「お兄様!」
「ああ、これは叔母上だな」
「ん?あ、ホントだ」
達也は素早くコールボタンをタッチすると、画面に真夜が映る。画面越しでもその美しさは変わらない。
真夜は智宏を見ると少し驚いたような顔をした。(しかし一瞬だったので、気づいたのは達也と智宏だけだった)
真夜は3人の顔を見るともう一度まっすぐに達也を見た。
『達也さん、深雪さん、智宏さん、こんばんは』
「叔母上ご無沙汰しております」
「叔母様、お久しぶりです」
「久しぶり」
『実は2人に話があって電話したのだけれど・・・やっぱり智宏さんはそっちに来ていたのですね』
「退きましょうか?」
『いいえ。別に智宏さんに隠すことはありません。どうせ隠してもすぐにバレますし』
「そりゃどうも」
智宏と真夜の親子の会話に深雪は少し羨ましそうな顔をする。深雪の母である深夜は亡くなり、父はすぐに違う女と再婚したのでもはや父親として見ていない。なのでこういう親子を見ていると少し羨ましくなってしまうのだ。
達也は深雪の雰囲気を察すると、真夜に話を聞き出す。
「それで叔母上。話と言うのは?」
『重要な事は特にありません。ただの九校戦前の様子見です。元気にしていましたか?』
「問題ありません」
「はい。私も大丈夫です」
『深雪さん。ブランシュの時は大丈夫でしたか?』
「っ・・・!大丈夫です」
「母上!」
『・・・ごめんなさいね』
「いえ・・・」
『ところで智宏さん。達也さんが飛行魔法の開発が進んだ件は知っていますね?』
「はい。先程」
『そう。達也さんの所にいるという事はやはり聞いたのね。話は変わるけど・・・今日森崎家のご子息と模擬戦をやられたようですね?』
まったくもってびっくりである。
一体全体どこに四葉の草が潜んでいるのだろうか?
諜報系は黒羽家なのでもしかすると案外近くにいるのかもしれない。
四葉の情報収集力を甘く見てはいけない。これまで気づいたら弱みを握られてしまう者もそう少なくはなく、四葉の手足となり動いている。
かの家には他の十師族も警戒しており、特に七草家があちらこちらに気を配っている。今回も黒羽家が調べたのだろうか?
だがその考えは杞憂に終わった。
『1時間ほど前に森崎家の当主から百家を通じて四葉家に謝罪の文が届きました。『この度は四葉家の跡取りにとんだ御無礼を働き申し訳ございません』ですって』
「そうですか。確かに森崎が俺に突っかかってきたので模擬戦をしましたが・・・そこまでの事ではないでしょうに」
智宏は少し森崎の父親が可愛そうに思えてきた。息子の不憫でこのような自体になってしまったのだ。もしかすると本家である百家から怒られているのかもしれない。
その百家も大変だ。分家の1つが四葉に喧嘩をフッかけたのだから。
同情した雰囲気が伝わったのか、真夜が少し笑いながら智宏に言葉をかけてきた。
『智宏さん。今日の事は家同士の関係を悪化させる原因になりかねません。なので一応謝罪をしてきたのでしょう』
「あれでですか」
「智宏。お前はもう少しそういうのに気を配った方がいいぞ」
「・・・わかったよ。帰ったら少し勉強する」
今まで智宏は家同士の関係を大雑把にしか認識しておらず、今のように少し鈍感な所がある。というか細かい所まで知らないだけ。
そして自分よりも知識が豊富な達也に注意されたので、智宏は十師族や百家についてもっと勉強しようと決意したのだった。
『森崎家についてはもう収まりました。智宏さんが心配する必要はありません』
「わかりました」
『それと、そろそろ帰らないと彩音さんが心配するのではなくて?』
「え・・・?あっ!もうこんな時間!」
『ふふふっ。それじゃあ3人共、また電話しますね』
「はい!」
「わかりました」
「叔母様、ごきげんよう」
真夜からの電話が切れると智宏は達也からCADを全て返してもらい、急いで自宅へ帰る。急いでと言っても達也の家から200mも離れていないのですぐに着く。
帰り際に深雪に少し「もう少し女の子の気持ちを理解してくださいね?」と言われてしまう。
智宏が家に帰ると、彩音が少しむくれて待っていた。しかも玄関で。まさかずっといたのだろうか?
智宏は恐る恐る話しかける。
「た、ただいま」
「おかえりなさいませ。智宏様」
彩音の声は少し尖っており、目も若干細められている。
2人は黙ってリビングに向い、彩音がドアを開けると智宏はそのままソファーに向い腰を下ろす。
数分後。
彩音はお茶を智宏の所に持ってきた。
が、智宏はその瞬間に覚悟を決める。おそらくお説教だろうと。
「失礼します」
「おう」
「智宏様。今日は今までどこへ?」
「達也の家だ」
「達也様と深雪様の所でしたか。しかしいくら身内といってもせめて連絡くらいはしてください」
「うん、すまん」
「いいですか?私は智宏様のメイドである前に護衛なのです。何も連絡がないのでは心配します!」
「お、おい?とりあえず落ち――」
「どれだけ私が心配したか!もし智宏様に何かあったらご当主様になんて言えばよいのです!?」
「彩音!落ち着くんだ!」
「ひっ・・・・・・!も、申し訳ございません!」
彩音は半分暴走状態になりながら智宏に説教をしていた。このままでは収拾がつかないので、智宏は少し殺気を込めて彩音に詰め寄り、両手で肩を押さえつけて強制的に落ち着かせた。
一方の彩音は無理矢理智宏に落ち着かされ、一拍あけて我に帰る。そして今自分がした事と殺気の込められた視線に怯え始めてしまう。その証拠に身体が震え始めてきた。
「わ、私はなんて事を・・・」
「・・・はっ!すまん!」
「智宏様申し訳ございません・・・申し訳ございません」
「彩音。もう怒ってないよ。少し落ち着いて話そうか」
「・・・・・・本当ですか?」
「ああ」
「本当に申し訳ございません。落ち着きました。それと・・・」
「ん?」
「手をどけて欲しいのですが・・・」
「・・・・・・」
落ち着いた彩音はなぜか頬を赤く染めている。
この現状を第3者が見ると、メイド服を着た少女を高校生が襲っているようにしか見えない。
この家には2人以外だれもいないが、もし深雪とかに見られたら大変な事になる。おそらく氷漬けだけでは済まされないかも・・・
智宏は急いで手をどけた。
「すまん」
「いえ・・・大丈夫です」
「それとさっきの件についてだが、今度からちゃんと連絡する」
「本当ですか?」
「ああ」
「わかりました。それでは夕食に致しましょう」
今回の事態はなんとか丸く収まった。
そしてこの日の事を彩音は日記にこう記した。
7月某日
今日は智宏様が遅く帰られた。
私は暴走気味に説教をしてしまい、智宏様から逆に怒られてしまった。少し反省・・・
しかもあの殺気が込められた視線はびっくりした。智宏様が本気になられれば私など死体も残らないかもしれない。あと両肩を掴まれた感覚は今でも残っている。強く掴まれたけど痛くはなかった。
でもあの視線は少しだけゾクッとした。ちょっと気持ちよかった・・・かも。
それともう1つ。
智宏様と話している時とても嬉しくなるのはなんで?智宏様がクラスメイトの女子や先輩や他クラスの女子の話をなされている時に胸の奥がチクリとするのはなんで?
それがわからない。
ただ1つだけ思い浮かぶのは・・・・・・これ以上は主従の関係を崩したくないので確信が得られるまで日記にも書かないでおこう。
以上がこの日の内容だった。
彩音の悩みはいつごろ解決しようかな・・・