四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第12話 懇親会

 

 

 

 九校戦の参加者は選手だけで360人。エンジニアなどを含めると400人を超える。

 その人数で懇親会をするには会場も比較的大きなものになり、ホテル側のスタッフも大忙しで働いていた。正規社員の増援だけでも足りないらしく、アルバイトの学生の姿もちらほらと見られる。

 

 しかしそこまではいい。

 そのアルバイトの中に知った顔があったら驚かずにはいられないだろう。

 

 智宏と達也は端で話していると、後ろから声がかかった。

 

 

 「お客様〜?お飲み物はいかがですか?」

 「エリカ、関係者ってこの事だったのか」

 「美月やレオ達もいるはずだが・・・」

 「驚いた?あとその2人なら厨房にいるよ」

 

 

 学生のアルバイトと言っても未成年は雇わないだろう。しかしそこも千葉家のコネなのかもしれない。少々使い道を間違っていると思うが、ここはさすがと言うべきだ。

 

 智宏はふとエリカをよく見ると、少し化粧をしているようだった。

 大人びたメイクをしていればさほど他のコンパニオンと変わらない見た目になっている。

 

 エリカは智宏の視線に気がついた。

 

 

 「智宏君?何よ」

 「いや・・・化粧をしてるんだなって」

 「あ、気づいた?」

 「エリカ。そんな可愛い格好で現れるとは思わなかったわ」

 「深雪じゃん。やっぱり可愛い?智宏君と達也君は何も言ってくれなかったけどね」

 「智宏さんはともかくお兄様は無理よ」

 「そうよねー。達也君はこういうの興味ないっぽいし。あ!ちょっと待ってて!」

 

 

 エリカは用事を思い出したかのように人混みに紛れてどこかへ行ってしまう。

 トレーに飲み物を乗せ、こぼさずに走っていく姿に達也は――

 

 

 「以外と器用だな。バランス感覚がいいのか?」

 「「(そのコメントは違う)」」

 

 

 達也が感心している隣で智宏と深雪は頭の中でツッコミを入れた。もちろん口には出さない。

 しかし何かしら話した方がいいと思ったのか、深雪は別の事を聞いた。

 

 

 「どうしたのでしょう?」

 「おそらく幹比古を呼びに行ったのだろう。俺のクラスメイトだ」

-

 「そうでしたか」

 「あ、千代田先輩に五十里先輩じゃないすか」

 「やぁ」

 「なんか一瞬ウチの生徒がいた気がしたんだけど?」

 「バイトに来ているみたいですよ」

 「ふーん」

 

 

 花音は風紀委員というだけあってエリカの事を智宏に聞いてきたが、智宏がアルバイトと伝えるとあっさり引いた。校外の事はあまり気にしないのだろうか・・・

 

 達也が五十里と、深雪が花音と話していると、智宏は1高の集団から2人近づいてくるのに気がついた。

 振り向くと雫とほのかがこっちに歩いて来ている。

 

 

 「智宏さん。会長が探してたよ」

 「し、雫?なんか怖いよ?」

 「会長が?でも俺はしばらくここにいるかな」

 「わかった」

 「ん?雫とほのかじゃないか」

 「あ、達也さん」

 「達也さん!」

 「2人はいつも一緒だな」

 「・・・それ前にも智宏さんに言われた」

 「あぁ・・・そうだったな」

 「すまん」

 

 

 達也は謝りながら智宏を見る。

 智宏はスっと目を逸らした。いや別に逸らす必要はないのだが、なんとなく達也と目線を合わせたくなかった。

 

 達也もそこまで追求するつもりはなかったのか、すぐに視線を智宏から雫達に戻す。

 

 

 「2人はなぜここに?」

 「深雪を呼びに来たの」

 「深雪をか?」

 「そうなんです。深雪に話しかけたい人が結構いるらしいんですけど・・・」

 「達也さんがガードしてるから来れないっぽいよ」

 「俺は番犬か?深雪、皆の所に行ってきなさい。団体戦はメンバーとの関係が重要だ」

 「ですがお兄様が」

 「達也の所には俺がいるさ」

 「智宏さん・・・ありがとうございます。では」

 

 

 深雪は雫とほのかと一緒に1高の所へ戻っていく。

 花音はそんな達也の対応に感心し、手に持っていた飲み物を飲み干すと五十里の腕に抱きついて別途の場所に移動した。婚約者とバスで一緒になれなかった分ここでイチャイチャしているのだろうが、近くにいる他校生は居心地悪そうにしている。

 

 するとタイミングがいいのか悪いのか、エリカがようやく幹比古を連れて戻ってきた。

 

 

 「あれ?深雪は?」

 「深雪はあっちだ」

 「遅かったか。まぁいいわ。智宏君、こいつがミキよ」

 「僕の名前は幹比古だ!全く・・・四葉君だっけ?僕は吉田幹比古。よろしく」

 「こちらこそよろしく。智宏でいい(なんか警戒されてる気が・・・まぁ四葉だし)」

 「じゃあ僕も幹比古でいいよ」

 「幹比古。てっきりレオといるのかと思ったぞ」

 「実は僕も裏方の仕事がよかったんだ。でもホテル側の手違いでさ」

 「なるほど」

 「文句言わないの。ほら、あそこのお皿空いてるよ」

 「くっ・・・エリカ、覚えてろよ」

 

 

 そう言って幹比古は去っていく。

 少々いじめすぎじゃないか?と智宏は思った。しかしエリカが幹比古を見る顔は少し心配している顔だったので、なにも言えなかった。

 

 場所は変わり、第3高校では智宏と変わらない年齢の男子生徒が1高の方向を見ていた。

 

 

 「将暉。どうかしたのかい?」

 「ジョージ。あの女子生徒を知ってるか?」

 「え?ああ・・・彼女は司波深雪。同じ1年生で実力は1高の中でも高いとの噂だよ」

 「噂どころか本当に強いのかもな」

 

 

 この2人は第3高校のエースと言っていい存在。クリムゾンプリンスこと一条将暉、カーディナルジョージこと吉祥寺真紅郎だ。

 

『一条』は十師族の中の1つ。将暉はクリムゾンプリンスなんて呼ばれているが、その本当の由来を知る者は多くない。

 戦闘力も恐ろしく高く、1高は苦戦を免れないかもしれない。

 

 

 「珍しいね。将暉が他校の女子生徒に興味を示すなんて」

 「そうか・・・?おいジョージ、端にいるのって・・・」

 「・・・・・・四葉智宏だね」

 

 

 将暉は達也の隣にいる智宏を見つける。別に見つけたくて見つけたのではなく、単に深雪からこちらに視線を戻す時に偶然視界に入ったのだ。

 

 

 「現当主の実の息子だと聞かされた。実力は未知数だが『夜の女王』と同等だと一条(ウチ)では判断している」

 「将暉でも苦戦するって事かい?」

 「おそらくな。噂によるとモノリス・コードには出ないようだが、四葉はどこに出場するんだ?」

 「多分アイス・ピラーズ・ブレイクじゃないかな。将暉の言う通りモノリス・コードは既に決まっていて出れなかった可能性もある」

 「棒倒しになった理由はあるのか?」

 「彼は現当主の息子だよ?だとしたら彼が得意そうな魔法は・・・」

 「『流星群』」

 「そう。だから流星群を使う前提で競技を選ぶとしたらピラーズ・ブレイクがそうかなって思ったんだ」

 「なるほど。さすがはジョージだな」

 

 

 そう。吉祥寺の言う通り智宏はアイス・ピラーズ・ブレイクに出る。

 アイス・ピラーズ・ブレイクとモノリス・コード以外の競技は指定された道具、つまりバトル・ボードのボードなどの使用が求められる。

 なので流星群を生かせる競技は少ないのだ。

 

 将暉も吉祥寺の意見に納得している。それは彼らが互いを信じあっている証拠だった。

 

 

 「じゃあ棒倒しの優勝は難しいってことか」

 「でも僕達がモノリス・コードで優勝すればそれなりに点数は入る」

 「そうだな。頑張ろう」

 「うん」

 

 

 しばらくすると、来賓の挨拶が始まる。

 生徒達はこういうのに慣れていない生徒が多数いるため、至って真面目な態度で大人達の話に耳を傾けていた。

 

 その中でも彼らが最も注目したのは十師族の長老とも言われている九島烈だった。

 かつて最強と呼ばれた魔法師で、第1線を引いてから表に出ないとされてきたが、何故かこの九校戦には出てくる。

 智宏も会ったことはない。

 

 智宏を含めた全員が九島の登壇を待った。

 しかしそこに現れたのは金髪の女性だった。

 会場内にざわめきが広がり、何人かが小声で囁きあっている。

 智宏は何かあったのか心配したが、すぐにこの茶番(・・)に気がついた。

 

 

 「おい達也」

 「なんだ」

 「あれってやっぱり・・・」

 「智宏にも見えたのか。あれは精神干渉系魔法だな」

 「だよなぁ」

 

 

 智宏は達也に小声で話しかけると、どうやら達也も真相に気がついていたみたいだ。

 おそらくこの会場全体に魔法が展開しており、それに気づいていない生徒達は壇上にいる美女に目が吸い寄せられている。

 

 

(これが最強の実力・・・)

 

 

 智宏と達也は美女の後ろを凝視する。

 すると九島は2人の視線に気がついたのか、ニヤリと笑った。

 

 九島は目の前の女性に囁くと、彼女はスっと脇にどく。

 ライトが壇上を照らし出すと、ようやく九島の姿が全員に認識された。

 見えなかった生徒達は九島が空中から現れたように見えただろう。九島は智宏と達也をチラリと見た。2人は周りに気づかれないように目礼で返した。

 

 

 「まずは・・・悪ふざけに付き合わせたことを謝罪しよう」

 

 

 九島・・・いや、九島老人はもう御歳90歳近いはずだが、その声はまだ若々しかった。

 

 

 「今のは余興。この手品に気づいたのはざっと6人だけだな。つまり・・・私がテロリストで、毒ガスや爆弾をしかけようとしても、それを止めようと素早く行動できたのは6人・・・いや、その中でも4人くらいだ」

 

 

 彼は別に怒った訳ではない。

 しかし会場は静寂に包まれた。

 

 

 「魔法を学ぶ若人諸君、魔法は手段であって目的ではない。今回諸君らは私の悪戯に気づかなかった。先程の魔法はとても弱いが少し工夫している。これを機に、魔法を磨く事だけでなくその工夫もしっかりやってもらいたい。私は諸君らの工夫を楽しみにしている」

 

 

 九島老人の演説が終わると、一斉に拍手とはいかなかったが会場の全員が拍手をしていた。

 智宏と達也は少し笑いながら(声には出さず)拍手をした。

 

 

(これが『老師』か)

 

 

 2人はこんな事を思いながら壇上を去っていく九島老人をずっと見ていたのだった。

 




このじーさんは強い

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