女子クラウド・ボールが終わり、智宏達は何人かに分かれて試合を見ている。
男子クラウド・ボールを見に行ったのは紗耶香に付き合ったエリカとそのエリカに引っ張られた美月、幹比古、レオの計4人。
アイス・ピラーズ・ブレイク(生徒達はピラーズ・ブレイクと言っている)を観に来たのは智宏、達也、深雪、雫、ほのかの計5人だ。
ピラーズ・ブレイクは先に相手の氷の柱を倒した方が勝利。その舞台は巨大なものとなり、氷の柱を作る方にも制限があるので男女2面ずつ計4面になり1日で18試合行うのが精一杯だった。
これ以上試合を行うと、大会側はともかく選手にも負担が大きい。この競技はそれだけ魔法力の消耗が激しいのだ。
花音の試合が近づいてきた頃、後ろにいた五十里が席を立った。
「先輩?」
「司波君。上に行かないかい?」
「モニタールームですか。わかりました」
「では私も」
「雫、いこ!」
「うん。あ、智宏さんも来て」
「わかった」
一行は選手が立つ櫓の後ろにあるスタッフ専用のモニタールームへ向かった。
ここでは選手の体調が見れるモニターとフィールド全体を見渡せるほどの窓が設置されている。
試合が終わると次の氷の柱が設置され、櫓から花音が姿を表した。
達也は黙っているのは失礼だと思ったのか、五十里に話題を振る。
「千代田先輩の調子はどうです?」
「問題ないよ。少し気合いが入りすぎてるけど・・・」
「1回戦は短かったそうですね」
「うーん。僕としてはもう少し慎重にいって欲しかったんだけどね」
「達也さん、五十里先輩、始まるよ」
雫に言われ、2人はフィールドに視線を向けた。
試合開始の合図と共に地鳴りが聞こえた。それは地震ではなく花音の魔法、『地雷原』だ。
千代田家は代々『地雷原』を得意魔法としている。土や岩、コンクリなど、材質はなんでも良く、地面という概念に強い振動を与える事ができるのだ。
花音の最初の攻撃で相手の氷柱が2本倒壊した。
「お、防御魔法か」
「でも先輩の方が早いよ」
相手も防御魔法で対抗するが花音の攻撃の方が早い。いくら防御魔法を氷柱にかけてもその上から塗りつぶすように花音の魔法が発動されている。
およそ半分が倒されると、相手は防御を捨て攻撃に切り替えた。
「ん?相手選手が防御を捨てたな・・・」
「花音も相手選手も思い切りが良いというかなんというか・・・・・・花音ってやられる前にやっちゃえっていう性格なんだよね。多分向こうも同じようにしたんじゃないかな?」
「まぁ確かに、戦術的には間違っていませんね」
達也と五十里が話している間にも両選手の氷柱はどんどん減っていき、花音は自分の氷柱が残り6本となったところで敵陣の氷柱を全て倒し終えた。
「勝利!」
花音は笑顔とVサインをつくってこちらを見た。もちろんその相手は五十里。
五十里も少し困った様子だったが、その顔は笑顔だった。許嫁が勝利するのはやはり嬉しいのだろう。
智宏もこのお似合いの2人を見て本当に息が合っているんだなと改めて実感した。
花音の3回戦進出が決まり、花音と合流した智宏達は自校の天幕に引き上げる。
中に入ると少々重苦しい空気が流れていた。
五十里は近くいた鈴音に話しかける。
「何があったんですか?」
「男子クラウド・ボールの成績がよろしくなかったのでポイントの計算をやり直しているのです」
「え?」
「1回戦敗退、2回戦敗退、3回戦敗退です。まさかここまで敗退するとは・・・計算外です」
クラウド・ボールも充分戦えるレベルだったのだが、まさかの戦果は来年度のエントリー枠を確保できただけ。智宏達も予想外の展開に驚きを隠せないでいる。
「しかしあと4種目優勝すれば安全圏ですね」
鈴音が計算結果を報告すると天幕内はさらに重い空気が流れた。6種目の内4種目で優勝するのはハードルが高いのだろう。
2日目の競技が全て終了し、智宏達がラウンジに行くとそこには桐原と紗耶香が座っていた。
一同は気づかれないように行こうとしたが、桐原は智宏達に気づいて無理に笑ってみせた。ここまでされると無視するわけにもいかない。
智宏と達也は桐原の所に向かう。
「お疲れ様です」
「よお。四葉と司波じゃねーか」
「大丈夫ですか?」
「いや、3高のエースと当たったんだ。先輩はくじ運がなかったんでしょうね」
「大丈夫だ・・・・・・にしても司波、お前はっきり言うんだな」
「慰め方を知らないもので」
「すいません、達也はこーいう奴なんで」
「いいさ。あの試合は次に活かせばいいんだしな」
「わかりました。では失礼します」
「ちょ、達也・・・・・・ったく。あ、壬生先輩」
「何?」
「桐原先輩を慰めてやってください」
「え!?」
「なっ!」
「エリカが言ってましたよ。お似合いじゃないですか」
「あのアマ・・・!」
「あわわわ」
「失礼しまーす」
智宏の突然の発言に真っ赤になった紗耶香とエリカに怒りを抱きだした桐原を置いて、智宏は達也を追いかけていった。
多分紗耶香はこの後頑張って桐原を慰めるのだろう。
今回短かったな・・・