魔法科高校の益良雄 作:RAINY
2095年4月3日
(こんな早くから登校するのはどういうお考えで?陛下)
(サー、式場も開いてないのですよー)
国立魔法大学付属第一高校入学式当日。俺はウィル子達に疑心を抱かせる程度に早く登校していた。
ノアレもウィル子も安心して貰っていい。俺にいい考えが有る。だからこそのこの行動だ。
(いい考えですか?)
(どこぞの司令官のように変なフラグ立ててないでしょうね?そんなフラグで大丈夫かしら)
一番いいフラグを頼む。
変なフラグかどうかは俺自身懸念している事ではある。が、それを差し引いても中庭へと歩を進めるのには重要な意味があった。
「やぁ新入生。こんな早く登校してるとは殊勝な心掛けだな」
中庭のベンチで電子書籍の読書を嗜む男子学生に声をかけた。その男子学生とは、『魔法科高校の劣等生』の
主人公との接触。俺が考える中で最も良い彼とのファーストコンタクトはこのタイミングだ。
「妹が新入生総代になったのでその付き添いというだけです」
端末をしまい、こちらを視認する男子学生は間違いなく俺が知る司波達也だった。俺を上級生と勘違いしたのか(そう仕向けたんだが)敬語で返事を返した。
「妹?双子なのか?」
原作知識で細かい事情まで把握しているからこの質問はほぼ意味がないが、原作から乖離している可能性と無知の偽装を兼ねる問答だ。
「自分が2079年4月生まれで、妹が2080年3月生まれの年子です」
一々説明するのも面倒なのか、そう一気に説明した。
「ああ、同年度になる年子か。しかし、妹が総代ってことは一科生。それで君は、二科生か。心中お察しするよ」
彼ら兄妹が原作通りなら仲睦まじいのだろうが、普通この事情を聞いたら不仲を予想するモノだ。
(次々と口から出まかせを。随分と舌が回りますねぇ、陛下)
(よくそんな真顔で嘘をつき続けられますね、サー)
これでも前世は大嘘つきでね。嘘つくのは慣れてるんだ。
「いえ、妹とは仲良くさせてもらっています。それに、妹が優秀で嬉しい限りです」
言葉に偽りのないことを証明するように嬉しいオーラが溢れている。本当にこの原作主人公は妹に関して感情の箍が外れやすい。さすが周りが後に認めることとなるシスコンだ。
「なんだそうなのか。まぁ仲良きことは美しきかな、てな。俺なんて親友と喧嘩してもう半年ほど絶交中だ」
幹比古とのあの諍いがあってから全くコミュニケーションを図れていない。半年程度の友人との絶交は予想していたことであってもため息が出る。しかも、この状態が後3ヵ月ほど継続する予定だ。なおさら虚しくなる。
「それはお辛いでしょうね。心中お察しします」
「たははー」
達也からミラーコートを受けたところで、背後からこちらを窺う視線を感じた。
「新入生ですね?開場の時間ですよ」
声の方に視点を向ければ、そこに佇むのは
「ありがとうございます、七草真由美生徒会長殿」
達也より先んじて俺がそう述べる。俺が新入生というワードに返答したことと相手が『七草』であることに達也は眉間を歪めた。
「あら、どこかで会いましたか?」
「いえ、九校戦の中継映像でその御尊顔を拝見させていただいただけです」
慣れているとはいえ、初対面の美少女との会話は緊張するので、自身の緊張をほぐすためそんな大仰に述べてふざける。微妙な笑顔を浮かべられたが、こんな手合いには社交界的なもので慣れているようで、何事もないように流してくれた。
「申し遅れました。俺は新入生の川村英人といいます」
「川村君、ね……」
何故か、一瞬こちらを仔細に観察した、ような気がした。「まさか川村家を知っているのでは」と思ったが、知っていたとしても高々古式魔法師一人。そこまで警戒するかは疑わしい。気のせいだろう。
「そっちの彼は?」
「……自分は司波達也です」
矛先向けられたくなかったのがありありと感じられるが、残念ならがおそらく君の方が本命だ。
「そうですか、あなたが、あの司波君でしたか。先生方の間では、あなたの噂で持ちきりでしたよ」
「……」
達也としては予想していたニュアンスと違う事に戸惑っているようで、反応に困り沈黙を選んだのだろう。
「入学試験、七教科平均、百点満点中九十六点。特に圧巻だったのは魔法理論と魔法工学。合格者の平均点が七十点に満たないのに、両教科とも小論文を含めて文句なしの満点。前代未聞の高得点だって」
「……ペーパーテストの成績です。情報システムの中だけの話ですよ」
達也は自分の左胸を指差し、紋無し、二科生であることを指示した。
「すごいじゃないですか。少なくとも、私には真似できませんよ?私はこの学校で二年も学んでいますけど、同じ問題を出されても司波君のような点数はきっと、取れません」
「失礼、生徒会長。友人を式場に待たせているのでそろそろお暇します。君も一緒に行こうじゃないか」
達也がうっすら苦い顔を浮かべていたので、俺は助け船を出すことにした。
「ああ。では、失礼します」
彼はこれ幸いと搭乗する。
「……新入生だったのか」
式場に向かう途中で達也から俺に対してそんな苦情が殺到した。
「まぁ、助けたんだからプラマイゼロってことで」
俺の笑みに彼はため息を返した。
(式場に着いたぞ!ですよー)
霧が出てきたなぁ……。
「……これは、司波の隣とかは無理そうだな」
原作で描写されていた通り、そう指定されているかのように一科生・二科生が分かれて着席していた。この差別意識は
「大人しく前の方に座るか」
「そうしてくれ、川村」
俺は一科生で、達也は二科生。隣に座るには
「じゃあな、司波。俺が君の妹とか、君が俺の友人と同じクラスになったらまた会おう」
「ああ、そんな奇妙な縁だったらな」
奇妙な縁と彼は言うが、彼が俺の友人と同じクラスになるのはほぼ確定している。いや、エリカや幹比古と俺が幼馴染になっているという点では奇妙な縁と呼べるか。
|でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない《閑話休題》。
式開始までもう然程時間がない。ほとんどの席が埋まる中、空いている席を見つけると同時に、見えぬ運命を垣間見た気がした。
「すまないが隣の席、よろしいか?」
「……どうぞ」
俺の顔を一瞥してから席を差し出す少女・
「ありがとう」
礼を述べてから着席する。光井がこちらを覗き見たが、すぐに興味を無くす。彼女らとは今のところ会話のネタがないし、時間もない。今はまだ、私が動く時ではない。
◆◆◆
式は原作通り、特筆することもなく進行。無事終了となった。生徒が退場し始め、北山や光井も俺に声かけることなく去っていく。
(声かけて貰えるとか淡い期待してたのかしら)
舐めるな、俺は童貞だ。一生涯守り抜いた経験を持つ猛者だ。女性にそんな淡い期待など持ちはしない。
(陛下……)
(サー……)
おっと心はガラスだぞ?
学校のIDカードを貰い、俺がAクラスであることを確認する。考えていなかったことではないが、
(どうやら神様はあなたも弄びたいみたいね)
なぁに、あちらが弄ぶというなら、こちらは遊ぶのみだ。お前たちが着いている以上、どんな苦難も楽しめるだろうさ。
(にほほほほほ)
(ふふふふふふ)
俺には未来視の魔眼もカミに愛される性質も持ち合わせていないが故にヒデオのような
「ヒーデー!」
聞き覚えのある大声に視線を向ければ、エリカが校門の前でこちらに大きく手を振って呼びかけていた。彼女の周りには、こちらが勝手に知っている数人が集まっている。
「あんまり大声で呼ぶなよ、目立つだろう?と、どうやら奇妙な縁があったみたいだな。司波」
「ああ、そうだな。川村」
不敵な笑みを向ければ、苦笑いが返ってくる。ここまで早い再会は彼も予測してなかったようだ。
「さて、初見の方々もいるようだしざっと自己紹介しよう。俺は千葉エリカと5年前からの友人であり、司波達也とは入学式前に少し会話した知人である川村英人だ」
一々エリカや達也との関係を質問されても面倒なので一気に説明する。達也も手間が省けたというように微笑し、エリカは何が嬉しいのかニコニコしている。
「すでにご存じかと思いますが。お兄様の妹・司波深雪です。司波ではお兄様と区別ができませんから、『深雪』とお呼びください」
「私は、エリカちゃんと入学式前に会って友達になった柴田美月です。私も『美月』で構いません」
「お心遣いありがとう。有り難く『深雪さん』に『美月さん』と呼ばせてもらうよ。そして司波は『達也』と呼び捨てにさせてもらおう。そちらは『ヒデ』以外だったら公序良俗に反さない限り好きに呼んでくれ」
俺の心情的に、まだ親しくない女性を呼び捨てというのは気恥ずかしい。彼女らはそれを察してか笑顔を持って承諾し、達也は「仕方ない」と言わんばかりに頷いた。
「で、なんで俺を大声で呼びつけたんだ?エリカ」
「この前のケーキ屋行こうと思って。一緒に来るでしょ?」
「断る選択肢が考慮されてない気がするんだが」
「来ない?」というお誘いではなく、「来るでしょ?」というほぼ断定である。
「だってヒデ、甘いモノ食べに行くって言ったら着いてくるじゃない」
「色々と訂正したいことはあるが、まぁいい。これ以上の立ち話もなんだし、あとはゆっくり喫茶店で話そう」
全員がそれぞれに肯定の意を示し、エリカを先頭に歩き出した。
◆◆◆
「エリカと英人さんは恋人同士なのかしら?」
「違うが?」
「違うけど?」
喫茶店での会話はそんな感じのガールズトーク。達也はほぼ聞き専だったが、俺はエリカとの親密さから時折話題に上げられた。
他愛もない平和な時間が過ぎていった。