四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第28話 新人戦メイン競技

 

 

 九校戦七日目にして新人戦四日目。

 今日の競技は男子のみのモノリス・コードの予選と花形競技と言っていいミラージ・バットが行われる。

 九校戦の中ではメイン競技と評されているため、観客席はどちらの競技も多くの人が集まっていた。

 

 智宏はミラージ・バットの会場に来ている。

 観客の視線はコスチュームに身を包んだ選手向けられているが、1部の視線は別の方向を向いている。

 その視線の先を追いかけると、そこには達也がいた。

 

 

 「うわ・・・達也に刺々しい視線が・・・」

 

 

 達也に敵意が篭った視線が送られるのも無理はない。スピード・シューティングとピラーズ・ブレイクで達也が担当した選手が上位を独占しているからだ。

 調べればどんな人物がCADを調整しているのかはわかるし、他校のエンジニアだって興味を示すのは当然だろう。

 

 今から始まる競技に出るのはスバルだ。

 今彼女は自信たっぷりな顔で達也と話しており、準備が出来たのか達也に軽く合図してフィールドに向かった。

 スバルも自分が予選を勝ち抜く事がわかっているだろう。他校の選手が向ける警戒した視線に臆さず堂々していた。

 

 試合の結果、スバルと第2試合に出場していたほのかは両者共に予選を勝ち抜いた。

 

 この戦果に「よし、これで決勝に行けるぞ」と智宏も喜んでいた。

 このまま第3試合も観ようと思っていた矢先、携帯端末にメールが入る。

 それは真由美からだった。

 今モノリス・コードでも試合をやっている。勝利の報告かもしれないが、それにしてはなぜメールで伝えたのか。後ででもいいはずなのに。

 智宏は少しだけ嫌な予感がし、メールを見た。

 そこには衝撃的な内容が書いてあり、智宏は急いでミラージ・バットの会場から出て1高の天幕に走った。

 

 天幕に着くと、慌てた様子の1高スタッフがそこらを走り回っている。

 

 

 「智宏君!」

 「智宏さん!」

 

 

 智宏の到着に気がついたのは真由美と深雪だ。

 雫もその声で天幕の中にあるパネルの前から智宏の所に歩いて来た。

 

 智宏は真由美達の慌てように驚いた。

 何があったのかを聞こうとしたが、智宏の後に天幕に入ってきた人物が先に事情を聞いた。

 

 

 「何――」

 「何があった?」

 「――って達也。寝てたんじゃなかったのか?」

 「いや、ついさっき起きた。それで何が?」

 「実はモノリス・コードで事故があったのよ」

 「会長、あれは事故じゃない。明らかなオーバーアタック、ルール違反だよ」

 「雫・・・まだ故意のオーバーアタックだと決めつけるのは早いわ」

 「そうですよ北山さん、疑心暗鬼は口にしてはいけません。深雪さんの言う通り決めつけるのはだめよ」

 

 

 智宏と達也は真由美の上級生らしい言い分に驚いた。もちろん表情には出さない。

 すると真由美は2人を半目で睨んだ。

 

 

 「2人共・・・なんか失礼な事考えてない?」

 「「いいえ、全く」」

 

 

 2人はなんか似たようなことが前にもあったなと思いながら真由美の鋭さに動揺した。

 真由美はすぐ否定した2人を追求したかったが、今はそれどころではない。

 

 

 「とりあえず何があったのか説明するわね」

 

 

 真由美の説明によると、森崎達が出場しているモノリス・コードで事故があったらしく、3人共重症を負い病院に運ばれたそうだ。

 市街地フィールドの廃ビルの中にいた時に『破城槌』を受けて瓦礫の下敷きになってしまったらしい。

『破城槌』は室内で使用すると殺傷ランクAになる。特に今回のようなコンクリートでできた建物で使用すると、いくら防護服を着ていてもコンクリートの塊が落ちてきてはあまり意味がない。

 

 森崎達の怪我は全治2週間はかかるそうだ。

 しかしここで疑問が生じる。

 なぜ大体はバラバラで行動するモノリス・コードで3人一緒にやられたのか。

 

 智宏のこの質問には雫が答えてくれた。

 

 

 「試合開始直後に奇襲されたんだよ」

 「開始直後?」

 「うん。『破城槌』はともかく索敵をしていたのは明らか。誰が観てもフライングだって断言できる」

 「そうなのよ。大会委員は慌てていたわ」

 「このままだとモノリス・コード自体が中止になりませんか?」

 

 

 達也の推測に誰もが同意したが、真由美は首を横に振っている。

 

 

 「いいえ。4高だけ棄権になるかもしれないわ」

 「しかし1高にはもう選手はいないのでは?」

 「だよな。補欠もないし・・・」

 「その件に関しては十文字君がなんとかしてくれるそうよ」

 

 

 現在克人は大会本部に詰めかけている。どうやら4高の不正行為と大会委員のスタート位置のミスを理由にして競技を続行させようと試みているらしいのだ。

 

 だが、例えば競技が続行可能になっても選手がいない。他の1年男子を出しても優勝する事はできないだろう。

 智宏が出場する手もあるが、智宏は他の男子と話した事はあるけれどそれ以外の事は知らない。チーム戦であるモノリス・コードにおいて味方の事をよく知らないままの出場は危険なのだ。

 

 

 「ねぇ、智宏君と達也君。話したい事があるんだけどいいかしら?あっちのスペースで」

 

 

 真由美は甘く誘惑するような声で智宏と達也を誘った。

 おそらく大会関係の事だと彼らは思ったが、後ろから来る数人のきつーい視線で何とも反応しずらかった。

 

 ひとまず天幕の奥に通された智宏と達也は、そこにある椅子に座った。

 真由美もCADをいじってから2人と対面して座る。

 

 

 「遮音障壁ですか・・・」

 「聞かれたくない話なんですね?」

 「そうよ。今回の1件も何者からの妨害工作だと私と十文字君は考えているわ。2人はどう思う?」

 

 

 真由美からの質問に智宏と達也は顔を見合わせ、頷いてその問いに智宏が答えた。

 

 

 「俺達もそう思います」

 「やっぱりね」

 「手っ取り早く4高からCADを借りて達也に解析させる。というのもあるんですが・・・無理でしょうね」

 「智宏の言う通りですね。バトル・ボードの時、7高がCADを見せてくれませんでしたし。そっちには期待していません」

 「そう・・・・・・」

 

 

 2人からの意見を聞いて、真由美は少し落ち込んでしまった。CADを解析すれば詳しい事がわかるのだろうが、わざわざ敵に味方の武器を渡すような行為は絶対にしないだろう。

 

 こめかみに指を当てて目を閉じている真由美だったが、しばらくすると再び問いかけた。

 

 

 「じゃあ春の1件の報復かな?あの組織ならウチの生徒に手を出してきてもおかしくないわ」

 

 

 1高は春に『ブランシュ』という組織から攻撃を受けた。

 ブランシュはその拠点ごと潰され、身を隠すしかなかった。彼らが計画を潰した1高に恨みを持っていると思えてしまうのも無理はない。

 

 その質問に対して今度は達也が答えた。

 

 

 「春とは違います」

 「なんで?」

 「九校戦の開幕前夜に拳銃で武装した3人の男がいました。目的はホテルへの侵入でしよう」

 「初めて聞いたわよ?」

 「口止めされてましたし。一応奴らは俺と智宏が取り押さえました。素性について調べた所、どうやら香港系の犯罪シンジケートみたいです」

 「え!?なんで!?」

 「それは俺にもわかりません」

 「会長、とにかくこれは他言無用でお願いします」

 「わかったわ。でも二人とも無茶な事はしないでね」

 

 

 真由美に一応口止めしたが、正直期待はしていない。克人や摩利に喋ってしまう可能性が高いのだ。

 しかしその2人なら冷静に判断してくれるだろうと信じて何も言わなかった。

 

 同時刻。

 横浜の中華街ではまだ男達が会議を続けていた。

 

 

 「1高はどうだね?」

 「うむ。モノリス・コードは棄権だな」

 「よかった。モノリス・コードを失うのは奴らに大きな影響を与えるだろう」

 

 

 男達は笑顔で頷きあった。だが、その笑顔の裏にはまだ安心しきっていない自分達が存在している。

 

 1高では全員に改めて森崎達が事故ったのを伝え、動揺しないように真由美が呼びかけた。

 智宏と達也も普段通りに、何事もなかったかのように行動していたのだった。

 




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