ミラージ・バットの会場では、ほのかとスバルは達也の適切な指示を受けてフィールドに立った。
2人の顔には緊張はなく、達也からアドバイスを与えられたおかげで自信たっぷりだった。
午前は青空だった空も今では星がみえるくらいに綺麗になり、フィールドの円柱の上には6人の少女が立っている。
ミラージ・バットには2つほど必要なスキルがある。1つは球体の投影位置まで素早く跳ぶ。1つは球体の位置を把握する。
これを満たせれば試合には勝てるのだ。
試合が始まり、ほのか達の頭上に赤い球体が投影される。1番早く動いたのはほのかだ。
次に先程より低い位置に球体が現れる。ほのか以外の5人が一斉に跳び上がるが、その中で最も早かったのはスバルだった。
「は、速い」
「なんであんな複雑な運動ができるんだ!?」
「やっぱり奴が・・・」
他校のエンジニア達は達也と自分達との技術力の差を見せつけられ、すごく悔しがっている。他校の選手と違ってほのかとスバルの起動式は小さく負担も少ない。
挙句の果てに誰かがこう口走った。
「くそ・・・まるでトーラス・シルバーみたいじゃないか!」
その声に真っ先に反応したのはあずさだった。
「え?」
「あーちゃん?」
どうやらあずさはフリーズしていたらしい。
真由美が心配そうに声をかけてくれた。あずさが「何でもないです」と答えると、真由美は不思議そうな顔をして試合の観戦に戻った。
あずさも試合に集中しようと思ったが、他の事で頭がいっぱいだった。
(トーラス・シルバーみたい?そう言えば『インフェルノ』や『フォノンメーザー』の起動式を簡単に組み込めるなんて・・・・・・トーラス・シルバー本人じゃなきゃ無理なんじゃ?)
ここまで考えつくと、不意にいつか達也が言った言葉を思い出した。
――もしかしたら俺達みたいな日本の青年かもしれませんね――
この言葉が頭の中で再生されると、あずさは1つの考えに至る。
しかしそれは信じ難い事だった。
(まさか・・・まさかまさか!)
そんなあずさをよそに試合の1ゲーム目が終わり、結果はほのかとスバルの圧勝となった。
結局この後の試合も勝ち進み、ほのかとスバルのワンツーフィニッシュで新人戦ミラージ・バットの幕は降ろされた。
1高女子がミラージ・バットの優勝を軽く祝っている頃、達也はミーティングルームに呼び出されていた。
中に入ると真由美と克人、摩利、鈴音などの幹部に桐原や五十里、それに智宏がいた。
「達也君、今日はよくやってくれました」
「ほのかとスバルが頑張ってくれたからですよ」
「現在私達の順位は1位。しかしモノリス・コードを棄権すれば2位になります」
「そういう事だ。司波」
「はい」
「森崎達の代わりにモノリス・コードに出ろ」
真由美達の用件は達也が予想した通りのものになった。
智宏も「やはり・・・」と思い3年生を見ると、その顔は冗談を言っているようには感じられない。彼らは本気だ。
達也は内心ため息をつきながら質問を真由美にふっかけた。
「質問しても?」
「いいわ」
「なぜ自分が選ばれたのですか?」
「達也君がふさわしいと思ったからよ」
「君は風紀委員の活動で色々戦果を上げてるし、実戦の腕は1年生の中でもトップクラスだろうな」
「モノリス・コードで肉体的な攻撃は禁止されていますよ?」
「魔法のみでも君は強いじゃないか」
話に入ってきた摩利は彼女なりに達也を説得し始める。
反論したが、それも上手く丸め込まれてしまい、達也には逃げ場はなかった。
しかも摩利はチラリと智宏の方を向いて「何か言え」という視線を浴びせた。
智宏も逆らう意思はないので、自分なりの意見を言った。
「俺から見ても達也の戦闘能力は高いですね。新人戦の対人戦闘程度なら勝機はあります。もちろん魔法のみで」
「ほら。あの四葉智宏だってこう言ってるじゃないか」
「しかし・・・」
「司波、甘えるな。弱者の地位に逃げる事は許さん。エンジニアだろうが何だろうがお前も九校戦チームの1員だ。メンバーとしての義務を果たせ」
克人は達也の目をしっかり見て言った。克人の言葉に反論する余地はなく、なおかつ達也の逃げ道を完全に絶った事を意味する。
簡単にまとめると、二科生を理由に逃げるなということなんだろう。
さすがに達也もここまで言われるとやらざるを得なかった。
「わかりました。それでメンバーは?」
「お前が決めろ」
「・・・は?」
「ただし四葉はダメだ」
「わかっています。では俺と同じクラスの西城レオンハルトと吉田幹比古をメンバーにします」
幹部達はてっきり達也は九校戦メンバーの中から選ぶのだと思っていたが、予想外すぎる申告に過剰に驚いた。
「「え!?」」
「ちょっと達也君!」
「まて。達也君、理由はなんだ」
「簡単ですよ。彼らはクラスメイトですし実力もよく知っています。なので作戦が組みやすいんですよ」
「なるほどね・・・智宏君」
「はい」
「その2人と面識はあるか?」
「あります」
「君から見てどうだ?」
「そうですね・・・2人は二科生の中でも高い実力を持っています。達也が指揮するなら問題はないはずです」
「よし、その2人を呼んでこい。ホテルにいるのだろう?」
ミーティングルームでの話し合いの結果、モノリス・コードに達也、レオ、幹比古が参加した。大会委員の方は克人が何とかしてくれたらしい。智宏もいざとなったら四葉の力を使うつもりでいた。
レオと幹比古が克人から正式にモノリス・コードの参加を要請されたのはこの話し合いが終わってから10分後の事だった。
今は智宏と達也の部屋にレオ達が集まっている。レオと幹比古はいまだ信じられないというような顔をしていた。
「なぁ達也・・・まじ?」
「マジだ」
「智宏じゃダメだったのか?」
「俺が入ると作戦が組みにくいんだってさ」
「・・・ねぇ、ミキ。大丈夫?」
「僕の名前は幹比古だ」
幹比古は少しそわそわした感じで座っている。
エリカとのいつものやり取りをすると気が楽になったのか、落ち着いた雰囲気を出していた。
今ここにいるのは達也とそのクラスメイトに加えて智宏がいた。深雪は他の女子達に捕まっているのでこっちには来ていない。
「でもよ、俺CAD持ってないぞ?」
「うん。レオの言う通りだ」
「安心しろ。必要な物は全てこちらで用意する
から」
「CADの調整もかい?」
「ああ。1人1時間で終わらせる」
「「・・・・・・」」
「だ、大丈夫だよ、俺も手伝うから」
「智宏・・・助かる」
CADの何も無い状態からの調整には
それを1時間で終わらせる達也のテクニックを誰も疑う人はこの中にはいない。それどころか「まぁ・・・達也だし」といった言葉が頭の中に浮かぶほど。
しかし、そんな中でも美月が心配そうに達也に話しかけてきた。
「でも達也さんのCADはいいんですか?」
「大丈夫。俺のは10分で終わるから」
「そ、そうですよね」
「10分ねぇ。だんだん基準がわからなくなってきたわね」
「気にするな。それでフォーメーションなんたが・・・」
達也が試合の事を話し始めるとレオと幹比古は真剣な顔になり、エリカも静かになった。
「レオはディフェンスだ」
「ディフェンスって何すりゃいいんだ?」
「敵を10m以内に近づけないこと、モノリスに魔法を撃ち込まれたりコードを読み取られないように妨害することだ」
「なるほどぉ。了解したぜ」
「幹比古は遊撃を頼む」
「遊撃?」
「遊撃はオフェンスとディフェンスの援護するんだ。でも基本は相手チームにもよるがこちらのモノリスに近づく選手を倒してくれ」
「わかったよ」
2人に説明を終えた達也は、ベッドの下からケースを取り出してそれをレオに渡した。それは数日前に実験した剣だった。
レオはこれが自分が使うCADだとすぐにわかったが、ふと疑問が浮かぶ。
「達也。これが俺のCADだよな?でも物理的な打撃は無理なんじゃないか?」
「大丈夫大丈夫。パンフには質量体を魔法で飛ばして相手にぶつけるのがいけないとは書いてないから」
「なるほど・・・まさにモノリス・コードのための武器ってか?まさか想定してつくったんじゃ?」
「まさか。偶然だ」
智宏はレオの疑問を解決し、持っていたパンフレットをベッドに放った。
達也は今度は幹比古の方を向いた。
「幹比古は雷撃以外にも遠隔魔法を使えるんだろう?」
「うん・・・でも達也。達也は僕の術式には無駄があるって言ったよね?」
「ああ」
「僕はどうすればいいんだい?」
「術式をアレンジするんだ。あれは『雷童子』の派生型だろ?俺の役目はその無駄を削ぎ落とす事だ」
「よくわかったね。確かにあれは『雷童子』の派生型だよ。僕のには術の弱点をつかれないように偽装を施してあるんだ」
「昔なら有効だろうな。しかし今はCADによる魔法の高速化が進んでいる。もう偽装に意味はない」
「はは・・・なるほどね」
「俺が幹比古を推薦したのは古式魔法による隠密性を利用した奇襲力だ」
「達也・・・・・・わかった。僕は達也に信じるよ」
「ありがとう」
エリカ達は達也が古くからある吉田家の術式をこんな真正面から否定するとは思ってもいなかったのだろう。心配するような目を幹比古に向けていたが、達也の答えに納得した幹比古を見て少しホッとした。
その後は達也がいくつか幹比古に質問をし、質問も答えを基に作戦を立案した。
作戦が決まると智宏達はそこで解散する。ただし、レオと幹比古は達也が調整したCADを受け取ってから帰った。
達也は2人のCADを本当に1時間で作業を終わらせ、明日の試合に備えて早めに寝たのだった。
3人とも頑張れ!