虚空を翔ける鋼の騎士 作:匿名希望
因みにですが、僕はチョコレートと言うにはあまりにも烏滸がましい謎の物体を貰いました。美味しかったのが気に入りません。
厨二的な世界が見えてきた前回に対し、今回は基本的にのんびりした日常的な話になっていると思います。
ラブコメの出来損ないみたいになってしまったので気に食わないという方は読み飛ばしてください。
他に書く事もないのでこれにて。
それでは、第五話を始めさせて頂きます。
視界を彩る三つの色彩。
銀、黒、銀。一つ目と三つ目は似ているようで少し違う色合い。
そして、二つの銀色はその間で火花を散らしている。
「えっと……なんか、来るタイミング間違えたみたい?」
「いや、桜花は悪くない。悪いのは阿呆とアリサだと思うよ」
「……私だってこんなのと会いたくて来た訳じゃない」
「気のせいかな、なんかわたしだけ扱い酷くない?」
左から順に、オーリス、桜花、アリサ。俺と合わせて四人で丸いテーブルを囲んでいる。
なぜクレイドル防衛戦力の半分程が俺の自宅に集合しているのか、俺にはよく解らない。
というか今思うと
「ま、まあそっちの戦いからは私は身を引くとして……。陽彩、最近の調子はどう?」
「悪くはないけど。そっちこそどうなんだよ、忙しいみたいだけど」
いつぞや、昼食に誘った時は結局来てくれなかった。いや別に来なかったからどうするって訳でもないけど。
俺が
「まあまあ忙しいけど、別に
「へぇ……友達か。良かったな」
「うん。あまりこっち来れなくてごめんね?」
「良いよ別に、来たい時に来てくれれば」
友達、友達か。
俺がそう呼べる存在って、殆ど居ないような……。
いやまあ、記憶が飛んでから二年で
「ねえ陽彩、そっちの娘を紹介してくれないかな?アリサは知ってるけど、他の
桜花と話していると、アリサとの言い合いを終わらせたらしいオーリスが尋ねてくる。
俺も人の事言えないけど、こいつが殆どの人間との付き合いが無いに等しいのを忘れていた。
「あ、そうだったか。えっと、こっちは桜花。アーセナルの
「深咲桜花、十六歳です。クレイドル05で頑張ってます。自己紹介としてはそれくらいかな?」
「オウカ、桜花、ね。覚えた。わたしはアリアス=ヴェイン・オーリアル。オーリスでも何でも好きに呼んで」
「それじゃあよろしくね、オーリスさん」
……アリサの時とは随分と違う。それも露骨に。
「……そういう所気に入らない」
「わたしは君の事が気に入らないけどね」
なんでこいつらは人の家まで来て言葉の殴り合いなんかしてるんだろうか。
「あはは……人気だね、陽彩は」
「オーリスはともかくアリサの方はよく解らないんだよなぁ。一体何を張り合ってるのか」
「……駄目だこりゃ」
桜花が何かを言ったようだが、それを確かめる気力も無い。
経験則上、これは暫く放っておく事で解消されると知っているので、俺は気配を消して台所へ向かう。
本来ならお茶を淹れるのはリタの方が上手なのだが、生憎と彼女は今ゼロと一緒に居る。正確には、トーリスリッターのメンテナンスだ。
なので今日は俺が淹れる事になる。味に関しては保証できないが、まあ大丈夫だろう。
「ほれ、紅茶。ミルクと砂糖は面倒だから自分で入れて」
「ありがとう。気が利くね」
「……頂きます」
「ん、美味しい」
さて、今日はどうしてこいつらがここに集まっているのか、だけど。
前々から実験されていた無人駆動式の
それのお陰で
「あ、そうだ。陽彩に渡したい物があったんだ」
「渡したい物……?オーリスが渡してくる時点で嫌な予感しかしないけど」
「なんかどんどん辛辣になるね……。渡したいのはこれだよ」
そう言うと、オーリスは鞄から一つの袋を取り出した。
どうやらその袋も手製の物らしく、市販品に比べると少し粗さが目立ち、何よりも暖かさを感じた。
「はい、どうぞ。開けてみて。片手間に作った物だから、あまり期待はできないんだけどね」
「ん……これ、お守りか?」
袋に入っていたのは赤い布。紐が結ばれていて、表には文字が刺繍されている。
この時分に漢字なんて見るとは思わなかった。えっと……長寿祈願、か。
「これ手書きか?」
「そうだよ。漢字って難しいんだね」
「寧ろよく書けたなお前……」
裏面には何も書いてなかった。とは言え気持ちが篭っている事がよく解る。
随分と綺麗な物を作ってくれちゃって。どうお礼してくれようか。
そんな事を考えていると、アリサが不意に呟いた。
「…………お守り、か」
「アリサ?」
「……ううん」
何か思う所でもあったのかと思うが、本人は否定するばかり。それなら、深くは突っ掛からなくて良いか。
「変なの。……いや、いつもか」
「……やっぱりあなた嫌い」
「ふふ、わたしも君の事嫌い」
この二人の争い、今日は嫌に長引くな。何かあったのかそれとも単に機嫌でも悪いのか。
かと思えばオーリスは楽しそうだし、アリサも特別嫌そうな顔はしていない。こいつら発言と様子が一致してないんだけど。
「……陽彩は陽彩で苦労してるみたいだね」
「桜花程じゃないと思うけど。まあ、俺も楽しいから大丈夫だよ」
「そっか。そう言い切れるなら、私の心配は要らないかもね」
金と緋の瞳が火花を散らすように視線を絡ませる中で、俺と桜花は小さく笑い合っていた。
何だかんだ言いつつ、この二人も仲が悪い訳じゃない。単にいつも張り合ってるだけで、互いに険悪な空気にはならないし。
何と言うか、お互いの事を理解した上で喧嘩してるような、そんな感じがする。
「それにしても、よく飽きないね。そろそろネタ切れする頃だと思うんだけど」
「さて、どうだか。ああ見えて気が合ってるみたいだから、向こうずっと続くのかもな」
「……否定できないのが怖いね。それに────お?」
話の途中で、インターホンの音が聞こえた。
お客さんだろうか。いや、宅配とかかな。
「ちょっと見てくる。その二人が暴れないように見てて」
「はいよー」
「……私そんな事しないもん」
「そう思われてたなら心外だなぁ」
何やらぼやく二人は無視して、俺は玄関へ向かう。
さて、変な人じゃなければ良いけど。
玄関の電子ロックを手早く解除して、ドアを開ける。
その先に居たのは、見慣れたプラチナブロンドの少女だった。
「……陽彩、遅い」
「ゼロ?なんでまたこんな所に。それにリタも、お帰り」
「ただいまです、主様。機体の方は何ともありませんでした」
「そりゃ良かった。えっと、ゼロはどうしたの?」
リタが帰ってくるのはまあ、時間的にも解る話だけど。
ゼロが俺の家まで来る事は珍しい。何かあったんだろうか。
「議会の方から呼び出し。ラウムシュトゥンデと、バルバトスについて」
「ああ、そういう。少し待ってて、今客が来てるんだ」
「……客?」
「三人程な」
首を傾けて尋ねてくるゼロに答えつつ、俺は二人を家に上げる。
ドアを閉めて、一応ロックも掛けておく。誰かに入られたら堪ったもんじゃないし。
……と、思ったけど。この家に居る戦力を考えるとそこらの侵入者じゃ太刀打ちできないか。
「……アリアスヴェイン」
「うん、来てるよ。よく解ったな」
「……よくも」
「え?」
「いいえ」
なんか今不穏な声が聞こえたような……。
いや、置いておくとしよう。議会からの呼び出しならさっさと行かないといけないし。
家を空ける事に関してはまあ、アリサも居るから大丈夫だと思いたいけど。
「準備してくる。何か持ってった方が良い物ってある?」
「特には。暇を潰せる物はあった方が良い」
それなら本でも持っていこうか。まだ読んでない新刊が幾つかあった筈だ。
議会はいつも無駄な話が長いから、話を聞き流しつつ視界の端で電子書籍を読むくらいはできる。ただ、今日は俺も話を向けられる可能性があるので、期待は程々にしておこう。
「陽彩、どうだった?」
「リタが帰ってきた。それと、少し出掛ける事になった。留守番頼んで良いか?」
俺の家には取られて困るような物も無いが、誰かに入られたりすると薄気味悪い。暇ならここに居てくれると嬉しいんだけど。
「私は良いよ。アリサ、どうする?」
「……構わない。どうせ暇だから」
「オーリスさんは?」
「良ければわたしもここに居るよ。まあ、アリサがどう思うかは知らないけどね」
「……あなたとは違って、そこまで器は狭くない。好きにすれば」
「そりゃどうも。じゃあわたしもお留守番するよ」
早速不安を煽られるような遣り取りが見えた気もしたが、今は任せておく。たぶん何も起こらないだろうし。
「それじゃ任せるよ。ちょっと荷造りしてくる」
元気よく返事を返したのが二名、こくりと頷いたのが一名。
それに見送られて自分の部屋に行き、軽く荷物を用意してから着替える。部屋着から外出用のきっちりした服装へ。
それだけだとこの季節はちょっと肌寒いので、黒い上着を羽織る事にする。これで良いだろう。
「お、格好いいね。陽彩もやればできる訳だ」
「よく言う。まるでいつもだらしないみたいな言い方するな」
「否定はできないでしょ?ねえ、アリサ」
「……普段は、まあ」
酷いなぁ、アリサは。
隣でからからと笑っているオーリスはもっと酷いけど。
「ふふ。まあ、決める時は決めてくれるからね、陽彩は。行ってらっしゃい、気を付けてね?」
……行ってらっしゃい、か。
そんな家族みたいな台詞、久しく聞いていなかった。
出掛ける時は大半がリタと一緒だから、家に残る人というのは早々居なかった。
だから、見送ってくれる人なんて。ましてや、こうして笑顔で送り出してくれる人なんて。
不覚にも、数秒程度呆けてしまった。
「……行ってくる。夕方までには戻るから、どうせなら晩飯も食べてくと良いよ」
「今日は気前良いじゃん、陽彩」
今日は、とはなんだ。いつもそこそこ気前が良い方だと思うぞ、俺は。
「久しぶりの大人数での食事ですね。それなら少し買い出しに行きましょう」
「……手伝うよ、リタさん。姫様も行きたがってるし」
「姉さんが、ですか?珍しいですね」
どうやらリタも出掛けるらしい。それにアリサも同行するようだし、結局残るのはオーリスと桜花の二人か。
「っと、そろそろ行かないとな。また後で」
四人からの見送りを受けて、俺は玄関に向かう。
ゼロはそこで待っていたらしいが、心なしか不満そうな顔をしていた。
「お待たせ。行こうか?」
「荷物は」
「ちゃんと準備したよ」
「……なら、良い」
外へ出てドアを閉めて、鍵も掛けておく。合鍵に関しては解る所に置いてあるので、恐らく問題は無い。リタも居るし。
「……それと、陽彩」
「うん?」
家を出て少し歩いた所で、ゼロは唐突に振り向いて、こちらに目線を合わせた。
「……その服、格好良い」
かと思えばいきなりそんな事を言ってくるんだから、言葉も詰まる。
だって好きな人から格好良いなんて言われたら誰だって照れるだろうから。
「あ、えっと……ありがとう、かな」
「……」
どうやらゼロの方も照れていたようで、いつもより顔が紅潮していた。
恥ずかしいなら辞めておけよ、という気持ちと、それでも言ってくれる事が嬉しい、という気持ちが半分ずつ。
心の中で転がり続ける感情が、むず痒いようで温かいようでよく解らなかった。
◆
実に退屈で堪らない、同じ話題がひたすらに繰り返される議会。
そんな盛大に時間を無駄遣いする大人にはなりたくないな、なんて思いながら俺は帰り道を一人で歩いていた。
ゼロは少し用事があるらしく、先程別れた。議会の会場となる場所から彼女の家まではそこまでの距離は無く、また俺の帰り道とも被るので送ってきた所だ。
「はぁ……」
無意識の内に漏れ出た溜め息は、さて何の為の物だったか。
議会の無意味さへの嘆きか、はたまた密かに楽しみにしていたゼロとの会話が殆ど無かった事か。
出掛けの一言のせいでゼロはずっと喋ってくれなかった。そんなに恥ずかしかったのだろうか、等と考えてみるものの残念だった物は残念でしかないのだ。
「…………ん?」
気分を変えようと俯き気味だった顔を上げてみると、そこには見慣れた銀髪が見えた。
オーリスが迎えに来てくれたのかと思って近付こうとしたが、その途中で別人だと気が付いた。
あいつにしては違和感がある。両手足が黒いのだ。
あれは手袋や靴下ではなく、義肢の類いに見える。
変な勘違いをしたのも、疲れているせいだろう。
八つ当たり気味に議会の連中に恨み言を送りつつ、俺はその人の横を通り抜けようとした。
そして、透き通るような声音に引き留められるのだった。
「……あの。少しお時間よろしいでしょうか?」
予想通りと言うべきか、その声はオーリスに似ていた。
とは言え、似ているのはあくまで声だけ。喋り方も特徴も、何もかもが違う。やはり別人だ。
「俺、ですか?」
「はい。えっと、道に迷ってしまって」
「あまり力になれないかもしれませんが」
道に迷った割には困っているようには見えないが。
目の前で見ればよく解る。オーリスはここまで無表情じゃない。それに瞳の色も似通っているが、輝きが違う。あっちの方はもっと眩しいくらいに煌いていたが、こちらは月光を思わせるように静かな光を湛えている。
「いえ。元はと言えば迷ってしまった私が悪いのですから……」
「そうですか。……目的地はどこでしょうか。近所だと良いんですけど」
あまり続けるとこの人は自虐しちゃうんだろうな、と思って話題を変える。
兎にも角にも目的地が解らないと案内も何も無いし。
「二番地区の外れの方です。一つぽつんと、大きな家があると聞いたのですけど」
「……二番地区か……」
おかしいな、既にそれでどこか特定できるぞ。
二番地区、外れ、二人で住むには大きな家……いや、まあ、まだ解らないけど────
「そこには
────はいアウト。
その
「……えっと」
さてどうしてくれようか。
とりあえず今は考えてる姿勢で時間稼ぎができるけど、この人はたぶんすぐに特定して家まで来るだろう。その時に面倒だろうな、と思いつつもここで打ち明けるのも何となく気まずい気がする。
「……難しい、ですね」
「そうですか。……仲がよろしくないのでしょうか?」
「いや、仲の問題は無いと思いますけど」
俺は俺自身と折り合いつけてるから、たぶん問題は無い筈。
……そうだよね?俺って俺の事そこまで嫌いじゃないよね?
「ただ、そこなぁ……」
「立地の問題でしょうか?多少の悪路なら何とかなりますが」
「いや、しっかり舗装されてます。ただそこね、たぶん俺の家なんですよ」
まあ良いや。
この人は悪人には見えないし。少なくとも、
それに今はうちに人類最高戦力が居るし、とりあえずはどうにかなるだろ。オーリスは俺の危険を謎の勘で察知したりするしな。
「……え?」
「クレイドル07で普通の家に住んでる
「では、あなたが……」
ちょっとばかし気恥ずかしいけど、自己紹介といこう。
「俺は陽彩、御童陽彩です。貴女が何をしに来たのかは知りませんが、俺で良ければ家まで案内しますよ」
まあ、今日はかなり騒がしい家だけど。
「そう、でしたか」
「今日は特別騒がしいんで、急ぎでなければまた今度にしてもらえると嬉しいんですけどね」
「……私にはあまり時間が無いので。できれば、今日訪ねたかったんです」
時間が無い、か。切羽詰まった表情にはまるで見えないが、何か外せない用事でもあるんだろうか。
「でも、あなたと解れば家まで出向く必要は無い。一つだけ、聞かせてほしいのです」
「はぁ。俺に答えられる事なら、答えますけど」
何だろう。そもそもこの人が何者かも解っていない現状、何を尋ねられるのかはまるで予想できないけど。
「……いえ、その前に名乗りくらい上げなければいけませんね。私は……」
別に構わないけど、なんて言う暇も無く彼女はそのまま続けてしまった。
あまり人の話を聞かない人なんだろうか。
「アルティエ=オルレア・カーライル。それが私の名前です」
「カーライルさん、ですか」
最近は名前の長い人とよく会う気がする。
……いや、気のせいかな。
「さて、それでは。御童陽彩、あなたは
「はい」
「あなたは、何の為に戦っているのですか?」
「……何の、為に……?」
俺の戦う理由、という事だろうか。
それは……いや、どこから話したものかな。
「細かく話すとかなり時間掛かりますけど……まあ、そうですね。最初は流されるままに戦ってました」
「……」
「でも何時からか、俺が帰る度に無事を喜んでくれる人が居たんです。その人の笑顔を見る為に、そしてクレイドル07の誰かの笑顔を守る為に。……俺の戦う理由としては、そんな所です」
かなり端折ったせいでよく解らなくなったが、概ねこんな感じである。
つまりよく解らないままに戦っているのだ。
「……そう、ですか」
「はい、そうです」
するとカーライルさんは、見間違いかと思う程に小さく、微笑みを浮かべていた。
ともすれば見失ってしまいそうな、雪の結晶のような儚さ。それをこちらへ向けて、彼女は優しく歌うように述べた。
「人の笑顔の為に。そう戦える人は、きっと優しいんでしょうね」
「たまに言われますけど、あまり自覚無いんですよね。たぶん優しい人間なんかじゃありませんよ、俺は」
「いいえ。過ぎた謙遜は美徳ではなく嫌味にしかならないと覚えておいてくださいね」
「あ、はい」
なんか注意されてしまった。
「えっと、お気に召しましたかね?」
「ええ、十分です。……オリジナルをお願いします。彼女は他人には冷酷な人ですが、身内には甘過ぎる。極端な人間なんです。あなたが、彼女の指標になってあげてください」
「は、え、オリジナル?」
「それでは、私はこれで」
そうまで言われるような人間は、俺は一人しか知らない。
あの言い方からして、きっとオーリスと何か関係がある人なんだろう。
でもそれはどうでも良い。後であいつに聞けば解る話だから。
「ちょっと、待ってください。こっちからも一つだけ、良いですか?」
「……?はい、何でしょう」
今の足運びだけでも解るけど、この人かなりおかしい。
隙が無さ過ぎる。まるで、常に何かを警戒しているような。
「カーライルさんも、戦ったりするんですか?」
「……人手が足りない時には」
その一言で、俺に対する視線の鋭さが変わる。
戦闘能力に勘付いた事を看破された、という事だろう。
「あ、いや、単に気になっただけで、別に深い意味は無いんですけど」
「そうですか?……ああ、それと。クレイドル02に行く事があれば、私の名前を出すと良いでしょう。用事が無ければ軽く持て成しでもします」
視線の険しさを和らげると、小さな微笑みに乗せてそう言って、カーライルさんは今度こそ身を翻して立ち去った。
後ろ向きに軽く手を振った様は凄まじくクールで似合っていた。
その様子が、どうにも頭に焼き付いて離れなかった。
◆
その日の夜、桜花が帰った後にオーリスに聞いてみた。
因みにアリサは俺の部屋で寝ている。ベッド取られたんだけどどうしようかね。
「んー……アルトって個人でこっちに来る程、人に興味持つ娘だったかなぁ?」
「やっぱり他人の事はどうでも良いタイプなのか?」
「そこはわたしに似て、ね。ほら、クローンだから」
そもそもオーリスも言ってしまえば真っ当な人間とはとても言えないが。初代ラプラスの
聞いてもいないのにいきなり重い身の上話するから心臓に悪いんだよなこいつ……。
「わたしは研究所が言うには成功作、アルトは失敗作らしいね」
「と言うと?」
「えっとね、優性遺伝と劣性遺伝って解る?」
「だいたい理解した」
つまりはアルトリウスの特性が出たのがオーリスで、そうじゃなかったのがカーライルさんなんだろう。
人としてという意味ではなく、その実験そのもので見た場合、確かに失敗なんだろうな。
あまり気分が良い呼び方ではないけど。
「でもまあ、射撃に関しては化け物よあの娘。地球の裏側まで狙撃できるから」
「は?」
「たぶん他の星まで届く銃なんか持たせれば、この銀河系纏めて射程圏内だろうね」
「は?」
地球の裏側って射線通らないのにどうやって……いやそうか、重力で弾道曲げるのか。
なんかそんな感じの迫撃砲を昔見た気がする。命中率はまあ、言わないでおこう。
そんでもって、そこまでの狙撃能力を持つ個人兵器となると、もう
「まあ察してるとは思うけど、アルトも
「……滅茶苦茶雲の上の存在なんだけど」
「その理論で行くとわたしはどれだけ高い所に居るのかな?」
「一周回って地底だよお前は」
「ひどーい」
因みに俺は底辺である。公式序列七位だから。
「……でも、シェキナーの
「そうね。クレイドル02の意向で非公開って事になってるね」
「つまり秘蔵っ子って事だろ?こっち堂々と歩き回って大丈夫なのかな……」
「問題無いと思うよ。あの娘、個人戦闘力は最強だから。剣を持っててもわたし勝てないもん」
「へぇ……」
また一人化け物との面識が増えてしまった。この調子で
えっと、一番機ラプラスの契約者はここに居る阿呆で。
二番機シェキナーの契約者はカーライルさん。
三番機ドラグーンはどうでも良い。
四番機アルビレオは謎が多過ぎるから置いておく。
五番機アーセナルの契約者は桜花、友達と言っていい。
六番機は言わずもがな姫様、アリサとも仲は良いと言えるだろう。
……あれ、殆ど制覇してね?
個人的に好きじゃないドラグーンの契約者はまあ良いとして。
後はアルビレオだけか。あの人一度戦ったのに一言も喋らなかったからな……。
まあ良いや。
「しっかし、唐突にどうしたんだろうね。アルト、普段は誰にも靡かないような娘なんだけど。……陽彩に向けて笑ったんでしょ?」
「見間違いじゃなければ。あと、戦う理由がどうとか言ってた」
「……なるほどね、そういう事か。まだ拘ってたんだね」
まだ、という事は昔からそういう事を気にする人だったんだろうか。
「アルトはわたしと同じアルトリウスのクローンだけど、本来のスペックを発揮できてないんだ。それに対してわたしはアルトリウスの再来だの人類の剣だの言われてるから、一度戦う気力を失ってね」
「お前他人の事情とかを勝手に言うのはどうかと思うぞ」
「本人は気にしてないから大丈夫。で、わたしなりに励ましてみたんだけど……変な方向に立ち直ったらしくて。何の為に作られたのか、何の為に戦うのか、って。そんな事ばかりを気に掛けるようになったんだ」
それこいつのせいじゃ……いや、環境のせいでもあるのか。
しかしまあ、それで戦う理由を聞いてきた訳か。
「……なあ、オーリス」
「ん?」
「何の為に戦っているかって考えた事あるか?」
「……んー」
少し考える素振りを見せるが、首を軽く横に振った。
そして俺の予想通り、或いは期待通りの答えを教えてくれた。
「そんな難しい事は考えてないよ。単に放っておけば危ないから
「守りたいモノを守る為」
「……そっか。変わらないね、君は」
もしかして、昔にもこんな事を聞いたのだろうか。
何にせよ、俺は今も昔も変わらないらしい。オーリスはいつもそう言ってくれる。
自然体の俺を肯定してくれるのは、きっと俺が間違っていないからだと思う。ならば、漠然と感じたこの不安も杞憂なんだろう。
とは言え、記憶が抜け落ちている事に対するどうしようもない乾きみたいな感情は、まだ無くなりそうにもない。
「さて、それじゃあ小難しい話は終わり。一緒に寝ましょ、陽彩?」
「寝るのは賛成だけど自然な流れで同衾を誘うのは辞めろ」
「えー。……だめ?」
甘えるような上目遣いでこちらを見遣る
「駄目です」
「なんで?」
「まだ恋人でも何でもない関係なのにそういう事するのは良くないだろ」
これは非の打ち所の無い正論だろう。
そう高を括って油断していたら、思わぬ点を突かれてしまった。
「……まだ?」
「────あっ」
「まだ、なんだ……?」
悪戯っぽく輝いた瞳は僅かに濡れた色を見せ、その白い肌は熱に浮かされたように上気していた。
銀髪金眼の美少女の、不思議な魅力を孕んだ笑顔が真っ直ぐに俺を見て──
──いや、待て。落ち着け。
俺は一体何を観察しているんだ。
「そ、それに、昔の事を覚えてない状態のままじゃ、なんか騙してるみたいだし……」
「……ふふ。そうだね。陽彩はそう言っていつも逃げるんだもんね」
完全に読まれてる。流石は自称将来の嫁……。
押されっぱなしなのも何となく面白くないが、彼女に勝てるとも思えない。
「うん。やっぱり一緒に寝よう?」
「お前これまでの話の流れ解ってる?」
「解ってるよ。そういう事じゃなくて、単に同じベッドで。どうせ他に場所は無いし、良いでしょ?」
邪気の無い朗らかな笑顔に、恐らく他意は無いのだろう。
仕方無い。忘れてしまった負い目もある事だし、それくらいはしてあげるべきか。
何を考えようとも緊張する事に変わりはないけど。
「実を言うとリタのベッドがあるからお前をそっちに寝かす事もできる」
「……そっちで陽彩が寝て、陽彩のベッドでわたしとアリサが寝れば良いんじゃないの?」
「明日の朝に戦争が起きるだろ」
「それもそっか」
それで納得して良いのかぁ……。
「やっぱり三人で寝るのが一番だね。アリサは退かして、と」
「扱い雑だなお前……」
「寝たら起きないタイプだしね、この娘は。ほら陽彩、おいで?」
「俺を真ん中にするな」
ベッドの端に腰掛けた姿勢のオーリスを転がして真ん中に配置、その手前に自分が入る事にする。
アリサと俺でオーリスを挟む形になって、漸く事態は落ち着いたように見えた。
「……これも悪くないね。陽彩、こっち向いて?」
「なんだよ」
外側を向いていた体をひっくり返すと、目の前に金色の瞳が迫っていた。
反射的に身を竦めると、彼女の手が俺の頬に伸びてきた。
ひんやりとした心地の良い体温が、俺の視線を否応なしに釘付けにする。
「…………」
「オーリス?」
「────んっ」
ふと顔を近付けてきたと思うと、首の後ろに両手が回された。
そのまま動けずに居る俺に笑い掛けて、彼女はそっと頬に口づけをした。
「えっ、待っ……な、何、して」
「今はこれで我慢しておくね?それじゃ、おやすみなさい」
頭がぼうっとする。
思考が上手く纏まらない。
とりあえずおやすみと言われたなら寝なきゃいけないだろう。
なんて、反対側へ体を向けて、少し冷静になると。
こんな状態で眠れる訳ないだろ、等という正論が今更のように飛んできた。
最初から、向こうのペースに乗せられっぱなしだったという事だ。
◆
────勢いに乗せられたからって何をやっているんだろうわたしは。こんなはしたない女の子じゃ、陽彩に嫌われちゃうのに……。
ついそんな自責の念に駆られる程度には、さっきまでの自分が暴走していた事を自覚していた。
だっておかしい。昔はキスどころか手が触れただけでも心臓が跳ねて何もできなくなっていたのに。
そこまで考えて、ああそうだと思い出す。
今はこうして一緒に居てくれるけど、陽彩とはそもそも五年ぶりに会えたのだ。
これまで会えなかった分、甘えたかったり甘えてほしかったり色々な気持ちが溢れ気味だったりする。
……それに、今の陽彩は記憶を失っている。今の内に既成事実の一つでも作れば、臆病なわたしでもきっと陽彩と恋人にだって……。
「……っ」
考えてから随分と突飛な思考だと思い直す。
それは駄目だ。あくまでわたしが陽彩を好きなのであって、陽彩がわたしを好きな訳じゃない。
いや、嫌われてはいないと思うけれど。
陽彩が好きなのは、きっと……。
……いや。それを考えるのは良くない。
これは封じておくべき事で、わたしは知らないように振る舞って居れば良い。
都合の良い女、その程度に思ってもらえれば、それで良いから。
陽彩は優しいから、きっとわたしを傍に置いてくれる。
それに甘えるようで悪いけれど。
五年も待たされたんだ。
少しくらいは、許してほしい。
そうは思いつつも、飛び跳ねる心臓の鼓動は一向に落ち着かない。
こっちがリードしてるつもりだったのに、まだまだわたしも大人からは程遠いらしい。
その日はまるで眠れなかったのに、アリサは普通に起きてきていたのが、どうしてかとても気に入らなかったのだった。
◆
案の定二人して寝不足になったのは言うまでもない。
「主様?ちょっと眠そうですね。寝付けなかったんですか?」
「……や……少し夢見が悪くて」
「そうですか」
「ごめん……ちょっと休ませて」
「アルトぉ……わたしもう駄目だよぉ……」
「今度は何をやらかしたんですか、オリジナル」
「……陽彩と一緒に寝ちゃった」
「今からクレイドル07を落とします」
「待ってアルトっ!早まらないで!?」
以上、第五話でした。
作者の意に反して勝手にラブコメもどきを始めるアリアスちゃん怖いでしょう。
メインヒロインはゼロなんですけどね。出番を思ったように組めないから、私はまだまだ未熟なんでしょうね。
さて、今回は一万文字も使っておいて殆ど何の進展もありませんでしたが。次回からは魔神達も少しずつ話に加わってくるかと思います。たぶん。
それともう一つ。この調子で伸びてくれれば、今月中にUAが百を超えそうです。特に目標は決まってませんが、数値として伸びてくれると嬉しいものですね。
その内何らかの目標も決めたりして。
それでは、この辺で締めましょう。
また次回に、次の土曜日にお会いしましょう。
……実は今回、難産でした。
もしかすると間に合わないかもしれません。