「エリカ〜。機嫌直そうよ」
襲撃後、何事もなく午後の授業は進められた。放課後になりクラスメイトが教室から去っていくと、達也はエリカの機嫌がどんどん悪くなっていくのを感じていた。
翌日になってもエリカの機嫌が治ることは無く、休み時間は机に突っ伏している事が多い。いつもは元気な彼女だが、まさかここまで引きずるとは思わなかった。
彼女の機嫌を直そうと、幹比古が机の所まで行って話しかける。
「七草先輩も言ってただろ?謎の集団が近づいてきてたって。多分リーナかパラサイトの仲間だったんだよ。あの時はリーナを解放するのが正解さ」
「そりゃそうだけど・・・・・・」
「幹比古の言う通りだ。まぁリーナが白だとは思っていないが、パラサイトの件が続けば必ずどこかでぶつかるだろう。その時は叩き潰す」
「・・・そっか」
ただならぬ自信を持つ達也に感化されたのか、エリカの機嫌は少しだけ良くなる。
同時に、彼の殺気立った雰囲気に当てられたクラスメイトの気分は微妙なものになってしまった。これは仕方がない。
「仮にリーナが工作員だとすれば今回の任務は失敗に近い。深雪に負けた上に知り合いがパラサイトだったのだからな。今頃詰められているんじゃないか?」
達也としてはエリカを励ますような事を言ったつもりだったが、実際のところどうなのだろう・・・・・・。
♢ ♢ ♢ ♢
「これより査問会を始める」
日本の某所・・・まぁUSNA軍の関係施設ではあるのだが、それは日本国も把握できていない秘密の場所だ。
そこではリーナは学校を休まされ、建物の一室、そのど真ん中に座らされてた。周囲は警備兵がいる他、リーナを囲うように数段高い位置には軍の高官が座っていた。
「それで?報告によるとシリウスともあろう者が高校生に手も足も出ずパラサイトを奪われたと」
「しかもパラサイトの1人は貴官と親しい仲のオペレーター。なぜ気が付かなかったのかね」
「左様。死者も出ておるし、これ以上損害を増やす訳にはいかん。現場はわかっておるのかね」
ネチネチとリーナに小言を言う高官達。
そもミカエラを選んだのは自分らではないか。百歩譲って見抜けなかった自分にも非はあると思う。ただ全ての責任を擦り付けるような言動はどういう事だろうか。
一応軍の高官なのだが、現場を知ることもなく、尻で椅子を磨くような連中だ。叩き上げの軍人からも評価は低い。
リーナは真面目に聞いているフリをしているものの、内心かなりキレていた。
「まぁ誰がパラサイト化しているなどわかるはずもないがな。一応感染者に付けられた痕がないか確認すべきか?」
「うむ。少佐もミカエラとやらと長期間生活していたようだしな」
これを聞いて「何を言うんじゃこのセクハラ親父!」と噴火しなかった自分を褒めたいリーナ。若干座っていた椅子から立ち上がりそうになったが、それを止めるように、彼女の肩に手を置いた者がいた。
誰であろう、リーナの上司であるヴァージニア・バランス大佐だ。本来この場にいるべき人間ではないのだが、部屋の外に立つ兵士を視線だけでねじ伏せて入ってきたのだ。
「お待ちください」
「大佐か・・・関係者以外の立ち入りを禁止していたはずだが?」
「私は彼女の上司ですよ。それで発言してもよろしいか?」
彼女も相当な苦労人なのだろう。見た目より実年齢は若い方だが、その経験値は同年代のそれより遥かに上回る。
役所はUSNA統合参謀本部内部監察局第一副局長。まぁ言うところの軍警察のナンバーツーなのだ。
一応この場にいる権利はあるのだが、やはり女性という事もあり、一部将校から差別的な意識を持たれている。
それでもバランス大佐を排除しようとは思わない。彼女の恐ろしさを知っているからだ。
「かまわんよ」
「今回彼女に与えられた任務は、彼女だからこそ遂行できると上層部が判断し、下令したのです。責任の話をするのであれば私や本部が先ではないでしょうか」
リーナに命令を下したのは軍上層部。表には出せない任務だとしても、記録には残っている。この面で彼女を査問するのは難しい。
「ですが、魔法戦闘でシリウス少佐が敗れた事は問題です」
「それはそうだとも」
無論バランス大佐はリーナを完全には庇わない。日本の高校生に負けたという事実で査問を再会させた。セクハラ紛いの言動は止んだが、リーナは悔しさで泣きそうになってくる。
スターズ総隊長シリウス。この肩書きには常に【最強】という称号が付く。昔も、今も、そしてこれからも。
今回はその不敗の歴史が途切れた事が問題なのだ。深雪との戦いは達也に強制終了されたが、リーナ自身は「負けた」と思っていた。
「シリウス少佐の報告によれば、あの場にはジュウモンジとヨツバがいた。これは事実か?」
「事実です。さらにシリウス少佐が敗北したミユキ・シバもいました」
「皆高校生なのだろう。現役の軍人ではなく」
「その通りです」
「【極東の魔女】の息子か・・・・・・忌々しい」
極東の魔女、言わずもがな真夜の事だ。
いくらこの高官共が愚かでも、四葉家の事を知らない訳ではない。彼らは圧倒的なキルレシオで一国を壊滅させてしまった家なのだから。
バランス大佐もリーナや諜報員からの報告で真夜の跡を継ぐ予定の智宏の実力は侮るべきではないと判断していた。今回USNAが関与している事がバレてしまったため、警戒される事は間違いない。
「行動に支障は出るでしょう。ただ、シリウス少佐は忠実に任務を遂行していますし、これまでも確実に感染者を処分しております」
「しかし今回の敗北や少佐の精神状態に不安が残る。どうするつもりかね」
「簡単な話です。私が東京に残り直接指揮をとります」
バランス大佐の言葉に高官達のざわめきはなかなか止まらなかった。
「少佐。次は勝てるな?」
「もちろんです!」
上司の問いにリーナはすぐさま答える。彼女にもスターズ総隊長としてのプライドがあった。無様な幕引きは許されない。
バランス大佐はリーナの真剣な眼差しに頷くと、手に持っていた大きめなケースを彼女に手渡す。
「少佐。これを」
「これは・・・まさか!」
「そう、ブリオネイクだ。本部長の許可も得ている」
この部屋にいる者はそれが何かわかったらしい。バランス大佐の言葉に納得がいったようだった。
結果として、バランス大佐の登場により査問会は中止となった。この件については一旦凍結。後回しにとする事に。
2人が部屋から出ると、そこにはシルヴィアが出迎えてくれた。
「シルヴィ!」
「リーナ・・・いえ、総隊長。申し訳ございませんでした」
リーナは突然頭を下げるシルヴィアに驚愕し、しばらく言葉がでなかった。少し前まであんなに砕けた様子で話していたのに・・・・・・。
「え・・・え?何を言い出すのですか」
「私がもっと情報を集めていればこんな事には・・・・・・今回の件で参謀本部より命令がありました。お別れです、総隊長」
「お別れ・・・?本国に帰還するの!?」
いきなりの事にリーナは頭が追いつけず、つい素の言葉が出てしまった。
命令とはいえかなり急ではないだろうか。
「昨日の検査で私は感染の恐れありと診断されました」
「そんな!あれがウイルスでない事くらい上も知っているはずですよ!」
リーナは隣に立つバランス大佐に詰め寄るように近づきそう訴えた。シルヴィアが感染の恐れありなら自分だってそうなのだ。
「仕方の無い事なのだよ。作戦失敗の責任は誰かが取らなくてはいけない。だが君を外す事は不可能。よってマーキュリーが帰還する」
「・・・・・・私の任務遂行のための生贄という訳ですか」
「そうだな」
これは自分のせいなのだ。
深雪に正面から敗北してしまった実力不足のせい。
パラサイトに気が付かなかったせい。
シルヴィアに迷惑を掛けた理由はいくらでも見つかってしまう。
己の不甲斐なさにうっかり涙が出てきてしまうリーナ。バランス大佐もこればかりは咎めなかった。
「総隊長・・・いえ、リーナ。泣かないでください。お寝坊さんな貴女を置いていくのは不安ですけど、祖国で任務成功を願っています」
「ありがとうございます、シルヴィ。でも寝坊したのは1回だけじゃ?」
「「・・・・・・・・・」」
「スミマセン。気を付けます」
―四葉家分家・黒羽家所有のホテル―
黒羽家。
この家は他の分家よりも大きな役目を負っている。それは宗家の裏の仕事を一手に引き受け処理しているのだ。
これは現当主の黒羽貢の忠義が厚いことが原因。心酔している・・・というよりは真夜の恐ろしさを良く知っているからだろう。
ただ黒羽家も裏の仕事ばかりではない。表の仕事もある。
貢はその仕事をホテルのロビーでこなしていると、秘書が携帯端末を持って近づいてきた。彼が持っているのは外部から貢に接触する時に用いられる物で、基本的に秘書を通して情報が入る。
ただ、今のように秘書がかかってきた電話をそのまま貢に渡す事は無い。彼にもそりなりの能力や権限はあるのだ。
となると秘書の身では対応できない相手だろう。
一体誰が・・・と思いながら携帯端末を受け取る。
その時貢は秘書か震えている事に気が付いた。彼がここまで怯える相手。それは1人しかいない。
「私の秘書をからかうのは止めていただけませんか。真夜さん」
『あら。そんなつもりはなかったのよ?』
いくら秘書も四葉家関係者でも、いきなりの当主からの直通電話は荷が重い。
さらに真夜の冗談は冗談に聞こえない。
例えば・・・
――あの研究施設、人が足らないって言ってるの。
こんな事を言われてしまっては恐怖で正気を保っていられない。無論本当に異動する訳ではないが、これまでの事を考えれば
言うなれば、真夜の自業自得だ。
というかなぜここにいる事がわかったのだろう。表の仕事は公開しているとはいえ、常時その場所にいるとは限らないのに。
「それで何用でしょうか。真夜さん」
『パラサイトの宿主特定はどうなりました?』
「総勢12体。内5体は消されていますので、残るは7体です。もちろん所在は確認済で監視もつけています」
『さすがですね、貢さん』
受話器の向こうで真夜が上機嫌になっている事がわかる。ここまで機嫌が良くなると使用人達が別の意味で心配するが、まぁそれはいいだろう。
『さて』
だが、一変して真夜の様子が冷たいものになる。これこそ極東の魔王に相応しい。貢は畏れを感じると共に、忠誠心が溢れ出しそうになる。
『スポンサーからの連絡です。宿主を消しなさい』
「・・・・・・捕縛のはずでは?」
『これ以上首都を汚されたくないようです。ただし、宿主から抜け出したパラサイトの情報を全て収集してからです』
「では明後日までにお時間をいただきたく」
『わかりました。処理が完了したら連絡してください』
そう言って真夜からの通話が切れた。
貢はため息をついて椅子の背もたれに身体を預ける。急な命令変更はよくある事だ。だからそれに不満があるわけではない。
ただ、今回の命令は通常より難しいだろう。部下にもかなりの消耗を強いるかもしれない。
情があると言うよりかは、貴重な人員を失いたくないという気持ちが大きい。
まぁ真夜直々の命令だ。
期限も決めているしとりあえず動くか、と貢は携帯端末に手を伸ばした。
パラサイト抹殺命令が出た事を知らない智宏達は、八雲の下で修行をしていた。時間が無い中でどこまで対抗策を身につけられるだろう。
達也から修行に誘われた智宏は、ジャージ姿で達也と並び情報次元に存在する情報体を攻撃しようとする。
「・・・・・・これ、無理でしょ」
「・・・・・・くっ」
「はっはっは。さすがの君達でも苦戦してるねぇ」
2人は魔法を情報次元、つまりパラサイトが存在する次元に放とうとしているのだ。しかしこれが上手くいかない。無駄にサイオンを消耗するだけだった。
いきなりの事だったのにも関わらず協力してくれた八雲に関しては、相も変わらず飄々としている。正直真面目に取り組んでいるとは思えない。
これには深雪もジロリと八雲を睨みつける。この視線を受けてしまえば大抵の者は竦んでしまう(一部狂喜する者もいるだろうが)。
八雲は両手を上げて降参のポーズを取る。無論いつもの事なので慣れたものだ。
「ま、3日で情報次元に攻撃を当てられただけでも凄いんだよ?本来ならのんびりやっていけば・・・と言いたいところだけど」
「ええ。時間がありません」
「スターズとパラサイト。両方を相手にしなければいけないのがつらい所だよな」
汗だくになり地面に座り込む智宏と達也。珍しく消耗しており、八雲の弟子も難しい顔をしている。
ただのヒトであるならば如何様にもできるのだが、まず情報次元に攻撃を送れるようにしなければならず、かなりの訓練が必要だ。
多少力技ではあるが、無理にでもこの2人を対応できるよう仕上げた方が良い可能性もある。
「事態は切迫している。これ以上国民に被害が出ないよう僕も協力しよう」
「「はい」」
「まぁ君達は1人じゃない。しっかり協力すれば負担は減るかもね」
そう。
パラサイトに対抗するのは1人ではない。智宏が、達也が、深雪がおり、友人達も手伝ってくれるだろう。
また、それぞれが別に動くのではなく、パラサイト無力化という目標を掲げ1つにまとまる必要がある。全員の力が必要だ。
それに相手はパラサイトだけではない。他の国内勢力やUSNAがいる。
ここからが正念場だ。
100話突破しました!
この小説を書き始めてかなりの時が経ちました。
初めてハーメルンに投稿したのは10年くらい前なのですが、行き詰まったりして作品を消す事もありました。
今回は初めて100話目に突入する事ができ、よくここまで続いたなと思います。
これまでの反省点として、1話に物語の量を詰め込んだ分、所々説明が足りなかったりする箇所もありました。
今後はそういった所に注意し、オリジナル要素と原作が分離しないよう書いていこうと思います。
まぁ他の2作品と同時に進めているのも原因かもしれないんですけどね。ただ1作品だとモチベーションが・・・ね。
ただ最近は執筆欲があるらしく、他作品も含め執筆スピードは上がっております。
モチベーションが下がりきらない限りはできるだけ投稿をしていきたいとと思いますので、今後もよろしくお願いします。