四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第17話 クラウド・ボール

 

 

 九校戦2日目。

 達也は第1高校の天幕にいた。

 智宏は深雪達と試合会場に行っている。

 

 達也が作業していると真由美が達也の所へやってきた。

 

 

 「達也君。データは頭に入った?」

 「はい。全員覚えました」

 

 

 達也が覚えていたのは各選手の想子特性データだ。

 真由美は達也の返答に目を丸くする。

 

 

 「驚いた。それって完全記憶とかいうやつじゃない?」

 「俺はこんなものより魔法力が欲しかったんですがね」

 「贅沢じゃないかしら?」

 

 

 達也がポツリと答えると、真由美は何言ってんだコイツみたいな感じで反論した。しかも両手を腰に当てて頬をぷくーっと膨らませるおまけ付き。

 達也はそのポーズに「それ素だったんです?」と言おうとしたが、言ったら怒られそうだったので、なんとかそのセリフを呑み込んだ。

 

 その後、達也と真由美は試合会場に向かう。

 真由美がジャンパーを脱ぐと、ミニスカのテニスウェアとしか言いようがないスコートを着用していた。観客席では智宏も真由美の姿に驚いている。

 達也はいろいろ思ったが、とりあえず冷静な口調で話す。

 

 

 「会長。CADは何を使うのですか?」

 「これよ」

 

 

 真由美が取り出したのはショートタイプの拳銃型CAD。達也のCADと比べて銃身が短い。

 銃身が長いほど照準補助を重視しているのだが、真由美には必要ないのだろう。

 

 

 「達也君。少し押してくれないかしら」

 「いいですよ」

 

 

 達也は目の前にペタンと座りこんだ真由美の背中を押す。するとなんの抵抗もなく真由美の上半身は足にくっついた。

 

 4回ほど同じ動作を繰り返した後、真由美に「立たせろ」と目で訴えられた達也は、真由美の手を引いて立ち上がらせた。

 

 

 「ありがと。なんか新鮮ね」

 「はい?」

 「私弟はいないのよね〜」

 「は、はぁ・・・」

 

 

 真由美は何を思ったのか、そんな事を言い出す。

 達也はいきなりの事に反応に困っていた。

 

 

 「達也君って弟みたいよね?」

 「そうですか?俺は妹しかいないのでそういう感覚はありませんよ」

 「そ、そうよねぇ・・・」

 

 

 真由美は充分なストレッチを終えるとコートに入る。

 クラウド・ボールのコートは普通のテニスコートをおよそ2分の1にした大きさで、周りをガラスみたいな透明な物で囲われており、ボールが外に行かないようになっている。

 

 数分後、両選手が位置につくと試合開始の音でボールが射出された。

 真由美はコートの中央に立ったまま動かない。ただ立っているだけ。

 いや、動く必要はないのだろう。真由美のコートに相手選手が返したボールが入れるのはおよそ10センチ未満。相手がどの方向から返しても完璧に撃ち返されている。

 こうして1点も取られることなく真由美は1セット目を勝利した。

 

 1セット目が終わり、真由美が相手選手を見送って水分補給に戻ろうとした時、自然と足が止まってしまった。

 理由は明白。試合中の視線だ。

 別に興味や感心、嫉妬などの視線には慣れている。しかしこの1セット目で感じた2つの視線は今までとは違い、初めて体験するものだった。

 真由美はその視線の持ち主は智宏と達也だとすぐに察した。

 智宏のは真由美の視線、足、腕、呼吸、魔法の動きといったものだけだったが、達也のは「七草真由美」を構成している全てを視られているような気持ちになる視線だった。

 

 真由美は智宏はともかく達也にここまで見られるとは思ってもみなかった。

 とてつもない不安感が真由美を襲う。真由美はコートの外に出るのが怖かった。しかしずっとここにいるわけにもいかない。

 

 

(・・・よし!女は度胸よ!)

 

 

 真由美は勇気を振り絞ってベンチに戻る。

 

 

 「お疲れ様です」

 

 

 達也はそう言ってタオルを渡してきた。

 

 

 「達也君。試合はまだ終わってないわよ」

 「いえ、終わりです。相手選手がリタイアします」

 「え?」

 「見てください。相手選手は想子の枯渇で今にも力尽きそうじゃないですか」

 「・・・ほんとだ。よくわかったわね」

 「視て(・・)ればわかりますよ」

 

 

 達也の言う通り、相手選手の棄権が会場に告げられる。智宏も相手選手がベンチに戻った時点で結果がわかったらしく、ゆったりとした姿勢に座り直した。

 試合が終わるのを確認した達也は真由美とテントに移動する。CADの調整をするためだ。

 

 達也がCADの調整を続けている間、真由美は達也が操作しているディスプレイを観ながら考え事をしていた。

 

 

(どうして智宏君は来てくれないのかしら?摩利達はともかく智宏君は暇よね?もしかして他校の試合も観てるのかしら。情報収集は確かに必要だけど・・・・・・顔くらい見せてもいいじゃない)

 

 「先輩?銃口をこちらに向けないでもらえますか?」

 「・・・え、あ!ごめんなさい」

 

 

 どうやら真由美は考え事をしながら達也からCADを受け取り、自然に構えてしまったようだ。

 たとえ実弾銃であろうが何だろうが、意識せずに銃口を人に向けるのはあってはならない行為。真由美はすぐに謝った。

 クラウド・ボールは1日で全てが終わるので当然試合の間は短く、九校戦の中で1日の試合数が最も多い競技だ。

 調整を終えた真由美は次の試合のために会場に戻っていった。

 

 その頃観客席では・・・

 

 

 「あの選手すごいな」

 「そうですね。ラケットを持っていながらあんな細かい動作ができるなんて・・・よほど練習したのでしょうね」

 「会長、大丈夫かな」

 「大丈夫よ、雫。会長にはお兄様がついているもの」

 「そ、そうよ!達也さんが調整してるんだもん!」

 「ん?おい皆。会長が出てきたぜ」

 

 

 レオの言う通り、真由美は会場に出てきている。

 パネルを見るといつの間にか真由美の次の試合が始まろうとしていた。

 

 その試合の後も真由美は勝ち続け、ついに、全試合無失点のストレート勝ちで優勝を飾る事ができたのだった。

 




さすが会長。
お強い


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