四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第37話 本戦ミラージ・バット決勝

 智宏はミラージ・バットの決勝戦が始まるまでまだ時間があるのを確認し、皆で昼食を食べに行っていた。

 

 達也と深雪は部屋でCADの調整をしながら昼食を食べるらしい。

 CADと言えば、先程大会委員から飛行魔法に使用したCADの検査をさせろと言ってきた。智宏もちょうどその場におり、正直鬱陶しい彼らに家の名前を使おうかと思ったが達也はそれを止め、素直にCADを渡した。

 その後2人は達也と智宏の部屋に行き、昼食を食べた終わった深雪はシャワーを浴びてベッドに座っていた。

 

 

 「深雪」

 「なんでしょうか?」

 「俺にして欲しい事はあるか?」

 「そうですね・・・・・・会長からは身体をしっかり休めるように言われましたし・・・」

 「なんでもいいよ」

 「では私が寝ている間・・・そのぉ・・・隣に・・・いてくれませんか?」

 

 

 さすがの深雪も恥ずかしかったらしく、顔を真っ赤にしながら『お願い』してきた。

 もちろん達也に断る理由などない。

 

 

 「深雪は甘えん坊だね」

 「妹は兄に甘えるものです」

 「わかった。手も握ってあげよう」

 「ありがとうございます、お兄様!」

 

 

 達也は深雪が自分のベッドに寝っ転がると、手を握らせてもう片方の手で深雪の頭を優しく撫でた。

 すると深雪は1分もしない内にすやすやと寝息をたて始める。

 

 それから何時間か経っても達也は深雪の側を離れず、ベッドの横に置いた椅子に座っていた。

 深雪は安心しきった顔で寝ており、それが達也と深雪の絆を表しているのだと思うと達也は兄として嬉しく思った。

 昔は深雪との過度な接触を禁じられていたために2人にはこのような経験は少ない。自分を本当に信頼してくれている深雪に感謝しなければいけないだろう。

 

 達也は携帯端末についさっき届いた2通のメールを確認する。

 1つは響子から。

 もう1つは遥からだった。

 内容はジェネレーターによる観客席への襲撃未遂やCADへの不正工作の詳細、遥に頼んでいた仕事について。

 深雪のCADに細工をした男は今どうしているだろうか。達也は深雪を地面に落とそうとした輩を生かしておくはずがないが、彼は刑務所で人生の半分を終えるだろう。まぁのこのこ出てきても消すだけ(・・・・)なのだが・・・。

 

 ここまで来たら深雪の優勝は確実だ。しかし、深雪に手を出した連中をそのままにしておくわけにはいかない。達也は感情を外にに出していないだけで、ものすごく怒り狂っており、もし近くに主犯がいたら消していただろう。

 そして達也は決意した事をメールで智宏に送る。智宏も深雪の兄だ。協力してくれるだろうと確信を持って。

 

 決勝戦が始まる頃の天気は雲ひとつない綺麗な夜空。

 正直曇っていてほしいのだが、ここまできてしまったらしょうがない。

 

 

 「深雪。体調は?」

 「問題ありません。それと決勝なので最初から飛行魔法で挑みたいと思います」

 「わかった。頑張れよ」

 「はい!」

 

 

 深雪は達也に見送られながら元気よくフィールドに走っていく。

 

 観客席に座っている智宏達は、柱の上に立つ深雪を観ながら決勝戦について話し合っていた。

 

 

 「なんか深雪上機嫌じゃない?」

 「そうだね」

 「しっかり休んだんだろうな」

 「それだけじゃない気がするけど・・・ところで決勝戦、智宏君はどう思う?あたしは深雪が少し苦戦するって考えてる」

 「うーん・・・・・・否定はできない」

 「それでも深雪は勝つわよね!雫!」

 「うん」

 

 

 決勝戦ではさすがの深雪でも苦戦すると予想されるが、最終的には優勝すると結論が出る。

 それと同時に試合が始まり、選手達は一斉に空へ飛び上がった。

 

 ここでさっきの試合と違うところが1つ。

 他の選手も深雪のように足場に降りてこないのだ。

 その理由は誰にでもわかるだろう。そう、飛行魔法を全ての選手が使っているのだ。

 1高の幹部達は驚きを隠せないでいる。

 

 

 「そんな!飛行魔法!?」

 「やはり他校も使用してきましたか・・・」

 「術式がリークしたのね・・・・・・でも選手より優勝を優先するなんて!」

 「会長落ち着いてください。司波くん、何か対策はあるの?」

 「俺に聞かれても困ります。しかし、トーラス・シルバーの術式をそのまま使っているなら『安全装置』が作動するはずですね」

 「「安全装置?」」

 

 

 真由美やあずさが心配する中、達也の声にはどこか余裕があった。

 

 6人の少女が舞う中、その中でも深雪だけが着々とポイントを重ねていく。実戦経験が少ない他校の選手らはいまだ飛行魔法を使いこなせていないのだ。

 深雪が自分達より自在に動き回っている。この事が彼女達の中に『焦り』を生んだ。

 そして、ついに最初の1人が体勢を崩してしまう。だが落ちる瞬間に安全装置が作動し、ゆっくりと選手を下に降ろした。

 

 その後、第2ピリオドが終了した時点で3人が棄権してしまい、第3ピリオドは深雪を含めた3人だけになる。

 だが、脱落していく選手がいる中でも深雪だけはペースを落とすことなく点数を取り続け、試合が終了した時には深雪だけがフィールドに立っていた。

 深雪が一礼すると、観客席から歓声と拍手が会場全体を包む。それは深雪だけでなく、高等魔法を使って『ミラージ・バット』という競技で美しく舞ってくれた選手にも向けられており、他の選手達も疲れていたが満足そうな笑顔で立ち上がっていた。

 

 そしてミラージ・バットの優勝は深雪が勝ち取ったのである。

 

 その夜、ホテルのミーティング1高によるルームでは簡単なお茶会が開かれており、明日から再開される本戦に出ない人や手が空いている人は参加している。

 さらに本来ならばこの場にいないはずのエリカ、美月、レオ、幹比古の姿があった。

 しかしその中で主役とも言える2人の男子生徒がいなかった。智宏と達也である。その事に最初に気がついたのはエリカと雫だ。

 

 

 「ねぇ深雪」

 「何かしら?」

 「あたし達も参加させてもらったのはいいんだけどさ、智宏君と達也君はどうしたの?」

 「お兄様は部屋でお休みになっているわよ」

 「そっか。大活躍だったもんね」

 「じゃあ智宏さんは?」

 「実家の用事ですって」

 「家の用事ね・・・そっか、残念」

 

 

 深雪の説明を受け、エリカ達は「それもそうか」と思った。他の生徒から見ても達也は新人戦で最も活躍したと言ってもいいほどの功績を上げ、その分疲労も溜まっていると深雪以外に思わせる事ができた。

 智宏については『四葉(実家)』と言われると何もできない。それ以前に十師族の用事に口を挟むのは気が引ける。

 

 がっかりした雫を慰めるようにほのかや深雪が別の話題を振っている中、当の本人達は軍基地の地下駐車場に足を運んでいた。

 紫紺色の野戦服を着た智宏がコンクリートの柱によりかかって辺りを警戒し、達也は1台の車に乗り込んだ。

 

 

 「もう、女性を待たせたらダメよ」

 「すみません」

 

 

 達也が乗った車の持ち主は遥。仕事のデータを達也に渡すためにここまで来てくれたのだ。

 

 遥は車の中を真っ暗にし、ポケットから携帯端末を取り出して電源を付けた。達也もタブレットを取り出していた。

 

 

 「はい、アジトの地図データと構成員のリスト」

 「ありがとうございます・・・それとこれは?」

 「おまけ。無頭竜(彼ら)の実行部隊が待機している場所よ」

 「本当ですか?さすがですね・・・ではこれでどうですか?」

 「・・・え?」

 

 

 遥は自分の所に送られてきたバイト料を見て目を丸くした。

 理由は報酬が少ないのではなく、高校生が払える金額を超えているレベルだと言うこと。しかしトーラス・シルバーとして稼いでいる達也にとってこの程度の金額ははした金にすぎないだろう。

 

 

 「足りませんか?」

 「い、いいえ。十分よ」

 「では失礼します」

 「・・・・・・保険なのよね」

 

 

 遥は達也の懐が膨らんでいるのを見逃さなかった。中身についても何がしまわれているのか簡単に予想がつく。

 

 達也も遥の問いに簡単に答えた。

 

 

 「ええ」

 「それと外にいるお友達は?」

 「言えませんよ。これ以上は俺の口からは言えませんし、個人的にも公安である貴方に消えて欲しくない」

 「はぁ・・・わかったわ。夜遊びはほどほどにね」

 「わかりました」

 

 

 実を言うと遥は外にいるのが智宏だと気がついていたが、あえて達也に聞いてみたのだ。

 だが達也から帰ってきた解答にこれ以上の詮索はいけないと結論が出る。なので素直に『夜遊び』の警告だけして、これ以上何も聞かないことにした。

 

 達也は車から降りると、遥はさっさと駐車場から出て行く。

 車が完全に消えると同時にタイミング良く向かいに止まっていた車のライトがついた。

 

 智宏と達也はその車まで行き、助手席の扉を開く。この車の扉は2つしかないが、前の椅子を前にずらせば後ろの座席に座れるのだ。

 智宏は後ろに、達也は助手席に座った。

 運転手は響子だ。

 

 

 「こんばんは、2人共」

 「こんばんは」

 「よろしくお願いします」

 「達也君、彼女は?」

 「公安のオペレーターです」

 「へぇ」

 

 

 達也は遥の事を説明しながら、カーナビに先程入手した地図データを送る。

 響子も送られてきたデータを確認した。

 

 

 「私もバイト代欲しいなぁ」

 「それは俺にではなく上に言ってください」

 「ウチは労働基準法の対象外よ?」

 「それもそうですね」

 「というかなんで智宏君までいるのよ」

 「智宏は敵のアジトから脱走した者を始末してもらう予定でしたが、別の拠点を襲撃してもらいます」

 「皆には家の用事って言ってありますから問題ないですよ」

 「ふーん・・・ま、いいけどね。四葉にはお世話になってるわけだし。じゃあ行くわよ」

 

 

 智宏がいる事に少し疑問を持った響子は理由を聞いて納得すると、カーナビに送信された目的地に向けて車を走らせた。

 

 一方。響子の上官である風間は1人の客人を迎えていた。

 

 

 「どうぞ閣下」

 「失礼するよ」

 

 

 風間に呼ばれたのは九島老人だ。

 最強の魔法師と呼ばれただけあって、部屋に入る時や座る時の動きは一切無駄がなく、いつでも魔法を発動できるような体勢だった。

 

 無論、風間は九島老人を攻撃する真似はしない。風間は飲み物を持ってきた部下を下がらせると、九島老人の目をしっかりと見た。

 

 

 「それでなんのご要件でしょうか?」

 「君相手に余計な事は言うまい。さっそく本題に入ろう。彼についてだ」

 「彼・・・とは?」

 「司波達也君だよ。彼は四葉深夜の息子だろう?」

 「・・・・・・」

 「私が知らないと思ったかね?深夜と真夜は私の教え子なのだよ」

 「閣下・・・それでしたら四葉が達也の保有権を捨てていない事はご存知のはずですが?」

 「無論知っている。しかし・・・惜しいとは思わんかね?」

 「惜しいとは?」

 「昨日のモノリス・コードは見事だ。彼は私的なSPとしておくにはもったいないだろう?」

 

 

 九島老人は昨日のモノリス・コード決勝で将輝を正面から倒した達也の事を思い浮かべながらそう述べた。

 この言葉から導き出される答えに風間はすぐに気がつく。

 

 

 「閣下は四葉の弱体化を望んでおられるのですか?」

 「その通り。このままでは四葉は強くなりすぎる。いや、既に強い。将来真夜が健在のまま智宏君が真夜の跡を継ぎ、その下で司波達也と司波深雪が智宏君を支える事になれば四葉家は十師族の中でトップに君臨する事となるだろう。だから私は達也君を四葉から離し、国防に従事させたいのだよ」

 「四葉智宏殿はそんなに実力がありますか」

 「知らぬとは言わせんよ。私と直接会った時は驚いた。あの若さで一条将輝・・・いや、十文字克人以上の強さを持っている」

 「閣下からご覧になられてもそんなに・・・」

 「真夜の流星群を引き継がなかったらなんとかなったのだがな」

 

 

 2人はしばらく黙り込む。

 すると風間は少し強い口調で九島老人に話しかける。九島老人も遮るべきではないと判断し、そのままでいた。

 

 

 「閣下。1つよろしいでしょうか」

 「・・・なんだね」

 「司波達也は現時点で重要な戦力となっています。そして一条将輝と達也では格が違う事を承知していただきたいと思います」

 「ほう」

 「一条将輝は拠点防衛において(・・・・・・・・)機甲連隊に匹敵します。しかし、達也は単身で弾道ミサイルに匹敵する戦力です。閣下、これは誇張であっても虚構ではないのです」

 

 

 風間はそう宣言したのだった。




新刊だと将輝は強くなってしまったよ
アビスとどっちが強いんだろう

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