四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第33話 第1高校VS第3高校 前編

 智宏とキャリーバッグを持った達也が天幕に入ると1高のスタッフはほぼ全員揃っており、興味津々な視線を達也に向けた。

 

 達也はレオと幹比古が座っているテーブルまでキャリーバッグを持って行き、テーブルの上に乗せて鍵を開けた。

 取り出されたのはマントとローブだった。

 

 

 「達也、コレなんだ?」

 「マントとローブだ。決勝戦で使うんだが・・・間に合ってよかった」

 「司波君、それはルール違反になりませんか?」

 「市原先輩が心配するのもわかります。しかしこの布に魔法陣を織り込んであるので問題はありません。それに、デバイスチェックには出しますから」

 「なるほど・・・」

 「お兄様、どのような魔法を織り込まれているのですか?」

 「発動した者の魔法がかかりやすくなる補助魔法だよ」

 「補助ね・・・リンちゃん、それなら問題ないかな?」

 「そうですね、というかここまで運営側も想定していないのでは?」

 「それもそっか。じゃ3人共、無理はしないでね」

 「「「はい」」」

 

 

 達也が持ってきたマントとローブを五十里がチェックしている頃、達也は身体をほぐしに外へ、レオと幹比古も軽く走りに行った。

 身体をほぐすと言っても屈伸や伸脚などではなく、体術の型を行う。

 

 一通り終えると、タイミング良く智宏とタオルを持った深雪が近づいてきた。

 

 

 「お兄様、どうぞ」

 「ありがとう」

 「達也、次の相手は一条と吉祥寺だ。勝てるか?」

 「なぜだ?」

 「達也は力を制限されてるしなぁ」

 「問題ない。今の俺なら直接『爆裂』を使われない限り勝率は高い」

 「そらそっか」

 「お兄様、力を制限した者としては本当に心苦しいです。でも、必ずお兄様が勝つと深雪は信じていますから」

 「深雪・・・・・・」

 「なんか今のセリフ、兄妹とは思えないぞ?」

 「と、智宏さん。恋人みたい(・・・・・)だなんて!」

 

 

 智宏がからかうと、深雪は天幕の中にかけて行った。盛大に言葉を自分のいいようにすり替えて。

 

 残された智宏と達也は「やれやれ」と軽く笑った。

 しかし、これで達也は負けられなくなった。

 妹から絶対に勝つと信じられては、達也としても優勝を勝ち取らなければいけない。

 

 そんな中、決勝戦のステージが『草原ステージ』に決まった。3高では歓声が上がり、1高ではため息が続出している。

 しかし達也はこれでいいと思っていた。先程の渓谷ステージでは水蒸気爆発に使う水がそこら中に流れている。ポジティブに考えれば渓谷ではなくて良かったと思うべきだろう。

 しかしモノリス・コードでは格闘戦が禁止されているため、達也が得意としている体術は使用できない。

 それをわかっている上級生は達也から説明を受けてもまだ顔は曇っていた。

 

 そして新人戦モノリス・コード決勝戦。

 歓声を受けて登場した将輝達に対し、達也達が登場すると戸惑いの声が多かった。

 マントを着ているレオとローブを着ている幹比古は、好機的な視線から逃れるため顔を隠している。

 

 

 「なぁ、この格好やっぱりおかしくねぇか?」

 「なんで僕達だけ・・・」

 「何言ってるんだ。前衛の俺がそんな走りずらい物を着るわけがないだろう?」

 「そりゃそうだけどよぉ・・・あいつ今頃笑ってやがんだろうな」

 「僕もそう思うよ」

 

 

 レオの推測に幹比古も同意する。その『あいつ』とは観客席にいた。

 

 

 「アーッハハハハハ!何アレ何アレ!」

 「え、エリカちゃん!」

 

 

 エリカは爆笑しており、隣で美月が必死ににエリカをなだめていた。

 爆笑していたエリカに周りからの視線が刺さり、美月は凄く恥ずかしそうに縮こまっている。

 

 エリカはヒーヒー言いながらなんとか笑いを抑え、ようやく落ち着いた時には周りの生徒もフィールドに視線を戻していた。

 

 

 「ごめんごめん、あー面白かった。ねぇ美月、アレなんだと思う?」

 「達也さんが作ったなら何もない訳ないし・・・あ」

 「ん?」

 「吉田君のローブに精霊がいっぱいまとわりついてる」

 

 

 観客達は好機的な視線で達也達を観ていたが、将輝達はそうはいかない。将輝と吉祥寺、もう1人のチームメイトは首を傾げていた。

 

 

 「あれはジョージの『不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)』対策か、またはハッタリか」

 「彼は僕の魔法を知っていた。だからあの魔法は布1枚で防げるやつじゃないのも理解しているはず。だからアレは僕対策だと思うけど・・・」

 「そう思わせるためかもしれないぞ?」

 「ああ。その可能性もある」

 「わからないな・・・・・・まさか隠し玉があったなんて」

 

 

 将輝達の疑問は結局解消されず、頭の中にモヤを残したまま試合開始を待った。

 

 一方、観客席の端っこにて別の意味でざわめいていた。なんと九島老人がVIPルームではなく、下の来賓席に現れたのである。

 

 

 「九島先生!?いかがされました!?」

 「いやなに。たまにはここから観させてもらおうと思ったのでな。それと、面白そうな若者を1人見つけた」

 「は、はぁ・・・」

 

 

 モノリス・コードは1番盛り上がる競技。しかもその決勝戦となれば絶対に見逃すわけにはいかないだろう。

 

 そんな中、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 まず試合開始の合図が鳴ると、3高の陣営から遠距離攻撃が炸裂する。

 1高と3高のモノリスの距離はおよそ600m。達也と将輝は互いに歩み寄りながらただまっすぐに歩いていく。その間、2人共拳銃型のCADを突きつけ撃ち合っていた。

 

 将輝の砲撃を達也が撃ち落とす。

 この繰り返しが2人の間で行われていた。

 最初から見せつけるような試合をしている2人に対し、観客は驚きの声を出していた。

 もちろんその中でも1番驚いていたのは1高天幕にいる幹部勢だろう。

 

 

 「な、なんという胆力なんだ」

 「彼は本当に二科生なの?」

 

 

 吉祥寺はまだ3高の陣地にいたが、別の意味で驚いている。それは実力ではなく、たった2時間で起動式の構成を変えた事にあった。

 

 しかし迷ってる暇はない。

 そう判断した吉祥寺は頭の中にある疑問を捨てた。

 

 

 「じゃあ僕も行くよ」

 「おう。ここは任せとけ」

 

 

 吉祥寺は達也と将輝が戦っている場所を迂回しながら1高陣地に向かって走り出す。

 すると達也は吉祥寺が行動を開始したのを確認したのか、歩くのを止めて走り始めた。

 将輝は慌てることなく達也に魔法を撃ち込む。

 達也は走りながら自分の周りに張り巡らされた砲弾を撃ち落としているが、さすがに距離が短くなるほどキツくなってくる。その分照準はつけやすいが。

 将輝まで残り50mを切ると、達也はついに将輝の攻撃をさばき切れなくなり、襲いかかる砲弾をなんとか避けた。

 

 

(やむを得ん・・・)

 

 

 達也はついに『精霊の目(エレメンタル・サイト)』を使った。

 これで死角はなくなったに等しいが、本当にこれを使う事になるとは思っていなかった。それほど将輝が強いのだろう。今、達也の前には分厚い壁が立ちはだかっている。

 

 エレメンタル・サイトを使用したのに気がついたのは智宏と深雪、風間や響子達独立魔装大隊の面子、それと九島老人だった。

 現在観客席には響子と山中が座っていた。

 

 

 「とうとう誤魔化しきれなくなったな」

 「不謹慎ですよ。いくら達也君でも五感だけで一条の跡取りの攻撃をさばくのは無理があります」

 「・・・だな。それにこの状態なら第六感と言い訳がつくか?」

 「はい。問題ないと思いますよ」

 「だがそこらの目は誤魔化せてもあちらの御仁まで誤魔化せるとは思ってないぞ」

 

 

 山中が視線を向けたのは興味深く試合を観戦している九島老人の姿があった。

 響子はチラッとそちらに視線を向けたが、すぐに達也に視線を戻した。

 

 さて。一方フィールドでは、吉祥寺が1高モノリスに到着するその100m手前でレオに行く手を遮られていた。

 吉祥寺は不可視の弾丸を放とうとする。しかし――

 

 

 「ッ!?(あの布にはあんな使い方が?これでは不可視の弾丸が使えない!)」

 

 

 レオはマントを脱ぎ捨て、マントに硬化魔法をかけて地面に突き刺した。布は硬い壁となって吉祥寺からレオを守っている。これには吉祥寺も動揺していた。

 さらにレオの数m後ろに現れた幹比古により、風で飛ばされた金属片が吉祥寺に襲いかかる。吉祥寺はなんとか回避し、追撃で放たれた突風にあえて飛ばされる事でダメージを緩和した。

 

 吉祥寺は内心舌打ちをしたが、不可視の弾丸の目標をレオから防御していない幹比古に変えた。

 しかし、幹比古に照準を合わせた瞬間、吉祥寺の視界がぼやけた。

 

 

(ま、まさか幻術!?)

 

 

 幹比古の幻術により吉祥寺の動きが止まってしまう。

 レオはこの瞬間小通連を吉祥寺にぶつけようとした。吉祥寺も迫り来る刃に気が付き、回避ができない事を理解すると目を閉じた。

 

 だが――

 

 

 「ぐわぁ!」

 

 

 突然レオを空気の砲弾が襲った。それは将輝による援護射撃。これによりレオの攻撃はずれて刃が落ちたのは吉祥寺の10cmほど横だった。

 吉祥寺は視線で将輝に礼を言うと、幹比古に不可視の弾丸を発動させる。幹比古にあっけなく魔法が命中し、追加で発動させた加重増大魔法により幹比古は地面に叩きつけられた。

 

 将輝は吉祥寺が幹比古を押さえつけた光景を見ていた。しかしその間達也から視線を外していたのが仇となり、達也はその一瞬で将輝との距離を約5mまで詰めていた。

 一瞬で距離を詰められた将輝の顔には動揺が走り、慌てて魔法を発動した。

 

 それもレギュレーションを超えた高威力の空気弾16発を。

 

 達也はそれでも分解ではなく術式解体を使い、アクロバティックな動きを見せながら迎撃した。しかし迎撃に成功したのは14発。残った2発は達也に直撃してしまう。

 

 観客席では達也を心配する声が上がる。

 

 将輝も今自分がした事を理解していた。

 ルールで決められた威力以上の魔法の行使。もしかすると殺してしまったかもしれないという危機感に駆られていた将輝は隙だらけだった。

 審判は気が付かなかったかもしれないが、魔法を発動した将輝にとって、「しまった!」と感じさせるほどの事だったのだ。

 

 達也は地面に叩きつけられる直前。それは起こった。

 

 

(肋骨骨折、肝臓血管損傷、出血多量の可能性あり。戦闘力低下。結果『許容レベルを突破』)

(自己修復術式オートスタンバイ。魔法式ロード、コア・エイドス・データをバックアップよりリード)

(修復開始・・・・・・・・・完了。全て異常なし)

 

 

 達也は『再生』を発動。一瞬で達也の傷が治り、重傷だった彼の身体は何事もなかったかのように元通りになった。

 

 将輝が固まっている理由を達也は知らなかったが、復活した今はそんな事を考えている余裕はない。

 達也は身体をひねらせて無理矢理立ち、踏み込んで将輝のヘルメットの左側に右腕を突き出した。

 間髪入れずに達也は指を鳴らす。それは「パチン」といった普通の音ではなく、スタングレネード並の破裂音が将輝の左耳を直撃した。

 観客席にもその轟音が鳴り響く中、その場にいた全ての人間の動きが止まる。

 

 そしてこの試合を観ている全ての人々が見守る中、将輝はゆっくり地面に崩れ落ち、達也は片膝をついたのだった。




耳痛そう〜

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