魔法科高校の益良雄 作:RAINY
2095年7月10日
4月のお疲れ会兼達也誕生日会に俺も参加したが特筆することはなく、とても平和な高校生活を送った約二カ月。期末テストの結果も昨日公表され、総合19位だった俺は特に目立つこともなく迎えた平穏なる日曜日。俺は高尾山の人気の一切ない林にいた。
「なんか、俺ってヒデオっていうかマヒロみたいになってる気がしてきた……」
末恐ろしいほど弁舌と彼の優しさに集う仲間の力で乗り越えるヒデオと、大嘘も含む猛毒の話術と突拍子もない奇策で乗り切るマヒロ。個人的な見解だが、俺の立ち回りはマヒロに近いものがある気がした。よく考えればどちらにも似ていない気がしてきたのは気のせいだ。
「マヒロって言うとサーが言っていた『ミスマルカ』の主人公ですか?うーん、ウィル子達はその子を詳しく知らないので何とも言えないのですよ」
比較ができないと困っているウィル子。彼女たちには是非とも林トモアキ作品を読んでほしいとこの世界でも探したが、なんと『ミスマルカ興国物語』や『戦闘城塞マスラヲ』『レイセン』だけでなく『ばいおれんす☆まじかる!』『お・り・が・み』『ヒマワリ:unUtopial World』も、今にも過去にも存在しなかった。もちろん『魔法科高校の劣等生』もである。そのほかの作品は、俺の知る限り存在していた。
「ヒデオっぽくない、ていうのはよく分かるわね。ヒデオは良くも悪くも自信がなかったのよね」
「なんかそれだと俺が慢心しているみたいに聞こえるな……」
否定はしきれないのが痛いところだ。今のところ大筋は原作通りの進みに、ウィル子とノアレ。未来の知識がある上にチート持ち。油断は身を亡ぼすと分かっていながらもそうなってしまうのは仕方ないと思う。気を付けよう。
「別に無理してマスターっぽくなる必要はないと思いますよ?サーはサーで、しっかり殺傷は避けてますし、サーなりの良さがあるのです」
「私としてもヒデオとは違った面白さを感じてるから、別に今のままでいいんじゃない?」
二人は特に現状、否定意見は持っていないようだ。むしろ、俺がヒデオのように振る舞おうと無理をするのではないかと心配しているようにうかがえる。
「まぁ、それもそうか。改めて考えれば、ヒデオはヒデオだったからあんな風にたち回れたわけだしな。ま、今後も非暴力を胸に頑張りますか」
ヒデオのように振る舞えないにしても、俺はヒデオの意思にはしっかりと同調したい。それがウィル子達を授かった俺の義務であり権利である。
「頑張るのですよ、サー」
「頑張りなさいな。って」(ウィル子。人がきたみたいよ)
(意図的にここに来たならば、彼でしょうか)
二人は人の気配を感知し、視認されないように神霊の領域に引っ込んだ。俺の背後から足音が近づいてくる。そちらを向けば、何だか懐かしく思える顔があった。
「……英人」
「久しぶり、幹比古。しばらくお前と話せなくて寂しかったぞ」
俺がそんな風にはにかんで見せても、幹比古の表情は冴えない。
「英人、君に訊きたい。現代魔法の知識は、精霊魔法に有益なのか、どうなのか」
真剣なまなざしで此方を見つめる幹比古。未だに彼はスランプに苦しめられ、そこからの脱却に現代魔法の知識を用いようとしていた。だが、この三ヵ月。魔法理論の試験で3位を収めながらも、その結果は彼の魔法に全く反映されていない。
「まだ学び始めて3ヵ月。入学のための独学含めても3年も学んでいないんだ。有益かどうか決めつけるのは早計だな」
それが俺の率直なる感想だった。確かに、物理学に特化した現代魔法では、スピリチュアルな分野の精霊魔法とはなんら関わりが無いように見える。だが、精霊魔法のプロセスは既に解析されている。それ故に、CADで精霊魔法が発動できるのだ。
「だけど!」
「幹比古。いくら知識をかき集めたところで、お前のその不調は治らないぞ」
「!?」
ある意味彼にとってこの言葉は絶望させる呪詛だろう。「今までの努力は無駄だ。お前のそれは不治だ」と言われてるように彼には聞こえるはずだ。
「前提を間違えてるんだ。欠けた何かを埋めようとしても、他の何かで代用しようとしても、埋まるわけがないんだ」
「僕には、そもそもそこまでの腕はないって。君は言いたいのかい……?」
彼は静かに憤っていた。かつて神童と言われた者のプライド。既にズタボロだが、なけなしでも彼の拠り所だ。本当に、どうして一人でここまで追い込んでしまうのだろうかと、つい哀れに思えてしまう。
「幹比古、お前は独りじゃない」
「……どういう意味?」
悲しげに笑う俺の意思を、彼は読み取れない。
「お前が今のお前を認められなくても。俺は今のお前を認めてるんだ」
「……」
彼はまだ分からない。
「お前が如何に神童じゃなかろうが、お前が如何に
そうだ、俺は彼を信じている。彼が『吉田幹比古』だからとか、『メインキャラクター』だからとかじゃなく。彼が
「僕は……」
「一人で悩むな、幹比古。俺にも、一緒に悩ませろよ」
俯く彼に、俺は右手を差し出した。
「……ああ、分かったよ」
諦観というべきか、俺からは逃げられないと諦めたように俺の手を握り返した。
「まぁそれはそれとして」
「え?ぐふっ」
握られた手を引っ張って引き寄せ、彼の腹部に拳をねじ込んだ。
「英人……」
(無言の腹パン)
(彼は英人ではない)
構図もセリフのタイミングも完ぺきだったが、俺は英人だし、彼は
「半年以上親友を放置したのはそれでチャラにしてやるさ。よし、じゃあ親友らしく俺をなぐぐぼわぁっ!」
蹲っていた彼は立ち上がると同時に俺に腹パンをし返した。
(見事な作画崩壊パンチね)
(作画なんて)ないです。
「これでいいんだろう、英人」
「ああ、その通りだ……」
腹を抱えて蹲る俺は彼の爽やかな笑顔を見上げた。
「さて、お前のスランプ脱却計画を練る前に。エリカだな」
「エリカか……。彼女、怒ってるよね」
何を今更と言いたくなるが、今から拗ねているエリカの機嫌への対処を考えると、彼とともに苦笑いを禁じ得ない。
「まぁ、財布がちょっと軽くなるのは覚悟しとけ」
「ちょっとで済めばいいけど……」