【プロローグ】
皆さん、こんにちは。初めましての人がいらっしゃいましたら初めまして。
航空母艦、鳳翔です。
私は今、先日の進水日に提督がプレゼントしてくださった食事処を営んでいます。
工事中は提督からは「倉庫を作っているんです」と伺っていたので、サプライズでこの食事処を頂いた時は、嬉しさのあまり泣いてしまいました。
思い返すと少し恥ずかしいですが、私たちの提督は本当に素敵なお方です。
いつも私たち艦娘のことを第一に考えてくれる人で、その優しい目を見るだけで私は安心することができます。
あの人が私たちを信頼してくれるからこそ、私たちもあの人を心から信頼しているのです。
あら、少し話がずれてしまいました。
この日記は、この食事処で見ることのできる、みんなの笑顔、泣き顔、しょんぼりした顔、情けない顔、たくましい顔、嬉しそうな顔を書き綴った、そんな日記です。
もしお時間があるのでしたら、少しお読みになっていってください。
きっと、あなたも私たちの鎮守府に、そして御食事処「鳳翔」に足を運びたくなるはずです。
【鮭フレーク入りあったか茶漬け】
「〜〜♫」
鎮守府での宴会が終わり、今はフタフタマルマル。
駆逐艦の子達をはじめとした、夜に弱いみんなが眠り始める時間です。
私はいつも日付が変わるくらいの時間まで起きていますから、この時間はまだまだお仕事をします。
毎日遅くまで起きていると提督に怒られたりもするんですけどね。
「鳳翔さんも、周りのみんなだけじゃなく自分の体も大事にしてください」って。
提督はいつも私たちを気遣ってくださいます。
そう言う提督自身も、みんなが眠ってからこっそり装備の調整をしたり、旗艦の子の分の書類仕事をこなしたりしているんです。
そんな提督のためなら、この身を尽くして差し上げたいと思うのは当然でしょう。
そんな提督は、今も私の手伝いをしてくださっています。
「鳳翔さん、食洗機回しますね」
「はい、お願いします」
この食事処は、外からの入り口とは別に、鎮守府とも繋がっています。
なので講堂で行われた宴会の食器などは、みんなでこの食事処に運んで後片付けをしているのです。
本当は私1人で済ませるつもりだったのですが、提督が「今日は書類仕事も無くて暇なので手伝いますよ」と仰ってくださったのです。
私は「それなら今日くらいはゆっくりなさってください」と言いましたが、提督は手伝うと言って聞きませんでした。
嬉しくもあり、少しだけ不安でもあります。
提督はあまりにも優しいから。
「……鳳翔さん? どうかしましたか?」
「あ、いいえ。すみません」
いけません、手が止まっていました。
とりあえず、今は提督のご厚意に感謝してお皿を洗ってしまいましょう。
〜しばらくして〜
2人でやったおかげで、後片付けはあっという間に終わりました。
「お手伝い、本当にありがとうございました」
私が軽く頭を下げると、提督は優しい声色でこう言います。
「いいですよ、お礼なんて。むしろ僕の方がお礼を言いたいくらいです。いつもいつも、宴会の日にも、みんなのために美味しい料理を作ってくれてありがとうございます」
そう言われることが、私にとってどれだけ幸せなことか。
提督はいつもこうです。
「もう……そんなに褒めても何も出ませんよ?」
少し上機嫌でそう言うと、提督は軽く笑って言います。
「いいですよ。ただでさえ鳳翔さんには色々貰ってばかりですから、これ以上何かしてもらったら僕の立場がありません」
謙虚にも程がある、時々私はそう思います。
もちろん悪い意味ではありません。
この鎮守府にいる艦娘全員が、提督の優しさに救われて生きているのに、それでも提督は「自分は何もしていない」と言うのですから。
少しはご自分の素晴らしさを認めたらいいのに、なんて思うこともあるのです。
「相変わらず謙虚ですね」
「慢心は軍人の大敵、ですからね」
「ふふ、その通りですね」
私は後片付けに使ったタオルやスポンジを元あった場所に戻しながら、提督に尋ねます。
「提督、この後はどうなさいますか?」
「この後……そうですね、予定は特に無いですが……」
心の中で小さく「やった」と呟きます。
提督はご多忙ですから、なかなか2人で言葉を交わす機会も無いのです。
「でしたら、少しお話でもしませんか?」
「分かりました、じゃあお言葉に甘えて」
提督が調理場を出てカウンターの席に腰掛けます。
私は湯のみと急須を持ってその隣へ。
コポポポポ……と、いつ聞いても心地の良い、お茶を注ぐ音。
ふんわりと香る、緑茶の匂い。
提督はうっとりしたような顔で見つめています。
「はい、どうぞ。熱いのでお気をつけて」
「いただきます」
2人並んで、ふー、ふー。
少しづつ、ずずず、と緑茶を啜ります。
まだ12月、ヒーターがあってもお店の中は冷えます。
ですが、それも温かいお茶を飲めば安心。
「ああ、あったかい……」
ほうっ、と息をつく提督。
私も同じく一呼吸。
「この鎮守府も、ずいぶん大きくなりましたね。食器の数もたくさんです」
「そうですね。最初は僕と鳳翔さんだけだったこの鎮守府も、今や寮が5つもある大きな鎮守府になって。人が増えるってのも楽じゃありません」
苦笑いしながらそう言う提督ですが、そのお顔はとても楽しそう。
私も釣られて表情が綻んできます。
そして、やっぱり私たちの提督は素敵なお方です。
提督は私たちのことを何のためらいもなく「人だ」と言います。
提督にそのことの素晴らしさが分からなくても、私たちには分かるのです。
「私は、今のここでの暮らしが幸せです。どんなものとも変えられないくらい。提督はどうですか?」
「もちろん僕だって幸せです。みんながいるだけで僕は頑張れる。みんなが笑ってくれるだけで、僕は努力できる。この鎮守府は、僕の宝物です」
「……」
提督の答えは、何となく予想は出来ていました。
もちろん嬉しいし、私だって同じ気持ちです。
けど、ちょっとだけ不服です。
「提督、みんなみんなって言いますけど……」
「はい?」
ああ、私ってなんて嫌な女なんでしょう。
「私のことも見てくださいませんか?」
「……」
提督は少し驚いたような顔をしました。
けれど、私だって何もせず提督にくっ付いていた訳じゃありません。
提督がここにきた時から、ずっとお側に居たんです。
もう少し構って欲しい。
「……はは」
「な、なんですか?」
恥ずかしいことを口走ってしまったと後悔する私の横で、提督はクスクスと笑い始めました。
「いや、鳳翔さんにもそんな可愛いところあるんだなって思いまして」
「ッ……!?」
不意に可愛いと言われ、そして再三自分の恥ずかしい言葉を思い出して私は顔が真っ赤になってしまいました。
どうしようもなくて俯く私の頭を、提督は優しく撫でてくれました。
そして提督はこんなことを言うんです。
「ちゃんと伝えられなくてすみません。でも、僕はちゃんと鳳翔さんのこと見てますよ。ずっと一緒に居るんですから」
手のひらから伝わる提督の体温。
言葉から伝わる提督の優しさ。
それらが私の心を暖めてくれます。
年下の男の子に頭を撫でられるなんて恥ずかしい経験ですが、これは病み付きになりそうです……。
そんな時。
ぐぅ〜。
「あっ」
提督のお腹が鈍い音を立てました。
「提督、お腹空いたんですか?」
「……すみません、実は宴会ではあんまり食べてなくて」
提督のことです、きっと艦娘のみんなに食べ物が行き届くように気を遣っていたら、自分の食べる分が無くなっていたのでしょう。
「ふふっ、仕方の無い人ですね。何か作りますよ」
「おお、ありがとうございます!」
分かりやすく明るくなる提督の表情。
提督はそういう性格なので、考えている事が顔に出るのです。
「今あるものだと……これと、これ……」
それでは、簡単にレシピを。
まず、お茶碗に7割ほどご飯を盛り付けます。
温かいものでも、冷たいものでも構いません。そこはお好みでどうぞ。
次に、ご飯の上に刻み海苔、天かす、鮭フレークを散らします。
これだけでも充分な味が出ますが、少し濃いめがいいという方はここで塩胡椒やお醤油を少し加えるといいでしょう。
あとは熱い緑茶を注ぐだけ。よくかき混ぜて、やけどに気を付けて食べましょう。
「はい、お待ちどうさまです」
「おお〜!」
提督ったら、目をキラキラさせて、まるで子供のようです。
こんな簡単な品でも、こうして喜んで貰えるとすごく嬉しく感じます。
「頂きます!」
ふー、ふー。ざくざく。もぐもぐ。
今回はお夜食ということで、味付けは鮭フレークだけ。
ですが充分な味は出ているようです。提督のお顔を見れば分かります。
天かすもいい具合に食感のアクセントになっているようです。
「うま〜……」
再びほうっ。
冬場に食べる温かいものって、どうしてこう美味しいのでしょうね。
少し経つとお茶の温度も適温に。
そうなったらあとは勢い良くかき込むのみ!
小さめのお茶碗はすぐに空っぽになりました。
「ご馳走様でした!」
「はい、お粗末様です」
ご飯粒の1つも残っていないお茶碗を軽く洗って片付けます。
その間も提督は湯呑みに注いだ緑茶の美味しさに浸っていました。
そんなこんなで、時刻はフタサンマルマル。
夜も更けてきて、提督も少し眠そうです。
「くあぁ……ふう」
「そろそろお休みになられますか?」
「そう、ですね……。明日も平日ですし、今日は寝ようかな……」
「今日も冷えますから、ちゃんと暖かくして寝てくださいよ?」
「は〜い……」
提督は目元を擦りながら店を出ていきます。
そんな後ろ姿を、少し名残惜しく思いながらは私は見つめるのです。
すると、提督が振り向いて一言。
「お茶漬け、すごく美味しかったです。また夜に、来てもいいですか?」
「はい、もちろんです」
即答で言うと、提督はまた嬉しそうな顔をしました。そして、軽く会釈をして鎮守府の自室に戻っていきました。
誰も居なくなったお店の中に、1人。
「よーし、明日も頑張るぞ!」
明日はどんなお客さんが来るでしょうか。