虚空を翔ける鋼の騎士   作:匿名希望

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そろそろ前書きのネタが足りなくなりつつあるので四回目の初投稿です。
注意喚起は省略します。

今話から一気に厨二病的なアトモスフィアがクロックアップします。それでも良いと言ってくれる人はこのままスクロールしてください。
それが嫌な方はブラウザバックしてからもう一度ご覧頂きたく存じます。

さて、適当に注意喚起も終わった所で。
第四話、始めさせて頂きます。


第四話

 何もかもを埋め尽くした光は、爆発の直後に消え去った。

 咄嗟に隣を見るが、ラプラスは無事だったようだ。恐らくはその中に居るオーリスも。

 どうやらフォトンフィールドを広げておいて正解だったらしい。

 

「……目がチカチカする……。オーリス、無事か?」

『うぅ……こっちも大丈夫……ちょっと眩むけど』

 

 どうやらあの光、単に眩しいだけでなく、ジャミングの性質も持ち合わせていたらしい。トーリスリッターのレーダーなど、感知システムが軒並み全滅している。

 至近距離だからラプラスとの会話は可能だったが、クレイドルへの通信は暫く途絶えたと考えて良いだろう。

 

『主様、今の爆発はラウムシュトゥンデの仕様ではありません』

「それは流石に俺でも解るよ」

『そうではなく。あれは他者の介入がありました』

 

 ……他者の介入、か。

 

「また04の連中か……?」

『いえ、クレイドルとは技術系統が違います。怪しいのは件の(ファントム)、そもそも空間歪曲の技術は向こうから手に入った物ですから』

「トラップを仕掛けるのは容易い、と」

『そういう事です』

 

 例の謎の機体を手に入れようとしていたクレイドル04でもないとなれば、俺には何の予想も付かない。

 いや、客観的に見ればあの機体を所有していたゼロが一番怪しいのだが。俺としては、彼女を疑いたくは無い。

 

『……ある程度は絞り込めそう……ん?なに、ラプラス』

『Buster Blaze,Reloaded』

『……準備って事ね。陽彩、気を付けて。まだ何か来るよ』

 

 ラプラスが警戒するような事象……と、なると。

 俺には何もできない次元の話ではないのだろうか。

 いや、オーリス一人に戦わせるというつもりは断じて無いが。

 

「……この、感じ。何だろう……あの、機体……?」

 

 ゼロが俺を乗せた例の機体。

 あれと似たような感覚を空の彼方から感じた。

 その方角は……クレイドル04。

 

『機体の機能は依然として回復していません。主様の感覚だけが頼りです、どうかご武運を』

「大丈夫、ある程度はやれるさ」

『……不甲斐無いわたしで、ごめんなさい……』

「そうは思わないけどな。寧ろ俺の方が未熟で申し訳無いよ」

 

 別にリタは悪くないだろうに。

 悪いのは未完成の試験兵器を押し付けてきた連中であり、彼女が気に悩む事は何一つとして有りはしない。

 

「不毛な話は辞めにしよう。ラウムシュトゥンデ、戻しておいてくれ」

『はい。フォトンライフル、展開します』

 

 左腕を飲み込んでいた巨大な砲塔を箱のような形に戻し、背中に背負う。重量による機動力の低下は、ラウムシュトゥンデそのものを追加の推進力として使う事で補う。

 空いた左手には馴染んだフォトンライフルを持ち、しっかりとリロードさせておく。魔導炉のエネルギーはまた両腕に均等に流し、ラディアントマグナムのエネルギーは一発ずつ小分けにする。

 

『……怪異じゃない、この感じは……?』

「オーリス?」

『────避けて!』

「っ……!」

 

 弾かれたように飛び退るラプラスに従い、その反対側へ向けて翼を羽撃(はばた)かせる。

 ついこの瞬間、先程まで居た場所に、漆黒の風が吹き荒れた。

 

「────へぇ。避けるだなんてやるじゃないか、新参」

 

 その声は背後から聞こえてきた。

 確かに風を追い掛けて、その方向へと銃を向けていた筈なのに。

 その声は、俺達の背後から響いたのだ。

 

「ま、今のは単なる挨拶だけどね。だからそーやって睨むな、キミ達を落とすつもりは無いよ」

「……お前は、誰だ」

 

 声は女だが。

 魔導機鎧ともまた違う、パワードスーツのような物に身を包んでいる。性別は外からじゃ解らない。

 色は黒。黒曜の光沢は、どこか怪異とは対になっているように見える。

 

「うん?そうだなぁ……名乗る名前は無い、なぁんて格好良く決めてみるのも一興かな?」

 

 言動こそ遊びが見えるが、その立ち居振る舞いに隙は無い。強者の空気を感じる。

 

()()()てると撃つぞ」

「わぁ怖い恐い。か弱い女の子にそんなモノ向けないでよ」

 

 一応はラディアントマグナムを向けておくが、まるで当てられるとは思えない。

 そう感じるまでに、俺達には実力の差が開いている。

 

「解った解った、素直に名乗るよ。(わたし)は《魔神(アンリミテッド)序列第八位(エイト)、《暗影愚弄凶手(ザ・ハントレス)》。個人名として名乗るのなら、バルバトス」

 

 魔神(アンリミテッド)……?

 待て、よ。その名前は、どこかで……。

 

「……っと、あまりお喋りもしていられないな。キミ達が言う所の……怪異(ホロウヘイズ)だっけか?たぶん来るよ。それもたくさん」

「────っ、オーリス、どうする。こいつ、沈められるか?」

『君の手前、格好付けたい所だけど……良くて相討ち。勝つ事はかなり難しいよ』

「だから敵対しようとしてる訳じゃないってば……」

 

 それなら行動が矛盾している。

 どこを信じようとも、こいつの言動は矛盾する。

 

「最初に奇襲を掛けて来た奴を信用できるとでも?」

「いや、それは……困ったな。正論過ぎて何も言えない」

 

 こいつもしかして阿呆なんじゃなかろうか。

 

『陽彩、無理に落とす必要は無いよ。最悪、他の魔導機鎧(アサルトフレーム)を呼べればそれで』

 

 オーリスはそう言うが、こいつ──バルバトス自身がそれに反論した。

 

「あのでっかいの……えっと、クレイドルだっけ?あれの防衛を減らすのは良くないよ」

『────へぇ?わたしとしては、貴女は幹部クラスの者に見えるけれど。それが出張っているなら、ここに戦力を集中して各個撃破するのは愚策ではない筈よ?』

 

 確かにそうだ。これだけの戦力を出してきたなら、それを速攻で沈めるのは決して悪い手とは思えない。

 少なくともこいつを信用するよりは、そっちの方が取りやすい手だ。

 

「幹部クラス、というのは間違っていないけれど……それはあまり良くないと思うなぁ」

『まさか他にも来てるっての?』

「いや、来たのは(わたし)一人だけどさ。あと九人居るよ、(わたし)レベルの奴」

 

 ……は?

 人類最強のラプラス=オーリスを以てして引き分けが限界の奴等が、十人?

 ちょっと待て、それは余りにも────

 

『出鱈目、と決め付けたいけれど……嘘の色は見えないか。それじゃあ貴女は何をしに来たの?』

「挨拶だって言ってるじゃないか。まあ、(わたし)を入れて十人と言っても大半が無能だけどね」

 

 そうだとしても。

 それはつまり、このバルバトスと名乗った奴と同じレベルの存在が複数居る事に他ならない。

 少なくとも現存する人類の戦力でどうにかできる相手ではない。

 

「だから、とりあえずまずは話を聞いてほしいかな。もういきなり襲ったりなんかしないからさ」

 

 オーリスと顔を見合わせて、再び考えてみる。

 現状、こいつが嘘を吐く理由は無い。だから、信用してやらないという理由も無いのだが。

 

『信用する理由も無いんだよね……。どうする、陽彩?わたしは君に任せるよ』

「俺がお前に任せたい所なんだけど……いや、うん。今は信じてみる。話くらいは聞いてみよう」

『解った。……バルバトス、話はここでもできる筈よね』

「流石に初対面の相手の家まで上がり込もうなんて思っちゃいないさ。でも、できれば落ち着ける場所が良いな」

 

 確かに俺も地に足が付かない状態では落ち着いて話もできない気がする。まあクレイドルも大地から浮いてるから何にせよ地に足は付かないのだが。

 

「それに……(わたし)以外にも呼ばれていない客が来たみたいだ。少し待っていて、(わたし)が片付けよう」

 

 その場で身を翻すと、バルバトスはその手に巨大な剣のような物を取り出した。

 何処からか現れたその大剣だが、それは刃物というより鈍器と言った方が正しいように思えた。

 

「これでキミ達からの信用を少しでも得られると良いけど」

 

 ぼやくように呟くと、バルバトスはその大剣を両手で握り締める。

 半身の構えで大剣を前に向けると、切っ先の方角には既に怪異が居た。

 

「……オーリス」

『様子を見よう。バルバトスが何かするつもりなら……その時はわたしがどうにかする』

 

 決意を漲らせるオーリスの様子に、こちらも戦闘態勢を整えておく。

 ラディアントマグナムを構えて、フォトンライフルの残弾を確認する。先程リロードしたのもあり、戦闘にも耐えられるだろう。

 

『共倒れしてくれるならそれこそ僥倖、だけど……』

「そうはいかないと思うよ。お前の方が解ってるだろ、それは」

『……うん。陽彩、君は絶対にわたしが守るよ』

 

 俺も男なんだけどな……。

 だけど、実力差を考えるのなら俺が守ってもらう側になるのは致し方無い。実に無念な話だが。

 

「さて、と。お片付けの時間だね。一分で終わらせてみせよう」

 

 バルバトスは大剣を構えたままの姿勢で、空を一歩蹴り出した。

 何もない虚空に何を以てして浮かんでいるのかは解らないが、恐らくは怪異と同様で反重力の力場でも使えるのだろう。

 

 踏み込んだ速度を全て威力に変換するように、彼女は大剣を振り下ろす。その速度は俺には視認すら難しかった。オーリスには見えているのかもしれないが、少なくとも俺は魔導機鎧(アサルトフレーム)の眼を通しても見えなかった。

 

「ふ、っ!」

 

 軽い声と共に再び薙ぎ払われる大剣。今度は少しだけ、それこそ軌跡だけが見えた。

 銀色の剣閃は美しく、残酷なまでに俺と彼女の実力差をはっきりと映し出していた。

 

「お気に召す事を願うんだけどね────!」

 

 余裕を持って大剣を振るうと、巡る大気に巻き込まれた怪異達が吹き飛ばされていく。ご丁寧に、その中心部は正確に抉り抜かれている。

 

『……強い。想像以上に』

「まったくキリが無いなぁ……」

 

 オーリスの震えた声は聞こえていないらしく、バルバトスは再び大剣を半身に構えた。

 三割程数を減らした怪異が、懲りもせずにまた彼女へ襲い掛かる。

 

「まぁ、雑魚が幾ら雁首揃えようと負けたりなんかしないけれど、ね!」

 

 複数の怪異を纏めて消し飛ばし、その慣性をも利用して次の行動へと移る。

 一切の無駄なく効率的に敵を倒し続ける彼女の姿は、どこか舞い踊る天使のようにすら見えた。

 

 その蹂躙の演舞が続く事、一分。

 宣言通りに一分で全ての怪異を片付けて見せた彼女は、半身の構えを解いて大剣を消し去った。

 

「────っと、これで最後かな」

 

 かと思えば、一つ取り残していたらしい。

 そちらへ再度手に取った大剣を投げつけると、漸く息をついた。

 

『…………』

「な─────」

「どうだったかな?とりあえずはクレイドルを守ったって事で、少しは信じてほしいんだけど」

 

 その言葉は事実であり、実際の所クレイドルの方向には一度も攻撃をしていない。終始、揺り籠を背負うようにして戦っていた。

 それに、あの戦い方。迷いは見えなかった。

 

「……あの剣に悪意は無かったように思う。オーリス、どう?」

『同感かな。どの道、こっちには向こうに対抗するだけの力が無い。無駄に時間を掛けるだけ無意味だと思うよ』

「良かった、一先ずは話を聞いてもらえそうだね」

 

 と、なれば。

 残る問題はどこにこいつを連れて行くか、なのだが。

 

「良さそうな場所はある?」

『いや、無いかな。01はどこも基本的に監視されてるから』

「じゃあ07の方に行くか。他には知らないし」

『そっちは監視の目が無い場所もあるんだね』

「それなりにはな」

 

 ゼロが放任主義なのもあるが、クレイドル07はまだ完成して間も無いという事が大きいだろう。何せ、俺が生まれてから着工されたのだから。

 形になったのは大体三年前か。確か、クレイドル06で魔導炉実験があったのと同じ年だったと記憶している。

 

「それじゃ、案内しよう。少し高度を下げるけど、雲海に突っ込まないようにな」

 

 クレイドルから少し下がると、そこは雲海が広がっている。

 たまに切れ間から大地が見える事もあるのだが、今日は生憎な事に雲は水平線まで広がっている。

 まあ、その事は良いとして。

 

 背中の翼を開くイメージを送ると、俺の意思を汲んだトーリスリッターが加速を始める。

 それにバルバトスが続き、そしてラプラスが後ろから追い掛けるという構図になった。

 恐らくだが、オーリスはバルバトスが何かをした瞬間に後ろから撃つつもりなのだろう。

 

 それに特に言う事は無い。そのまま俺は引き離さない程度の速度を保って、目的の場所へ向かった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ────ぼんやりとした夢が、不意に醒めた。

 どうやら目覚めの時、らしい。視界の端のプラチナブロンドが、不自然に輝いた。

 着慣れたゴシックロリィタの黒いドレスが、少しだけ億劫だった。

 気怠い感覚に抗って、握り締めた銃のグリップをもう一度握り直す。その引き金に掛けた指は、まだ迷っているらしい。

 

 この馬鹿げた夢を終わらせる為に。この指を引かせようと、誰かが言っている。

 

 ……いいや。

 誰か、なんて誤魔化すのは辞めにする。

 それは(かつ)ての同胞、友と呼び合った存在だろう。

 

「…………陽彩」

 

 気に掛かるのは、銃口を向けた先の少年。

 自分は彼に何も思う所は無かった筈だが、いつの間にやらこうして念頭に置く程度には認識しているらしい。

 

 だが、それも虚構には違いない。

 この器に彼から注がれた愛と信頼に報えるモノは、何一つとして持ち合わせてはいない。

 そんな自分が何かに対して執着する事など、万に一つも有り得ない。

 そう、とだけ認識しておけば良い。

 

「……………………ひい、ろ」

 

 それなのに。

 どうしてか、彼を裏切ろうとする自分に憤慨する意識が在る。

 その背中へ向けた銃口を見て、涙を流す自分が居る。

 

 ────理解、できない。

 

 引き金に掛けてしまった指は、引けない。

 その存在は世界にとって不利益なのに。

 自分程度の葛藤一つ、世界と比べるべくも無いのに。

 どうして、自分は悩んでいるのだろう。

 

「………………ごめん、なさい……陽彩」

 

 静かに銃を下ろす。

 今の自分には……いや。

 未来永劫、自分は彼を撃てない。

 この思考の中枢、魂とでも呼ぶべきその核に、一つの熱情がある限り。

 

「…………裏切ろうとして、ごめんなさい」

 

 自分はまだ、この熱情の名前を知らない。

 苦しくて、今にも息が止まりそうな程の想い。

 

 ふと、知識だけで実感が無く偏った思考が、恋という単語を吐き出した。

 

「………………いいえ」

 

 それを正しいと感じながらも、明確に否定する。

 自分が持つ事を許される感情ではない。

 ずっと裏切り続けたこの魔神には、些か眩し過ぎる。

 

「……そうじゃ、ない」

 

 自分の胸に手を当てて、心にそっと蓋をする。

 これで良い。自分は──

 

 ──わたしは、彼の子守唄を謡う存在であれば。

 

「…………ありがとう、陽彩」

 

 一匹の怪物を受け入れてくれた、一人の少年へ。

 飾らずに、一言だけ。

 その声が届かなくとも。

 その熱情が叶わなくとも。

 きっと、彼は笑ってくれるから。

 

「──やぁ。久しぶりだね、アンドロマリウス」

「……バルバトス」

 

 黒髪緋眼の少女が音も無く現れる。

 わたしがバルバトスと呼んだ彼女は、その手に大剣を携えていた。

 

「大戦以来かな、こうして人の形で会うのは。そのドレス似合ってるね」

「……陽彩が選んでくれた」

「あの子か……うん、それは良いね」

 

 思い出すようにどこかを見ていたバルバトスだが、ふとこちらの首に大剣を宛てがってきた。

 

「所で。キミの選択が世界にどんな影響を与えるか、解った上での行動かい?」

「……無論。一切、承知の上。認めないと言うのなら……」

「そうは言わないよ。ただ、何も考えずに行動しているようだったら一度殴らなきゃいけないからね」

 

 見定めるように目を合わせてきたが、暫くすると大剣を消し去った。

 実に嬉しそうな笑顔を浮かべて、彼女は言う。

 

「キミの選択(それ)を、(わたし)は祝うよ。心を解さない怪物が、等身大の心を手に入れた事を」

「バルバトス……」

 

 今、名前を変えて尚友として居てくれる数少ない相手。

 それがこうして祝ってくれる事が、わたしは素直に喜ばしかった。

 

「これからキミは魔神(アンリミテッド)ではなくなる。その権能は好きにすると良いけど、アンドロマリウスとしては名乗れなくなるかな」

 

 それは覚悟の上。何にせよ、アンドロマリウスの名前は役に立たないだろうし。

 何よりも、陽彩と同じ人間として生きていける事に比べれば、そんな名前は必要無い。

 

「……それは、統括局の判断?それとも君の考え?」

「どちらも、と言っておこう。ただ、空席を埋めるだけの余裕は無いから、戻りたい時には自由に戻れるよ」

「……きっと、無いけど。解った」

 

 この名前とはもう別れよう。

 もしもこれをまた名乗る時は、一度だけ。

 彼の助けになるのなら、わたしはまた魔神となろう。

 人の身で居たいと思うのは、単なるわたしの我が儘だ。魔神として彼の力になれる日が来るのなら、わたしは忌憚無くアンドロマリウスの権能を振るおう。

 

「そういえば、今の名前は何だい?マリーとか名乗ってるのかな?」

 

 唐突に話の流れを変えるように尋ねてきたバルバトスに、わたしは迷う事なく答える。

 陽彩がくれた、わたしの名前。誰に恥じる事も無い、わたしだけの名前。

 

「私は────」

 

 《魔神(アンリミテッド)序列七十二位(セブンスツー)永久死天限零(ジ・オービタル)

 そんな、重みの無い肩書なんかよりも。

 

「────わたしはゼロ。御童(ごどう)(ゼロ)

 

 何よりも好きな、自分自身。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 クレイドル07直下、そこから少し飛んでいくと、今は使われていない出撃ゲートがある。

 ここが完成するまでの間、俺は周辺空域の怪異(ホロウヘイズ)の掃討を主な仕事としていた。その際に使っていたゲートがここだ。

 

「へぇ……こんな場所があったんだね」

「01には無いのか?」

「文字通り何処も監視されてるよ」

 

 ここからクレイドル07周辺に出る時には素早い出撃が可能なのだが、生憎ここにはカタパルトが無い。遠くへ行く時や緊急を要する任務では使えないのだ。

 なので、ゲートとしての形は保っているものの、もうここに来る人間はそうそう居ない。

 

「息が詰まりそうな場所だなぁ。よくそんな場所で生活できるな、オーリスは」

「それが当たり前だって思ってるしね。慣れだよ、慣れ」

 

 肩を竦めて笑う銀髪の少女。

 不思議な色合いをしている金色の瞳は、こちらを真っ直ぐに見詰めている。

 

「えーと……それで、とりあえずここで良いのかな?」

「ああ、ここなら誰にも聞かれない。まあ呼べばすぐに来る連中は居るけど」

「それくらいで良いよ。まるっきり隔離された場所じゃおちおち話もできないからね」

 

 いきなり奇襲を掛けてきた存在だとは思えない程に穏やかな微笑みを浮かべると、こちらの目にしっかりと視線を合わせる。

 そうして、黒髪緋眼の少女(バルバトス)は話を始めた。

 

「それじゃあ最初に、なんだけど。そっちのキミ、陽彩くん、だったよね?」

「ああ、合ってる」

「良かった。えっとね、キミの方から(わたし)の知り合いの匂いがしたんだ。時に陽彩くん、プラチナブロンドの髪で、黒いドレスを着ていて、いつも拳銃を持ってるような人、知らないかな?」

「…………?」

 

 プラチナブロンドにドレスなら、ゼロが居るけど……。

 彼女が拳銃なんて持っている所は見た事が無い。たぶん人違いだろう。

 

「いや、知らない」

「…………そっか。じゃあ、良いや」

 

 何かに納得したような、それでいて安心したような、彼女はそんな表情をしていた。

 長い息を一つ吐き出すと、彼女はもう一つ尋ねてきた。

 

「話は変わるけど、キミ達は悪魔(デーモン)……いや、怪異(ホロウヘイズ)についてどれくらい知っている?」

「……単に敵としか」

「人類の敵。汚染された地上から生まれた、異常生命体。人に代わって今の地上に生きているであろう次世代の生物。これが今の人類の見解よ」

 

 ……何と言うのだろうか。何か違和感がある。

 俺と話す時と、バルバトスと話す時と……何処か、口調が違うような。

 まあ良いか。

 

「そっか、やっぱり人類の剣ともなればよく知ってるな。……ああいや、小難しい事を考えずにただ敵とだけ認識するのも悪くは無い。その方が話が早いしね」

「なんだ急にフォローなんかして」

 

 不意にこちらを見て、生徒を諭す教師のような表情をしたかと思えば、この妙なフォロー。

 バルバトスは何がしたいんだろうな。

 

「いや、ちょっとした好感度稼ぎ」

「今の素直な言動で少しだけ上がった」

「やったね」

「今の喜びで上がった分だけ下がった」

「えぇ……?」

 

 遊ぶの楽しいな、こいつ。

 まあいつまでも遊んでいると後ろのオーリスの笑顔が少しずつ怖くなっていくので程々にして、と。

 

「ま、まあ置いておくとして……。その見解はおおよそ当たっていると言って良い。今の地上を支配しているのは怪異(ホロウヘイズ)、もう生態系の頂点は人間じゃない」

「……で、それを聞いてどうするつもり?」

「いや別に、そこはあまり関係ないんだけど」

 

 じゃあなんで聞いたんだよ。

 と、俺が聞くまでもなく彼女は先を続ける。

 

怪異(ホロウヘイズ)については良い。問題は、それを統括する存在についてなんだ」

「つまりは奴らを人類に差し向けている奴って事か?」

「そう。キミは理解が早くて良いね」

 

 怪異達に自由意志が無いのは何となく解っていた。奴らに生物的な面はあれど、どこか機械らしい面の方が押し出されているから。

 そも、敵を殺す時に殺意も何も感じられない辺り、真っ当な生物ではないと思っていた。

 

「そいつは《魔神(アンリミテッド)序列第二十九位(トゥエニナイン)、《奪命毒装邪帝(ザ・ヴェノム)》。…………(わたし)達は、アスタロトと呼んでいた」

 

 ……魔神?

 じゃあ、その親玉は……。

 

怪異(ホロウヘイズ)を操っているのは貴女の仲間だって言うの?」

「正確には元仲間だ。今はもう、あれを仲間と呼ぶ存在は怪異以外には居ない」

 

 魔神というのが何なのかはよく解らないままだが、つまりバルバトス達からも離反しているのがアスタロト、なのだろうか。

 となると今の地球は、人類、魔神、そして怪異と三勢力が入り乱れていることになる。その内の二つは元々同じ勢力なのだから何とも複雑な話だ。

 

「……アスタロト、か。そいつが人類に敵対している、って事だな?」

「その通り。本来アスタロトは精々が毒を操る程度の力しか持ってなかったんだけど……いつの間にやら他の魔神を喰らってかなりの力を得ていたみたいだ」

 

 同類を喰らって力を得る、とは。

 また随分とイカれた奴が相手らしいな。

 

「……魔神について解らない事もあるけど、今は置いておく。で、バルバトス。それを話してわたし達に何をさせたいの?」

「簡単な事だよ。人類と魔神(アンリミテッド)とで、協力関係を築いてほしい」

「……お前はその為の特使だと?」

「まあそんな所かな」

 

 同盟を持ち掛けに来て奇襲を仕掛けてくる辺り、魔神ってのはかなり武闘派な連中なのかもしれない。

 いや、特別こいつが戦闘狂な可能性も無きにしも非ず、かな。

 

「……俺達だけで承認できる話でもないな。オーリス、管理者の耳に直接届けられるか?」

「残念ながら。こっちじゃ管理者には会うだけでも手間取るから……そっちにお願いできる?」

「了解。ま、お前に非が追求されないようにしておくよ」

「ありがとう、陽彩」

 

 何故言わなかった、なんて事が言われない程度の根回しはしておくとして。まあ俺じゃなくてゼロの仕事になっちゃうんだけど。

 しかし、この場合はどちらがおかしいのだろうか。すぐに管理者に会えてしまうクレイドル07と、契約者(テスタメンタ)であってもそうそう会えないクレイドル01。

 セキュリティや暗殺の対策としては01が理に適っているのだろうけど、面倒の無さで言えば07の方が勝っているだろう。これは俺とゼロの信頼で成り立っている例外的な事でもあるが。

 

「えっと、それじゃあ、保留って事かな?」

「まあ、な。お前の戦闘能力についてはさっき解ったし、下手に敵対もできない。かと言って勝手に話を受ける事もできないんだけど……」

「そこは全て管理者次第ね。人類は何時だって面倒なルールを敷かないと安心できない生き物なのよ」

「五千年も空に飛んでおいて何一つとして成長してないんだね」

 

 凄まじく辛辣な話だが実際にその通りでもある。クレイドルの書庫やデータベースを漁れば昔の人間の事も調べられるが、今と全く変わっていない。

 いや、今が昔と変わっていないのかな。

 

「それを守る代表者の前でよくもまあ……」

「どうせ守りたいのは人類じゃなくて手の届く範囲の皆だし。特にわたしなんかは、陽彩さえ守れれば後はあまり気にしないよ」

「お前は色々と振り切れてるから自粛しなさい」

「はーい」

 

 同じ契約者(テスタメンタ)でも人によりけり、か。

 

 姫様は知らんが、その契約者のアリサはクレイドル06の全員を守りたいと言っていた。桜花なんかは守れる人全てを守りたいとも。

 アルビレオや魔導機鎧(アサルトフレーム)二号機であるシェキナーの契約者は、そもそも顔も名前も公表されていないから置いておくとして。

 魔導機鎧(アサルトフレーム)三号機、ドラグーンの契約者は確か正義の味方みたいな事を宣っていたような。名前は知らないし、大して強い人にも見えなかったから覚えていないんだけど。

 

「よし、それなら(わたし)の仕事は終わりだ。今日はありがとう。陽彩くんに……えっと」

「アリアスヴェイン。好きに呼んで」

「なら普通に呼ぶ事にするよ。そう遠くない内に会うと思うから、忘れないでね、二人共」

「さあな」

「わたし忘れっぽいから」

「酷いなぁ……」

 

 最近は毎日が濃いから意外と呆気なく忘れるかもしれない。重要な事でもあるからたぶん忘れはしないんだろうけど。

 しかし、俺は五年前に一度記憶の大半を失っている。忘れっぽさは折り紙付きとも言えよう。

 

「そうだ。ここから真っ直ぐ帰るつもりだけど、道中の敵は片付けておくよ。安心してのんびり戻ってくれて良いからね」

「そりゃ有り難い事で」

「ご苦労さま。でも裏があるようにしか見えない」

「わぁ酷い……まあ良いや。またね」

 

 オーリスはバルバトスの事を嫌いなんだろうか。

 まあ俺も特別好意的に見ている訳でもないが。

 

 俺達の様子は気にせずに黒い機体を展開すると、彼女はゲートから飛び立っていく。

 ここの本来の使い方をしているのが人外だと言うのが、どうも俺には何かの皮肉に感じられた。

 

『…………反応、ロストしました。これ以上は追えません』

「ありがとう、リタ」

「行ったね。どうする、陽彩?これからすぐに戻る?」

 

 リタが反応を追い掛けてくれたが、ほんの数秒で索敵範囲を抜けたらしい。

 それを意に介せずに、オーリスはこちらに尋ねる。

 

「俺としてはさっさと戻りたい所だけど、そっちは何か用事とかあるか?」

「特には無いよ。オペレーターが報告さえしてくれれば、後は自由だから」

「管理社会なのか自由主義なのか解らないな……」

 

 クレイドル01の仕組みや構造は未だによく解らない。これでも契約者(テスタメンタ)になってからの約三年、色々と勉強はしてきたつもりなんだけど。

 オーリスに言わせればクレイドル07の放任主義な所も理解できないらしいから、結局は住んでみないと解らないんだろう。

 

「それじゃあ折角だしこっちを案内しようか?」

「良いの?それならお言葉に甘えさせてもらおうかな」

 

 嬉しそうに笑う彼女を見れば、誘った甲斐もあると言うもの。ちょっとだけ気恥ずかしかったのは内緒にしておこう。

 

 ここからクレイドル07に入るには一度外へ飛んでから現在のゲートへ向かう方が早いのだが、そんな堂々とラプラスを入れてしまえば恐らく騒ぎになる。人類の剣は人気者であるからして。

 その為、少しばかり面倒だがこのゲートから直接内部へ入る形を取る。ゼロには先に連絡を入れておいて、報告はオペレーターを通さず直接行く事にする。

 

「ここからだと……そうだな。行く途中に俺の家があるから、そこで一旦待っててもらおう。報告が終わったら拾いに行くから、それから07を案内するよ」

「うん、解った。つまり待ち合わせからのデートって事だね」

「お前さては何も解ってないな?」

 

 別にそれでも構わないけど……。

 何だろう、それだと何かよく解らない敗北感を感じる。

 

「デートならもうちょっとお洒落したいけど……いいえ、素で勝負するのも大事だよね。よし、行こう!」

「……はぁ。リタ、近所でオーリスが喜びそうな店でも探しといてくれる?」

『了解です。……主様が連れて行けばどこでも喜びそうですけど』

「それ言ったらお終いだから」

 

 リタはそう言うが、本当にそう思えるくらい、彼女は俺に対して好意的だ。

 一体、過去の俺はオーリスに対して何をやらかしたのだろうか。そこら辺も含めて聞くべきだろうか。

 まあ、今は良い。楽しそうな彼女を見ているとこっちまで楽しくなってくるんだから、それが答えみたいな物だろう。

 

「ほら、早く来ないと置いて行っちゃうよ!」

「待ってよ、置いてくなって」

 

 呼び方一つでこうまで意識が変わる物かと、自分の軽さに驚きつつ。

 それで良いとも思っている自分に、それはそうかと納得する。

 

 どうにもしっくり来る銀色に、俺は軽く手を乗せてみた。

 きょとんとしてこっちを見た金色の瞳が、揺蕩うように揺れている。

 何でもない、と返してから手を離してまた歩き出す。迷いなく、最短経路を通っていく。

 

 

 

 さて、ゼロにはどう報告しようかな。




後出し用語解説
魔神(アンリミテッド)
クレイドル管理議会の議事録、その黎明に僅かに名前が残っている存在。魔導機鎧の開発に深く関わったという記録は残っているが、しかしその正体に関する情報は殆ど無い。人類が手放して悠久の時が過ぎた地上、そこで彼らは怪異と戦いながら暮らしている。





以上、第四話でした。

お解り頂けるだろうか。この作品、10点評価が二つも付けられているのです。なんとも勿体の無い事を。
この評価に恥じないような作品にしていきたいと思いつつも、そんな事ができるのかと不安にも思いますが。
まあ、自分なりに頑張っていきます。目指せランキング入り。でも最近スランプに陥りそうなのは内緒です。

それでは、また次回に。
次の週末に会える事を祈ります。
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