虚空を翔ける鋼の騎士   作:匿名希望

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第一話を自分で見直して幻滅したので前回に引き続き初投稿です。
注意喚起は前回と同じく。
一応ここに補足程度に設定の一部を乗せておくので読み飛ばしておいてください。

用語解説
魔導機鎧(アサルトフレーム)
西暦末期に開発された、人型の有人機動兵器。当時の言葉ではパワードスーツと呼ばれていた。“魔導炉”というそれまでの技術とは一線を画した動力源を有し、既存兵器が通用しない怪異に唯一対抗できる。現状のクレイドルを守る数少ない戦力であり、各クレイドルに一機ずつ配備されている。

・魔導炉
魔導機鎧の動力源を担う縮退炉。単なる物体ではなく、生物的なエネルギー源として活用されている。これと接続ができる性質を持ち、同調して稼働させられる人間を“適性持ち”と呼び、実際に魔導機鎧を稼働させて防衛戦力として活動している人間を“契約者”と呼ぶ。
 
契約者(テスタメンタ)/適性持ち
生きた縮退炉である魔導炉と適合した人間。怪異の放つ特殊な電磁波を感知でき、事実上の新人類として扱われている。適性持ちとされる人間は居るが、魔導炉を稼働させられる程の適性を持つ人間は数少ない。現状で確認されている適性持ちは七十二人、契約者として活動しているのは七人である。

以上です。
それでは、第二話を始めさせて頂きます。


第二話

 光で視界がホワイトアウトしたのは数秒、俺はすぐにはっきりと周囲の状況を確認できた。

 目の前には夕暮れの空、そして足が浮いている感覚。クレイドルの地面よりも慣れた空だ。

 

「……ここは」

『クレイドル07の直下。上を見れば良い』

 

 どこからか聞こえてきたゼロの声に従い、上に視線を向けるようにイメージする。

 すると俺の意思を汲み取った体が、首を上に向けた。

 そこには黒い巨大な物体があった。その内部には赤黒い球体が脈動しており、今も稼働していることが見て取れる。

 あれは魔導機鎧(アサルトフレーム)にも搭載されているが、それとは格が違う。普通に生きていくのなら見る機会など無い筈の、超弩級の縮退魔導炉。

 

「え────あれがクレイドルの魔導炉か!……凄いな、今まで資料でしか見た事なかったけど生で見る機会が巡ってくるとは思ってなかった」

 

 あの魔導炉が見えるという事は、ここは間違いなくクレイドル直下の空中なのだろう。そして、クレイドルより高度が低い位置に存在するのは、管理者達の議会くらいだ。その上に立っている訳でもなし、となれば、やはり俺は今この瞬間も何の足場も無く空を飛んでいる訳だが。

 そうなると当然、俺は魔導機鎧(アサルトフレーム)に搭乗している筈だ。しかし、これは俺が適性を持つトーリスリッターではない。普通なら適性の無い機体には、魔導炉との接続が不完全になってしまって上手く稼働できないのだが……。

 

「……この機体、トーリスリッターに似てる……?」

『元を辿ればモデルでもある。似ているのは当然』

「リタのモデル?って言うと────」

『来る。陽彩、準備して』

 

 ゼロは俺の言葉を遮って注意を促す。そういえば、ゼロはどこに居るんだろう。

 そんな事をふと考えていると、ゼロは唐突に忌々しげに呟いた。表情は見えないが、きっと眉を顰めているんだろう。

 

『……せっかくクレイドルの下に隠しておいたのに、何故露見した』

「隠して……?いや、待て。あれは……」

 

 視界の端に見慣れた光が映り込んだ。魔導機鎧(アサルトフレーム)の推進機、その炎だ。

 特徴的な背面のダブルウィングブースター、そして胸部の二つのコア。あんな機体は一つしか知らない。

 

「────アルビレオか!クレイドル04の守護者がなんだって07に?」

『この機体を確保する為に。クレイドルは今、この機体を巡って二つの勢力に別れている』

「人間っていつも仲間割れしてるのな!」

 

 超高速で突っ込んできたアルビレオを回避、両腕に武装を展開させる。

 右はキャノン、左はパルス。たぶんだけど、そこまで感覚は変わらない筈だ。

 

『全くその通り。愚かしくも浅ましい種族』

「同感だよ、それでどうすれば良い?」

『撃墜まではしなくて良い。追い払ってほしい。可能?』

「俺を誰だと思ってる」

 

 長さの違う二種類の銃を構え、全身に戦闘意識を張り巡らせていく。

 

「これでもトーリスリッターの契約者(テスタメンタ)だ」

 

 右手の引き金に指を掛けて、照準を合わせる。射撃管制装置(FCS)の規格は同じ、つまり十字のレティクルに合わせれば当たる。

 狙いが付くまでの間に左手のパルスライフルを撃ち、牽制の役目を果たさせておく。

 

 さて、相手は魔導機鎧(アサルトフレーム)四号機であり、クレイドル04を守護する指令を下されている筈のアルビレオ。本物かどうかは解らないが、見た感じ性能は偽物ではない。

 特徴らしい特徴と言えば、動力源である縮退魔導炉が二つ搭載されている事か。それ以前の機体と比べ、出力の差は明白である。

 因みにトーリスリッターの魔導炉も二つである。この機構はジェミニシステムと名付けられており、並列起動させる事で本来の二倍以上の出力を得ている。このオリジナルとなったのがアルビレオだ。

 

『なら、要請する。報酬は……』

「特に要らない。サービス残業って事にしとくよ」

 

 レティクルに上手く合わせられるようになった所で、キャノンを試し撃ち。ラディアントマグナムと使い勝手は似ている。

 弾速はこちらがやや上だろうか。大凡の性能は同じと言って良い。

 

『でも』

「良いから。この機体、大切な物なんだろ?」

『……』

「それに、ゼロにはいつも世話になってる。恩返しって事で、ここは一つ」

『……解った』

 

 まだ納得は行っていないようだが、とりあえず反論してくるのは辞めたらしい。

 ならこれで良い。俺がゼロに恩を返せるのは、こんな事ばっかりだから。

 

「この機体に名前はあるのか?」

『……ある。だけど機密』

「なら良いや」

 

 もし名前があるなら呼んでやりたいが、言えないなら仕方無い。その場凌ぎの組み合わせだが、それでも命と背中を預ける相棒なんだ。どの道信頼は置いておかないと。

 

「さて、お相手さんは……っと」

 

 アルビレオのスペックを大まかに思い出す。確かに凄まじい機体出力は持つものの、それに対応できる武装は数少なかった筈だ。主兵装はシンプルな三点式レーザーバズーカと、超高出力のレーザーブレード。特に左腕のブレードは受けてはいけない。この機体の防御力は解らないが、あれはクレイドルの防護バリアを容易く斬り裂いてしまう程の威力を持っている。 

 ブレード、と言えばトーリスリッターにも搭載されていたが……この機体に予備兵装というものは無いらしい。レーザーキャノンとパルスライフルだけでアルビレオを撃退する必要がある。

 

「向こうも様子見か?なら便乗してもう少し休ませてもらうか……?」

 

 一応だが、構えは解かない。戦闘態勢を崩したらまたすぐに突進してくるだろうから。

 さて、どうする。普通に撃っても当たらず、かと言って的確に当てられる距離は向こうの確殺圏内だ。アルビレオの運動性を前に接近戦を挑むのは自殺行為に近い。

 

『……陽彩、イメージして』

「え?イメージって……」

 

 攻めあぐねていた俺に、不意にゼロが言葉を投げ掛けてくる。

 オウム返しに尋ねると、彼女はそのまま続けた。

 

『君が一番頼りにしている存在を』

「俺が……頼りに……」

 

 ……俺が一番頼っている存在は────

 

 ────魔導機鎧(アサルトフレーム)七号機、俺だけの相棒。

 

 トーリスリッターに他ならない。

 

「リタ…………!」

 

 その名前を呼んで、空を仰ぐ。

 夕日に赤く染まる天空に、一つの閃光が走った。

 

 光の行く先を見守るような愚は犯さず、俺はただ前進する。

 あれが何かは解っている。俺の相棒の性質は、俺が一番よく知っている。

 

「ゼロ、この機体にフォトンフィールドは展開されてるか?」

『標準ではトーリスリッター基準で十二枚。場合によっては出力を傾ける』

「いや、良いよ。それなら耐えられる」

 

 フォトンフィールドとは、魔導炉のエネルギーを物質化して、その粒子を電磁フィールドを用いてバリアのように展開した物だ。魔導光線、つまりは魔導機鎧(アサルトフレーム)の兵装の大半に用いられている物を偏光させる事ができ、物理的な衝撃もある程度は無効化できる。

 トーリスリッターのフォトンフィールド出力は現時点で最高峰。それが十二枚もあればクレイドルの防護バリアに匹敵する防御力を発揮する。

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「悪いが退いてもらうよ、アルビレオ!」

 

 パルスライフルで牽制しつつ、意識をこちらに引き寄せる。向こうはまだ上空の閃光に気付いてはいない。

 あれが着弾するのは数秒後。そして、それまでそこに居させれば良い。

 接近しつつ右手の人差し指へ力を込める。チャージされた固形エネルギーが、光の奔流として空間へ駆け出していく。

 あのキャノンの射程距離ならクレイドルに誤射する事は心配しなくて良い。そして、アルビレオをここに縫い止めておく事だってできる。

 

『レーザーバズーカ、充填確認。三点式が二発』

「撃たせる前に決まるさ」

 

 左右に銃身を振りつつレーザーキャノンを撃つ。最低限の回避行動を取らせることで、着弾地点に誘導させる。充填された分を撃ち切れば、今度はパルスライフルを直撃させる。

 アルビレオは攻撃特化の機体特性を持っている為、フォトンフィールドには重きを置いていない。パルスライフルの攻撃でも魔導炉に当たれば致命打となるのだ。

 そして狙い通り、アルビレオは防御姿勢を見せた。何せ回避が間に合う距離ではない。そして、その隙は次の瞬間に決定的な物となる。

 

「……悪いな。これは最初から、一対一の戦いなんかじゃなかったんだ」

 

 高度一万メートルのクレイドル、その直下のここから遙か上空。

 具体的な高度にして五十万メートル、地球大気圏内での限界高度から放たれた閃光。俺がよく見知っている、上級種の怪異すらも一撃で撃破する最新の光線系兵装。

 対怪異充填式臨界魔導光線射出兵器、ラディアントマグナム。トーリスリッターの主兵装だ。

 

「これで退いてくれると助かるんだが」

 

 過剰火力とすら言えるその光線は、アルビレオの左肩に直撃した。

 状態としては半壊、これで退いてくれないと困るんだけど。

 

『……これは偵察に近い。この機体が万全である事を悟ったなら、諦める筈』

「らしいな。流石はアルビレオ、本気の速度はこっちが捕捉できないレベルか」

 

 両翼を広げた機体は、FCSの表記がぼやけてしまう程の高速度で戦域から離脱していく。これでこの戦闘は終わりだと思いたいけど。

 

「ゼロ、これで良かったか?」

『これ以上は望めない程の戦果。……陽彩は最高の契約者(テスタメンタ)

「そう言ってもらえるなら嬉しいよ。しかし無傷でアルビレオを撃退、か。少し前の俺には信じられないな」

 

 俺の契約者としての能力は実際低い。トーリスリッターとの適合率はそこまで高くないし、かと言ってそれを補える技量も無い。単に勘が良いだけだ。それと幸運も味方している。

 どうせなら調べてみよう。ステータスから適合率を測れる筈だ。

 この機体との適合率も……ああ、あまり高いとは言えないな。端数切り上げでも67%か。

 

「……ん?」

 

 ふと、流れで機体のステータスチェックをしていた時に、何かが引っ掛かった。

 その直前から、もう一度一つずつ見直していく。

 

「…………は?」

 

 そして、その違和感は形になった。

 この機体の設計。中核と呼べる心臓部。

 既存のどれとも規格の違う、縮退魔導炉が入っている。

 それも、三つだ。

 

『陽彩?』

「ゼロ……この機体は、何なんだ……?」

 

 しかもおぞましい事に、全てが直列に繋がっているしている。

 アルビレオの魔導炉は単に二つ搭載しているだけ。トーリスリッターのジェミニシステムは二つを繋げて稼働させている。これが現行の最新鋭技術の筈だ。

 しかし、この機体は更に上を行く。三つの魔導炉を連結させるという荒業、そしてそれを当然のように制御している。

 

 数年前に、三つ以上の魔導炉を繋げる実験がクレイドル06で行われた。その際の結果は失敗、東南地区の三割が崩壊し、大量の怪異が06に侵入した。

 実はあの実験があったからこそ俺は契約者となったのだが、まあそれは良い。

 言いたい事はただ一点。この機体は、現行最新のトーリスリッターすら凌駕する機能を隠している、という事だ。

 

『……それも、機密。私は陽彩の事を信じているけれど、その機体を世に出すわけにはいかない』

「そんなに大事な物なのか」

『……うん。絶対に、誰の手にも渡ってはいけない』

 

 これ程までの技術革新を(もたら)すような機体ならば、クレイドルで共有した方が人の為になると思うのだけど。

 でも、ゼロがそう言うならきっと利点だけじゃないんだろう。どこかに落とし穴があるのは、人が作った物の定めだ。

 

「それなら良いか。深くは────」

『熾天使』

「────え?」

『いいえ。陽彩、ここから直接家まで送る』

「あ、ああ。解った」

 

 今、一体ゼロは何を言ったのか……熾天使、というと……。

 ……セラフ?

 いや、まさか。

 

『…………陽彩』

「ん?何かな、ゼロ」

 

 空間転移に備えて目を閉じると、彼女は思い出したように俺の名前を呼んだ。

 何の用事かと聞き返すも、暫く無言が続いた。

 そのどちらからとも言えない沈黙を不意に破ると、思い切ったようにゼロは口を開いた。

 

『いつもありがとう』

「へ?」

 

 平時の抑揚が薄い声ではなく、人間味のあるゼロらしくない声。

 それに驚く間もなく、俺は白い光に包まれたのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 アルビレオとの突発的な戦闘から数日、俺は今日も契約者としての使命を果たしている。

 現在の座標はクレイドル07とクレイドル06の間、輸送部隊の護衛中だ。

 そもそも契約者(テスタメンタ)の仕事なんてこんな地味な事ばかり。怪異との戦いのように派手な物は、一号機から三号機が大半を片付けている。

 最初期の三機はそれこそ別格の戦闘能力を誇る。一号機のラプラスなんてその最たる例だ。

 

『トーリスリッター、こちらチームリーダーだ、応答してくれ』

「ん……?こちらトーリスリッター、何かありましたか?」

 

 唐突に静寂を切り裂いた声に、俺は通信を立ち上げた。

 何だろう、所属不明の機体でも見つけたのだろうか。

 

『ああいや、お客さんが心配性でね。少し先の方を見てきてくれないか?』

「ああ、了解です。そっちはそのままの速度でお願いしますね」

 

 申し訳無さが混じった声音に、少し笑いつつ答える。別にそれくらいなら問題無いと言うのに。

 よくある事だ。輸送部隊に誰かが乗っている場合などには特に。何も無い大空、いつどこから怪異が来るか解らないというのは精神的に来る物がある。

 契約者や適性持ちであれば何となく解るものだけど、同乗しているのは一般人なんだろうな。

 

「リタ、聞いたな?」

『はいっ。装甲、展開します』

 

 一定速度で飛ぶ為に巡航モードにしていた機体を変形、少し翼に力を込める。

 視界が広がるような感覚と同時、一気に輸送部隊の航空機を追い抜いていく。

 

「レーダー広げて。前方、広範囲に」

『……と言っても、雲一つありませんよ。今日は気持ちの良い晴れみたいです』

「だな。雲で思い出したけど、明後日は雨かもしれないってさ」

『雨、ですか?傘の準備をしなければなりませんね』

 

 この高度一万メートルを誇るクレイドルにも、雨が降る事はある。

 因みに俺の先祖が暮らしていた、地上の極東と呼ばれる地域では、毎年一定の時期に大量の雨が降っていたらしい。迷惑な事だが、よくそんな地域で生活できたものだ。

 とは言え雨が降らないと水が手に入らない。一応は核融合による物質変換で賄えるらしいが、なんか違う物を消費してそうに思う。

 因みに普段は雨か雲そのものを取り込んで水にしているとか。実際の所はゼロに聞けば解るはず。

 

『……あ、主様。北西、クレイドル05の方向から魔導機鎧の反応です』

「距離は?」

『およそ二千、軌道は交差しません』

桜花(おうか)の奴かな。放っておこう」

『はい、了解しました』

 

 でも一応は上に報告しておこう。オペレーターの仕事も減るだろうし。

 

「オペレーター、聞こえる?北西二千キロ、たぶんアーセナルだと思うけど、魔導機鎧(アサルトフレーム)が居る。記録しといて」

『……私達の仕事を奪うのは程々にしてください、トーリスリッター。こちらで記録しておきます、貴機はそのまま護衛任務を続行してください』

「了解」

 

 なんか怒られたけど俺は悪い事してない。とりあえず所定の位置に戻ろうか。

 

「輸送部隊、こちらトーリスリッター。応答してください」

『こちらチームリーダーだ。何か発見したか?』

「いいえ、何も。そのまま安心して飛行を続けてください。少なくともこのルートの先には何も居ません」

『そいつは助かる。ありがとうな』

 

 ま、それが仕事だから。安心して頼ってほしい。

 

 さて、そうなると暇になる。いや、任務で暇とか言っちゃいけないんだろうけど、退屈な物は退屈だ。

 せめて協同なら……とは思うけど、輸送部隊の護衛に魔導機鎧(アサルトフレーム)を複数投入するのは過剰戦力か。なら仕方無い。

 

『退屈なのでしたらわたしが話し相手でも務めましょうか。提供できる話題も少ないのですが……』

 

 俺の様子に気が付いたリタが、気を利かせて声を掛けてくれた。

 折角なので、その厚意に甘える事にする。

 

「そうだな……あ、そうだ。リタ、今日の昼は?」

『特に決まっていませんが、何か食べたい物はありますか?』

 

 これまでのリタの作ってきた物を思い返してみる。

 そこから、また食べてみたいと思うのは……。

 

 ……全部。

 いや、本当に全部美味しかったから仕方無い。今家にある物でできそうな物は……。

 

「それならロールキャベツが良いな。頼める?」

『はい、お任せください。楽しみにしていてくださいね、主様』

 

 リタの料理は基本的に美味しい。今まで俺の口に合わないという事が無かった。

 なので、実を言うと献立は何でも良い。何が出てもたぶん食べる。けど、作る側としては何でも良いというのは最低の意見である。それが一番困る。

 という訳で、無難な物を選別した次第だ。

 

「それはそうと、今何時くらい?任務が始まってからだいぶ経ったと思うけど」

 

 ふと気になった事を尋ねる。現在時刻によっては昼御飯の時間がずれ込むかもしれない。

 

『ええと……十時過ぎですね。この調子で進むなら十一時半には終わりそうです』

 

 それなら大丈夫そうだ。多少のアクシデントがあっても、十二時には間に合う。

 

「昼までには間に合うな。よし、久しぶりに桜花とアリサも誘ってご飯にするか」

『良いですね。わたしも姉さんと少し話したい事がありますし、賛成です』

 

 因みに俺やアリサが姫様と呼ぶグレイエンプレスにはトーリスリッターと同じく統制人格があるが、それ以前の機体には無い。そもそも、統制が必要な機能がある訳でもないし。

 例えばアーセナルはその名の通り武器庫が如く大量の武器を所有しているが、そのインターフェースは至って単純な物だ。契約者(テスタメンタ)の桜花が言うには「旧世代のゲーム機みたい」だとか。寧ろ何故に旧世代のゲーム機の感触を知っているのか問い詰めたいが、まあ置いておく。

 

「っと、相対速度落ちてるな。合わせ────」

『トーリスリッター!奇襲です、戦闘形態へ移行してください!』

「────ぇ?」

『……っ!主様、フォトンフィールドを展開します!』

 

 何かを感じた時にはもう遅く、俺の視界には謎の光が迫っていた。体を輸送航空機の前に滑り込ませて、その光を受け止める。

 辛うじてフォトンフィールドの展開が間に合い、俺とトーリスリッターへのダメージは抑えた。実質無傷だ。

 

「どこから!」

『南西三千キロ!怪異です!』

「人が平和を謳歌してる時に限って……!」

『装甲開きます!加速に備えて、主様!』

 

 念の為に持っていたラディアントマグナムで応戦し、フォトンライフルを実体化させる。

 牽制弾をバラ撒きつつ、輸送部隊に通信を入れる。

 

「輸送部隊、聞こえますか!南西三千キロから怪異による奇襲を確認しました!できる限りの速度で離脱してください!」

『なっ、何だと!?この輸送部隊は安全だと言っていただろう!それが何故こんな────がっ!?』

『馬鹿野郎、通信に割り込むんじゃねぇよド素人!悪いなトーリスリッター、積んでる荷物もあってあまり速度は出せねぇんだ!』

「了解、俺が全力で守ります!……リタ、行くよ!」

 

 通信を切断、向こうは向こうで大変らしい。

 漸くレーダーに映り込んできた敵影は八。上級種が二体で下級種が六だ。ここは安全を取って最速で片付けよう。

 最新の魔導機鎧(アサルトフレーム)の力、見せてやろうじゃないか。

 

『ラディアントマグナム、撃てます』

「──ッ!」

 

 異様に重い引き金を精一杯に引き絞り、高出力の光線を銃口から弾き出す。

 何もかもを喰らい尽くす勢いを保ったままの光は、そのまま上級種を一体消し飛ばした。

 

『撃破確認、残り一と六です』

「供給をマグナムの方に優先して、リロードは一秒で頼む」

『了解です』

 

 エネルギーを偏らせる。その分フォトンライフルのリロードは遅れるが、元々かなり早いから気にしない。

 リロード前のライフルで存分に弾幕を張ってから、上級種に向けて右の引き金を引く。

 

『二体目の撃破確認、残り下級種が六です』

「纏めてやろう。マグナムの射撃設定を変更」

『照射モード、起動します』

 

 左手からフォトンライフルを手放すと、光の粒子となって背中に格納される。

 それで空いた手を使ってラディアントマグナムをしっかりと持ち、落ち着いて狙いを付ける。

 幾分か軽くなった引き金を引くと、普段よりも幾分か細い光線が撃ち出された。

 それを薙ぎ払うように横へ水平移動させていき、ゆっくりと下級種を焼き尽くしていく。殲滅まで、然程時間は掛からなかった。

 

「……オペレーター、クレイドル02方面の索敵を。もしかしたら、増援がくるかもしれない」

『了解』

 

 一応の確認をしておく。迷わずそうするくらいには、何だか嫌な予感がした。

 手短な返事の後、少し切羽詰まったような声が聞こえた。

 

『そちらの予想通りです。怪異反応多数、トーリスリッター単機では厳しいかと』

「……いや、単機じゃないさ」

『……?ですが、周囲に魔導機鎧(アサルトフレーム)の反応はありません』

「これからの話だよ。一回通信を切る。観測は続けて」

『トーリスリッター?待って、話を────』

 

 悪いけど切断。ここから彼女に繋げるには、少し手間が要るのだ。

 

「リタ、何か来たら教えてくれ」

『解ってます。監視を続けますね』

 

 頼れる相棒も居る事だし、俺は安心してこちらの作業に専念できる。

 さて、問題はクレイドル06の管理者が人道的な連中かどうか。せめて、受けた恩を返す程度の働きは期待しておきたいけど。

 

『……陽彩、なに?』

「突然悪いな、ゼロ。時間大丈夫か?」

『問題無い。……君の為ならいつだって』

「なんて?」

『何も。それで、何を?』

 

 何か言っていたような気がしたが、空耳だろうか。ゼロはたまに小声で何かを呟くのだが、それを聞き逃すと教えてくれたりはしない。毎度何を言っているのだろうか。

 

「えっと、クレイドル06に繋いでほしいんだ。できればグレイエンプレスに直接」

『急用?』

「ああ。一番近いのがあそこなんだ。駄目なら05を」

『待って。……グレイエンプレス、中継する』

 

 早いな。流石はゼロだ。

 さて、アリサは恐らく俺に協力するだろうが、しかしそれだけでは足りない。問題は姫様の方である。

 今、向こうが暇してるのは解っている。その上で、きっと姫様は俺に力を貸すのを渋る。彼女が正当に納得できる、或いは正しい理由が無いと協力は得られない。

 

『……こんな時間に何です、ヒイロ』

「こんにちは姫様。要件は一つだ。貴女の力を貸してほしい」

 

 回りくどい事をしても彼女の機嫌を損ねるだけなので、素直に単刀直入にいく。

 さて、俺に彼女を説き伏せられるかな。

 

『ほう?理由を聞きましょう』

「現状は説明するまでも無いと思うけど、俺は今輸送部隊の護衛に付いてる。それが、一人じゃ対応できないくらいの怪異に襲われそうなんだ」

 

 現状を簡潔に説明すれば、姫様はすぐに返事を返してくる。まだ否定的だ。

 

『トーリスリッターの力を過小評価するのですか?』

「いいや、高めに見積もっても輸送部隊を守り切れるとは思えない。俺一人ならどうにでもできるけど、誰かを守るのは案外難しい物だから」

 

 そもそも俺は誰かを守るのが苦手だ。クレイドルなんて大き過ぎる物なら解り易くて良いが、航空機なぞ小さい物は纏めて撃ち抜きそうで怖い。しかもかなり足が遅いのだ。回避行動が取れないなんて、できるなら戦闘空域に入れたくない。

 

「誰かを守る戦いは貴女の方が得意な筈だ。民草を守るのはお姫様の役目なんでしょ?」

『確かに。それは認めましょう。ですがそれは騎士の領分でもあるのではなくて?』

「うぐ……それは全くその通りなんだけど……」

 

 やっぱり俺は交渉が下手らしい。でも今はそれを言い訳にしていられる場合でもない。

 

『守るべき者も守れずして、騎士の名は名乗れないでしょう?』

「確かにその通りだ。俺の力不足は認める。だけど姫様、頼む」

 

 俺は力不足で、それは否めない。本当なら姫様に騎士なんて呼んでもらう資格も無い事は自覚している。

 でも、今回ばかりは俺だけの問題じゃないんだ。

 守るべき者、姫様がそう言った人達が居る。俺一人の名誉と引き換えなら、上等な部類だ。

 

「後でなら何だって埋め合わせもする。俺の為じゃなくて、あの人達の為に。……姫様の力を、貸してほしい」

『…………はぁ』

 

 返されたのは溜め息一つ。

 ……駄目、だったか。

 

『やはりヒイロは馬鹿ですね』

「え?」

『馬鹿だと言っているのですよ、鳥頭。わたしに二度言わせなければいけない程に脳が貧弱なのですか?』

「辛辣……」

 

 最近の姫様は切れ味どんどん増してる。この調子でいくといつか言葉だけで斬られそうだ。

 

『間抜けにも程があります。お前が言う言葉は一つで良いのですよ』

「……?」

『「非力で無力な騎士にお情けを、女王様」……復唱なさい』

「──────」

 

 何と言うか……この……。

 姫様、声震えてるんだけど。恥ずかしいのなら辞めておけば良いのに。

 

「……非力で無力な騎士にお情けを、姫様」

 

 でも言う。しかし意地でも女王様とは呼ばない。そんな事したら後で殺される。

 

 ……でも、そうか。そうだな。

 やっぱり姫様は優しいな。

 

『ふふ。合格なのですよ、ヒイロ。……アリサ、ただ働きの時間です』

『うん、姫様。陽彩、今行くからね!』

 

 これで憂いは無くなった。それに、怪異が来るまでまだ時間はある。

 まずは落ち着こう。大丈夫、姫様とアリサが来てくれるなら負ける事なんてありえない。

 

『……陽彩』

「ゼロ?」

 

 深呼吸を繰り返していると、不意に声が聞こえた。

 リタはまだ何も言ってこない。雑談の時間くらいならあるか。

 

『……いいえ。力になれなくて、ごめんなさい』

「何言ってるのさ。ゼロが居なかったらアリサと姫様を呼べなかった。ここで積んでたよ」

 

 トーリスリッターの通信は母港であるクレイドル07にしか届かないし。それを中継してくれるゼロが居なかったら、助けを呼ぶ事もできなかった。

 

『……でも、直接の手助けは何も』

「それで良いんだよ」

 

 直接の手助けは、と言うけど。そんな事も無いと思う。

 ゼロの声は、聞いているだけでこんなにも心が安らいでいくんだから。

 

「今更な話だけどさ。一人くらい守られてくれる人が居ないと、騎士にも格好が付かないだろ?だから、それで良い」

『……解った。気を付けて、陽彩』

 

 ……これは勝手な予想だが。

 ゼロはもしかしたら、俺やアリサを遥かに上回る戦闘能力を有しているのかもしれない。たまに見せる表情は、間違いなく戦う人間のそれだった。

 そうだとして、何故彼女が直接戦闘に出ないのか。

 隠されていたあの機体を、ゼロは自分で動かしはしなかった。俺に契約者(テスタメンタ)としての役目を果たさせる事でアルビレオを撃退させた。

 つまり彼女は魔導機鎧(アサルトフレーム)に適性が無い、或いは何らかの理由で魔導機鎧を稼働させる事ができない、と言う事。更に彼女はあの場に居なかった。にも関わらず、俺と通信をしていた。ゼロの部屋は全ての通信が遮断される仕様になっているのに、だ。

 そしてセラフ、熾天使という名前。零号機と呼ばれたそれを語る時の彼女の表情。

 俺の予想と妄想が現実に準拠しているのならば。

 それ即ち、彼女は────

 

『主様!怪異が来ます、長射程型は少なくとも十四!』

 

 思考を中断、脳内の妄言を途絶させて意識を現実に引き戻す。

 ゼロが何者なのか、それは確かに気になるが、かと言ってどうしても知りたいという訳ではない。究極論、彼女が人類の大敵だとか言われても俺は気にしない。

 今はそんな事よりも、目の前の敵に集中するべきだ。

 

「団体様のご来店だな……あれくらいなら届くか」

 

 視認できる限界近くの距離に、大量の怪異が見える。空の一帯が怪異特有の作り物のような白で染められている。まるで雲のようだ。

 レーダーを一部埋め尽くす程の量だが、これから俺には最強の援軍が来てくれる。多ければ多い程、姫様の活躍の場も増えるだろう。

 さて、騎士らしくお膳立てはしないと。いや、露払いの方が正しいのか?

 

『……こちらでも確認しました。ヒイロ、合わせなさい』

「了解、姫様。火力だけなら任せて」

 

 ラディアントマグナムを構え、フォトンライフルを実体化させる。どちらも手早くリロードを済ませておく。

 そうして準備を終わらせると、視界に剣が滑り込んでくる。

 

『配置は済ませました。撃ちなさい、ヒイロ』

『照準はこっちで合わせるよ、陽彩。気にせず撃って』

「ありがとう、二人共。……リタ」

『魔導炉のエネルギー、八割を腕部に供給します。移動速度が落ちます、気を付けてくださいね』

 

 移動なんてする必要は無い。撃てば後は姫様とアリサが全て解決してくれる。

 目の前には五つの剣。全て妙な方向に切っ先を向けている。

 鏡のように磨かれて景色を反射する刀身に、大空とトーリスリッターの姿が映っていた。

 

 この剣は姫様の武器で、ソードサーヴァントと呼ばれている。自律行動が可能で、本来なら多数の敵を単騎で殲滅する為の兵装だ。だが刀身の材質により、光線系の攻撃を増幅、反射できる。

 つまり、そこにラディアントマグナムを照射すれば、大量破壊兵器の完成という訳だ。

 

『フォトンライフルの残弾はマガジン一つ分だけです。接近してくる敵には注意してください』

「解ってる。……行くぞ」

 

 剣に照準を合わせ、かなり軽くなっている引き金を引いた。撃鉄は問題無く叩き起こされて、充填されたエネルギーは弾き出される。

 照射された光の奔流が、引き寄せられるように剣に直撃する。

 そして、空に幾重もの魔導光線が奔った。




以上、第二話でした。
前回に引き続き初投稿(大嘘)なのでお見苦しい部分も以下略。
相変わらず描写も下手だし説明不足だしぶつ切りだし。せめて誤字脱字くらいは取り除いていきたいと思ってます。

UAが増える度に少しずつモチベーションが上がってます。まだまだ未熟な物書きで、駄文と拙作しか作れないのですが。
もし良ければ時間が空いた時にでも読んで頂ければ幸いです。それで誰かの暇を潰せたのならそれこそ僥倖。

そんな思いも新たに第三話の執筆を頑張ります。

予定通りなら次の週末にお会いしましょう。
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