唯我独尊自由人の友達 IFルート   作:かわらまち

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この話は拙作【唯我独尊自由人の友達】11話『勉強会と後悔』から分岐したIFのお話になります。
簡単にいうと、中間試験の勉強会をしているさなかに櫛田桔梗が綾小路清隆を脅迫している現場に主人公倉持勇人が偶然遭遇してしまうところから始まります。

軽くキャラ崩壊しているかもしれません。8割方裏櫛田さんです。


櫛田桔梗編 前編

 

 

 とんでもないものを見てしまった。綾小路君が櫛田さんの胸を鷲掴みにしている現場を。二人は付き合っていたのだろうか。あれか、屋上へ上る階段で間違えて大人の階段を上ってしまった感じか?……僕は何を言ってんだ。落ち着け。

 

 あまりにも急な展開に一人困惑していると、二人の話声が聞こえた。まだ二人は僕に気付いてないらしい。

 

「あんたの指紋、これでべっとりついたから。証拠もある。私は本気よ。分かった?」

 

「……分かった。分かったから手を離せ」

 

「この制服はこのまま洗わずに部屋に置いておく。裏切ったら、警察に突き出すから」

 

 ん?どういうことだ?どうやら僕が予想していた甘いものではないようだ。今の話だけを聞くと、櫛田さんが綾小路君を脅迫しているようだ。胸を触らせてまで綾小路君に裏切らせないようにする理由は何だろう。何かしら悪だくみをしていて、協力関係にある綾小路君を絶対に裏切れないようにする。あるいは誰かに見られて不都合なものを見られたがための口止めか。

 

 何を真剣に考えているのだろう。すぐに考察にふけってしまうのは僕の悪い癖だな。僕には関係のないことだし、関わるとロクなことがなさそうだ。気付かれないうちに退散しよう。

 

 そう思い足を踏み出した瞬間足がもつれてしまう。何でこんな時に足がもつれてしまったかは僕には分からない。僕の運動不足なのか、緊張してうまく動かなかったのか、はたまた神様のいたずらなのか。ただ分かることは、ここで転んでしまったら絶対にバレる。そう思い、なんとか転びそうになるところを耐える。しかし、耐えた時に足を地面に強く踏み込んだため、静寂に包まれていた校舎にドン、と音が鳴り響いた。恐る恐る二人の方を見てみるとこちらをかなり驚いた表情で見ていた。

 

「……倉持くん?」

 

「あーその、えっと、僕は何も聞いてないので……さようなら!」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 一目散に逃げた。関わると絶対に面倒くさいことになる。櫛田さんの制止の声に目もくれず、その場を立ち去った。とにかくここを乗り切ればどうにかなる。そう思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。どうにかなるはずもなく、櫛田さんは僕の部屋に訪れていた。そりゃそうだろう。この学校で生活している以上、逃げ場なんてどこにもない。追い返すわけにもいかないので、とりあえず部屋に上げてコーヒーを入れる。どうでもいいが、何故櫛田さんは風呂上りで来たのだろう。何にせよ早くおかえりいただくようにしよう。

 

「それで話って?」

 

「今日の放課後の事だけど、私たちの話聞いちゃった?」

 

 随分単刀直入に切り込んできたな。僕としては早く終わらせたいから助かる。その質問の答えはもう考え済みだ。

 

「さっきも言ったけど、僕は何も聞いてないよ。まぁ、綾小路君が櫛田さんの胸を触っているところは見ちゃったけどね」

 

「やっぱりみられちゃったよね」

 

「うん、ごめんね。でも安心して。僕はこう見えて口が堅いから」

 

「え?」

 

 ここで大事なのは相手にペースを握られないことだ。特に櫛田さんは自分のペースに持ち込むのが凄くうまい。だからこそ自分のペースに持ち込んで早急に話を終わらせるのが一番ベストなやりかただ。

 

「二人がそういう関係だってのは絶対に言わないから」

 

「え?ちょ、ちょっと待って。私は別に綾小路君とは……」

 

「みなまで言わなくても大丈夫。僕は全部理解しているから。やっぱり付き合ってるってばれたら恥ずかしいもんね」

 

「いや、だから……」

 

「心配なら一筆書いてもいい。二人が付き合っているのは他言しないってさ」

 

 僕は櫛田さんと綾小路君が付き合っていると確信している。そう櫛田さんに思わせるだけでいい。そうすれば相手にとっても都合がいいはずだ。本当は脅迫していたとしてもそれがばれている気配が全く無ければ、わざわざ否定する必要は櫛田さんには無いはずだ。僕の口封じをする手間が省けてよかったじゃないか。だからさっさと出て行ってほしい。

 

「別に付き合ってるわけじゃないの!あれは綾小路君が無理やり触ってきただけで」

 

「へ?」

 

 何故この女は否定する?僕の勘違いを肯定しておけばそれで済む話だろ。こいつは常に仮面を被って善人を演じ切るほどには頭の良い奴だ。だからこそ否定するメリットがないことは分かっているはずだ。それでは何故否定した?綾小路君と付き合っていると思われるデメリットの方を回避したということか?

 

「無理やり?」

 

「そうなの。綾小路君に弱みを握られてそれで……」

 

 そう言って櫛田さんは泣き出し、僕の胸に抱き着いてきた。もちろん嘘泣きだ。少し観察すれば僕には分かる。だがそうまでして綾小路君と付き合っていると思わせたくない理由が分からない。

 

 いや、違うな。僕には分かるはずだ。何故ならこいつは昔の僕だから。誰からも好かれようと善人の仮面を被り生きる。自分を殺し、自分の存在意義を実感する。それが今の櫛田さんであり、昔の僕だ。だから僕はこいつが()()なのだ。

 

「もうやめにしよう」

 

「え?」

 

 僕の胸に顔をうずめていた櫛田さんがバッと顔を上げて僕を見上げる。先程まで泣いていたのが嘘のように涙は止まり、その表情は困惑に染まっていた。それを僕が見下ろす形になり、自然と顔が近くなる。こう見ると顔は可愛いんだよな、なんて場違いなことを考えてしまう。

 

「綾小路君が彼氏だという噂が流れれば、クラスの男どもは君に興味を無くすかもしれない。そうなると、誰からも好かれるように努力してきたことが無駄になってしまう。そういうことか」

 

「倉持くん?何を言ってるの?」

 

「もうそういうのはやめにしよう。綾小路君が櫛田さんの胸を触っていたのは、君が無理やり触らせたんだ。おそらく君の本性を知られたがための口封じと言ったところだろう」

 

「な、何でそれを」

 

 僕に抱き着いていた櫛田さんは驚きとともに僕から飛び退く。どうにか誤魔化してやり過ごそうと思ったんだけどやめた。これから先、櫛田さんを見るたびにイライラするのは嫌だから。

 

「君の裏の顔なんて最初から分かってるよ。君みたいなやつを僕はよく知っているからね。だから仮面を外してくれないかな。見ていてイライラする」

 

「……ふーん、それがあんたの本性ってことね。私と一緒で仮面を被ってたんだ」

 

 櫛田さんは観念したのか、いつもの口調をやめ、少し荒々しい口調に変えて話し出した。

 

「あんたも仮面を被ってたなんて気づかなかった」

 

「それは櫛田さんは隠すのが下手で僕は上手だったんじゃないかな」

 

「自分がカッコいいと思ってお高く留まりやがって」

 

「そんなこと思ったこと無いけど、櫛田さんからは見た僕はカッコいいんだね。ありがとう、全く嬉しくないけど」

 

「マジでウザい、ムカつく」

 

「それはお互い様だよ」

 

 もう本性を隠そうともせずに僕を睨んでくる。僕はその視線を正面から受け止める。何故か視線を逸らしたら負けな気がする。

 

「私の本性をみんなに言い触らすつもり?」

 

「そうだと言ったらどうするのかな?」

 

「今ここで叫んであんたにレイプされそうになったっていうわ」

 

 そう言って少し服をはだけさせる。なるほど、こう言って綾小路君に胸を触らせて脅迫したのか。

 

「やめておいたほうが良いと思うよ」

 

「何?命乞い?それならもっと態度で示したら?」

 

「はぁ、君は追い詰められたら判断力が鈍るタイプみたいだね」

 

「どういう意味?」

 

 絶対的に優位な位置に立っていると勘違いしている櫛田さん。だけど僕がそのくらいのことを想定していないわけがないだろ。

 

「これ、学校から支給されてる端末なんだけどさ」

 

「それがなに」

 

「実は色々な機能があってさ」

 

「だから何だって聞いてんだよ」

 

「その中の一つで録音機能ってのもあるんだよね」

 

「……あんたまさか」

 

 櫛田さんの表情が焦りのものに変わる。相手にそんな顔を見せちゃいけない。やはりまだまだだな。

 

「つまり、叫ぶのは止めといたほうが良いってこと。それでもやるっていうのならお好きにどうぞ」

 

「……ちっ」

 

 この子露骨に舌打ちしたよ。いくら本性がばれたからって見る影もないな。櫛田さんはもう勝ち目がないと悟ったのか、床にへたり込んだ。

 

「もういい、好きにすれば?言い触らしたければ言い触らせばいい」

 

「別に言い触らすつもりなんて最初からないよ」

 

「は?だってさっき」

 

「言い触らすって言ったらどうするかって聞いただけ。言い触らして僕に何のメリットがあるっていうのさ」

 

 言い触らす気なんて毛頭ない。今のクラスをまとめているのは間違いなく洋介と櫛田さんだ。その櫛田さんがいなくなってしまえばクラスはバラバラになってしまう。わざわざそんな道を選ぶ意味はない。

 

「じゃあ、どうする?弱みを握って私をどうにかするつもり?」

 

「櫛田さんの身体なんかに興味はない」

 

「あんたそれでも男なの?」

 

「どんだけ自分の身体に自信があるんだよ」

 

 たしかに櫛田さんのスタイルはすごくいい。出るところは出ているし、引っ込むところは引っ込んでいる。けど、それをどうこうしたいなんて感情は全くない。

 

「結局あんたは何がしたいわけ?」

 

 少し呆れたような表情をしながら僕の真意を探る。何で僕が面倒くさいやつみたいになってるんだよ。

 

「僕がしたいのは協定を結ぶこと」

 

「協定?あんた頭大丈夫?」

 

「男に平気で胸を触らせるやつよりかは大丈夫なつもりだ」

 

 そう言った直後に頭を思いっ切り叩かれた。こいつ今の自分の立場分かってんのか?

 

「バカ言うからだよ!」

 

「事実じゃんか」

 

「あれは一瞬パニックになって……それで慌てて……」

 

 顔を赤らめて俯きもじもじする。強気な口調とのギャップに不覚にも可愛いと思ってしまった。これが演技なら大したもんだ。

 

「この話はいいだろ!協定ってなに?」

 

「簡単な話だよ。僕にその仮面をつけてあまり話しかけないでほしい。要するに僕に構うな。その代わり僕は櫛田さんの邪魔をしない。君がクラスの皆に好かれるために何をしようが僕は一切口を挟まないし手も出さない」

 

「……それだけ?」

 

「何か不満かな?」

 

「そう言う訳じゃないけど、もっと酷いのを想像してたから拍子抜けというか……そうまでして私に関わりたくない理由って何?」

 

「君が嫌いだから。といっても君自身が嫌いなんじゃなくて、君を見ていると似ている奴を思い出すから嫌なんだ」

 

 別に僕は櫛田さんが嫌いなわけではない。でもどうしても櫛田さんの仮面を見ていると昔の自分を思い出して黒い感情が内側からあふれてくるような感覚に陥ってしまうんだ。

 

「なにそれ、完全にあんたの都合じゃん」

 

「ああ、そうだよ。でもそれを言っておかないと君は僕にもその仮面を向け続けていただろ?そうなればいずれ僕はそれに耐えきれなくなって君を壊してしまうかもしれない。まぁ要するに完全にこっちの都合だよ」

 

「……そんなにその似ている人ってのが嫌いなの?」

 

「うん、世の中で一番嫌い」

 

 僕はボクがこの世で一番嫌いだ。この先もそれは変わることはない。結局僕は過去に縛られて生きて行くのだろう。

 

「わかった。その協定に従う」

 

「櫛田さんにはそれしかないと思うけど」

 

「うるさい。でも全く喋らないって訳にはいかない。あんたと仲が悪いって思われたら色々と大変だし」

 

「それもそうだね。普通にクラスメイトとしてかかわる分には何も言わないよ。過度に接してこなければそれでいい」

 

 同じクラスで3年間過ごす以上全く話さないのは無理がある。誰とでも分け隔てなく話す櫛田さんであればなおのことだ。

 

「よし、協定は成立って事で、これはもういらないね」

 

「は?何やってんの」

 

「何って、録音データを削除しようと思って」

 

「それを消したら私が協定を守る理由がなくなるけど?」

 

 櫛田さんが心配しているのはそのことか。それなら問題ないだろう。

 

「協定に大事なものは信用だと思うんだ。櫛田さんは協定に従うって言った。だから僕はそれを信じる。それに僕がこのデータをずっと持っていたら櫛田さんは僕の事信用できないでしょ?」

 

「はぁ~、あんた頭が良いのかバカなのかどっちなの。もう好きにして」

 

 盛大に溜息をつかれた。特におかしなことを言ったつもりはないんだがな。とりあえず了承?も得たので録音データは櫛田さんの目の前で削除した。

 

「じゃあ叫ぼうかなっ」

 

「ご自由にどうぞ」

 

「……扱いが雑すぎだろ」

 

「もう話は終わったからね。協定を守ってさっさと部屋に帰ってくれ」

 

「はいはい、分かりましたー」

 

 ふてくされながらも立ち上がり、玄関へと向かう。そのまま出て行くと思われたが、不意にこちらに振り返る。

 

「倉持くん、一つ言い忘れてたんだけどね」

 

「ん?」

 

「私も倉持君のこと大っ嫌いだから!それじゃあまた明日!ばいばいっ」

 

 いつもの口調に戻った櫛田さんはすごくいい笑顔でそう言って部屋を出て行った。何だか胸のあたりがモヤモヤしたが、そんなことはどうでもいい。これで明日から平穏な学校生活を送ることができる。その安心感からか、急激に眠気が襲ってきた僕は布団に入り眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝、晴れやかな気分で学校に向かった僕はすぐに思い知ることになった。櫛田桔梗という女は一筋縄じゃいかないのだと。

 

 

「倉持くん!おはよっ」

 

「……おはよう」

 

「今日はいつもより早いんだね。何かいいことでもあったの?」

 

「別にそう言う訳じゃないよ。偶々早く目が覚めただけ」

 

「あーあるあるっ。二度寝するには微妙な時間に起きちゃったり」

 

「う、うん」

 

 こいつ協定のこと忘れたのか?でも朝の挨拶ついでに軽く話すくらい普通のクラスメイトとの会話か。過度に関わってきてるわけでもないしこれで文句を言うのもあれだな。

 

 しかしこれだけに留まらなかった。櫛田さんは休憩時間や授業のペアづくりなど事あるごとに僕に話しかけてきたのだ。そして昼休みになっても僕の所に櫛田さんはやってきた。

 

「よかったらお昼一緒にどうかな?」

 

「……おいちょっと」

 

 そう言って櫛田さんを手招きして顔を近づけさせ、小声で話す。無駄にいい匂いがするのが腹立つ。

 

「協定のこと忘れたわけじゃないだろうな」

 

「もちろん覚えてるよ」

 

「じゃあなんで今日はこんなに絡んでくるのさ」

 

「え?でも普通にクラスメイトとしてかかわる分には何も言わないんだよね?」

 

 確かにそう言ったがこれは明らかに普通ではないだろ。こいつまさか……。

 

「私ね、あれだけ面と向かって嫌いって言われたの初めてなの。だから私は倉持くんが嫌がることをしようと思ったんだ」

 

「だからって協定違反だろ」

 

「だから、クラスメイトとして()()()()()()分には何も言わないんでしょ?これが私のクラスメイトに対する()()()()()()だから」

 

「過度な接触はしないようにとも言ったはずだけど」

 

「全然過度な接触はしてないよ。倉持くんが意識しすぎてるんじゃないかな」

 

 悪魔のような笑みを浮かべる櫛田さん。僕はこの女をなめていたのかもしれない。昔の僕と似ているのであればこれくらいしてきてもおかしくはない。むしろやるだろう。時折見せる隙のようなものに惑わされたのか。

 

「男に胸を触らせたことを言ったら赤面したのも作戦のうちだったのか」

 

「そ、その話は忘れろ!赤面もしてないっ」

 

 あれ?素に戻っているところを見ると、どうやらあれは演技ではなかったらしい。

 

「と、とにかく、私はこれからも普通に倉持くんと関わって行くね。改めてよろしくっ」

 

 僕の平穏な学園生活はこうして崩れて行ってしまうのだった。

 

「やっぱり僕は君が嫌いだ」

 

「私も倉持くんが嫌いだよ」

 

 

 




キャラ崩壊タグ付けるか迷います。そこまで崩壊はしてないとは思うんですが……。

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