唯我独尊自由人の友達 IFルート   作:かわらまち

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気分転換での投稿です。
この話の倉持君はCクラス所属です。本編の彼とは性格が少し違うかもです。


椎名ひより√ 前編

 

 

 

 僕と彼女の出会いはありきたりなものだった。この学校に入学して、Cクラスに所属となった僕の隣の席が彼女だった。僕が窓際の一番後ろの席。その隣が彼女だった。漫画とかだと、いかにも何かが起こりそうな席だ。

 

 でも実際は何か起こるわけでもなく、最初に挨拶をしただけでそれ以来話すことはなかった。というのも、僕は中学の途中に高円寺と出会ってから今までの生き方を変えて、人と距離を取るようになっていて、高校に入ってもクラスメイトと深く関わったりしないようにしていた。

 そして彼女は基本無口でおとなしい。いつも本を読んでいて、周りに全く興味を持たない。最初のうちは見た目がかなり可愛いので、クラスメイトから声をかけられていたが、あまりに反応が薄いため、次第に声をかける生徒もいなくなっていた。

 

 そんな僕と彼女が話す機会がなかったことは必然と言えるだろう。僕も彼女もクラスメイトとは普通に話すが、友達と呼べる人はいない、一人でいることを好む不思議な人みたいな感じで浮いてしまっていたが、そこまで目立つ存在ではなかった。

 

 最初の3週間程はそんな感じだったのだが、ある出来事から僕たちは一目置かれるようになった。それは龍園翔がCクラスを支配しだしたときだった。龍園は力でクラスメイトを屈服させ、1ヵ月もしないうちに恐怖政治でCクラスを掌握した。

 

 しかし、その龍園を恐れない生徒が二人いたのだ。それが僕と彼女。そんな僕と彼女を恐怖で支配することを龍園は止めた。それは僕が龍園からの暴力や嫌がらせを全て躱していたからだ。何故だかそれで龍園に気に入られた。おそらく彼女も同じような理由だろう。

 

 こうして僕たちは龍園に意見できるクラスメイトとして一目置かれるようになった。

 

 意見できるといっても、僕も彼女もクラスのことには興味がないので好きにやってくれって感じだ。特に自分たちに害がなければ問題はない。この学校のシステムが知らされた後に、他クラスにちょっかいを出していたがどうでもよかった。

 

 まぁ、そんなことは置いといて、僕が彼女と話すようになったのはその立ち位置が定着し、中間テストが始まるころだった。

 

 

 

 

 

 

 

 僕はいつも通り、昼飯を学食で済ました後に図書室へと向う。図書室は教室などとは違い、静かで最高だ。そこで小説を読むのが僕の至福のひと時なのだ。

 何を読もうかと本棚を物色していると、ミステリーコーナーに見知った顔が見える。

 

「今日もいるんだな」

 

 視線の先には僕と同じクラスで浮いている女子。僕がここに来るときは必ずいる。一人で図書室に入り浸るなんて、ボッチ道まっしぐらだな。僕も人のこと言えないか。

 

 彼女を見かけたからといって話しかけたりするわけじゃない。僕は関わるつもりはないし、彼女もその気はないだろう。何故か本を出したり入れたりを繰り返しているが、僕には関係のないことだ。いつも通り横を通り過ぎる。

 

「むぅー」

 

 横を通ると、何やら本を持って唸っていた。それを見て足を止める。

 

「その本がどうかしたの?」

 

 なんとなく。本当になんとなく気になり、声をかけた。

 

「……」

 

 いつも眠そうな垂れた目がこちらに向く。目が合ったのは入学式以来だ。やっぱり可愛いな。おっとりとした小動物的な可愛さがある。しかし、返事がない。こちらをじっと見つめ、動かない。不審に思われているのか?そりゃそうか。今まで全く話さなかったクラスメイトがいきなり声をかけてきたら不審に思うわな。そう思ったら恥ずかしくなってきた。何故僕は声をかけたんだ。早急に立ち去ろう。

 

「邪魔したねごめん。それじゃあ」

 

 そそくさと退散しようとした僕だったが、その足が止まった。何かに引っ張られたからだ。後ろを振り向くと、本を片手に持ち、もう片方の手で、僕の制服の裾を握っている彼女がいた。身長差的に上目遣いになるため少しドキッとした。……嘘だ。少しではなくかなりドキッとした。

 

「すみません。今の今まで図書室で話しかけられたことが無かったので、驚いてしまいました」

 

「いや、急に声をかけた僕も悪いよ」

 

 彼女の返答に安堵する。不審に思われたわけでも、無視されたわけでもなかったようだ。

 

「それで、何か困りごと?」

 

「この棚の本を順番に並べていたのですが、一番上が届かなくてどうしようかと考えていました」

 

 その本を見ると、エラリー・クイーンの小説だった。なるほど、棚を作家名で並び変えていたのか。50音順だと、棚の一番上になるのか。それでどうしようかと唸っていたんだな。

 

「それなら簡単な解決方法がある」

 

「本当ですか?それはどのような方法でしょうか」

 

「こうすればいいよ」

 

 そう言って、彼女の手から本を受け取って、そのまま棚へと入れる。この位置で間違いないはずだ。ポカンとしている彼女に声をかける。

 

「自分より身長が高い人に頼めばいいんだよ。この場合は僕だね。簡単でしょ?」

 

「その発想は盲点でした。頭が良いのですね」

 

 これは褒められているのか、馬鹿にされているのか、どちらなのだろう。おそらくは前者なのだろうが。

 

「それじゃあ指示出しは頼むよ」

 

「えっと、よろしいのでしょうか?何か借りる本を探しに来たんじゃないのですか?返却と貸し出しの手続きなら受付で済みますし」

 

「そうだけど、構わないよ。偶には体を動かすのも悪くない。それにこの棚は僕もよく利用するから、整理されていたら嬉しいしね」

 

「そうですか」

 

「それじゃあ、始めよっか」

 

 視線を彼女から棚に向け、作業を始めようとする。しかし、それを彼女に止められる。

 

「待ってください。まだあなたにお願いしていませんでした。……この棚の整理を手伝ってもらえますか?」

 

「律儀だね。喜んで」

 

 こうして棚の整理が始まった。これが僕と彼女が仲良くなる最初のきっかけだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました」

 

「どういたしまして」

 

 お礼を言われるほどのことでもないが、素直に受け取っておく。

 

「見ず知らずの私を手伝ってくれるなんて親切な方ですね」

 

「そんなことは……って見ず知らず?」

 

「はい。初めましてですよね?」

 

「へ?」

 

「え?」

 

 互いに沈黙する。これはもしかしなくても覚えられていない?1ヵ月隣の席だったのに?そりゃ話す機会はなかったけど、顔と名前くらいは憶えられているものだと思っていた。地味にショックだな。

 

「もしかして初めましてでは……」

 

「うん、ないね」

 

「……もしかしてクラスは」

 

「同じだね。しかも隣の席」

 

「……話したことはありませんよね?」

 

「あることはあるかな」

 

 何とも言えない気まずい空気が流れる。彼女は一度俯き何かを考え、顔を上げる。その表情は何かを決意したようだった。

 

「冗談ですよー覚えていないわけないじゃないですかー」

 

「……えらく棒読みだね」

 

「そ、そんなことはないです」

 

「せめて目を逸らさずに言おうね」

 

「あう」

 

 何を言い出すかと思えば、まさかの知っているふり。しかしながら演技が下手過ぎた。怒りなんかより呆れが真っ先に出てくる。よくこれで乗り切れると思ったな。

 

「すみません。人の顔と名前を覚えるのは苦手でして」

 

「別に構わないよ。僕も同じようなもんだし。クラスメイトも数人しか分からないからね。さすがに隣の席の子は覚えていたけどさ」

 

「あうあう」

 

 まぁ、隣の席の彼女が変わっている子だったから覚えていただけだけどな。別に可愛かったから覚えていたわけではない。断じて違う。

 

 彼女と話していると、予鈴のチャイムが鳴る。もうそんな時間だったのか。

 

「とりあえず教室に帰ろうか」

 

「そうですね。授業に遅刻するのは良くないです」

 

 2人そろって図書室を後にする。本を読まずに終わった昼休みは初めてだ。至福の時間が潰れたのに不思議と嫌な気分にはならなかった。

 

 教室にたどり着き、席に座る。次の授業に間に合ったな。

 

「本当に隣だったんですね」

 

「疑ってたの?」

 

「そういうわけではありません……えっと、お名前なんでしたっけ?」

 

「結局、自己紹介してなかったね」

 

 入学式の時にしていて、僕の方は名前を憶えているのだけど、その辺は気にしないでおこう。

 

「改めて、倉持勇人です。よろしく」

 

「倉持くん、ですね。私は椎名ひよりです。どうぞよろしく」

 

 自己紹介をしたところで授業開始のチャイムが鳴り、先生が入ってくる。椎名さんは直ぐに前を向き、授業を受ける体制になっていた。

 

 

 椎名さんは僕が抱いていた印象とは少し違っていた。もっと他人に興味がなく、無口だと思っていたけどそのようなことはなかった。別に友達になったわけではないけど、少し繋がりができたことが嬉しく思えた。他人と距離を取ることを決めたはずなのに、そう感じたのは僕がまだ友達が欲しいと思っているからなのだろうか。

 

 

 

 次の日、登校すると椎名さんがすでに席に座っていた。声をかけようと思ったが、一心不乱に本を読んでいたのでやめておいた。彼女の様子を見る限り、物語が良い所なのだろう。僕が彼女の立場だったら、声をかけられて物語の世界から現実に引き戻されるのは嫌だ。

 それから、授業が始まり、次の休憩時間になっても椎名さんと話すことはなかった。

 

 別に椎名さんと僕の関係が変わったわけではないのだ。今まで通りお互い一人で教室の片隅で本を読んでいればいい。彼女もそう思っているんではないだろうか。

 

 

 しかし、そんな僕の考えは昼休みに壊される。学食に行こうかと思い席を立とうとすると、椎名さんが急に声を上げた。

 

「そうです。思い出しました」

 

「えっと、どうしたのかな?」

 

 恐る恐る話しかけてみる。すると椎名さんがこちらを向き、真顔で近くに寄って来る。

 

「倉持くんですよね?そうですよね?」

 

「そ、そうだけど……」

 

 すごい勢いで詰め寄ってきた椎名さんにたじろぐ。

 

「良かったです。ちゃんと思い出せました。昨日名前を教えてもらったのに忘れるなんて失礼ですから」

 

「もしかして、朝からそれを考えてたの?」

 

「はい。声をかけるのも名前を思い出してからじゃないと良くないと思ったので」

 

「そんなの座席表を見ればよかったんじゃ」

 

「それはダメです。倉持君のことは自分で思い出したかったので」

 

 柔らかい笑顔でそう言った椎名さんを見て、不覚にもドキドキしてしまう。昨日の今日で忘れる彼女に問題があるのだが、なんだか嬉しく感じた。

 

「それではいきましょう」

 

「はい?行くってどこに……ちょっ」

 

 椎名さんに手を握られ引っ張られる。それを見てクラスメイトがざわつく。マジで恥ずかしいぞ。しかし、椎名さんの方は特に何とも思っていないのか、思い出せたのがそんなにも嬉しかったのか、楽しそうに僕を引っ張って歩いていた。

 

 

「さぁ、着きましたよ」

 

「……ああ、そうだね」

 

「かなりお疲れのようですがどうかしましたか?」

 

「何でもないから、そろそろ離してくれないかな、これ」

 

 そう言って、未だつながれたままの手を少し上げる。これのせいでここに来るまでの間、好奇の視線を大量に浴びた。こんな可愛い子と手をつないで歩いていたら当たり前だろう。役得なのだろうが、その分疲労がたまった。

 

「すみません。忘れていました」

 

 椎名さんが繋いでいた手を離す。離してと言っておきながら、少し残念に思えた。椎名さんの反応を見る限り、やはり何とも思っていないのだろう。天然か?

 

「あまりむやみに男子と手を繋がない方がいいと思うよ。勘違いする人もいるだろうし」

 

「よく分かりませんが、こんなことするのは倉持くんだけなので大丈夫です」

 

「うっ」

 

 またもやドキドキさせられてしまう。僕しか男子の知り合いがいないからという意味だと分かってはいるが、それでも心臓に悪いな。

 

 これ以上この話をするのは意味が無いと判断して話を変える。

 

「食堂に来たってことは、昼ご飯を食べようってこと?」

 

「その通りです。昨日のお礼にご馳走します」

 

「それは悪いよ。そこまでのことはしてないし」

 

「いえ、労働には対価が必要です。私が倉持君にお願いをしましたので、お礼をするのは当然のことなんです」

 

「それはどうかと思うけど、分かった。ご馳走になるよ」

 

 椎名さんが引く気配が全く無かったので、厚意を受け取ることにする。そうじゃないと昼休みが終わってしまいそうだ。

 別に僕らの様子を見ていた他の生徒に痴話喧嘩と言われたりとか、手を繋いでいたところを見ていた男子生徒に殺意が込められた目で見られていたからではない。

 

「では、席に座りましょう」

 

「ちょっと待って。先に食券買わないと」

 

「そ、そうでしたね。えっと、これを押せばいいんでしょうか」

 

「まずは学生証をそこにタッチするんだよ」

 

 わたわたしながらも何とか二人分の食券を買い、トレイに乗ったご飯を受け取り開いている席に座る。いただきますをして食べ始めた。

 

「椎名さん学食は初めてでしょ」

 

「バレましたか」

 

「あれだけわたわたしてればね。いつもはコンビニ?」

 

「そうです。朝に買って教室で食べています。学食は興味があったんですが、最初からコンビニだったので利用する機会がなくて」

 

「それで僕をキッカケに利用したと」

 

「折角だったので……怒りましたか?」

 

 冗談で言ったのだが、椎名さんは僕が怒ったと思ってしまったみたいだ。

 

「こんなことで怒るほど器は小さくないよ。役に立てたようで良かった」

 

「ありがとうございます」

 

 僕が怒っていないと分かって、椎名さんの表情が柔らかくなる。

 

「この後は図書室ですか?」

 

「そのつもりだよ。椎名さんも?」

 

「はい。一緒ですね」

 

 そう言って微笑む椎名さん。それを見ていると何故だか僕も笑顔になった。

 

 

 それから、互いに読書好きということもあり、小説の話で盛り上がった。食事が終わった後も一緒に図書室に行き、予鈴が鳴るまで、本を隣で座って読んだ。

 

 この日だけの特別な時間だと思っていたのだが、次の日もその次の日も椎名さんに誘われ、共に学食で食事をしてから図書室で本を読んだ。いつしかそれが日常となっていた。

 

 そんな毎日が続き、気付けば1学期が終わり夏休みに入ろうとしていた。

 

 

 




本編の方も近いうちに更新します。
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