新人戦2日目。
この日は智宏や深雪達が出場するアイス・ピラーズ・ブレイクがある。会場には氷柱が次々と並べられていき、2面全ての設置が完了した。
男子の部は女子が終わってから。なので智宏は深雪と雫の試合を見ることができる。
智宏は達也と控え室に向かった。
「あ!おはようございます!」
「おはよう。エイミィ、眠れた?」
「うん!でも緊張で早起きしちゃった」
「エイミィ」
「何?達也君」
「調整するからヘッドセットを着けてくれ。眠れてないんだろう?」
「うげ・・・お母さんより鋭い」
元気いっぱいの英美に3人は挨拶をかえすが、智宏と達也は英美の目が無理矢理覚めているように感じた。
英美は達也に言われるがままヘッドセットを着け、達也は計測器の所に座る。
ディスプレイに映し出される計測結果に達也の顔は険しくなっていき、その顔を見た英美は縮こまってしまった。
慌てて深雪が達也の肩を軽く叩く。
「お兄様」
「・・・すまん。もしかしてエイミィ、機械を使って寝ないタイプかい?」
「そうなの!もしかして司波君も?」
「ああ。だが試合前は安眠導入機を使ってでも寝なきゃだめだよ」
「はーい」
英美は親に叱られている子供のように返事をした。
「エイミィも寝不足で負けたって見られたくないだろ?」
「お、お願いします!もし負けたらみんなのオモチャにされちゃうよ!」
セリフだけならいい。
だが、そのセリフを胸と股の所を押さえながら言われると「ん?」と思ってしまう。
智宏と達也は数秒ほど固まってしまった。
智宏より早く回復した達也は深雪に引き気味に問いかけた。
「深雪・・・疑いたくないんだが、部屋で何してるんだ?」
「へ、変な事言わないでください。やましい事などしておりません!智宏さんもそんな目で見ないでください!」
「「そうか、わかった」」
「・・・・・・」
その後第1試合が始まり、英美は少々危なかったが、なんとか勝つことができた。今頃彼女はカプセルベッドで熟睡しているはずだ。
そして第5試合。
今智宏は雫の控え室にいる。達也はCADの調整を終わらせたらスタッフ専用のモニター室に行ってしまった。
智宏は英美の時に達也が第一声に言った言葉を飲み込もうと思ったが、結果的に無理だった。
「雫さ」
「何?」
「その格好で出るの?」
「そうだよ」
アイス・ピラーズ・ブレイクにおいて、必要なのは遠隔魔法のみ。肉体は使用しないので、服装も公序良俗に違反しない限り自由なのだ。
自分の気合いが入る服装をしてよいとは言え、アイス・ピラーズ・ブレイクは1種のファッションショーにもなってしまっている。
ちなみに、花音は私服と変わらないスポーツウェア。英美は黒と白を基調とした乗馬服スタイルだった。
で。
問題の雫なのだが、雫は振袖だった。
「それ動きづらくない?」
「遠隔魔法だけだし大丈夫。それに
「・・・わかったよ。気張って行ってこい」
「うん。じゃあ・・・・・・もう一度頭撫でて?昨日みたいに」
「はいはい」
「あと予選を突破したらお願いがあるんだけど」
「どんな?」
「今は言わない。でも智宏さんに無理はさせないお願いだから安心して」
「・・・いいよ。できる範囲で叶えよう」
「約束だよ?」
「ああ」
こうして雫は会場に上がっていった。
何か約束させられてしまった智宏はひとまず急いでモニター室に向かう。
というか雫の決勝トーナメント行きは確実と言っていいほどなので、お願いを聞くのは絶対だと思われる。
智宏がモニター室に到着すると、相手も待機しており、後は開始の合図を待つだけとなる。
会場の両サイドにあるポールに青い光が灯ると、両選手はCADを操作した。
雫がまず行ったのは、自分の氷柱を対象にした『情報強化』で、相手選手が1拍遅れで魔法を発動して襲いかかるも雫の氷柱は微動だにしない。
その隙を突き、雫は魔法を発動させると相手陣地の氷柱が3本粉々になった。
(なるほど、振動数の操作はお手の物か。やっぱ達也がアレンジしたらこうなるんだ)
智宏が無言で雫を見つめていると、既に敵の氷柱は4本まで減っていた。しかも雫の氷柱はまだ12本全て健在。
寝不足だった英美と違って雫は万全の状態で試合をしている。攻撃と防御の魔法を高いレベルで使いこなしていた。
攻撃に全力を注ぎ終わって相手選手の氷柱に攻撃を仕掛け、なんの抵抗もなく残った全ての氷柱も砕け散った。
対して深雪の試合は最終ゲーム。
智宏はこの後すぐに試合なので残念ながら上で観ることはできない。控え室のモニターで観ることになってしまった。
智宏が1人寂しく控え室に座っていると、後ろのドアが開いた。
「誰・・・って雫か。昼食はいいのか?」
「食べてきた」
「そうか。なんでここに?」
「智宏さんが1人だと思ったから。一緒に観よう」
「マジで?ありがとな」
「ううん。あ、深雪出てきたよ」
雫に言われてモニターを観ると、確かに深雪が出てきた。が、その格好は雫をも凌駕している。
深雪の衣装は白の単衣と紅色の袴。白い紐かリボンみたいなもので髪を後ろでまとめている。『巫女』と表現した方がいいだろう。
その美貌からは神々しい光を放っているように見え、会場は騒然としている。可愛そうなことに相手選手も完全に呑まれてしまっている。
従妹にすっかり見とれていた智宏は脚をつねった雫によって現実に引き戻された。
「痛っ・・・・・・雫?」
「なんでもないよ。ところで智宏さんはどんな服装にするの?」
「それは見てのお楽しみ。お、始まるぞ」
深雪はライトが光り始めると敵陣をすっと見据えた。
そして試合が開始され、その直後フィールドに2つの減少が起こった。
深雪の方は極寒の吹雪、一方相手陣地は灼熱の熱波。その熱の暑さは尋常ではなく、相手の氷柱は溶け始めている。しかも全てだ。相手選手も冷却魔法を使用しているが追いついていない。
智宏の隣に座っている雫は信じられないと言いたげな顔をしている。
その頃モニター室でも似たような事が起こっていた。
「これってもしかして・・・」
「
摩利と真由美が呟くのを達也は後ろで聞いていたが、その目はしっかり深雪を観ていた。
この魔法は今のところ深雪しか使えない難易度Aの高等魔法。周りの人間には難しいようだが、深雪にとっては当たり前に仕える魔法なのだ。
既に敵陣地の気温は200℃を超えており、水溜りも出来ていた。
すると深雪は魔法を切り替える。
その瞬間、敵陣の氷柱は1つ残らず爆散して崩れ落ちたのだった。深雪の氷柱が無傷なまま・・・
圧倒的ではないか