懇親会は大会の前々日に行われる。理由は前日を休養に当てるためだ。
その大会前日、夕食後に智宏と達也の部屋に深雪、ほのか、雫の3人が遊びに来ていた。しかし智宏が自分のCADのチェック、達也が試合で使う起動式の調整に取り掛かるというので早めに自分達の部屋に戻っていく。
明日から競技がある上級生は寝ているだろうが、当校や他校の1年生はまだまだ活力が有り余っていた。
ちなみに女子が数人で部屋でする事といえばお喋りと決まっている。深雪達がしばらく九校戦について話していると、部屋の扉がノックされた。
「私が出るよ」
3人の中で1番扉に近かったのがほのかだった。
ほのかが扉を開けるとそこには見慣れた一高の1年女子が数人いる。
「こんばんはー」
「あれ、エイミィ。みんなもどうしたの?」
「あのね、ここって温泉があるのよ」
「・・・もう少しわかりやすく」
「そう言えばここの地下って人工の温泉があったわね」
「へぇー。それでエイミィ、その温泉がどうしたの?」
「だからね?みんなで温泉行こ!」
「いいの?ここ、軍の施設のはずだよ?」
「聞いてみたら11時まではOKだってさ」
そう。ここは軍の演習場に付属する施設。いくら九校戦で貸してもらっているとはいえ、立ち入り禁止の所もあるのだ。
しかし雫の疑問を英美はぶっ飛ばし、ほのかに呆れるような感心しているような呟きを出させた。
深雪も1つ思い当たる点がある。
「エイミィ?ここは水着が必要なはずよね?」
「湯着も貸してくれるって」
今回の英美の行動力にはさすがに感心する。ここまで用意してくれたなら断る必要もないだろう。
深雪達は温泉に同行することとなった。
地下にある大浴場は一高1年女子の貸切だった。
身体を洗うのはシャワーブース。温泉の中には湯着を着るのが前提になっている。その湯着はミニ丈の浴衣みたいな物で、それが水着の代わりになるのだ。下着を着けないで浴衣を着ているため、ほんの少し違和感を感じる。
正直水着より恥ずかしいので男共には見せたくない格好だろうが、ここには女子しかいない。だがそこで隙をみせてはいけなかった。
「わぁお」
「え?」
英美はほのかの身体を上から下までくまなく見る。ほのかは恥ずかしさと警戒心で胸元を隠した。
そして英美の目は最終的にほのかの胸に向けられて・・・ロックオンされていた。
その証拠に英美はジリジリほのかに近づいていく。
「ほのか、スタイルいぃ〜」
「え、えぇ!?あ!」
ほのかも英美の動きに合わせて後退するが、所詮浴槽の中。すぐにほのかの背中は浴槽の壁にぶつかった。
「ほーのか」
「何よ!?」
「むいていい?」
「いいわけないでしょ!?」
英美の目は笑っている。笑っているが冗談で済ます気はないようで、英美は両手を開いたり閉じたりしながら動けないほのかにさらに近づく。
助けを求めて周りを見ても彼女達の目は英美と同じく笑っており、さらには混ざろうとしている生徒もいる始末・・・。
「いいじゃんいいじゃん。ほのか、胸大きいんだからさ〜」
「じゃあ私も混ざろうかな」
「私も〜」
「ええ!?し、雫、助けて!」
ほのかはこの中で1番信用できる親友。雫に助けを求める。
しかし雫は―――
「いいんじゃない?」
と言って浴槽から出ていってしまう。
ほのかは親友の裏切りが信じられないのか、必死になって雫に理由を聞く。
「どうして!?」
「だって・・・・・・ほのか、胸が大きいから」
一瞬自分の胸を哀しそうな目で見るとそう言い放つ。
そしてそのまま雫はサウナに姿を消す。
英美達は雫が許可を出した事でさらにヒートアップしていた。
「そんな!」
「雫の許可も得たことだし・・・」
「むいちゃえむいちゃえ!」
英美がほのかに襲いかかろうとしたその時、タイミングが良いのか悪いのか、深雪が人間洗濯機もといシャワーブースから浴槽の方に歩いてくる。
深雪が浴槽に近づくと、チームメイトの視線が一斉に深雪の身体に向けられた。
「な、なにかしら?」
「ダメよみんな!深雪はノーマルなんだからね!」
「い、いやぁ。ついつい見とれてしまったよ」
深雪は最初何が何だかわからなかったが、ボーイッシュなスバルにこう言われるとさすがに気づいてしまう。
しかもほのか以外全員の視線が同じ物だということも。
「ちょっと・・・女の子同士でそういうのは・・・」
深雪は恥ずかしさで湯着の胸元と太もも付近にある短い裾を引っ張るような仕草をする。
しかしその行動は逆効果となり、浴槽は再び変な空気が流れてしまった。
身体を洗ってきた深雪の身体にぴったり張り付くような湯着は彼女のスタイルを充分周囲にアピールしており、身体のラインをくっきり浮き上がらせている。もはや浴衣ではなくタイツみたいだ。
腰から踝まで伸びる細く美しい脚。ほんのりと赤くなった素肌。張りのある双丘。これが湯着を着ている事によりとてつもない色香を発生させていた。
「女の子同士かぁ・・・・・・分かってはいるんだけどね」
「何か性別なんて関係ないって思ってくるよね」
「もう!いい加減にして」
危ない呟きで溢れる浴槽に深雪は勇気を出して入り込む。
首まで浸かると湯着が『布』という性質上、深雪の肌から離れてお湯に浮こうとする。そうなるとさあ大変。湯着に隠されていた深雪のうなじが露になってしまった。
するとまたしても誰からかため息が漏れた。それと同時に妖しい空気も。
「私は深雪の味方だからね!」
ほのかはすかさず深雪の隣に座り、助けようとした。さっきまで自分が被害にあっていたのを忘れているのだろうか?これではほのかまでターゲットに戻されてしまう。
先程よりは遅いスピードだが、迫ってくる友人に向けてほのかは最終手段だと言わんばかりにあるセリフを言い出す。
「いい加減にしないと・・・全員氷水で冷水浴する羽目になるよ!」
このセリフが功を奏したのか、英美達は深雪から顔を背けて一気に冷静になる。
深雪もさすがにそんな事はしないと言おうとしたが、この状態を保つために何も言わない方が得策だと感じた。
「どうしたの?」
個人のサウナに入っていた雫はこの状態を見て何があったのかを聞いてくる。
このぎこちない空気の中説明する猛者はいないと思われたが、なんと英美が1番早く復活した。
「ううん。なんでもないよ」
雫はさっきまでの元気だった英美が今は冷静になっていたので理由を聞こうとしたが、このぎこちない空気をなんとなく察し、聞くのを諦めた。
そしてそれからは普通の女子トークが繰り広げられる。
恋愛やファッション、懇親会の噂話などなど。
今は恋愛話をしている。そしてとうとう深雪に話が振られてしまった。
「ねぇねぇ。深雪はどんな人が好み?やっぱりお兄さんみたいな人?」
「お兄様は
「じゃあ一条の跡取りは?懇親会の時に深雪を見てたけど」
「え!そうなの!?」
「それもないわ。それどころか姿も見てなかったもの」
深雪の冷静な回答に英美達はなんとも言えない表情になってしまったが、めげずに次の質問に移った。
「じゃ、じゃあ四葉君は?」
「智宏さんもないわ」
「えぇー!あんなにカッコイイのに?」
「智宏はお兄様とどこか同じような感じがするのよ」
「あー・・・そうきたか」
「じゃあ四葉君は誰が好きなんだと思う?」
「ッ!?」
「雫?」
「なんでもないよ」
「英美。人の事より自分の事を話したらどうかしら?」
「わ、私はいいよ!?」
深雪が達也を兄としてしか見ていないことに納得した者がほとんどだった。だが1人だけ、その答えにホッとしている女子がいた。
智宏の話では雫が若干反応するが、深雪のフォローで話の流れが英美に移る。
大浴場で深雪達が女子トークをしている頃、智宏は中々帰ってこない達也を心配して、外にある作業車に向かってホテルの階段を降りていた。
「ひえっくしゅん・・・・・・!なんだ、冷めたのか?」
目の保養・・・目の保養・・・