魔法科高校の益良雄   作:RAINY

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第5話 隣の司波は青い

2095年4月4日

 

 俺は朝早く九重寺に訪問しようと、その寺の石段を上っていた。九重寺に訪れる理由は、古式魔法師川村家・現当代である俺の目的と川村家の代表として家のスタンスを九重八雲に伝えて広めてもらおうという思惑故である。何故そんなことをしようとしてるかというと、最近俺の実家やアパートの周りでなにやら嗅ぎまわっている者が多数確認出来ているためである。古式魔法師の間で古式魔法の秘事がどうだの川村家の動きが怪しいだので騒ぎになっているのではないかと思った次第だ。

 

(サー?)

 

 なんだウィル子。俺は今石段のぼりで忙しい。

 

 石段がとても長い。5分近く歩きっぱなしだが、寺の入り口が一向に見えてこない。

 

(なんでずっと石段を上り下りしているのですか?)

 

 は?

 

(……どうやら、幻術かしら。寺の住職が忍者っていうのは間違いじゃないみたいね)

 

(アイエエエエエエ!ニンジャ、ニンジャナンデ!)

 

 まさか、あの和尚にも警戒されてるとは……。

 

 『川村』という名前が、古式魔法師の間ではここまでビックネームと思い至っていなかった俺にはとんだビックサプライズである。

 

 俺じゃ初見の幻術なんて対処できないな。ノアレ、消(・)し(・)て(・)もらえるか?

 

(お安い御用よ、陛下)

 

 俺は制服の上着の下に隠している特化型CADの引き金を引く。そうすると精霊魔法に偽装した起動式と魔法式を展開し、それを受けてノアレは幻術に用いられている魔法的エネルギーを消して、魔法を無効化した。空間が縮むような錯覚を起こし、目の前まではるか遠くにあった門が近付いてきた。目の前に門がある今の状況こそが現実だったようだ。

 

 特化型CADに収められている精霊魔法に偽装した起動式と魔法式。これは、他人に俺が精霊魔法を使ったと思わせるためのフェイクであり、実際はウィル子とノアレにサイオンを提供するだけのものである。ウィル子とノアレはこの世界のルールに準拠しているためプシオンを核に持ち、その核を守るためにサイオンで覆って存在を保つ神霊である。サイオンは彼女らにとって基礎代謝のエネルギーでもあり、徐々に消費されている。ペースとしては1時間に全体の約0.5%。そして、俺は彼女たちに彼女たち換算で1時間に約0.7%、常時サイオンを供給している。基礎代謝のエネルギーと言った通り、彼女たちに仕事をしてもらえばその分サイオンは消費される。偽装魔法は仕事の分のサイオンを一まとめに支払う役割も持っている。さらに設定を語るとすると、ノアレの消去能力は物質・物理エネルギーに対して闇で触れる必要があるが、魔法的エネルギーに対しては闇で触れる必要はない。消去された側はどうやって魔法を無効化されたのかがほとんど分からない仕様だ。

 

「それが川(・)村(・)家(・)の(・)秘(・)儀(・)かい?」

 

 門を挟んだ向こうには、顔に傷がある坊主がこちらを窺っていた。

 

「その一部ですよ、九重住職」

 

 笑顔の奥の目が一切笑っていない。未だ九重八雲は警戒を解かない。

 

「突然の訪問、大変失礼しました。申し訳ないのですが、今日は川村家現当代として、行動の目的と川村家のスタンスをお伝えに伺いました」

 

 俺は頭を下げ、その姿勢のままで此方の意志を伝えた。

 

「なぜそれを寺のしがない住職に伝えに来たのかな?」

 

「忍びである九重八雲様にその意思を広めてもらい、他家との無駄な衝突を避けるためです」

 

 まだ頭は上げない。あちらの警戒が解けるまで、こちらは無防備でなくてはならない。

 

「そうか、そうかそうか!ああ、良かったよ。若き川村家の当代が急に訪ねて来て僕もびっくりしたんだ。『神霊の隣人』との戦闘なんて、命がいくつあっても足らないよ」

 

 お茶らけた雰囲気に変わる。警戒は、完全にとはいかないが、解いてくれたようだ。

 

「重ね重ね失礼いたしました。それと、その二つ名は曾祖父だけのものです。俺なんぞは遠く及ばぬ若輩者ですから」

 

 ウィル子・ノアレ・マックル・エリーゼと契約していた化物なんぞと並べられたくはない。こちらのウィル子とノアレは弱体化しているのだ。

 

「そうかそうか。とりあえず、詳しい話は縁側ででも聞こうか」

 

 九重八雲は俺を寺内に招きいれた。

 

◆◆◆

 

「なるほど。もう現状じゃ手詰まりだから、現代魔法に取っ掛かりを探しているわけか」

 

 俺が魔法科高校に通う理由、その体裁と川村家の現状を大まかに伝えた。俺個人の本当の理由はひた隠す。原作介入なんて言って意味が通じるわけがない。

 

「何にせよ、争いや厄介事を起こすつもりがないことを君の口から聞けて良かったよ。君の家の動向を探ってほしいと、依頼がたくさん来ていたんだが。下手に突いて身を亡ぼすのは避けたいから、どうしたものかと思っていたところなんだよね」

 

「お騒がせして、本当に申し訳ありません」

 

 五体投地も辞さない土下座姿勢だ。俺個人の行動が、そこまで他家を刺激しているとは全くといって考えていなかった。もう少し早めにこうしていれば良かったと自身の浅慮を嘆いた。

 

「僕としてはこれでぼちぼち稼げて大助かりさ」

 

 食っていくために働く喰えない坊さんである。

 

「さて、君から色々と情報を貰えたし。お代として面白いモノを見せてあげよう」

 

 九重八雲が立ち上がり、門の方へ歩いていく。いつの間にか、寺の修行僧と思しき者達が門の柱に隠れていた。見知った少年と少女が顔を出し、少年が門を通ったその瞬間に修行僧が一斉に襲い掛かる。次々と襲い来る修行僧を、体術だけで撃退していく少年。その後ろにのんびりと住職は歩いていく。少年少女が気づく気配はない。

 

(奇門遁甲の類かしらね。陛下は観客ってことで対象外みたいだけど)

 

 そうノアレが解析してくれた時。住職が少年を投げつけ、抑え込んだ。

 

「……師匠には、まだ敵いませんね」

 

「体術だけなら分からないが、僕には師としての立場があってね」

 

 住職はそれで満足したのか、少年を解放した。

 

「どうだい?なかなか面白いモノだったろう」

 

「「!」」

 

 住職は少年少女ではなく、俺に声をかけた。少年少女はそれでようやく近くまで歩み寄っていた俺に気付いた。住職の術で俺も隠されていたのだろう。

 

「面白い以前に驚きましたよ。あの修業方法といい、知人の存在といい。と、おはよう。達也に深雪さん」

 

「ああ、おはよう。英人」

 

「おはようございます。英人さん」

 

 達也と深雪(少年少女)の表情は、声音のわりに何処か固い。何故俺がここにいるのか聞きたいのだろう。

 

「君たちが古式魔法師の関係者だったとは驚きだ。古式魔法師として挨拶回りしてたら、とんだサプライズだな」

 

 彼らが聞き辛そうだったので、聞きたそうにしていたことを言葉に混ぜておく。彼らに俺がただの古式魔法師と認識してもらうためだ。どこまで意味があるかは分からないが。

 

「いや、彼らは古式魔法師ではないよ。僕個人の、体術の弟子さ」

 

「才能にほれ込んで、というやつですか。と、そろそろ俺はお暇しますよ。じゃあ、達也に深雪さん。また学校で」

 

「ああ」

「ええ」

 

 ここでの目的は終えたし、彼らの疑いの眼差しはきつい。俺自身から事細かく話すより、住職から聞く方が信用できるだろう。

 

◆◆◆

 

「師匠、彼は、川村英人は何者なのですか?」

 

 高校入学に関しての話題は大体話終えた後、司波達也は彼について尋ねた。九重八雲に挨拶に来るような男。何かあると達也の本能が訴えていた。

 

「川村英人、精霊魔法を専門とする古式魔法師の家系・川村家の4代目当代。一家門の若き現当主さ」

 

「川村家……。それはどういった家系なのでしょうか」

 

 川村家という名前に、達也は聞き覚えがなかった。

 

「川村家の歴史はとても浅い。古式魔法師として認められたのは80年ほど前、初代当主・川村英雄が精霊魔法を使っているのを確認されてからだ」

 

「80年前、ですか?」

 

 達也は訝しむ。古式魔法とは古くから歴史の影にあった物であり、陰陽道か何かしらの宗教が絡んでいるモノだ。そんな浅い歴史はありえない。

 

「川村家は、どこの宗派にも依存せず、陰陽師の血も流れていない。突然現れた家系なんだ。そんな突然現れた家系であるにも関わらず、初代当主はその強力な力を示していたらしいよ」

 

「強力な力?」

 

 宗派に依存しない・陰陽師の傍系でもない。謎が多すぎて詮索しきれないが、そこを聞いても話は進まないと考えた。

 

「噂でね、精霊の上位の存在・神霊を従えていたそうだ。神霊に関しては細かいところは秘事にふれることだから、色んな所がうるさくて話せないけど、自然現象そのものと理解してくれると助かる」

 

「自然現象そのものを従えていた家系が川村家であると?では、何故『川村家』は無名なのでしょうか」

 

 古式魔法師の家系で在ろうと強い力を持つ家系が影に隠れ続けられるほど、現代社会は甘くない。どこかで情報が漏れるはずなのだ。

 

「それは、その初代の秘儀を後の当主達は受け継げなかったらしい。川村家の隆盛は、初代一代にして衰えたわけだ。まぁそれでも、古式魔法師の間では秘儀を隠しているんじゃないかって怖がられていたけどね」

 

「……そうですか」

 

 すでにかつての栄光であると確認でき、危険視は杞憂であると改めようと考えた時。九重八雲から次の句が述べられた

 

「そして、最近流れだした噂なんだけど。現当主がその秘儀の継承に成功したらしい」

 

「彼は、神霊を従えている。ということですか?」

 

「噂は噂さ。これ以上の詮索は僕も怖いんだ。虎の尾ならまだいいけど、竜の逆鱗だったらと思うとね」

 

「……」

 

 『今果心』の異名を持つ九重八雲をして、ここまで恐れさせる川村英人。達也は彼の底を図れず、警戒を余儀なくされた。

 

「まぁその竜も温厚で温和な性格の様でね。自ら騒ぎを起こすつもりも、騒ぎを煽るつもりもないってさ」

 

 坊主頭を撫でる九重八雲の顔に、うっすらと汗が浮いているように達也には見えた。

 

◆◆◆

 

「おはよう」

 

 俺はAクラスの教室に早めに来て席に着いていると、こちらに挨拶をする声がした。

 

「ん?ああ。おはよう」

 

 声の方に視線を向けると、北山雫が声の主であることが分かった。

 

「式で隣だった人だよね。同じクラスなのは奇遇」

 

「ははは、高々隣に座っただけなのに覚えてくれたのか。クラスも同じで席も前後とは、確かに奇遇だな」

 

 一瞥しただけだと思ったが結構観察していたのか、それともただ人の顔を覚えるのが得意なだけか。九重寺の事もあって、前者ではないかと邪推する。

 

「パーティーとかに親の連れで良く出席するから、人の顔は覚えないと失礼になる」

 

 後者だったようで内心ほっとする。

 

「パーティー?もしかして君は数字持ち(ナンバーズ)だったり?」

 

 北山雫だと知っているのはあくまで原作知識。無知アピールを忘れないのが嘘つきの秘訣。

 

「違う。私の家がお金持ちなだけ」

 

「金持ち?失礼ながら、名前を伺っても?」

 

 できるだけ早めに名前は聞いておきたい。でなければ、不意に名前を呼んでボロを出してしまう可能性がある。備えよう。

 

「北山雫」

 

「北山ってことはあの北山か。なるほど合点が行った。おっと失礼、申し遅れた。俺は川村英人だ、よろしく」

 

「よろしく」

 

「雫?その人はお知り合い?」

 

 北山の後ろからこちらに歩み寄る光井ほのか。この二人は勝手にセットだと思っていたが、今日は何かあってセットではなかったのか。いや、席が離れているから少し離れていただけか。

 

「ほのかも会ってる。入学式で私の隣だった人」

 

「あ、ああ。あの時の」

 

「そうそう、あの時は隣で、今度は前後で奇遇だねって話を北山さんとしていたんだ」

 

 彼女もすぐには思い出せなかったが、記憶はしていたようだ。さすがに入試成績2位と3位。元の頭脳のスペックから高そうだ。

 

「俺は川村英人って言うんだ。『ヒデ』以外だったら公序良俗に反さない限り好きに呼んでくれ」

 

 ヒデ呼びをエリカ以外に許す気はない。元々はエリカからも許す気がなかったのだが、何度否定しても止めてくれなかったのでこちらが諦めることとなった。

 

「私は光井ほのかって言います。『ほのか』って呼んでください」

 

「私の方も『雫』でいい。けど、なんで『ヒデ』?」

 

「友人が俺をそう呼ぶんだが、なんとなくその響きが嫌いでな。出来れば本当に『ヒデ』だけは止めてくれ、雫さんにほのかさん」

 

 どうしてヒデ呼びが嫌いかというと、あまり深くは言いたくないが良くないものを連想してしまうのだ。二人は頭に疑問符を浮かべるように首を傾げているので、俺が嫌がる理由を知らないようで助かる。

 

(ほんとひで!)

 

(ひでしね)

 

止めないか!

 

 唐突に教室のアトモスフィアが変わる。変わった原因は教室に入ってきた司波深雪だ。彼女が入ってきた瞬間、教室内の生徒がほぼ全員彼女を見つめて見とれている。俺は美しい花(司波深雪)には棘があることを知っているため「ふつくしい……」以前に「ジッサイコワイ!」と思ってしまう。

 

「おはようございます、英人さん。そちらのお二人は初めてですね。ご存じでしょうが、司波深雪といいます」

 

 同学年の同性に対してもきっちりと礼をして礼を失せぬそんな挙動がとても映える。

 

 その後はほのかが躓くというイベントが起きつつ彼女らは仲良く会話していた。俺は、流石に女子三人の会話に混ざる勇気はないし、深雪と話してると周りからの(特に男子からの)視線が痛かったので空気となった。

 

◆◆◆

 

 時間は昼休みを迎える。

 

「雫、ほのか。良ければ食堂で昼食を一緒に取らない?英人さんも」

 

 深雪はそんな提案をする。俺もその対象になっているのは少し謎だが、彼女としては社交辞令のようなものだろう。

 

「ごめん、深雪。私たちはお弁当だから。混む食堂ではちょっと気まずい」

 

 ほのかもその言葉に同調してすまなそうにしていた。彼女らが誘いを断るとは思っていなかったが、そういえば原作でもこの時彼女ら二人は昼食を一緒に取っていなかったなと思い出した。『劣等生』でも『優等生』でも描写されていなかったが、そこまで重大なイベントではなかったようだ。

 

「ああ、すまないが俺もなんだ」

 

 コンビニの名前が描かれているビニール袋を掲げ、昼食が購入済みであることを示す。食堂での森崎(もりさき)駿(しゅん)が達也たちに喧嘩を吹っ掛けるイベントはスルーしたい。そもそも人混みは苦手なのだ。

 

「そう。明日から私もお弁当にしようかしら。じゃあ、また後でね」

 

 彼女は教室を出ていった。俺もその姿を見送ってから教室から出る。雫から一緒にどうかと誘われたが断った。

 

 モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。 独りで、静かで、豊かで……。

 

(あら、ぼっち飯ですか?それとも便所飯でしょうか?陛下)

 

 それ以上いけない。

 

 食堂から戻ってきた深雪が多少不機嫌であったこと以外特筆することはなく、時間は過ぎていく。

 

◆◆◆

 

 放課後となった。それでありのまま起こっていることを話すとすると。校門で森崎率いる一科生グループと達也率いる二科生グループwith深雪が言い争いを始めようとしていた。俺は木々の影に隠れて遠目から観察している。

 

 しかし、リアルで見ると本当に呆れた連中だな。あれだけ達也に突っかかれば深雪さんにマイナス印象を与えるって気が付かんかなぁ。

 

(サー、主人公が巻き込まれているようですがどうするのですか?)

 

(随分と腹を立ててる人が居るわね。CADまで持ち出すんじゃないかしら)

 

 原作通りなら一科生達がCADを構えるが、問題無く対処されるはずである。だが……。

 

 俺が存在することによる影響(バタフライエフェクト)が怖いな。いちおう封じとくか。ウィル子、ほのかさん以外の一科生のCADを妨害しといてくれ。

 

(にほほほほほ)

 

 間違ってもソフトウェアを食べるなよ?

 

(CAD内部の電気信号を食べてしまえばいいだけです。簡単な仕事なのですよー)

 

 じゃあ、そんな感じで。

 

 俺は懐の特化型CADを取り出すことなく引き金を引く。ウィル子達にサイオンを与えるだけなのだから照準なんて合わせる必要はない。あくまで起動式・魔法式が複雑になってしまったため特化型CADでないと展開が俺の汎用型CADに収める他の精霊魔法と比べても遅いのだ。

 

「そこで何をしてるのですか?」

 

 唐突な背後からの猜疑の声。体がビクつくのを理性で抑える。ここで少しでも怪しまれる行動は控えなくてはならない。俺は何気なくゆっくりと振り返る。

 

「校門で何やら言い争いをしているようでしてね。あんな真ん中で騒がれていると横も素通りしづらい。それに、二科生グループの方と知り合いでして、介入すべきか静観すべきか。あちらから見えない場所で思案していたのですよ、七草生徒会長」

 

「あら、そうでしたか。勝手に怪しんでしまってごめんなさい」

 

 笑顔の内にまだ懐疑の眼差しを秘める七草真由美。マルチスコープで此方を見られていた可能性があるが、少なくともこの場で詮索するつもりはないようだ。

 

「風紀委員長が既に渦中へ向かわれているようですが、生徒会長は行かないのですか?」

 

「摩利(まり)ったら。私も行かなくてはいけませんね。では、くれぐれも正当防衛以外での魔法使用は控えてくださいね?」

 

 見られていたことが確定的に明らかだ。あと神に願うとしたら、魔法式を見られていないことだろう。

 

「言われるまでもなく」

 

 俺の返事に満足したのか、懐疑の眼差しを解いた笑顔の後、風紀委員長がいる方へと歩いて行った。

 

 で、見られてたんでしょうか?電子のカミ、闇のカミ。

 

(知らん。そんなことは俺の管轄外だ。なのですよー)

 

(マルチスコープを使っているのは分かったけど、どこを見ていて、どこまで見えるのかは私でも分からないわ)

 

 もう駄目かも分からんね……。

 

 この事柄に関してはもう対処のしようもないので、俺は考えるのを止めた。悩みがなくなった(現実逃避した)俺は既に騒ぎが収まった校門を清々しい気持ちで通り抜けようとする。

 

「ヒーデー!」

 

「……エリカ、君は俺を大声で呼びつけないと気が済まないのか?」

 

 相も変らぬ大きな呼び声は少なくない生徒の視線を集めるのだ。大変やめてほしい。

 

「アンタが悪い」

 

「さいですか」

 

 どうしようもない。諦めよう。そうして俺は達也一行の駅までの行脚にまき込まれた。

 

◆◆◆

 

「そういえば、ヒデもホウキは自分で調整してるんだっけ?」

 

 話がCADの調整の段になった時、エリカが俺に話を振った。

 

「ああ、CADに入れてるのが全部川村家独自の精霊魔法だからな。業者になんて頼めないから、俺の家は全員自身で調整してるんだ」

 

 俺は右腕の袖を少し捲り、汎用型CADを見せる。このCADには川村英雄の秘儀以外の精霊魔法が多数入っている。川村家(祖母)が川村英雄(曾祖父)の秘儀を独自に解析して得た知識に、四十九院家(祖父)と吉田家(母)の一部知識を混ぜ、さらに前当主(父)が研鑚した魔法だ。既存の精霊魔法からは多少ずれているため調整できる業者など存在しない。居たら居たで情報漏洩で困る。

 

「英人さんの家って古式魔法の家なの?」

 

「ああ。と言ってもぽっと出の陰陽師みたいな人から興った家でな。祖母の代でほぼ廃れて、今では少ない秘儀を継いでるだけなんだ」

 

 川村英雄(ぽっと出の陰陽師みたいな人)から興って、その娘(祖母)で秘儀の継承に失敗して(廃れて)いる。何も間違っていない。

 

(陛下、(嘘つくのが)お上手ですね)

 

コンナハズジャナイノニー。

 

(いやー、本当にサーは(虚言の混ぜ方が)すごいですね)

 

 それほどでもない。

 

 それ以上の詮索はされず、話題は他愛のない物になっていった。

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