四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第31話 快進撃

 

 

 「智宏君!」

 

 

 智宏が達也達がいる控え室に向かう途中、後ろから声がかかった。

 振り向くと真由美とあずさが近づいてくるのが見える。

 

 

 「あれ、会長と中条先輩。どーしたんすか?」

 「これから達也君の所に向かうところよ。智宏も?」

 「ええ。第2試合はすぐですから」

 「まさかウチが勝つなんて大会委員も予想してなかったんじゃないかしら?」

 「そうですね。でも休憩時間の短さを見ると少し大会委員の陰謀を感じてしまいます」

 「あーちゃん・・・向こうもさすがにそこまでしないと思うわ」

 「で、ですよね?」

 「安心してください中条先輩。もし本当だったら俺が許しませんから。来年の運営のメンバーを何人か変えましょう」

 

 

 このセリフにはあずさはともかく真由美まで固まってしまう。確かに『四葉』の力を使ってしまえば事は簡単に済むだろう。しかし本当にそれだけで済むとは限らない。もっと恐ろしい事が起きるのではと2人は思ってしまった。

 

 固まっていた2人だが、真由美がなんとか復帰した。

 

 

 「と、智宏君。大丈夫よ、大丈夫」

 「・・・そうですか」

 「さ。行きましょ」

 

 

 真由美が無理矢理話を切り、智宏達は時間がないので控え室まで少し早めに歩く。

 

 控え室の中に入ると、深雪が顔を近づけながら椅子に座っている達也の肩を優しく揉み、その端では幹比古がいずらそうに座っている。

 この光景を見た真由美とあずさは固まってしまい、おまけにあずさの顔は真っ赤に茹で上がった。なぜ赤くなるのだろう?

 

 真由美がコホンと咳払いをする。すると達也は深雪の手を優しくどけてスっと立った。その動作には無駄がなく、真由美は達也が軍人みたいだと思ってしまった。

 

 

 「達也君。次のステージが決まりました」

 「どこですか?」

 「『市街地』よ」

 「・・・あんな事があったのにですか?」

 「ええ」

 「わかりました、では移動します。深雪、ありがとう。レオ、幹比古、行くぞ」

 「行ってらっしゃいませ」

 「おう」

 「うん」

 

 

 3人は市街地フィールドに向かっていった。

 

 1高VS2高。

 事故があった市街地に決定したのには、あくまでも責任は自分達にはないという上層部の強情さが見えた。

 

 しかし達也にとってこのステージは都合がよかった。彼は試合開始の合図が出た途端に屋上に向かって魔法を使わず隣のビルに飛び移り、3回ほどそれを繰り返して敵のモノリスがあるビルに到達した。魔法を使わなかったのでディフェンスには気づかれていない。

 

 達也は建物の中に入り、物陰に隠れて通信機を使った。相手は幹比古だ。

 

 

 「幹比古」

『何?』

 「モノリスの位置を探ってくれ」

『わかった』

 

 

 幹比古は作戦通り精霊を使ってモノリスの探索を始めた。

 

 一方レオは小通連を構えながらモノリスのある通路をうろうろしている。しかし、ここでレオは2高のオフェンスと当たってしまう。

 2人は2mほど距離を取った。2高選手はモノリスに気がつくと銃口をそっちに向けた。

 

 

 「やべ!Halt(ハルト)!」

 「うわ汚ぇ!」

 「おらぁ!」

 「ぐっ」

 

 

 レオは慌てて硬化魔法をモノリスに掛けて防御。そして小通連を突き出して相手を倒した。

 ここまでの戦闘は結構ギリギリだ。

 

 幹比古は達也から離れた精霊を操ってモノリスを探している。そして廊下の角を曲がった時、2高のモノリスを発見した。

 

 

 「達也、見つけた。モノリスの位置は――」

 

 

 幹比古は通信機を使い、達也に連絡を取る。もちろん周りの警戒も忘れない。

 達也も幹比古からの連絡を受け、その場所が以外と近い事に気がついた。

 

 

 「わかった」

『頼んだよ』

 

 

 達也はモノリスのある位置の真上まで走り、CADを真下に向けて引き金を引く。モノリスを開くコードの射程は10mなのだが、真上で撃ったため射程は全く問題ない。

 するとわずかながら手応えがあり、モノリスが開いた事がわかる。幹比古は精霊をモノリスの裏側まで移動させた。視覚をリンクしている彼はモノリスのすぐ近くに立っているように見える。

 

 幹比古がコードを打ち込んでいる間、達也は隠れている部屋に駆け込んできた相手のディフェンスが発動した『鎌鼬』から逃げ回り、柱の影に隠れた。

 しばらく耐えていると試合終了のブザーが鳴り響き、達也はホッとしたような顔をした。

 

 

 「達也め・・・遊んでたな」

 「智宏さん。お兄様があそこで相手を倒しても結果は変わりませんでしたよ?いいではありませんか」

 「そ、そうですよ!相手に最後の抵抗をさせてあげたと思えば!」

 「ほのか、その考えはちょっと怖いよ」

 「そう?」

 

 

 確かに観客席の中にはいくつかの不満が漏れていたが、似たような感想を言っている者が会場の個室に座っていた。

 

 

 「全く・・・分解を使わないのはわかるがフラッシュ・キャストやエレメンタル・サイトを使わないとは手抜きがすぎるのではないか?」

 「彼には秘密にしなければいけない事があるんですよ」

 「しかしだなぁ」

 「でもフラッシュ・キャストは使うでしょうね。いくら達也君でも『プリンス』と『カーディナル』を相手にしては低スペックCADだけで戦えませんから」

 

 

 陸軍独立魔装大隊の山中軍医と藤林響子少尉は達也の行動について話していたが、達也がこれから使う魔法は機密と言っていいほどの物。そう簡単に公衆の場で見せるわけにはいかないのだ。

 

 そして観客席では達也や幹比古、レオの活躍に注目している観客が多く、3人の技術に舌を巻いている。

 

 

 「なんだ・・・大丈夫じゃない」

 「エリカちゃん?」

 「なんでもないわ」

 

 

 エリカは幼馴染の幹比古を誰よりも知っているつもりだ。昔から遊んできた友達として幹比古の動きには一段と敏感で、既に今の幹比古は1年前の事故以前の力を取り戻している事がわかっている。

 しかし幹比古はまだ気づいておらず、何かきっかけがなければ自信を持てないのだ。

 

 ちなみに次の試合は8高だ。

 時間は昼食を挟むのでさっきよりは休めそうなので、レオ達も少しゆっくりしている。

 

 智宏と達也、深雪の3人は昼食を食べにホテルに移動していると、何気に初めて見る光景があった。

 

 

 「ん?達也、あれって」

 「渡辺先輩だな」

 「まぁ」

 

 

 ロビーの1角で1組のカップルが話しており、その内の1人は摩利。摩利は珍しく頬を赤く染めて彼氏の前に立っている。

 智宏と達也より身長は高く、ちょっとした動作と腕の筋肉などを見たところ、彼は武術をやっているとすぐにわかる。

 遠くから見ようが近くから見ようが、2人はお似合いのカップルに違いない。

 

 すると達也が摩利の前にいる男の正体に気がついたらしい。

 

 

 「・・・ああ」

 「達也?」

 「あの人は千葉修次と言ってエリカの兄だ」

 「エリカのお兄様でしたか」

 「ほら。エリカだ」

 

 

 智宏達は達也の説明を聞きながら、2人の時間を邪魔しないようにこの場を去ろうとした。

 しかし、あえて2人の間に突入していくエリカがいた。

 

 

 「次兄上!何故ここに!?」

 

 

 ツカツカと兄に詰め寄っているエリカはいつもと違う雰囲気を出している。

 

 

 「千葉修次は『千葉の麒麟児』と呼ばれていて、3メートル以内の間合いなら白兵戦は達人級らしい」

 「強いのか・・・」

 「智宏さん?戦ってみようなんて考えてませんか?」

 「イイエ」

 

 

 3人がこんな会話をしている間にもエリカはますますヒートアップしており、横にいる摩利には目もくれずに千葉修次に食ってかかった。

 

 

 「兄上はタイに出張中のはずですよね!?」

 「いやいや。別にサボってきたわけじゃないよ?」

 「タイの王室魔法師に剣術を教えに行っていた件。それは嘘だったのですか?」

 「うっ・・・ちゃんと許可は貰ったよ?」

 「これは外交に関わる重要な仕事ですよ!?許可を貰ったとはいえ、仕事を放り出して来るほどの事ではありません!」

 「エ、エリカ?外交だなんて言い過ぎじゃないか?そもそもあれ大学の部活の一環みたいな物だし」

 「兄上!」

 「は、はい!」

 「たとえ学生でも国通しの交流を深める大切な任務です!これを疎かにしていいはずがありません!」

 「仰るとおりです、はい。すいません」

 

 

 本当に千葉修次は世界で10本の指にはいるほどの猛者なのか?と感じてしまうほどの光景を見せられ、智宏達は驚きを隠せないでいた。

 

 千葉家は恐妻家ではなく恐妹家なのだろうか?

 こんな事を感じてしまうほど3人の動揺は大きかった。

 一方エリカもさらにスパートをかける。

 

 

 「兄上とあろう方が・・・こんな女と付き合うなんて・・・・・・兄上はこの女と付き合い始めてから堕落いたしました!」

 「お、おいエリカ!」

 

 

 エリカはこう吐き捨てて2人の前から姿を消した。

 

 智宏達はエリカを追いかけると、エリカは自販機のスペースにある椅子に座っていた。

 

 

 「あ・・・・・・もしかして聞いたの?」

 「すまん」

 「いいわよ。別に」

 「コーヒーを奢るから」

 「マジ?サンキュー」

 

 

 達也からコーヒーを受け取ったエリカは半分ほど一気に飲み干すと、座った目で缶を見つめた。

 

 

 「ったく・・・バカ兄貴、あの女に誑かされちゃって」

 「エリカ?世界的な剣術家を『バカ兄貴』なんて言ってはダメよ?それに、私達の前だからと言って言い方を変える必要はないはずよ?『次兄上』・・・だったかしら?」

 「いっ!?忘れてー!そんなのあたしじゃない!」

 

 

 エリカは元々いいとこのお嬢様っぽい言葉は好きになれないのだろう。頭を抱えて大きくため息をついている。

 

 

 「エリカはお兄さんが好きなのよね?」

 「・・・・・・・・・違う!」

 「もう。エリカったら本当にブラザーコンプレックスなんだから」

 「な、な、なっ!アンタだけには言われたくないわよ!この超絶ブラコン娘ー!!」

(あ!バカ!)

 

 

 数々の爆弾を投下した深雪に対し、エリカも必死に反撃をしたが、最後の一撃だけはいけなかった。

 智宏が頭の中でエリカを叱責した時にはもう全てが遅く、自販機のスペースは氷点下の空気に包まれたのだった。




ツンデレ妹はどこにでもいる・・・はず
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