四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第16話 スピード・シューティング本戦

 

 

 真由美の試合は午後に続くが、その前に昼食を挟む。

 達也は風間に呼ばれていたので、智宏達にCADの調整をするからと言ってホテルの1室に向かっていった。

 

 その間、智宏達は昼食を食べることする。

 やはり九校戦のホテルに選ばれるだけあってご飯は美味しい。席は雫、智宏、レオ、幹比古。向かいにほのか、深雪、エリカ、美月の順で座る。

 雫は当然のように智宏の隣に座る。しかも椅子を少し寄せてきているのでちょっと狭い。

 

 

 「あの・・・智宏さん」

 「ん?」

 「達也さんはお昼ご飯食べなくていいんですか?」

 

 

 雫の前に座っているほのかが達也を心配して智宏に問いかけてきた。

 ほのかは達也の事がホントに気になるらしい。

 

 

 「大丈夫だと思う。売店もあったし」

 「そうですよね・・・」

 「えー。じゃあほのか〜、心配だったら達也君と2人きりで(・・・・・)ご飯食べてきたら〜?」

 「ええ!?」

 「そうだよ。ほのか、行ってきていいよ」

 「もう!雫まで」

 「達也君はホントに女子を落とすのが早いわよね」

 「いや本人に自覚は・・・って深雪?」

 「・・・お兄様が・・・女性を・・・」

 「おーい。深雪さーん?」

 「智宏さん、大丈夫です・・・・・・ところでエリカ?」

 「え」

 「あまり余計な事を口に出すと死期が早まるわよ?」

 「・・・あ、オッケーオッケー。ゴメンナサイ」

 

 

 エリカがほのかをいじっていると深雪が反応し、昼食を凍らせるほどではなかったが周りに霜がくっつき始めていた。

 エリカもこりゃまずいと思ったのか、すぐに深雪に謝る。すると深雪の周りに漂っていた冷気はすっかり消え去った。

 

 その後、智宏はすっかり冷えたお茶を飲んでいると1通のメールが届く。

 達也からだった。

 

 

 「お、達也からメールだ。そろそろ試合が始まるから先に行っといてくれだってさ」

 「あら、もうそんな時間?」

 「じゃあ行こうぜ」

 「あんた走っていって席取っといてよ」

 「んだと?」

 「ほら行った行った」

 「・・・わかったよ」

 

 

 レオはエリカに急かされ会場の席を取りに行く。

 智宏達も急いで食器を片付けて会場に向かった。

 

 スピード・シューティングの会場まで行くと、運良くいい席が取れていた。

 選手はまだ出てきていない。するとタイミング良く風間達と話し終えた達也が智宏達に合流した。

 

 

 「すごい人気だな」

 「お、達也。そりゃ会長が出るからだろ?」

 「なるほど。ところで幹比古はどうした?」

 「ミキ?ミキは気分が悪いから部屋で休んでるってさ」

 

 

 達也は観客席に来ると幹比古がいないのに気づく。

 幹比古は昼食はあまり食べていなかった。会場に向かう途中、「気分が悪い」と言ってホテルの部屋に戻っていってしまったのだ。

 

 そして真由美が会場に姿を見せた瞬間、観客席から嵐のような歓声が発生した。

 会場の至る所に設置されているモニターには「お静かにお願いします」とメッセージが映し出される。

 智宏は相手選手が少し気の毒になる。このプレッシャーに耐えられるのはよほどの猛者しかいないだろう。

 

 試合開始のランプが点灯すると同時に赤と白のクレーが両側の発射機から撃ち出される。真由美の標的は赤色。その赤色のクレーは有効エリアに入ってきた途端に撃ち砕かれた。

 

 

 「すごい・・・」

 「『魔弾の射手』・・・去年より速くなってるようです」

 

 

 真由美のプレイにほのかと深雪が感嘆の声を漏らす。

 

 実は戦術的にはあまりおすすめできない戦い方だ。

 先に自分のクレーを撃ち抜くとエリアに残るのは相手のクレーのみ。なので相手は自殺点を心配せずに手当り次第に自分のクレーを粉砕できる。

 だが真由美はそんなのものともせずに自分の技量を見せつけている。

 圧倒的な技術力の前に一般の高校生では太刀打ちできないだろう。

 真由美の優勝は決まりだ。

 

 本日全ての試合が終わり、智宏は深雪達と別れて自室に戻って行くと、階段の踊り場に真由美が立っているのが見えた。

 

 

 「あれ?会長じゃないすか」

 「あ!智宏君!」

 「優勝おめでとうございます。さすが会長ですね」

 「そ、そう?ありがと」

 「やっぱ・・・って失礼。電話です・・・はい、四葉です・・・うん、うん。わかった」

 「誰?」

 「深雪からです。夕食を一緒にどうかと」

 「あらそうなの」

 「では失礼します。お疲れ様でした」

 「あ、ちょっと・・・もう」

 

 

 智宏は何か言いたげな真由美を置いて夕食を食べに行ってしまった。

 真由美は智宏を追いかけようとしたが、これから部屋で軽いお祝いをするのを思い出し、急いで部屋に向かった。

 

 1日目が終わり、予想通りにスピード・シューティングの男女両方の部門で優勝を果たした。

 真由美達3年女子にあずさを加えた女性陣は、真由美の自室で簡単な祝杯をあげていた。

 

 

 「会長。おめでとうございます!」

 「あーちゃんありがとう。摩利も予想通りね」

 「ああ。今のところ問題ないな。後は身体をしっかり休めるだけだ」

 

 

 あずさの祝福に真由美は笑顔で頷き、摩利は明後日の決勝リーグに向けて気合いを入れていた。

 しばらく話していると、摩利が真由美にこんな事を聞いてくる。

 

 

 「なぁ真由美。智宏君はどんな反応だった?」

 「えぇ!?」

 「試合が終わった後密会してたんだろ?」

 「・・・密会じゃないわ。たまたまホテルの廊下で智宏君を見つけたの(なんでわかったのかしら?)」

 「ふーん。どうだかな」

 「そ、それでどうなったんですか?」

 

 

 摩利の鋭い指摘に興味を引かれたのか、あずさも話に入ってきた。

 

 

 「それが『おめでとうございます。さすがは会長ですね』って。もうちょっと褒めてくれてもいいんじゃないかしら」

 「・・・なんかすまん」

 「あう・・・・・・と、ところで四葉君の話し方って少しだけ司波君に似てますね」

 「そう?あ、でも感情的な部分を除けば似てるかも」

 「まぁ四葉君と司波君は仲がいいようですし・・・お互い話しやすいのでは?」

 「そうそう。それより真由美、お前智宏君をどう思ってるんだ?」

 「ど、どうって?」

 「好きなんじゃないか?」

 

 

 真由美は不意に摩利から今のセリフを聞いて数秒間フリーズする。

 しかしすぐに復帰するが、慌てようがハンパなかった。

 

 

 「な、ななななな何を言ってるの!?」

 「智宏君、好きなんだろ?」

 「まだ出会って1ヶ月しか経ってないわよ?」

 「達也君にも同じ感じで接していたがあれは異性と言うより『弟』みたいな感じかな」

 「そうでしょうか?私にはわかりません」

 「間違ってはいないと思いますよ。たまに会長の2人を見る目を観察していましたが、四葉君を見る時だけ少し輝いてました」

 「ちょ、ちょっとあーちゃんとリンちゃんまで・・・」

 

 

 この真由美いじりは日付けが変わる数分前まで続けられた。

 ちなみに真由美はまだ智宏の事も『弟』だと意識しているが、それが違うというのはいずれ気がつくだろう。

 

 女子トークが繰り広げられてから数時間後、既に寝ている智宏と携帯端末を弄っていた達也の部屋にノックする音が聞こえた。

 達也は智宏を起こさないように扉を開ける。そこにいたのは深雪だった。

 

 

 「深雪?こんな夜に出歩いちゃダメだろ?」

 「申し訳ございません・・・」

 「とりあえず中に入れ」

 「はい」

 

 

 深雪は達也に部屋へ入れてもらうと、ベッドで寝ている智宏を見つけて少し微笑む。

 もちろん話す時は小声だ。

 

 

 「智宏兄様は寝てらっしゃるのですね」

 「ああ。試合のための体調管理と言っていたが本当は別の理由があるのだろう」

 「別の理由?」

 「智宏は代理母とはいえ中学生の時に母親を失った。智宏の精神は少しだけ不安定な状態になって、身体に疲れが溜まりやすくなっているのだろう」

 「いくら2年経ったとはいえその事実は変わらないのですね」

 「智宏は俺達と違って1人だったからな・・・」

 「はい・・・でも私はもう母上様とは決別いたしました」

 「すまん。変なことを思い出させたな」

 「いえ、深雪は大丈夫です」

 「今の智宏に必要なのは心を完全に許せる存在だ。それも四葉家以外のな」

 「智宏兄様・・・」

 

 

 深雪は寝ている智宏の頬を優しく撫でる。

 智宏も寝る時はきちんと警戒しているが、ここにいるのは達也だけと思っているのか全く起きる気配はない。

 

 達也は智宏から深雪に視線を戻す。

 

 

 「ところで深雪。何をしにここへ来たんだ?」

 「あ、そうでした。会長からの伝言です」

 

 

 深雪は真由美から頼まれていた伝言を達也に伝える。内容は「CADの調整が間に合わないから明日手伝ってくれ」だそうだ。

 真由美が直接メールしてもよかったらしいのだが、真由美は深雪が頼んだ方が事は上手くいくと考え、なおかつ深雪は達也に会いにいく口実が増える。なので互いにメリットがあるのを真由美からの電話で知った深雪は、喜んで達也の部屋に行ったのだ。

 

 

 「なるほど。了解した」

 「申し訳ございません」

 「なに、今の仕事も大事だが俺は深雪を優先させたいんだよ」

 「まぁお兄様。深雪の方が大切だなんて・・・」

 「(何か勘違いをしていそうなんだが)」

 

 

 深雪は達也の言葉を自動で脳内変換し、それが自分にとって嬉しい言葉にアップグレードされてしまった。

 本当に可愛い妹だ。




マジで可愛いよな

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