四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第27話 アイス・ピラーズ・ブレイク決勝

 

 新人戦の女子ピラーズ・ブレイクは、午後の決勝リーグ全てが1高の選手で埋まっていた。

 

 そんな中、決勝に進出した1高女子、深雪と雫と英美、エンジニアの達也は、真由美によってホテルのミーティングルームに集められている。

 

 

 「さてと、手短に言うわね。まず3人共、決勝リーグの独占するのは初めてです。よくやってくれました。この件に関して大会委員会から提案があり、決勝リーグをやらなくていいので3人同率優勝にしてはどうかとの事です」

 

 

 真由美の言葉を受けて深雪達は顔を見合わせる。

 

 

 「これは貴方達に決定権があります。どうしますか?」

 

 

 深雪、雫、英美の反応はそれぞれだ。

 ここで2人が深雪と戦っても勝てるわけがない。それをここにいる誰もがわかっている。

 

 その中でも英美が先に手を挙げた。

 

 

 「あの・・・私体調があまりよろしくないんです。だから決勝リーグは棄権でお願いしたいです」

 「そう。2人は?」

 「私は戦います。深雪と戦う機会なんて滅多にありません」

 「こう言っていますけど深雪さんは?」

 「北山さんがそう言うなら、望むところです」

 「わかりました。では大会委員の方には私が伝えておきます。達也君も頑張ってね」

 「はい」

 

 

 真由美が席を立ってミーティングルームを出ていくと、達也も2人のCADの調整のために作業車に向かった。

 深雪と雫はそれぞれの控え室に向かい、英美も観客席を目指した。

 

 30分後。

 ピラーズ・ブレイクの会場にはこの大会でも一番と言っていいほどの観客が座っていた。ちなみに智宏は決勝のため、控え室で試合を観ている。

 その中でも達也はどちら側でもない関係者席の一番前に座っている。心の中では2人共応援していたが、やはり深雪の所に行きたかったらしい。

 

 

 「達也君。もしかして深雪さんの方に行きたかったの?」

 「ええ」

 「・・・はっきり言うんだな。シスターコンプレックスというのを知っているかい?」

 「それがどうかしましたか?」

 「あら。開き直っちゃったわ」

 「重症だな」

 

 

 達也は真由美と摩利の下級生イジメ(?)に少し頭を悩ませながらも、その視線は深雪に向けられている。周りがなんと言おうが、この兄妹のシスコン、ブラコンっぷりに勝る人はいないだろう。

 

 騒がしかった会場も、深雪と雫が櫓に上がってきたと同時に静まり返る。

 巫女と振袖スタイルの2人から締め付けられるようなプレッシャーが出ており、会場にいる誰もが2人に注目しているのだ。

 

 ライトが試合開始の合図を告げると、両者は同時に魔法を撃ち出した。

 雫の陣地には熱波が、深雪の陣地には地鳴りが襲う。

 だが、互いに防御する魔法を使って自分の氷柱を強化するなりガードするなりしており、一進一退の攻防に見える。

 

 しかし――

 

 

(さすがは深雪・・・)

 

 

 雫の『共振破壊』は完全に止められており、逆に深雪の熱波に対しての防御は完璧ではなかった。

 このままでは氷柱が溶けてしまう。持久戦は不可能だ。

 

 

(だったらこれで!)

 

 

 雫は振袖の右の袖口に手を突っ込み、あるものを引き抜いた。

 それは短身の拳銃型CAD。試合前に達也が雫に持たせた切り札と言っていい代物だ。

 

 銃口は深雪の氷柱に向けられ、雫は狙いを付けて引き金を引いた。

 その様子にさすがの深雪も驚いている。

 

 

(雫!?貴方2つのCADの同時操作を会得したの!?)

 

 

 拳銃形態のCADからレーザーのような物が放たれ、深雪の氷柱に直撃した。

 

 

 「フォノン・メーザー!?」

 

 

 真由美もこの高等魔法には驚いている様子。

 

 深雪はこれまで1度も自分の氷柱にダメージを負わせずに勝利してきた。

 だが、ここでようやく深雪の氷柱に魔法が直撃した。その事実は変わらないだろう。

 智宏も控え室でうっかり指から外していたCADをおっこどしそうになる。まさか深雪の防御を本当に突破するとは思ってなかったからだ。

 

 氷柱に一撃を負わされたが、それでも深雪の動揺は一瞬だった。

 

 

(雫。残念だけど・・・・・・)

 

 

 深雪は新しい魔法を発動し、雫の陣地に冷気の霧をぶつけた。

 

 

 「『ニブルヘイム』だと?ここは魔界じゃないんだぞ?」

 

 

 摩利の驚きを通り越した呆れ声には達也以外の誰もが同じ意見をもっており、深雪の次の手を待っていた。

 

 冷気はやがて雫の陣地を通り過ぎ、その跡の氷柱には液体窒素の滴が付着している。

 深雪はニブルヘイムを解除すると今度は再びインフェルノを放った。

 雫の陣地にはまた熱波が押し寄せ、陣地は急激に温度が上昇。氷柱の周りに付いていた液体窒素は一気に気化し、その膨張率は700倍にも及んだ。

 雫の氷柱は全て吹き飛び、深雪は決勝戦においてもその圧倒的な力を周りに見せつけたのだった。

 

 会場は試合終了の合図を出し、深雪が優勝した事を継げるまでしーんと静まっていた。

 1高だけでなく他校からもの歓声に包まれた深雪と雫を乗せた櫓は、ゆっくり下がっていく。

 

 智宏は雫の所に行きたかったが、この後決勝戦のためどうしても行けない。控え室に呼び出しの放送がかかると、智宏は櫓の上に立った。決勝戦の相手は3高。あの一条将輝ほどではないが警戒する必要はある。決して油断してはいけない。

 だが、その警戒も杞憂に終わる。

 今の智宏には防御魔法の技術が足りていない。そのため相手陣地に2発ずつではなく、まんべんなく光球のシャワーを浴びせたのだが、3高選手の氷柱はなんの抵抗もないまま粉々になり、最後も圧倒的な力を見せて試合は終了した。

 もちろん智宏も無傷とは言えない。1本の氷柱が破壊されてしまった。

 しかし勝利は勝利。智宏は新人戦男子アイス・ピラーズ・ブレイクで優勝した。

 

 智宏が優勝した瞬間、1番彼の優勝を喜んでいたのは達也や深雪でもなく、四葉の本家にいる真夜と彩音だった。真夜は今にも飛び上がりそうな勢いで、彩音はホッとしながら智宏の優勝を祝ったのだった。

 

 辺り一面紅く染まり、ホテルから夕焼けが綺麗に見える頃、智宏はホテルの1室に向かっていた。

 目的地に着くと、そこにはほのかが立っている。そう。智宏が向かったのは雫とほのかの部屋だった。

 

 

 「あ、智宏さん」

 「ほのか、雫はいるか?」

 「はい・・・・・・あの・・・」

 「ん?」

 「私の代わりに雫を慰めてやってくれますか?」

 「いいよ。もとよりそのつもりで来たんだ」

 「じゃあ私はその辺にいますから」

 

 

 ほのかは部屋の鍵を開けると智宏を中に入れ、どこかに歩いていった。

 智宏が部屋の中に入ると雫はベッドの脇に座っており、近づくとこちらに振り向いた。

 

 

 「智宏さん?」

 「よっ」

 「ほのかは?」

 「どっかに行ったよ」

 「そっか・・・智宏さん、優勝おめでとう」

 「ありがとう。隣、いいか?」

 「うん」

 

 

 智宏は雫の許可を得ると隣に腰を下ろした。雫はほのかが自分に気を使ってくれたのに気が付き、どういった表情を出せばいいのかわからなくなっていた。

 

 2人は黙っていたが、数分すると智宏が口を開いた。

 

 

 「雫・・・・・・残念だったな」

 「悔しかった」

 「・・・そうか」

 

 

 雫は俯いて淡々と智宏と話していた。

 が、いつもクールな雫にも限界があったのか、我慢できなくなり俯いたまま智宏に抱きついた。

 

 雫は智宏の胸に頭を預け、手は軽く背中にまわしている。智宏もポンと預けられた頭をゆっくり撫でた。

 

 

 「最初から勝てるなんて思ってなかった」

 「・・・深雪だからな」

 「それでも戦いたかった。でも・・・でも、手も足もでなかった。少しくらいやれると思ってたのに」

 「・・・・・・」

 「悔しい・・・悔しいよぉ」

 「でも深雪に一撃入れたじゃないか。それだけでも凄いと思うぞ」

 「うん・・・」

 

 

 雫は珍しく感情をもろに出して泣いている。

 

 智宏は自分の服が涙で濡れてしまったが、涙が理由で制服が汚れるのが嫌になるほど変な奴ではない。後で魔法で乾かせばいい。なので雫の気が済むまでずっとそのままでいた。

 

 しばらくすると、雫は身体を預けたまま顔を上げた。その顔にはもう涙はない。

 

 

 「智宏さん」

 「ん?」

 「ありがとね」

 「・・・おう」

 

 

 智宏にお礼を言った雫の表情は外から入ってくる夕日に照らされてとても可愛らしく、その微笑んだ表情に智宏は少し見とれてしまった。

 

 

 「もう大丈夫。皆の所に行こ」

 「わかった。深雪も心配してるだろうし・・・ほのかとも後でゆっくり話すといい」

 「そうする。ほのかに優勝おめでとうって言ってなかったし」

 

 

 智宏と雫はベッドから立ち上がり、智宏は雫の着替えが終わるまで部屋の外で待ち、制服に着替えた雫とほのか達に会うためにラウンジへと向かったのだった。

 

 その後、智宏が雫の部屋で色々やっていた事が何故か真由美にバレ、強制的に夕食の席を真由美の隣にさせられてしまった。

 

 

 

 




慰めるのは主人公の役目
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