部屋に戻る前、達也宛に届いた荷物をホテルのフロントで受け取ってから智宏と達也は部屋に戻った。
部屋に戻って達也が包みを開けるとハードケースが出てくる。智宏が不思議がっていると、達也は中身を見せてくれた。
取り出したのは刃がついてなく、長方形みたいに平べったい片手剣。
ただの武器に見えるが、この剣は一応CADなのだ。
達也は今朝これを作って欲しいと牛山に依頼メールを出しており、それが本日中に届いてしまった。無理だったらゆっくりでもよかったらしいのだが、今となってはもう遅い。達也は忙しい中作ってくれた牛山に感謝した。
智宏が「俺がテストするよ」と言おうと思った矢先、ドアがノックされる。
ドアを開けたのは窓際の椅子に座っている智宏よりも入口より近い所にいた達也だ。
「お兄様、こんばんは」
「深雪か。入っていいよ」
「「おじゃまします」」
部屋に入ってきたのは深雪、雫、ほのか、エリカ、美月、幹比古、レオだ。いくらツインとはいえ機材もある程度置いてあるのでこの人数では部屋が狭く感じた。
雫が窓際にあったもう1つの椅子を智宏の隣に寄せて座り、ほのかは達也のベッドに腰を下ろす。雫は2人用のソファーだったらぴったり智宏にくっついていたかもしれない。
この部屋は座る場所は少ない。なので近くにあった机に座ったエリカはすぐ剣に気づいた。
「達也君。これってなに?剣?」
「違うな」
「・・・あ、もしかして武装一体型CAD?」
「正解だ。さすがはエリカだな」
達也はケースの蓋を閉めるとそれをレオに投げる。
「レオ」
「おっと。危ねぇじゃねーか」
「それ、試したくないか?」
レオは武装一体型CADと聞き、触りたくてウズウズしていたが、エリカがいるので素直になれなかった。
達也な言葉を聞き、レオは待ってましたと言わんばかりに上手くキャッチしたケースを開くとCADの柄を掴んで取り出した。
「いいのか?」
「ああ」
この時レオは笑っていたのだろう。
エリカは「わかりやす!」と言いたげな顔をしていた。
レオは決してバカではない(多分)が、ポーカーフェイスは得意じゃないのかもしれない。
「いいぜ。実験台になってやる」
「じゃあ外にある訓練場に行こう」
「訓練場?」
「達也さん。そんなものがあるんですか?」
「ああ。ほら、ここから見える」
「ふーん」
達也とレオは訓練場に向かっていく。
それ以外は部屋に残ってテストが始まるまで適当に雑談していた。
エリカは興味があるのか机の上から窓際に移動した。
数分後、訓練場に達也とレオが姿を表した。
「あ、達也君とレオが来たわよ」
「どれどれ」
達也とレオは向かい合って何か話している。
おそらく使い方を教えてもらっているのだろう。
達也は周りを見渡す。誰もいないのを確認するためだ。智宏と深雪も周囲を監視しながら達也とレオを見ている。
そして達也がレオから数メートル離れると、レオがCADを構える。
レオが魔法を発動すると、半分の刀身が宙に浮いた。
「浮いた」
「あんな使い方なのね」
「あれを達也が作ったのかい?」
「お兄様が作ったわけではありませんよ、吉田君。あれはお兄様が設計したものを知り合いの工房に頼んで作ってもらったのよ」
「それでも達也が設計したんだ。凄いね・・・」
幹比古がポツリと呟いた。
確かにあれは見事なCADだ。
レオが柄の部分を振り回すと、その動きに合わせて浮いた刀身も飛び回った。
30秒ほど振り回していると、レオが慌てて手を止める。何かと思ったら刀身が元に戻った。時間切れらしい。
智宏達の誰もが感心していると、雫が話しかけてきた。
「智宏さん」
「ん?」
「知ってはいたけど、硬化魔法って繋がってなくても機能するんだね」
「ああ。硬化魔法の定義は相対位置の固定だからかな。別に物同士が固定されてなくてもいいんだ」
「じゃああれは『飛ばす』って言うより『伸ばす』ね。大剣を振り回す使い方ならあいつにぴったりの武器よね」
「なんだ。エリカも触りたかったのか?」
「違う!」
「あら?エリカの目はそんな事思ってなさそうよ?」
「深雪まで・・・」
「また実験が始まるようですよ?」
珍しくエリカがからかわれていると、智宏達が話している間も外の2人を見ていた美月が何か新しい動きに気がついた。
智宏は視線を戻すと、また達也とレオの距離が離れている。達也がリモコンを操作すると下から藁人形が三体飛び出してきた。
・・・にしても
「古いな」
「古いよ」
「古いですね」
智宏、雫、深雪がそうコメントした。
いったい誰の趣味なんだろう。
もしかしてこの基地にはああいう趣味の持ち主がいるのだろうか。
「いいんじゃない?家にもあーいうのあるし」
エリカは剣術の家だけあって藁人形ではなくてもダミーはあるらしい。
レオは次々に襲いかかる藁人形に向かって魔法を発動したCADを振り下ろす。すると藁人形は衝撃を受けて倒れ込む。
智宏達はテストを続けているレオから室内に視線を戻した。テストは終わったようなものなので、もういいだろう。
「智宏さん。あのCADは何に使うのでしょうか」
「うーん・・・先端を刃に変えれば戦えそうだけどなぁ」
「九校戦にはいらないかもね」
「し、雫!達也さんが作ったものならいつか使わないと!絶対役に立つよ!」
相変わらず達也に依存しているほのかを見て智宏は苦笑いをした。
その後満足そうな顔をしたレオをエリカがからかい、言い争いになりそうだった所を達也が止め、この後もしばらくおしゃべりが続いたのだった。
レオは使いやすそうだ