虚空を翔ける鋼の騎士 作:匿名希望
特に書く事がないです。(ネタ切れ)
あ、来週もまた週末(土曜日とは言ってない)に投稿すると思うので、宜しくお願いします。
それでは。
第七話、始めさせて頂きます。
何も無い空。
邪魔をする物の無い場所で、二つの大きな力がぶつかり続けていた。
当然そうすれば周囲は消し飛ぶが、幸いにも周辺には雲しか無かった。
その為、ここでは厚い雲海が晴れ、地表を見渡せるようになっていた。
その景色は実に壮観で、どんな人間であっても目にすれば感動の息が漏れること間違い無し、だったが。
生憎と、そこに居たのはどちらも人間ではなかった。
「意外、ね。ここまで耐えてくれるとは思わなかったわ」
「よく言う……手を抜いたくせに」
「だって貴女を殺したくないもの。でも、この称賛には嘘は無いわ。幾ら私が加減したとは言え、生きているだなんてちょっと予想外」
ひしゃげておかしな方向へ捻れ曲がった左腕を無理矢理戻し、バルバトスは大剣を構え直す。
既に満身創痍の様相を呈していたが、彼女はまだ止まるつもりは無いらしい。死に体でも、瀕死の体を駆ってでもアスタロトの喉笛を食い千切ろうとする意思が見える。
「まだやるの?」
「ああ、まだ。お前の首を掻っ捌くまでは、
「物騒ねぇ……。それに、意味も無いわ。貴女の力じゃ私の守りを突き破れない。まさかここにアンドロマリウスが来るとも思えないし、貴女は詰みよ」
至極当然の事実を言ってのけたアスタロトに、耐えきれないようにバルバトスは笑う。
「……はは」
「何がおかしいの?」
何もおかしい事などない。ただ、自分が思ったよりも恵まれた存在だったと今更ながらに思っただけの事。
「いや、何さ。フラグって知ってるかい?」
「旗のこと?」
「まあそうなんだけど、
遠くに懐かしい光が見えた事を確かめてから、彼女はそっと握り締めた大剣に魔力を注ぐ。そもそも、全力で叩き付けないと当たりすらしないのだから、実力の差とは残酷だ。
かつて御童陽彩がバルバトスに感じた絶望にも似た感情を、今は彼女が感じている。
「フラグってのは、それから起こる特定の状況を引き起こす言動や行動の事だ」
「……つまりお約束のトリガー……ってこと?」
「概ねそれで正しいと思うよ」
十分にアスタロトに届き得るまで強度を確保してから、空を踏み締める足に意識を向けた。
まだ翔べる。まだ剣を振るえる。
それならば、まだ止まれない。
「つまりは────」
「玉砕なら辞めておきなさい」
冷ややかな視線を無視して、バルバトスは虚空を蹴り飛ばす。
急激な加速に景色が弾け飛び、音速を超えた証に乾いた音が響く。
それにすら反応してみせたアスタロトの長剣が、バルバトスの首を落とすように動き始める。
「────チェックメイトの宣言は既に為されたんだよ、アスタロト」
そして、彼方より放たれた一条の光が、アスタロトの背中に突き刺さった。
「……っ!?私の防御を抜いた……まさかっ」
慌てて振り向こうとする彼女に、バルバトスの大剣が十分な驚異となって襲い掛かる。
身動きすらも抑制された状態で、彼女は長剣によってそれを受け止めた。
「来たって言うの?アンドロマリウスが、たかが魔神一匹の為に……!」
「魔神一人、ではなく」
突如目の前に現れた白磁の装甲に面食らう隙もなく、そのままアスタロトは吹き飛ばされた。
その先で再び熾天使の猛攻に晒され、彼女の二対の翼の一枚が犠牲になる。
「たった一人の友達の為に」
白亜の天使がその手に携えたのは、ラディアントバズーカと呼ばれる魔導光線を吐き出す兵器だ。
だが、セラフの性能に合わせて破格の調整が施されており、その威力は一射でクレイドルの防護バリアを貫く程。アスタロトの展開した守護程度なら片手間にも貫ける。
「やぁ、世話を掛けるね、ゼロ」
「自覚があるなら先に頼って。わたしは君の為であれば助力は惜しまない」
「そりゃ悪かった。迷惑かな、と思ってね」
「……昔から変わらない。ばか」
「酷いなぁ」
互いを理解している遣り取りを済ませると、セラフは左手の超兵器を粒子化して、その代わりに右手に一つの剣を取り出す。
「アスタロトにあれは勿体無い。これで片を付ける」
「……大層な自信ね、アンドロマリウス。五十の魔神を喰らった私に、最強を退いた貴女が太刀打ちできると?」
「勘違いをしている、アスタロト。それに気に食わない事も幾つか」
剣を振り払うような動作で構えると、視認限界を超えた速度でそれを振るう。
明らかに剣の間合い等ではない。ないが、アスタロトは全力で回避運動に移った。
すると、直前まで彼女が居た場所を中心に、歪んだ三日月型の斬撃が発生した。
青白いエネルギーの塊が虚空を斬り裂くと、そこには大気は愚か何も残ってはいなかった。
「まず、アンドロマリウスは既に居ない。ここに居るのは御童零、ただのゼロだ」
追加で斬撃を発生させれば、アスタロトはその翼を全力で傾けて回避する。そのまま狙った場所へ誘導するのは容易い。
「そして、アスタロト。お前が喰らったと言う魔神の力は、お前には使いこなせない」
正確には、魔神を取り込んだは良いが、内部で殺しきれていないからその力を引き出せない、というのが正しい。しかし律儀にそれを教えてやる必要もなければ、ここで逃がす理由も無い。彼女は絶えず斬撃を放ってアスタロトを追い立てる。
如何に相手にならないとは言っても、
「言わせておけば散々に……っ!なら受けてみなさい、私が奪ってきた力を!」
翼のように開かれた無数の剣がゼロに向けて放たれる。
しかしそれは隣に控えていたバルバトスによって一つとして残らずに叩き落とされ、更に斬撃により反撃を受ける。
しかし翼をもう一枚盾にする事でそれを受け止め、彼女は嘲笑う。
「捕まえた」
そして、固定した斬撃から雷撃を逆流させる。
剣を軽く振ってそれを無効化したゼロだが、その判断は誤りだった事をすぐに悟った。
「見せてあげるわ、アンドロマリウス。私が
────それは、星の加護を受けた光。
かつてはゼロを後押ししていた力が、今はどういう事かアスタロトの背中を押している。
斬撃を通じてゼロとの間に繋がりを作ったアスタロトは、その光によって自分を守りながら距離を潰していく。
「……バルバトス、下がって。今の君じゃ相手にならない」
「傷を貰ったのが痛いな……ごめん、ゼロ。力になれなくて」
「……良い。友達の敵討ちという、正当な理由が生まれる」
少しズレた答えを返しながら、ゼロは剣の柄頭を押し込む。
鈍色の刃から光が溢れ、刀身の延長を形成していく。
「真っ向勝負で私に勝てると思って?これでも私は、五十機の魔神の出力を持っているのよ……!」
「関係は無い。わたしの力は、敵の力量に応じて開放される……!」
一歩踏み出すような動きのあと、ゼロとアスタロトは互いの剣をぶつけていた。
刃物というよりも鈍器のような扱いに刀身が悲鳴を挙げるが、そんな事は知ったこっちゃないとでも言わんばかりに斬撃の応酬は続く。
「応じて、ねえ……っ!手を抜く言い訳にしては格好が付き過ぎやしないかしら?……油断が過ぎるわ、アンドロマリウス!」
「……油断?」
振り抜かれた長剣に即席のレーザーブレードを叩き付けて、彼女は小さく笑う。
その意味を計り知る前に、アスタロトは直感のみに従って全力で後ろに退がっていく。
「いいや、断じて違う。……これは、余裕と言うもの」
「くっ……最強の座を譲っても、貴女自身が弱くなった訳じゃない、か……!」
「そもそもわたしとは格が違う……諦めて、アスタロト」
「────諦める?私が?」
怯えと恐れから腰が引けていたアスタロトが、その一言で弾かれるように顔を上げる。
その紫の瞳には、一色ではない虹色の輝きが宿っていた。
「……認められないわ、そんなこと。私は、今度こそ貴女を……!」
バルバトスの真似事か、長剣に魔力を纏わせていく。
存在の器、運命の形。そう呼ばれる魔力というエネルギーは、基本的に持ち主の命の大きさに比例して強力になっていく。
そして、五十を超える魔神を取り込み、少なくともその魔力の総量だけは自身の物にしているアスタロトは、その一点においてゼロと────アンドロマリウスと比肩する。
「貴女という、私の憧れを超える────!」
ゼロの視界から消えるように移動すると、背後を取ってそのまま長剣を突き立てる。
一瞬とはいえ圧倒された彼女の中に、驚愕は無かった。
「……思えば、聞いた事は無かった」
長剣の一撃を受け流して、レーザーブレードの刃を首筋に当てる。
手を引けばいつでもアスタロトを殺せる状況下で、未だにゼロは迷いを見せていた。
「結局、お前は……君は……どうしてわたし達を、裏切ったのか」
行き先を見失った長剣の刀身を空いた左手で握り締め、彼女は問う。
ずっと聞きたくても聞けなかった、アスタロトの答えを。
左の掌から血潮が流れるのも意に介さずに、彼女は更に力を込めた。
「……裏切ってなんか、ない。私は最初から、貴女達を味方だなんて思った事はないもの」
「嘘が下手なのは変わっていない、アスタロト。……その癖は直した方が良い」
「……やり辛いわ、貴女は」
逸らした視線を戻して、アスタロトはゼロの瞳を真っ直ぐに見る。
それに答えるように、セラフの外装が解除された。
「なっ……ゼロ、何して────」
「バルバトス、その傷を治す手立ては魔神側には無い。クレイドルに向かって」
「え?でも、アスタロトは……」
「わたしもすぐに行く」
「…………解った」
それを見送る事は無く、バルバトスはその戦域を離脱していった。
手負いの状態でアスタロトに対してできる事も無ければ、ゼロの言葉に従わない理由もまた、無い。
「……良いの?」
「君はそもそも、わたしを殺す気が無い。それは最初から解っている」
「その見透かしたような目、
諦めたように笑うアスタロトに、ゼロは懐かしさのような物を感じた。
魔神として生きていた頃は、よく決闘の真似事らしき物を挑まれていた。その度に返り討ちにすると、彼女はこんな顔を見せていたのだ。
「────答え合わせをしよう、アスタロト」
その郷愁を振り払い、彼女は再び問う。
今度は、確信を以てして。
「あの日……セラフを襲うアルビレオという名目でわたしと陽彩を襲撃したのは、マルコシアスに化けた君だ」
「断定してるじゃない……それに、あの子は貴女が巻き込んだんでしょう?」
「……さあ」
アスタロトが襲ったのはクレイドルに安置されていたセラフの外装のみであり、それを勝手に迎撃したのはゼロだ。
更に言えば、陽彩はそれに巻き込まれた形である。
だがそれを全て置いておき、ゼロは次の問いを投げ掛けた。
「露骨に視線を逸らさないでよ、アンドロマリウス」
「二つ目。アリアス=ヴェインを落としたのは君ではなく、君を騙ったベリアル」
「……そっちもお見通し、か。ついでに言えば、あの
わざわざゼロの解る形に直しているあたり、アスタロトからは優しさが抜け切れていない。
そういう所が“詰めが甘い”と言われるのだと、ゼロは指摘できなかったが。
「それなら、何故君はこの段階で陽彩に仕掛けてきた。君を騙るベリアルと同時に動けば、どちらかが偽物である事は看破される」
「そもそも私、あれと協力してる訳でも無いから。向こうの計画を滅茶苦茶にしてやれれば万々歳、ついでに私は貴女に挑んだだけ」
意外にぽろぽろと情報を落とす彼女に、自身の翼を漸く広げたゼロが怪訝そうな表情を見せる。
そんな自分の憧れに、アスタロトは幾分か儚い笑顔を浮かべた。
「解ってはいた事だけど、私の事は信じてもらえないのね。でも私、嘘は一つも……」
「君の発言は全てが真実だと解っている。でもだからこそ、それ故に解らない」
首筋から離したレーザーブレードの刀身を消し去って、元の剣に戻す。
そもそもこれは実験中のギミックを乗せた試作品であり、本来ならトーリスリッターに搭載してテストさせるつもりの物だった。それを格納庫から引き摺り出して無理矢理に実戦に転用したが、あまり良い結果は得られなかったと言える。
「君がわたしの味方をする理由。ベリアルについても、
「……貴女はいつも物事を論理的に考え過ぎなのよ。憧れの人の役に立ちたいと思って、悪い?」
ゆっくりと手放された長剣を粒子に返して、アスタロトは笑う。
今度は儚さを感じさせる物ではなく、花が開くような綺麗な笑みだった。
「……君は……解らない。わたしには、何も」
「解らなくっても良いのよ。ただ、そういう物なんだって思ってくれれば。……っと、お話の時間はもうお終いか。楽しかったわ、貴女との時間」
再生した翼を広げて、ゆっくりと距離を離していく。
名残惜しさを振り払うように暫し瞑目すると、もうそこに後ろ髪を引かれた少女の姿は無かった。
「幾つか忠告よ、アンドロマリウス」
「……忠告?」
「ええ。ベリアルが最初に落とそうとしているのは二番よ。精々全力で守る事ね」
「……君はこれからどうするつもり?」
「さあ、ね。私の役目は終わったもの」
マルコシアスの名を騙りセラフを襲う事で、早期に魔神への警戒心を持たせる。
統括局へ脅しを掛け、特使という形でバルバトスを送り出し、人類と魔神のコンタクトを取らせる。
ベリアルによってラプラスを退けさせ、陽彩に戦いへの意欲を呼び覚まさせる。
更に同時に襲撃を仕掛け、人類と面識のある魔神を引き摺り出して自身の存在と驚異を知らしめる。
────それだけ済ませれば、後はアンドロマリウスがベリアルへの対策を取る。
最後にバルバトスを引っ張り出したつもりが、ゼロ本人が出て来たのは完全に予想外だったが。それはそれで、アスタロトとしては望外なのだった。
「
「……ああ。本当に、相も変わらない無責任な奴」
「酷いわね、貴女は。昔はもうちょっと地に足付けて真面目に生きてたわ」
魔神としての権能が強引に融合された結果、本人の意思を無視して無作為に生命を産み落とした。
アスタロトはその胎盤を無慈悲に斬り落とし、完膚無きまでに破壊したつもりだった。
しかし、母に見捨てられた子の執念は余りにも深く、原理不明の再起動を果たして今も尚、造り物の白を生み出し続けている。
そんな現状を知る由もない人類は、ひたすらに戦い続ける。
全ての悪意の源が、アスタロトただ一人であるという致命的な勘違いをしたまま。
「さ、話の時間は終わりよ。また会いましょう、今度は戦場じゃない何処かで」
「……アスタロト」
「何かしら?」
翼を羽撃かせて大空の向こうへ飛び立とうとしたアスタロトを、ゼロは呼び止める。
「まだ君の罪は残っている。……償うまで、死ぬ事は許さない。また私の前から姿を消すのであれば……」
そこで一度言葉を切ると、セラフの外装を再展開し、左手にラディアントバズーカを構えた。
「今度は途中で辞めたりしない。……君を、殺す」
歪んだ決意を感じさせる声音で言い切って、ゼロは身を翻す。
そのまま飛び去っていく彼女に、アスタロトはそっと手を伸ばした。
届かない星に願いを託すように、少女はそっと呟きを零す。
「私の罪はきっと雪げない。でも、貴女なら……」
消えていく白亜に向けた掌を引っ込める。
それ以上は高望みという物だ。
「……できるなら、貴女の大切なモノを……私も、一緒に、守りたかった」
今度こそ翼は役目を果たし、アスタロトの姿は消えていく。
第二の揺り籠。ベリアルがラプラスを襲撃したついでに向かった、クレイドル02へ。
◆
損傷、というよりも、半壊と言った方が正しいような有様の機体を見て、思わず声を漏らす。
「随分と手酷くやられたな、ラプラス?」
トーリスリッターやグレイエンプレスとは違って、ラプラスに統制の役割を持つ人格は無い。そもそも剣を振る事しか考えていない機体が、何を統制すると言うのか。
「ああ、ここに居ましたか。陽彩さん、許可の方は降りました?」
「管理者は構わないと言ってましたよ。トーリスリッター自身も否は無いと」
格納庫に入ってきた男性の声に返事を返しつつ、俺はそちらへ向き直る。
彼はクレイドル01の抱える技術者であり、ラプラスの設計者の子孫、らしい。
「
「俺自身も別に嫌だとは思いませんよ。……大事に使ってくれれば、それで」
「そうですか」
最後の方は機体に向けて喋っていたので、どうやら彼には聞こえなかったみたいだ。
ラプラスの周囲に展開された用途不明の機器群を弄りながら、彼は半ば独り言のように言った。
「それにしても僥倖でしたよ。ラプラスの修復に当たって、トーリスリッターの予備パーツを使わせてもらえるなんて」
「これはクレイドル07からの技術供与の意味もあります。政治的な価値に関しては俺達の管轄外ですけど」
「全くその通りです。ま、上の方々が義理堅い事を祈っておきますよ」
だと良いが。
さて、あまり長居もしていられないけど……まだ時間はあるな。オーリスに挨拶していく程度なら何とかなる。
「んじゃあ、俺はそろそろ次の仕事もあるんで」
「忙しいんですね、
「そのつもりですよ。そっちも仕事頑張ってください」
適当に返して、俺は格納庫を出る。
もうあそこに用事は無いし、挨拶も終わらせたらクレイドル02に向かわないといけない。運ぶ物がまだ残ってる。
『主様、二つ報告があります』
「嬉しい奴からお願いしようか」
暫く施設内を歩いていると、聞き慣れた電子音が頭の中に響いた。
オーリスに与えられている住居まではまだ移動に時間が掛かる。リタと少し話すくらいなら余裕があるだろう。
『ゼロからの連絡です。バルバトスを始めとした何人かの魔神がこちらの戦力として動くようです』
「……動くって事は、前提として、動かなきゃいけない事態が起きてるって訳か」
嫌な推測を裏付けるように、リタが続きを言う。
『その通りです。説明が難しいのですが……アスタロトの名を騙っていた存在が、クレイドル02を襲撃しようとしています。そしてアスタロト自身は、今回の襲撃とは関係無いとも』
「────こっちの戦力として動く魔神の中に、アスタロトも入ってる?」
『……っ。はい、バルバトス、アスタロト、ベリト、アンドロマリウスの四人、との事です』
ベリトとアンドロマリウスについては正体不明だが、バルバトスは顔も割れている。ので、彼女については置いておくとして。
アスタロトの真意が見えない。名を騙っていた存在、とやらに利用されていたのか。それとも心変わりでも起こして寝返ったのか。
前者ならば善性を期待できるかもしれないが、後者だとかなり不安だ。
「バルバトスが言ってた事からして、アンドロマリウスはたぶん…………いや、良い」
その正体は、存外容易く推測できる。
魔神達はどうやら、旧時代の遺物である神話から名前を取っているらしい。七十二柱の悪魔、或いはゲーティアの悪魔。そう名付けられたとある書物には、現状知っている全ての魔神の名前が乗っていた。
故に、知りもしない筈の情報を知っていた事と、バルバトスがゼロを探していた事、そして彼女自身が語った過去のお伽噺。
よく吟味すれば彼女が何者なのかは理解できる事からして、俺は自分自身の発言を撤回した。
「ベリトってのは?」
『同じ魔神、だとしか言いませんでした。それ以上の情報は自分の目で見てほしい、と』
「いつものゼロか」
彼女は人に先入観を持たせる事を嫌う。己の目で見た事のみが真実だと、俺に教えてくれていた。
『報告はそれだけです。主様、どうしましょう?』
「ゼロからの依頼を勝手に蹴る訳にもいかない。先んじて俺が02に向かえるようにしたのには勿論理由があるんだろうし、さっさと行くよ」
『一声くらいは掛けてあげたらどうです?』
「……」
リタが言うのはオーリスの事だろう。
だけどまあ、悩んでいる時間も勿体無いな。
「悩ましいけど、考えるだけ無駄だな。通り道だし、寄ってく」
『なら心配はありませんね。トーリスリッター、いつでも出せるようにしておきます』
機体に関しては心配無し。リタに任せておけば不安は無い。
そういえば
別に彼女が来なければどうこう、とは言わないが。
いつでも安心して前衛を預けられる存在というのは、居なくなった時にこうも不安を掻き立てるんだと思った。
「っと、通り過ぎる所だったな」
『考え過ぎは良くないですよ、主様』
その通りだな、と共感しつつ俺は備え付けられたインターホンを押す。
施設内に部屋を分けられている様子は、アパートとかマンションとかそういった物を思い起こさせる。
「オーリス、居るか?」
『陽彩っ?ちょっと待ってて!』
物音が聞こえたあと、ドアがそこそこの速度で開けられた。
外開きだったら即死だった。
「いらっしゃい、陽彩。遊びに来てくれたの?」
「いや、少し通ったから挨拶に。あまり時間無いんだけど」
「時間が無い中でも合間を縫って会いに来てくれたんだねっ!」
「お前の都合の良い頭、ちょっとだけ羨ましいよ」
オーリスの頭お花畑フィルターはたまに欲しくなる。
さて、玄関先での世間話も、今日はたったの数分だけでタイムリミットが来る。
友人との会話なんて言う楽しい事は、時間が早く感じるといつだかに考えていたが。
名残惜しく感じながらも、俺は出撃用のゲートに向かう事にした。
「もう時間なの?ほんとに忙しいんだね」
「今日は特に。それじゃ、行ってくるから」
手を軽く振って目的地へ体を向けると、背中から柔らかい物がぶつかってくる感触がした。
言わずもがな、人体の暖かさ。平常より少しだけ早い鼓動が、彼女の内心を伝えてくるようだった。
「気を付けて、ね。わたし達の仕事に危険じゃない日なんて無いけど、何だか嫌な予感がするの」
「……お前の勘はよく当たるからな。了解、精々気を付けておくよ」
ゆっくりと離された両手の感覚を心に刻み、紐で結んだお守りに意識を向ける。
人類最強の女の子が作ってくれたお守りともなれば、彼女自身が感じた嫌な予感からも守ってくれるだろう。
クレイドル01のゲートから飛び立ち、02へ辿り着くまでは、俺はそう思っていた。
以上、第七話でした。
はい。
アスタロトちゃんは悪いやつじゃなくって、真のラスボスはベリアルですよっていう……。
詰まる所が迷走気味です。プロット消えました。
何度か書いてる途中でパソコンが落ちてたんですけど、その弊害なんですかね。
あと、少しだけ文字数が少なくなりました。いつもは一万文字書いてるんですけどね、九千文字まで減りました。誤差と言っても良いのでしょうか。
それからもう一個、予約投稿の設定をする時は気を付けよう、というお話を。
あれ日付の部分をよく見ないでやると普通に数日後になってたりするので、ちゃんと注視して投稿しましょうね。まあこんなミスするのは自分くらいだと思うんですけど。
今度はまた来週と言っておきます。
それでは、次回投稿時に会いましょう。
2018-03-11-18:27 誤字を修正