アイス・ピラーズ・ブレイク予選男子の部。
智宏は予選第1試合に出場するために控え室にいた雫を観客席に行かせて入れ替わりで入ってきた達也にCADを任せている間、智宏はいそいそと着替えていた。上級生のピラーズ・ブレイクを観ているとやはり気合い入れに着替えている男子もいるのだ。
智宏が着替え終わるとちょうど達也も調整が終わったみたいだ。
達也は智宏の服装を見ると、少しだけ驚いていた(多分)。
とりあえず理由を話すと、納得した感じで観客席に戻っていく。
時間になり、智宏は係員に案内されて櫓の機械に乗った。
すると足元が上昇し、会場に両選手を持ち上げていく。至る所に設置されているモニターに智宏の名前が映り、会場に智宏が姿を表すと1高と他校の一部女子からは黄色い声、そしてほとんどの他校生からは動揺するようは声が上がっている。
達也達も智宏を見守っていた。
「あ!智宏君よ!」
「会長、落ち着いてください」
「雫、智宏さんが来たよ」
「うん」
「いやー、男も着替えるって言ってたけどありゃスーツ・・・だよな?」
そう。レオが言った通り、智宏は黒の夏用スーツスタイルだ。ただしネクタイはしておらず、紫色のワイシャツのボタンも上から2つは外している。
ちなみに相手選手は花音と似たようなスポーツウェアだ。
観客席では、真由美がいつもと違う智宏を観てテンションが上がっている。
一方の雫は冷静そうに見えたが、実は雫も気持ちが高ぶっていた。
「あの紫色のワイシャツも似合ってるわね。写真写真・・・」
「会長、試合に集中できないです」
「あら?そんな事言っても説得力ないわよ。北山さんだって右手に持っている物は何かしら?」
「これは智宏さんの試合を録画して後で見直すため。ダメだった所を見つけて改善させます」
雫と真由美がカメラについて言い合い、雫が優勢だと思われたその時、隣に座っている親友から余計な横槍が入ってしまった。
「あれ?雫、智宏さんをアップしてちゃ試合全体が撮れないよ?」
「・・・・・・」
「北山さん?どういう事かな?」
まさか親友に裏切られるとは思ってもみなかった。いや、ほのかの天然というのはわかっているのだが、めんどくさい事になってしまった。
すると達也が2人をなだめ始めた。
「2人落ち着いて。試合が始まりますよ」
「ふん。ところで達也君、なんで智宏がスーツなのか知らない?」
「俺が聞いたところによると、あのスーツと紫ワイシャツは四葉家の当主からのプレゼントらしいですよ」
「へぇ・・・四葉真夜さんから」
「達也さん、あのワイシャツの色は?」
「確か・・・・・・母親がよく着ている服があの色で、同じ色の服を着てもらいたかったらしいんだ・・・・・・と言っていたな」
「そうなんだ」
「ずいぶんと愛されてるのね」
大会が始まる1週間前。智宏が真夜にアイス・ピラーズ・ブレイクに出場する事を言うと、その翌日にスーツとワイシャツが家に届いた。
真夜は智宏が着るものが自由な競技に出ると知って、大急ぎで服を用意させていた。もちろんあのワイシャツも真夜が特注で用意させた物。本当に親子で同じ色の服を着てみたかったらしい。
そしてその真夜がいる四葉家では・・・
「彩音さん!智宏さんよ!」
「は、はいご当主様」
「よかった・・・ちゃんと着てくれたのね」
大型テレビを真夜が彩音を隣に座らせて観ている。
彩音は真夜の隣に座るなど恐れ多くてしたくもなかったのだが、真夜の命令と葉山の無言の圧力により従わざるを得なかった。
真夜はともかく上司の葉山にも座らされたとは言え、逆らうなどもってのほか。とりあえず大人しく従ったのだ。
そして場所を戻し九校戦試合会場。
智宏は腕を組んで試合の開始を待った。
騒がしかった会場も、赤い光が灯ると静かになる。
黄色、青色に光が順番に灯ると、試合開始のブザーが鳴り響く。
智宏は相手よりも早く魔法を発動できた。
発動した魔法はもちろん『流星群』。重力核でもいいのだが、一瞬で終わらせるなら流星群の方が効率が良いし、重力核を使わずにどこまでやれるかという実験でもあった。
自陣と敵陣を夜が包み込み、智宏の頭上から24個の光が敵陣の氷柱に撃ち込まれる。相手は急いで攻撃魔法から防御魔法に切り替えて発動するも、流星群は障壁類が通じないので容易くすり抜けた。
氷柱には2発ずつの光球を撃ち込んである。1発目で完全に壊せなかった時の保険に0.1秒ほどタイミングをずらして2発目を発射したのだが、その必要はなかったみたいだ。
実際相手の陣地全域に光球のシャワーを降らせればそんな心配はないが、氷柱の位置が固定されている上に数も増えない。ならば的確に狙った方が早く決まるのだ。
相手陣地には崩れ落ちた氷柱の残骸が転がっており、相手選手は呆然としていた。
審判が慌てて試合終了の合図を出すと、会場は歓声が巻きおこった。
その頃、3高では智宏を改めて警戒している男達がいた。
「将輝、やっぱり使ってきたね」
「ああ・・・噂通り防御は通じないな。それ以前に流星群の威力は高かった」
「うん」
「対策はどうする?」
「そうだね・・・・・・対策と言うよりも勝つには彼より先に魔法を発動するしかないね」
「難しいな。司波深雪みたいに全体を攻撃できればいいが、ウチにはそこまでの選手はいない。せいぜい1列まとめて破壊できる程度だ」
「それでも充分強いけど・・・」
「「うーん」」
3高のトップ2人が決勝トーナメントで当たるであろう智宏の対策を練っている時、警戒されている事を知らない智宏は次の試合に備えていた。
それも終わると、智宏は控え室で着替え始めた。
ズボンを履き、制服の方のワイシャツのボタンを留めているとドアがノックされる。
智宏は急いで残ったボタンを留め、裾をズボンの中に入れてからドアを空けた。
するとそこには雫と真由美、達也がいた。
「智宏さん。おめでとう」
「智宏君、とりあえず今日は圧勝ね」
「ありがとうございます・・・なんでここに?」
「俺が行くと言ったら付いてきたんだ。智宏、CADはどうだ?」
「なるほどね・・・・・・ん、CADか?問題なかったぞ」
「わかった。でも不具合が見つかったら言ってくれ」
「りょーかい」
智宏はこの日2試合行い、結果は両方共圧勝で試合時間も最長40秒だった。40秒になった理由は、2試合目の時だけ相手選手が予想以上の攻撃を仕掛けてきたので対処に時間がかかってしまったから。
これでも相当早いが、智宏は『防御』について少し考えを改めていた。
明日の試合は3回戦をやって決勝トーナメント。なんとしても勝たなくてはならない。なので智宏は着替えが終わると早々と部屋に戻り風呂で身体を癒した。
夕食までまだ時間がある。
智宏がベッドに寝っ転がりながら携帯端末をいじっていると、部屋に誰がが近づいてくる気配を察した。人数は2人。間違いなくこの部屋に向かってきている。
するとドアがノックされ、智宏は2人で行動する人達を予想しながらドアを空けた。
「はい・・・って会長と渡辺先輩」
「よかった、起きて・・・て」
「そうだな。やあ四葉・・・ん?」
「ども。どうかしましたか?」
「「・・・・・・」」
ドアを開けたら真由美と摩利が立っていた。
2人は智宏を見ると数秒固まった。なぜなら、目の前にいる智宏はパンツの上からバスローブを着ただけの格好だったから。
「ん?」
「と、智宏君、ふふふふ服は?」
「え・・・あ、すいません。着替えてきます」
「別にいいわよ!ちょうど近くを通っただけだし」
「え?(真由美の奴・・・初めから四葉が目的だったじゃないか)」
真由美の顔は年頃の女子らしく赤くなったが、その目はバスローブがはだけて見えている智宏の上半身をしっかりと視ている。
隣にいる摩利はそんな事は気にせず、心の中で真由美に突っ込んでいた。
真由美は1人でこの部屋に来てもよかったのだが、直接で1人だと緊張して行けないと言い始め、摩利が巻き添えをくらってしまったのだ。
「それで何か?」
「・・・あ、そうそう!今日の夕食の事なんだけど、場所はいつもと違う所だから」
「わかってますよ。・・・あ、もうすぐでしたね」
「智宏君が起きてるか確かめに来たの。今日の主役がいなくちゃ何も始まらないもの」
「お手数をお掛けしました。このまま向かうのでしたらやっぱり着替えてきます」
「わかったわ」
「真由美も部屋に入れば?」
「摩利!?な、何を言ってるの!?」
「ははは、冗談さ」
真由美が摩利にからかわれているのを尻目に、智宏はドアを閉めて着替え始めた。
そして数分後、制服に着替えた智宏は真由美と摩利と一緒に夕食会場へ向かったのだった。
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