四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第23話 ほのかの予選

 

 

 

 ほのかの出場する第6レースの時間が近くなってきている頃、智宏は達也を先頭に深雪と雫と会場の端っこにいるほのかを訪ねていた。

 

 すると、ほのかのエンジニアであるあずさが智宏達に気がついた。

 

 

 「四葉君と司波君、どうかしたんですか?」

 

 

 この時のあずさは小動物のような動作をしており、智宏だけでなく達也まで一瞬頬が緩んでしまった。あずさもからかわれてきた経験から何かを察したようだ。

 

 

 「・・・2人共、今バカにしませんでした?」

 「気のせいです」

 「滅相もありませんよ」

 「本当ですか?」

 「「本当です」」

 「・・・・・・いいです。それより何をしに?」

 「俺は特にありませんよ。暇だったんで達也の付き添いをしてます」

 「用があるのは俺です。何かお手伝いする事はありますか?」

 「え!」

 

 

 達也の「手伝いたい」というセリフをどこで聞いていたのか、ほのかが飛び出してきた。

 

 ほのかは達也に抱きつかんばかりに詰め寄り、ほのかの立派なモノが達也にくっつきそうになっていた。

 

 

 「CADの調整をお願いします!」

 「こら。中条先輩に失礼だろう?」

 「あ・・・すいません」

 「気にしないで。そんなつもりはないのはわかってますし」

 

 

 ほのかはあずさが気を悪くするのに気が付き、急いで頭を下げた。

 

 対するあずさはちょっとお姉さんっぽい喋り方で首を横に振っている。気にはしていないようだ。

 一方、その姿を見て智宏は笑いをこらえるのに必死だった。達也も同じだろうが上手く隠せている。あずさには見つかりたくない。

 

 そして試合時間の直前になったので、智宏達は急いで観客席に向かった。

 観客席に座った時にはほのかは既にスタート位置についている。

 今回達也はCADに関しては何もしていない。強いていえば、達也が指示したのは1点のみ。それさ濃い色のサングラスみたいなゴーグルを着けることだった。

 

 

 「そう言えば光井さんって光学系の魔法が多いですけどなんででしょう?」

 「バトル・ボードは魔法を水面に干渉させるのはルール違反ではありません。まぁ、見てればわかりますよ」

 「・・・どういうことでしょうか?」

 

 

 あずさは達也にサングラスを渡され、すでにサングラスをかけている智宏達を見ながら自分も着用した。

 

 そして、ついに予選第6レースのスタートが切られる。

 その瞬間、ほのかは光学系魔法で水面に光を反射させた。

 サングラスをかけていない観客や選手が一斉に目を背け、ほのかの隣にいた選手はバランスを崩して落水してしまう。

 

 

 「よし」

 「達也の作戦って・・・」

 「これですか?」

 

 

 嬉しそうな声を出した達也に智宏と深雪は少し呆れた声で問いかける。

 ちなみに、もうサングラスは必要ないので全員外して達也に返した。

 

 

 「確かに反則ではないけど・・・」

 

 

 さすがに雫も非難じみた声で呟いている。

 あずさは素直に感心しており、達也から色々説明を受けていた。

 

 その間にもほのかは2位との差がどんどん離れていき、コースを半分回ったところで勝負の結果は決まったようなものだった。

 

 1高本部でもその様子はモニターに映し出されており、そこで真由美達が観ていた。

 

 

 「決まり・・・だな」

 「もしかしてこの作戦考えたのって達也君?」

 「そうですよ」

 

 

 真由美の質問に鈴音が即答する。

 が、すぐに訂正が入る。

 

 

 「正確に言えば、作戦の内容を私に伝えてきたのは光井さんですが作戦自体を考えたのは司波君だと言っていました」

 「まったく・・・」

 「でも決勝トーナメントはどうするのかしら?同じ作戦という訳にはいかないわよ?」

 「そこは司波君も考えているようですよ」

 

 

 真由美達に色々言われているとは思ってもいない達也は、ゴールしたほのかを見て少し眉を寄せて呟いていた。

 

 

 「うーん・・・ちょっとほのかには悪かったか?」

 「達也?」

 「いや、あの目くらましが無くてもほのかはスピードで勝てたなって」

 「あー・・・」

 「で、でもリードを奪えたんですから!」

 

 

 達也はあずさから励ましの言葉を受け取るが、相変わらず厳しい顔をしている。克人といい勝負なのではなかろうか。

 ちなみに達也が気にしているのは、これで他校からほのかが完全にマークされてしまう事だ。

 しかしあずさは「そんな事ありませんよ」とフォローしてくれる。

 

 その後、智宏達は下に降りていった。

 するとほのかはウエットスーツのまま達也に駆け寄ってきた。勢いで抱きつきそうだったが、ウエットスーツを着ているのを自覚しているのでなんとか抑えられた。

 

 

 「達也さーん!勝ちましたよ!」

 「そ、そうか。おめでとう」

 「ありがとうございます!」

 

 

 達也がほのかを落ち着かせようと手を前に出したが、ほのかはそれを握手と勘違いして達也の両手をガッシリ握り、嬉し涙で潤んだ瞳が達也に向けられた。

 

 こんな経験は達也はしていないので、どうすればいいかわからなくなってしまった。

 

 

 「私・・・私・・・いつも本場に弱くて・・・試合で勝ったことが無かったんです!」

 「え・・・」

 

 

 次のほのかセリフにまたしても固まってしまった達也は目だけ雫に向ける。

 すると雫は小声で「小学校までの話だよ」と教えてくれた。

 

 その間達也には智宏の「何やってんだこいつら」という視線と深雪の氷のような冷たい視線が突き刺さっているが、達也はなんとか耐えていた。

 

 新人戦1日目が終了し、1高の幹部3年生である真由美、摩利、、鈴音、克人はミーティングルームで今日の結果について話し合っている。

 真由美達は今日の結果にため息をついていた。

 

 

 「男子は森崎君が準優勝・・・あとは予選落ちか」

 「まずいな」

 「ああ。だが女子でリードを取れたのだ。まずまずと言ったところだな」

 「そうですね。悲観しすぎるのはよくありません」

 「でも男子と女子で逆の成績になっちゃったのよ?」

 

 

 ミーティングルームに再びため息でいっぱいになる。

 真由美達は最後の九校戦のため、もう後がない。

 

 しばらく沈黙が続いていたが、摩利が口を開いた。

 

 

 「十文字、今年はもう間に合わない。九校戦が終わったら男共をしごいてやってくれ」

 「・・・仕方あるまい。わかった、多少厳しくしてでも指導をしよう」

 「そうね。私達が後輩に残せるものは残しておかないとね」

 「しかし明日は四葉君の試合です。男子の部は彼がなんとかしてくれるでしょう」

 「十師族の一員としての実力を発揮してもらわなければな」

 

 

 克人の言葉に真由美は頷く。同じ十師族として同感したのだろう。

 

 先輩にある意味重く期待されている智宏はそれに気づくことなく部屋で寝ていた。明日の試合に備えてしっかり睡眠をとっておく必要がある。

 

 作業を終えて作業車から戻ってきた達也は、部屋の前に深雪がいることに気がついた。

 達也は少し小走りで深雪に近寄り、少し厳しめな声で叱りつける。

 

 

 「こら、今何時だと思っている。明日は試合だろ?」

 「申し訳ございません!」

 

 

 深雪は達也に叱られると、肩をビクッとさせて恐る恐る達也の顔を見る。

 そしてすぐに深々と謝る。

 これだけならよかったが、この後の態度に達也は困惑していた。

 

 

 「さぁ、部屋に・・・深雪?」

 「お兄様。少し・・・少しだけお時間をもらえませんか?」

 「・・・・・・いいよ。ただし、智宏は寝ているから静かにな。お入り」

 「はい」

 

 

 深雪は達也に促され、部屋にはいる。

 寝ている智宏の前を通り過ぎ、達也のベッドに腰掛ける。

 達也はそのまま深雪の前に立った。

 

 そして深雪は泣きそうな目で達也を見ながら小声でこう言った。

 

 

 「お兄様。『インデックス』を断られたそうですね」

 「・・・そうだ」

 「なぜです?それが叔母様のご意思だからですか?」

 「ああ。もし『インデックス』に載せられてしまったら身元を調べられてしまう。シルバーならともかく『司波』として調べられたら・・・俺と深雪が四葉と繋がっている事がバレる」

 「・・・」

 

 

 深雪は何も言わない。達也の言っている事は理解しているのだ。

 

 もし四葉の人間と知られたら今まで通りの生活ができなくなる。ほのかやエリカ、レオ達だって事実を隠していた事で離れていってしまうかもしれないし、本家に影響があるようなら東京から本家に戻らなければいけない可能性もある。前者は智宏がいるため回避できるかもしれないが。

 

 

 「俺は四葉の『ガーディアン』だ。表舞台の人間じゃない。それに叔母上は俺が脚光を浴びる事を許すとは今のところ思えない」

 「・・・」

 「まだ、まだ俺には力がない。タイマンなら叔母上を倒せるかもしれない。分解は流星群に相性がいいからね。でもそれ以上に強大な相手がいる」

 「智宏兄様・・・」

 

 

 ここで深雪は口を開いた。

 隣のベッドで寝ている智宏を見ながら。

 

 

 「そうだ。智宏が俺の障害となるなら排除しなければいけない。今の状態の智宏ならなんとか勝てるはずだ」

 「そんな!お兄様と智宏兄様が・・・いえ、すいません」

 

 

 深雪は「殺し合うなんて」と言いたかったが、言えなかった。いや、言いたくなかった。

 彼女は智宏も1人の兄として慕っている。約3年とはいえ智宏は深雪を大事にしてくれた。達也の事も認めてくれた。

 そんな兄達が本気の戦いをするなんて想像したくないのだ。もちろん深雪は達也の勝利を確信している。だが達也も無傷では済まないだろう。

 

 深雪は我慢できなくなって達也に抱きつく。

 

 

 「今は従うしかない。もし、俺が叔母上と智宏を倒したとしても四葉は(・・・)屈服できない。次々に障害が現れるだろう。だが、智宏が当主になれば話は別だ。智宏は母上からも信頼されているし逆に俺達の事も信頼してくれている」

 「わかっております・・・・・・時が来たら、私は智宏兄様をご支持いたします」

 「ああ、そうしてくれ。全ては再来年の正月に決まる」

 「はい・・・お兄様、深雪だけはお兄様の味方ですから。例え世界を敵に回したとしても、深雪はずっとお兄様の傍におりますから・・・」

 

 

 深雪は達也の背中に手を回し、少し力を込めて抱きつく。

 すでに時計の針は0時を過ぎている。だが達也はもう少しだけ深雪の好きにさせてやろうと思った。

 

 そして少し前から深雪の存在を感じ取っていた智宏も、半覚醒のまま今の話を聞いてこう決断する。

 

 

(達也と深雪だけは母上と敵対してでも守ってみせる)

 

 

 と。

 

 

 




ガチで戦ったら日本が終わる

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