四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第101話 反魔法師メディア

 

 

 

 リーナの査問会が終了してから数日後、USNAのメディアからパラサイトに関するニュースが放送された。

【パラサイト】といった名称は伏せられ、多少脚色されてはいるが、多方の情報は誤ったものではなく、真実に近い内容だった。

 

 智宏は達也からのメッセージを見て、朝のニュース番組の中から、USNAのニュースを選んだ。現代のテレビは自動翻訳機能が追加され、字幕でなくとも不自由な海外の情報を得ることが出来る。

 まぁ最低限の英会話はできないとこのご時世やっていけないので、忙しい朝を除いて、智宏は基本的に字幕機能を使い視聴していた。

 

 今回のニュースでは、気の強そうな女性アナウンサーがパラサイトについてしっかりとした口調で原稿を読み上げている。

 

 要約するとこんな感じ。

 

 合衆国政府は昨年に日本が朝鮮半島で使用した2つの戦力級魔法に対抗すべく、軍の魔法機関に対抗手段の開発を命じた。

 軍の魔法師達は科学者が止めたにも関わらず【マイクロブラックホール生成実験】を強行。次元の壁に穴を開けた。魔法師達はデーモンを召喚し、使役する事で日本軍に対抗しようとしたのだ。

 しかし、デーモンは魔法師の支配下から離れ、彼らの身体を乗っ取ってしまった。それにより、民間人だけでなく関係のない軍人までも犠牲が生じた。

 今回の強行された実験で、無謀だとわかっていたはずなのに魔法師達を止められなかった事、軍人が守るべき市民に危害を加えている等の不祥事があった事は明らかだ。

 根本的に魔法師という存在をコントロールできていない上層部に問題があると思われるが、そもそも魔法師の力を使う事が国益に適うのだろうか。

 

 ニュースはそう締めくくられた。

 直接口にはしてないが、魔法師排斥を目論む人間がいる事は間違いない。

 ニュースを見る智宏の表情は硬い。彩音は心配そうな顔で主の方を見る。

 

「智宏様・・・・・・」

 

「まったく嫌になる。そんなに魔法を使う者が怖いのか」

 

「日本でも魔法師排斥の動きは少しずつ出てきています。もし未成年が襲われたら」

 

「どの国にも強硬派はいる。ただ下手に手を出せば俺達の立場は危うくなる。やっかいだな」

 

 いつの時代も差別は無くならない。未だに人種差別もあるが、そこに魔法師と非魔法師の対立も加わってくるとややこしい。

 かつてヨーロッパでは【魔女狩り】と称して数々の犠牲者を生んだ事件もあったが、本当の魔女狩りが発生する可能性がある。

 

 状況を把握して冷静に対処できる学生ならいいかもしれない。だが被害者が内気だったり勝気だったりすれば、強硬派がますますヒートアップするだろう。

 

「母上に警戒を促そう。とっくにわかっているだろうけどね。じゃあ彩音」

 

「はい。私の方から葉山さんに連絡しておきます」

 

「よろしく」

 

 実家への連絡を彩音に任せ、智宏は学校へと向かう。途中、一応ネットの反応も確認した。

 USNAの報道で国内でも魔法師排斥派閥の人間が活発化してきている。無論魔法師に寛容な人間もいるが、声が大きいのは前者の方だ。

 

 魔法師の権利をある程度制限する、国防軍における魔法師部隊の解散等、ひどいものでは魔法師の親類縁者含む、全ての者の隔離及び監視をすべきという案もあった。

 これに対して賛否両論の意見がSNSで賑わっているが、現在は排斥派閥が有利だ。

 

(まずいな・・・・・・予想以上に動きが早い。生徒会とか風紀委員会にも言っておくか)

 

 そう考えていると、第一高校まで一本道の坂の下にたどり着いた事に気がつく。

 そこでは知った顔の人物が自分を見ているではないか。

 

「あ、リーナ。おは――」

 

 目の前にいたのはリーナ。

 智宏は普通に挨拶をしようとしたが、強ばった顔でリーナは脱兎のごとく逃げ出した。高校の方に。

 

「ちょっ、待って」

 

「なんで来るのよーっ!」

 

「逃げるからだろ!?」

 

 魔法を使うまでもなく、智宏はリーナに追いつき電柱の所に追い詰める。

 数日学校に来なかった理由を聞きたかっただけなのに、顔を見ただけで逃げられるとは心外だ。確かに同世代と比べれば智宏は大人びているが、克人ほど強面ではない。

 

 ここは通学路だが、2人は突然の事にそこまで気が回らなかったのだろう。発する声も大きく、周りには痴話喧嘩のように受け取れた。

 この国で昔トレンドに乗った壁ドンではないが、似たようなスタイルで智宏はリーナを捕まえた。

 

「なんの用よ」

 

 リーナは自分を守るように腕で身体を隠す。何か変な事をするわけではないのだが・・・・・・。

 

「挨拶しようとしたんだよ。何があったのかは聞かないけどしばらく学校来ていなかっただろう」

 

「まぁちょっとね。ていうか離れなさいよ」

 

 ちなみにお互い小声のためリーナは素で話している。普段は真由美ほとではないが猫を被っているのでこういった姿は見せたくないのが本音だろう。

 

 面白そうだからもう少し詰めてみようかなぁ、と悪戯心が芽生えた智宏だったが、それは後ろから発せられた冷気によって摘まれてしまった。

 

「智宏さん。何をしていらっしゃるのでしょう」

 

「・・・・・・やぁ深雪。おはよう」

 

 智宏がホールドアップして後ろを振り向くと、達也を伴った深雪が立っていた。知った気配だったので放置していたが、まさか深雪だったとは。

 深雪はニッコリと笑っていたが、智宏にはわかる。これは危ないヤツだと。達也の方をチラリと見ると、我関せずといった表情であさっての方向を向いていた。

 

「リーナにそんなに詰め寄って・・・しかも通学路で」

 

「別に襲おうとしていた訳じゃないよ?ホントホント」

 

「どうでしょうね。リーナ、襲われそうになったら言いなさい」

 

「え、ええ」

 

 深雪はそう言って学校の方へ歩く。

 まさか敵対した自分が心配されるとは思ってもみなかったリーナは、驚いた表情で深雪の後ろを追いかける。

 

 その後ろに続くのは智宏と達也。智宏は若干落ち込んでいるようだった。

 

「まずいな」

 

「ああ。おそらく半分は本気で半分は冗談だ」

 

「じゃあご機嫌取りだ」

 

 そう言って智宏は前を歩く深雪に対し機嫌を取り始めた。あとリーナにも。

 彼女達も面白がっているのか、年相応にはしゃぎながら智宏に対してある要求を突きつけた。

 

 リーナの留学期間が終了し、祖国へ戻る前に送別会を行う予定なのだが、その時に彼女が着る服を買えとの事。

 

 可愛い従妹のお願いならもちろん聞く。二つ返事でOKを出した。若干リーナは不気味がっていたが、深雪の智宏に対する態度に疑問を持ち始めた。

 

(ミユキってトモヒロの事好きなのかしら・・・でもどちらかと言うと身内に対するワガママなような・・・・・・?)

 

 普段の達也と深雪の姿を見ているリーナはそう思った。さすがは特殊部隊を率いる総隊長。いい読みだ。

 

「なら深雪も来てくれる?ほら、サイズとかデザインは同姓の方がいいし」

 

「はい。ではお昼は智宏さんと奢りという事で」

 

「もちろん。奢らせていたただきます」

 

 そんなこんなで深雪の機嫌は治った。まぁ本気で怒っているわけではないので短時間で済んだのがよかった。本気になったら氷漬けにされてしまう。

 

 そして丁度会話が途切れたタイミングで、達也が口を開く。

 

「リーナ。USNAの発表は見たのか?」

 

 ピクリとリーナは反応し、厳しい表情を達也に向け直ぐに前に視線を戻した。せっかく機嫌が良くなったのにどうしてくれるんだ。

 

「ええ」

 

「どこまで本当なんだ?」

 

「フン・・・肝心な所は嘘で固めているけど、基礎的な情報は間違いではないからたちが悪いわ」

 

「じゃあメディアの結論はともかく、事実なんだな?」

 

「そうよ!」

 

 祖国の黒い所を指摘され、それが事実だと自分でも認識しているので不本意に吐き捨てる。

 祖国を守るために軍に所属しているのに、身内の不祥事を内々に処理しなければならない。この事がリーナの心を削っていた。

 

 不機嫌なリーナにビビりつつも、智宏はある事に気がついた。

 

「あれ?でもパラサイトは軍隊の機密情報だったよな。どこから漏れたんだ?」

 

「【七賢人】っていう組織よ。構成員や施設、資金力が不明なヤツら」

 

「正体がわからないってパターンだな。国内向けに活動している諜報機関は何をしてるんだか」

 

「組織名だって向こうが名乗ったのよ?こっちでも調べてみたけど、わかったのは幹部が7人いる事だけ」

 

 調べたのはUSNA軍・・・というよりかはスターズが調べたのだろう。

 七賢人は人間主義者ではないものの、活動内容は多岐に渡る。刹那的で愉快犯的な連中だ。たまにスターズにも協力しているらしい。

 まるで金持ちの道楽のようだ。

 

 まぁ正体が明らかになっていない状態でアレコレ推測するのはどうかと思うので、ここは各諜報機関の報告を待つのみだ。

 

 智宏達の視界に第一高校の校門が見えてくる。そろそろリーナは猫をかぶる必要があるだろう。彼女もそれを理解しているのか、深雪の影に隠れながら顔をムニムニと変形させて学校用の顔に戻している。

 

「最後1つだけ。マイクロブラックホールの実験は国民をパラサイトに感染させるのが目的だったと思うか?」

 

「絶対に違う。仮にそうだったとしたら私はその首謀者を殺してやるわ」

 

 そう言って振り返ったリーナはいつも通りの笑顔を浮かべていたが、その瞳はドス黒く染まっていた。

 

 

 同時刻。

 日本のとある場所に滞在するDDことドナルド・ダグラスはパラサイトとして仲間の潜伏先を確保していた。

 元々彼はUSNAのマイクロブラックホール実験の際に隣接するビルのメンテナンスを行っていた。実験の際は退避する手筈になっていたのだが、彼の好奇心がそれを拒んだ。

 

 外から装置を覗くが、逆に向こうから自分を覗く影に気が付かなかった。そう。彼はパラサイトに魅入られてしまったのだ。

 パラサイトと同一化したDDは仲間と同調して日本へと旅立った。

 

 この後だ。雫とリーナが入れ替わりで交換留学を行ったのだ。

 リーナによる粛清で数多くの仲間を失い、今後の行動に支障が出ると判断したパラサイト達は潜伏先を変える事にした。

 

(移動準備完了。潜伏先はどこだ)

 

(お前の場所から10km離れたアパートだ)

 

(だが目立つ行動は避けろ)

 

(時間が無い。今行動すべきだ)

 

 パラサイトの中でも意見が別れる。こうなった時はだいたい多数決で行動が決められる。

 リーダー格のパラサイトが決を採ると、次々にパラサイトが自らの意思を伝える。

 

 賛成・・・反対・・・賛成・・・賛成・・・そして断末魔。

 1回始まった断末魔に違和感を覚えたDD。だが断末魔は続く。

 

「待て。何があったん――」

 

 連続する断末魔に焦りが生まれたDDは、ふと自らの胸に違和感を覚えた。

 心臓の辺りに針が刺さっている。なんの変哲もないラベルピンだ。だがDDはこんな物を使った記憶が無い、刺さっている理由もわからない。

 

 DDが針が刺さっている事を認識した直後、その身体に激痛が走った。電撃が心臓を貫き、彼の肉体の機能は完全に停止した。

 

「・・・・・・チッ。時間がかかったな」

 

 と、暗闇からヌルリと姿を表した。黒羽貢である。

 彼が使ったのは【毒蜂】という、術を掛けられた者が認識した痛みを無限に増幅する精神干渉魔法だ。

 

 文字通り針の先ほどの傷で相手を殺傷できるこの魔法。まず毒殺が疑われ、次に窒息死を疑う。だが死体にはどちらの痕跡も残される事はない。メリットデメリットはあるが、暗殺するには持ってこいの魔法である事は間違いない。

 

「ボス」

 

 貢は部下に声をかけられるとゆっくりと振り向いた。

 

「何か」

 

「全ての対象を排除完了。損害無し」

 

「よし。撤収するぞ」

 

「「了解」」

 

 貢達は髪の毛1本すら残さずに現場から退出した。部下達は去り際の上司の顔を見る。機嫌が良さそうだった。

 無理もない。真夜からの勅命を果たせたのだから。

 

 上司の信仰ぶりに若干引きつつも、彼らは闇へと消える。

 

 

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