四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第26話 宴会。そして新人戦3日目

 

 

 

 九校戦の食事はあらかじめ決まっている。

 朝食はバイキング、昼食は各校の天幕などで弁当、夕食は3つの食堂を学校別に利用している。学校別の理由は夕食時には作戦を話し合う場合でもあり、情報漏洩を防ぐためだ。

 

 ちなみに今日は九校戦の中間。

 とりあえず今日までおつかれ、明日からも頑張ろうという意味を込めて宴会等が開かれる。

 現在1高の1部は明暗がはっきりしている所があった。

 明るいのは1年女子、暗いのは1年男子だ。2年生と3年生は別々に分かれて食事をしている。彼らにも同じような経験があったのか、何も言ってこなかった。ひとまず男子はそっとしといてやるらしい。

 そして明るい女子の中には智宏と達也が混じっている。達也は深雪に引っ張られて、智宏は単に暗い雰囲気の場所にいたくなかったからだ。

 

 

 「深雪のアレ、すごかったよね!」

 「うん!『インフェルノ』って言うすごい難しい魔法なんでしょ?先輩達もびっくりしてたよ」

 「エイミィもよかったね。服も似合ってたよ」

 「雫も振袖姿素敵だったよ〜。相手をガンガン追い詰めてったのはかっこよかったなぁ」

 「四葉君は圧倒的だったよねー」

 「うん!瞬殺だった!」

 「『流星群』だっけ?私初めて見た!」

 「もしかすると一生見られない魔法だったかもしれないし」

 

 

 女子新人戦のクラウド・ボールはまあまあの成績だったのし対し、今回のピラーズ・ブレイクは1高女子選手が全員3回戦進出、男子も智宏が3回戦進出だったので、女子達はお祭り騒ぎだった。

 

 アイス・ピラーズ・ブレイクの3回戦はこれまで勝ち抜いてきた男女それぞれ6人がこれに当たる。よってこの半分を1高女子が占めているのはまさに快挙としか言いようがない。

 男子は智宏だけ。ただし3回戦も余裕で通るだろうと各校から予測されている。

 ちなみに他の男子共はお通夜状態で、どよーんとした空気が漂っている。

 

 

 「ねぇねぇ、司波君。雫のやつって『共振破壊』のバリエーション?」

 「正解」

 

 

 達也にも他の1年女子が話しかけてきた。

 いきなり話しかけられた達也は内心たじろぎながらも素っ気ないが柔らかい声で回答する。

 

 

 「いいなぁ雫は。私もやってもらえればよかったかも」

 「それは問題発言よ。先輩に失礼ではないかしら?」

 「・・・はっ!」

 

 

 彼女は雫を羨ましがったが、深雪の言葉の意味を理解して慌てて上級生のエンジニアに顔を向ける。その上級生は笑っており、手を振っていた。

 何もなかった事に安心し、上級生に大きく頭を下げるとまたこっちに戻ってきた。

 

 

 「あーびっくりびっくり」

 「CADのせいにするからだよ」

 「だね。反省します」

 「でもそれほど司波君の調整がよかったって事だよね!」

 「うん!四葉君のもそうだよね?」

 「ああ。達也の調整は実家のエンジニアよりも腕がいい」

 

 

 再び女子達は達也を褒めちぎっており、その様子を見て深雪は本当に嬉しそうな顔をしている。

 

 智宏も数人の女子から質問を受けていると、後ろから裾を引っ張る感覚があった。

 なんだ?と思って振り向くと、それは飲み物を片手に持った雫だった。

 

 

 「ん?雫、どした?」

 「智宏さん、明日はお互い決勝に行けるといいね」

 「そうだな。雫も頑張れよ」

 「わかってる。約束忘れないでね」

 「予選突破したらな」

 「うん」

 

 

 こんな感じで各校盛り上がってたりそうでなかったりしている頃、横浜の中華街では怪しげな男達が豪華な中華料理を囲みながら苛立しげな顔をしていた。

 

 

 「新人戦は3高が有利ではなかったのか?このままでは1高が優勝してしまう」

 「うむ。せっかく渡辺摩利を追い込んだのに・・・これでは意味がない」

 「このままでは裏カジノで我々が大損してしまう」

 「そうとも。その場合・・・ボスが我々を粛清するかもしれぬ」

 「死、だけならいいがな」

 

 

 恐怖に震えてろくに食事もとれていない謎の男達の頭上には、うねって渦をまく龍の掛け軸がぶらさがっていた。

 

 新人戦3日目。

 アイス・ピラーズ・ブレイクの会場には昨日よりも観客席が埋まっている。

 その目的は智宏と深雪を初めとした1高生だろう。

 

 

 「すごい人だな」

 「そうねぇ。やっぱり智宏君かしら?」

 「それよりも司波じゃないか?」

 「・・・そう?」

 「そうだろ。それに何だか大学関係者が多いんじゃないか?」

 「昨日の試合を映像だけじゃ満足できないのね」

 

 

 今はピラーズ・ブレイク3回戦の第1試合。深雪の番だ。

 智宏は深雪の試合と、重なっている女子バトル・ボード準決勝第1レースのほのかの試合どちらを観るか迷ったが、深雪が「どうぞ行ってください」と言ってくれたので、智宏は今バトル・ボードの観客席に座っている。達也はもちろん深雪についている。

 

 深雪が圧倒的な力で相手陣地を蹂躙している時、ほのかもスタート位置についていた。

 

 

 「・・・ん?」

 「う、うーん」

 「これはねぇ」

 「なに唸ってるんだ?」

 

 

 後ろで唸っている智宏と美月、エリカに振り向いたレオが少々呆れた顔で問いかけてくる。

 

 

 「いや選手全員黒メガネって変じゃない?」

 「エリカちゃん・・・せめて『ゴーグル』って言わなきゃ」

 

 

 そう。

 智宏達は選手4人全員が黒いゴーグルを付けているのを観ていたのだ。

 すると幹比古も話に入ってくる。

 

 

 「当然だよ。光井さんの幻惑魔法対策なんだから」

 「えー。ミキ、それって達也君の思うツボだよ?」

 「それじゃあ次は水しぶき?」

 「いや違うだろ」

 「達也ならもっとすんごいの考えてるかもしれないぜ?」

 

 

 達也の作戦を予想し始めたレオ達を智宏は苦笑しながら見ている。

 

 そして第1レースはスタートした。

 観客の中にはサングラスを着用している人もいたが、それは意味がなかった。なぜなら今回、前回のような閃光がなかったから。

 

 その分ほのかはワンテンポ出遅れてしまった。

 

 

 「あ!出遅れた!?」

 「いや、追いついてる!」

 

 

 ほのかは前にいた2人を最初の直線で抜かし、2位の状態で鋭角カーブに侵入した。

 

 その時、ほのかの前にいた選手が妙な動きを見せる。なんとカーブ手前で大きく減速してコースの中央をターンしたのだ。

 ほのかはその隙に前の選手を抜かし、カーブの内側を通ってトップに躍り出る。他の選手も慌ててほのかを追いかけた。

 

 

 「な、何が起こったの?」

 

 

 エリカが驚くのも無理はない。

 本来ならば選手はコースを曲がる時、できるだけ減速を抑えて内側を回らなければならない。しかしこのように中央を走るなどあってはならない事だ。

 

 

 「コースに影が落ちたような気がします」

 「あ、まただぞ」

 

 

 今度は緩やかなカーブ。

 しかしそれもほのか以外の選手はコースの中央を走っており、よく目を凝らしてみると、確かに美月の言う通りほのかが近づいた瞬間に影が落ちている。

 このカーブでほのかと2位の選手の差はさらに広がった。

 

 

 「あ、なるほど」

 「四葉君、何かわかったの?」

 「つまりだな・・・」

 

 

 智宏はエリカ達に達也の作戦を説明し始めた。

 

 達也の作戦は簡単だ。水面に影を作るだけ。

 前回のほのかの試合で閃光対策をしてきた選手は黒のゴーグルを付けている。しかしそれは視界がいつもより暗くなっている事を意味しており、ほのかがカーブに影を落とさせることにより相手選手はカーブが影が落ちた所で終わっていると錯覚する。

 本戦で摩利と7高選手が事故を起こしたため、その分余計にカーブを意識してぶつからないように大きく回ってしまうのだ。

 

 説明を受けたエリカ達は納得したようにうなづいている。

 その頃、1高の天幕でも鈴音が似たような説明をしていた。

 

 

 「これは相手選手に本来の実力を出させない戦術でもありますね」

 「光井さんに影響はでないのですか?」

 「その練習はしたらしいですよ。司波君はコースを身体で覚えろと言っていましたし」

 「なるほど?この戦術は正攻法ってわけかい。相変わらず変なことを考える奴だな」

 

 

 桐原はここにいる全員の感想を口に出し、それをみた鈴音達は堪えられずに笑ったのだった。

 

 その後、ピラーズ・ブレイクで深雪や雫、英美に続いて智宏も第3試合を行って圧勝。大きな歓声に包まれながら櫓から降りる。

 すると控え室には、達也ではなく雫が座っていた。

 

 

 「あれ?達也は・・・?」

 「達也さんなら深雪のところに行ったよ」

 「そうか」

 「智宏さん。私予選突破したよ」

 「ああ、しっかり観てたぞ」

 「約束・・・」

 「おうよ。何を御所望ですか?」

 「ん」

 

 

 予選を突破した雫は智宏に向かって両腕を広げるようにして突き出した。

 

 

 「え?」

 「ぎゅーってして」

 「え!?」

 「抱きしめて」

 「それでいいのか?」

 「うん」

 「わかった」

 

 

 智宏は雫を望み通り(互いに一瞬抵抗したが)に抱きしめる。

 雫は小柄なので智宏に抱きしめられると、すっぽり智宏の身体に収まった。

 

 1分くらいそのままでいると、雫は両手を智宏の背中に回した状態でポツリと話し出した。

 

 

 「あのね。私この後試合があるんだ」

 「え?残ったのは1高だけなんだろ?」

 「うん。でも、もしかすると試合をするかもしれない」

 「そうなのか?」

 「この後試合をするかって聞かれたら絶対にやるよ」

 「・・・深雪と当たるぞ」

 「それが目的」

 「なら俺は止めない。頑張れ」

 「うん」

 

 

 この後2分ほどこの体勢でいたが、智宏も雫もさすがに恥ずかしくなってきたので抱擁を解いた。

 

 さて控え室を出ようとなった時、雫の携帯端末がメールが届いた着信音を発した。

 内容は真由美からで、至急集まるようにとの事だ。

 2人は控え室を出ると、智宏は1度部屋に、雫は真由美の所に向かったのだった。

 




雫はどこまで深雪に立ち向かえるかな?

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