魔法科高校の益良雄 作:RAINY
2093年とある春の日
「……準備は良いな」
俺の父・川村
「ああ、いつでも良いよ。父さん」
特化型CADを道場の中央に向ける。未だそこは何もない虚空であるが、俺はそこに呼び起こされる事象に対処するため構えていた。
「では!」
父は腕にはめた汎用型CADを操作し、魔法を発動する。道場の中央に火の玉が生成された。これは川村家の精霊魔法によるものだ。
ノアレ、頼んだ。
(仰せのままに、陛下)
俺がCADの引き金を引くと、闇が火の玉を喰らった。闇が消えた時には、もう火の玉などなかった。
「……闇が炎を包む時に感じたプシオンの活性。あれが、お前のその精霊魔法が」
「川村家初代当代・川村英雄の神霊魔法。今まで父さんたちが求め続けた秘儀だよ」
川村英雄が使えたとされる神霊魔法は、今の今まで、
「よくやった……」
父は健やかで穏やかな顔をしていた。今までの苦労がようやく報われたと言わんばかりの表情だった。
「父さん、喜んでもらえるのは嬉しいけど。なんで俺がこの魔法を継承できたのか全く分からないんだ」
「そうか……」
先ほどまでの穏やかな顔が曇らせてしまったことに、俺は多少罪悪感を抱いた。が、ここで止まるわけには行かない。
「だから俺、現代魔法を学びたいんだ。現代魔法の知識なら、その答え、とまではいかなくてもヒントくらいは見つけられるかもしれない」
俺は、現代魔法を学ぶという口実で国立魔法大学付属第一高校への入学を考えていた。原作主人公と同じ高校に通う事で、原作介入を画策しているのである。
「……」
「父さん」
父の長い沈黙。思慮を巡らせていることは把握できる。おおよそ、俺が国立魔法大学付属高校にまで行こうとしているのを予測しているのだろう。古式魔法師と現代魔法師には溝がある。かつて魔法技能師開発第九研究所からの誘いを川村英雄が断った事実も川村家にはあり、それから現代魔法師にはほぼ不干渉を貫いてきた。その慣習を破るという葛藤が、父の中にあるのだろう。
「……英人の好きにしなさい。現当代である私がまるで届かなかった初代の秘儀に、手が届いたのだ。お前はもう、私を越えている」
微笑みで息子の成長を称え、ゆっくりと息を吐き、そして気を引き締める。
「この日、この時を持って。川村家当代を川村英明より、川村英人に授ける」
それは当然の事柄だった。川村家は初代が没した時より、その秘儀の継承を悲願としてきたのだから。父の当代の譲渡は当たり前のことだった。
「川村家4代目当代。この川村英人、確かに拝命いたしました」
俺はその名を受け継ぐ。今日この日を持って、中学2年生の少年は川村家当代となった。
◆◆◆
2093年とある冬の日
川村家当代になったからと言って何か重要な仕事が任されるというわけではない。川村家は他家の古式魔法師に比べても多少閉鎖的で、他の家との交流が吉田家以外とはほとんどない。強いて言えて千葉家くらいだが、互いに魔法の知識を提供することはほぼない。川村家当代の仕事と言えるものは、秘儀の継承とその研鑚くらいなモノなのである。ある意味、俺はウィル子とノアレを継承する方法を探さなければいけないのだから重要な仕事かもしれない。しかし、俺自体あんまりその方法を本気で模索しようとは思っていないのだ。継承方法が明確になると、その秘儀の奪い合いになる可能性が生まれる。そんな人々のバカげた諍いにウィル子達を巻き込みたくはない。
というわけで。特に何処かに挨拶に行くこともなく、むしろ自身が現当代であることを隠しながら日常を過ごしている。
「おめでとう。で、合ってるのか?」
「さぁ?」
「名のある千葉家を名乗れるようになったんだ。めでたいことだよ、たぶん」
エリカが千葉家に認められ、その姓を名乗ることを許された訳だが。幹比古が尻すぼみになるくらいには複雑な事情となっていた。その原因の一つがエリカの実の母親であり、父親の愛人だったアンナ・ローゼン・鹿取の死去であるのだから、言葉を大にして祝えるものではない。
(愛人の子供ですものね。それはそれは鬱屈として鬱陶しい鬱憤が煮込まれているでしょうね)
喜々とした声音を止めなさい、暗黒神。
(他人の不幸は蜜の味よ、陛下)
身内の不幸は苦虫だ。
◆◆◆
2094年とある秋の日
「英人!君は、僕を陰で嗤ってたんだな!」
俺が現川村家当代であることが幹比古とエリカにばれた。
「違うんだ幹比古。これには訳があって」
「親友である僕にまで黙ってた理由が何だって言うんだ!どうせ神童なんて持て囃されながら君に敵わない僕を、喚起魔法に失敗した僕を見下してたんだろう!!」
幹比古は荒れていた。喚起魔法の失敗からの不調を抱えたままスランプに陥っていた彼は自身の悪感情を抑えられるほどの余裕がなくなっていた。
「君はいつもそうだ!いつも余裕ぶって、いつも僕を笑ってた!君はっ!」
「ミキっ!」
「……っ!」
思ってもいないような悪評すら口走ろうとしていた幹比古の頬を、エリカが引っ叩いた。唐突に走った頬の痛みに幹比古は呆然とし、毅然としているエリカに視線を合わせることしかできていない。
「アンタは、自分の失敗で他人に当たる奴じゃないわ」
「!」
エリカは「今の幹比古はいつもの幹比古じゃない」と述べている。それを一切疑わず信じている。対し幹比古は目から鱗、というより寝耳に水を垂らされたかのようにたたずみ、その言葉を信じられずにいた。
「僕は、僕は……。……っ」
エリカと俺の視線に耐えきれなくなった幹比古はこの場からの逃走を図った。
「ミキ!」
「エリカ、駄目だ」
俺は、逃げようとする幹比古ではなく、追おうとするエリカを止める。
「どうして」
「今は何言っても幹比古を追い詰める」
「でも……」
エリカの気持ちはよく分かる。親友に何も出来なくても、何かしなくてはならないという焦燥感。今はそれが余計関係を拗らせると俺は考えた。
「幹比古なら立ち直れるさ。俺たちは、信じて待ってやればいい」
「……はぁ。そうね、あたしたちが信じてやらなくちゃね」
彼女自身の張りつめていたモノをため息とともに吐き出したようだ。いつものような比較的明るい表情を取り戻した。
(青春ですねー)
(青春ねー)
茶化すな茶化すな。
◆◆◆
2095年3月上旬
エリカが良い喫茶店を見つけたという事でそこでお茶していた。幹比古はいない。
「ヒデはもうこっちに引っ越してるの?」
「まず一高に受かってることを疑わないんだな」
「当たり前でしょ。あたしが受かってて、あんたが受かってないわけがある?」
こちらの学力を疑わないでくれるのは大変ありがたいが、その分なんだか扱いが雑な気がしてならない。それ位信頼されていると解釈をしよう。そう俺はプラス思考を働かせた。
「まぁエリカの予想通り八王子にな。高尾山の近くだ。幹比古も近くに下宿してる」
引っ越し先が近いのは故意である。幸比古伯父さんから幹比古の下宿先を快く教えてもらった。
(ストーカーですか、陛下?)
(男が男のストーカー。夏に薄い本が出るやつなのですよ、サー)
止 め ろ 。
「ああ、ミキもちゃんと受かったんだ」
安心したような表情を浮かべるエリカ。確かに、以前の学力や魔法技能だったら疑わずに済んでいただろうが。まだ幹比古はスランプ中なのである。
「そう心配することでもなかったろう?如何に今は調子悪いって言っても伊達に神童なんて呼ばれた幹比古じゃないって」
俺は原作知識があるので全く心配していなかった。俺という
「あんたは心配しなさすぎ。ほんと、ミキが言った通りいっつも余裕ぶってて、あたしでもたまに気に障るんだけど」
剥れているが本気で怒っているというわけではない。幼馴染との気の置けない感情表現だ。
「慣れろよ。俺だってエリカからのヒデ呼びを慣れたんだ」
何故彼女は幼馴染の名前を2文字に略すのか。コレガワカラナイ。後、ヒデだと父や曾祖父と被るんだが、俺以外ヒデ呼びはしていないのでヒデは俺を指す言葉であるのが確定的に明らかだ。
「さて、俺は色々やらなきゃ行けないからな。そろそろお暇するぞ」
引っ越し先の荷物の整理が終わっていないし、修行場の選定もしなくてはならない。精霊魔法の修行のためだけにわざわざ神奈川の実家には帰っていられない。高尾山に良い場所はないかと期待する。
「あたしはもう少しゆっくりしてくわ」
「今上がるなら奢るぞ?」
「お願いするわ」
腰を落ち着けたと思いきや、俺の言葉で即座に席を立つ。支払いはしっかりと任された。
「次、会うのは入学式になるかな」
「迎えに行きましょうか?」
「幼馴染とはいえ、初日から同伴は色々気まずい。気持ちだけ貰っとく」
一緒に登校など、良からぬ噂が流れるやもしれない。エリカのことは
ちょっとやりたいこともあるしな。