺を抜いて……桜花も抜くと八人か。数は……合わないな」
『後方に複数の反応確認。識別は、えっと……ベリトとバルバトスです』
「前衛抑えられるのアスタロトとゼロだけかよ……」
道理で戦闘が長引いている訳だ。
あの魔力、二つが一つになっているような違和感。
五千年前と同じだ。アガレスとヴァサゴ、また妙な事を仕出かしやがった。
アスタロトを見ればよく解るが、魔神というのは互いを取り込んで喰らう事のできる存在だ。
「前と同じだと考えると……若干心許無いな。キャバルリィ、まだいける?」
『機体には問題ありません。でも、主様は万全じゃありませんから。気を付けてくださいね』
戦場となっている空域に辿り着く。
どうやら高度が上がり続けているのは向こうの思惑らしい。宇宙にまで出て戦えるのは魔神のみ、現状の魔神の戦力ではあれを倒せない。
星の外から惑星ごと叩き斬られてしまえばこちらには成す術が無い。大気圏内で仕留める。
「トーリスリッター、
『陽彩っ?だめ、下がって!ウラヌスはあの時……っ』
「解ってるよゼロ!だからこそ、俺が仕留めなきゃいけないっ!」
高度を合わせ、一気に加速。
そして接敵直前に、魂に焔を灯す。
「──キャバルリィ!」
『残存継戦時間、十二分。五分で落としますよ、主様!』
見つけた敵は、生物的な装甲を纏っていた。
五千年前から変わらない見た目。俺を殺した、ウラヌスだった。
閃光が走る。
一筋の流星となって、ウラヌスにファーストコンタクト。
『ぐっ!?』
「悪いが先を急ぐんでね!最短で討たせてもらう!」
左手で装甲を握り締め、ラディアントマグナムを密着させたまま射撃。
しかし表面の防御膜が固すぎる。これだと威力が通らない。
『天童────蒼騎ィ!』
「そいつは既に死んだよ!他ならないお前のせいでな!」
『また、ワタシの邪魔をするのかァ!』
機体から吐き出される赤い炎が、ウラヌスを包み込んでいく。
今はこれが何なのか見える。魔導炉から生み出された魔力の波動、熱量を内包した力場そのものだ。
そして、見える以上は操れる。少なくとも、
『煩わしい……!』
「これなら通るだろうよ、リタ!」
その炎を取り込んだラディアントマグナムから、先程よりも強い光が放たれる。
魔導炉から直接エネルギーを取り込んだそれは、ウラヌスの堅牢な鎧も穿つ。
『この、程度でッ!』
「終わるだなんて思っちゃいないっ!」
立て続けに撃ち込んで動きを封じ、貫いた穴に左手を突っ込む。
あまり気分の良いものではないが──そのまま、中身を引きずり出す。
飛び散る臓腑にはなるべく視線を向けず、空いた左手にレーザーブレードを展開。剥き出しの魔導炉に光の刃を押し付ける。
『オ、オォォォッ!』
「そのまま落ちろ!」
『死ねぬ……アモンの仇を滅ぼすまでは!』
「仇討ちなんざらしくないだろうが!」
加速が途切れる。
雑念だ。キャバルリィが、熱意以外の何かを拾った。
左手が弾かれると共にレーザーブレードが叩き落とされ、地上へと姿を消し去る。あれは諦めた方が良いな。
「ゼロ!」
『解ってる』
追撃の前に割り込ませた蹴りで姿勢を崩し、後方へ吹き飛ばす。
勿論その先には、ラディアントバズーカをフルチャージで構えたセラフが待っている。
『────』
『消えてもらう、ウラヌス』
直ぐ様射線から下がり、キャバルリィを一度落ち着かせる。
如何に気温が低いといっても、オーバーヒートすればどうしようもない。そもそもそんな温度になれば俺が焼け死ぬという問題がある。
熱の管理は難しいが、放置もできない。
『アンドロマリウスとして──アンジェとして、御童零として。君への手向けだ』
直径にして二メートルは超えるであろう、極白の光の柱。
トーリスリッターを掠めていくのは、ウラヌスの纏う装甲の破片。
『──アァ、アアァァァァァァァァァァ!』
呻きとも叫びとも悲鳴ともとれるような、その声。
断末魔の叫びだと信じて、ラディアントマグナムの冷却を開始する。
「────蒼騎!」
懐かしい呼び方に、意識より速く体が反応する。
最初に感じるのは、脇腹の熱さ。知っている、斬られた痛みだ。
「が──っ!」
「下がりなさいっ!」
俺とウラヌスの間に割って入るのは、黒い長剣。
紫の紋様が走るそれは、間違いなくアスタロトのものだ。
でも、今のアスタロトには、バエルが居ない。
キマリスだって最高峰の魔弾だが、同格が一人抜けた穴を埋められるかどうか。
いいや、それよりも。
「リタ!」
『駄目です主様!命ごと燃え尽きるつもりですか!?』
「良いから全部吐き出せ!キャバルリィ!再起動っ!」
魂に再び熱意を点火、冷ました機体を強引に加熱する。
脳の奥で何かの弾ける音がする。
煩い、集中ができない。
「陽彩、無事よね?」
「無事な訳あるかよ」
長剣越しにアスタロトの両腕が深く切り刻まれていく。
鎧が既に破壊され、半身は焼け落ちているにも関わらず、ウラヌスは未だに暴れるつもりだ。
「なら良いわ。押しなさい」
「馬鹿か。馬鹿だったな」
キマリスを内包したアスタロトと互角なら、俺如きが全力を出したところで追い付けはしない。
ならば、もう一押しするだけの事。
『
「──バエル!」
ラディアントマグナムを投げ捨て、両手に現れる金の剣を受け止める。
黒い長剣が押し留める刃を避け、回り込んでから一撃。
『甘いッ!』
焼け落ちた骸から吹き出した炎のような魔力がそれを抑え込み、トーリスリッターが止まる。
キャバルリィを再加熱。今度は途中で止めたりしない。
焼き切れても、押し通す。
「押し切ってやる──!」
停止しかけたシステムが復帰、翼がもう一度開く。
剣を握り締め、更にもう一撃。
『ワタシは──まだ──!』
「貴女の信念なんざ知った事じゃない。私は今度こそ、大切な人を守り切るのよ!」
『──お前だけでも!』
ウラヌスの放った、黒い魔力。
闇そのものにすら見えるそれは、アスタロトに真っ直ぐ撃ち出された。
その射出の瞬間だけ、隙ができる。剣が手放され、今なら一撃を叩き込める。
しかしそれだと、アスタロトはあの闇に飲み込まれるのだろう。
選べ。
生かすか、殺すか。
俺は────ああ、決まってたな。
命を賭してまで隙を作ったのなら、アスタロトには謝らなきゃいけない。
それを見逃すのは、できそうになかった。
闇が迫る。
息を呑む声と、勝鬨に挟まれて、視界が潰える。
何か、大きなものが焼け落ちた。
記憶が巡る。
巡る世界の中に、何かが足りない。
あった筈のそれが、黒く染められていく。
解らない、思い出せない、それがなんであったのか。
それって、誰だっけ?
はい。
今は筆が乗ってるのでこのままエピローグまで書きたいと思います。
第一部が終わったらまた何ヶ月か開くと思うんですけど、その時は書き溜めて一気に投稿したいです。
因みにラスボスを飾るウラヌスちゃんですが、次回で出落ちします。
陽彩くんがこれからどうなってしまうのかについては、これからダイスロールで決めるのでお楽しみに。
それでは今回はここまで。
また次回投稿時にお会いしましょう。