四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第40話 九校戦最終日

 九校戦10日目。

 今日は九校戦の最終日。モノリス・コードには克人が出場する。智宏は克人の戦う所を見るのは初めてなので、少し興味深く画面を観ていた。

 

 昨夜、夜遅く帰ってきた2人を迎えたのは事情を知っている深雪だった。

 他の生徒達は皆眠っているらしく、ロビーには3人を除いて誰もいない。智宏達はそのまま誰にも見られないように素早く部屋に移動し、そこで深雪と別れたのだった。

 

 さて、智宏は今モノリス・コードを観るため観客席に来ている。この試合には克人達上級生が出場するため、真由美や摩利が観客席に訪れていた。

 ほぼ全員が試合が始まるのを待っているのだが、そこには達也の姿はない。達也はホテルの一室で風間達独立魔装大隊の面々と密談をしているのだ。

 

 

 「智宏さん」

 「深雪?」

 「お兄様は・・・」

 「大丈夫。始まるまでには来るだろう」

 

 

 そう言って深雪を宥めた智宏は、じっと待った。

 

 相手選手も入場して試合が始まるギリギリの時間になった時、智宏と深雪は上に達也の気配を感じ取った。

 振り向くと達也は空席を探しているようだ。深雪が自分の席を取っておいてくれているのは知っているだろうに・・・

 達也も智宏達に気がついていると思うが、こちらを中々見ない。すると智宏の隣でむくれた深雪が小さい氷の礫を達也に放った。達也は下から飛んできた氷の礫を慌ててキャッチし、飛んできた方向に座っている深雪と目が合った。

 

 そしてようやく気が付かないフリを諦め、達也は智宏達が座っている最前列の席に向かった。

 

 

 「深雪。少し荒いぞ」

 「お兄様が中々来ないからです」

 「そうそう。目立ちたくないのはわかるがせめて試合くらいはなぁ」

 

 

 智宏達が座っているのは最前列。座ると目立つのだ(智宏と深雪がいる時点でもう手遅れ)。というか達也の意思に反して深雪は自分の兄が目立って欲しいと思っている。

 達也が席に座るとちょうど揃った両選手にカメラが向けられ、大きなパネルに映し出された。

 

 モノリスの前に立っている3人は達也達とは違っていつも通り代わらぬ姿だった。

 

 

 「さすがだな。俺達とは格が違う」

 「やっぱ経験かねぇ」

 「お兄様は立派でした!負けてません!」

 「そ、そうですよ!とても堂々としていました!」

 

 

 達也がさりげなく呟くと、同意するように智宏も反応した。

 しかし、その後速攻で返ってきた深雪とほのかによる慰めには達也はいささか面食らってしまう。

 

 これ以上何か言うとまた反応してきそうなので、智宏も達也もパネルに集中した。

 

 そして試合が始まった。

 フィールドは新人戦の時に将輝が1人で無双していた『岩場ステージ』。試合開始のブザーが鳴ると服部が勢いよく陣地を飛び出し、跳躍の魔法を駆使して敵陣に突進して行く。

 それに対して9高の反応は遅かった。

 

 この時彼らの頭の中には2つの選択肢があった。

 1つは全員で服部に集中砲火を浴びせる。

 もう1つは服部の迎撃をディフェンスに任せて予定通りに自分達は進撃する。

 この迷いで動きが鈍く、対応が遅れた。服部は作戦通りだと言いたげな顔で魔法を相手陣地に撃ち込む。発動した魔法は『ドライ・ブリザード』。真由美がスピード・シューティングで使用した魔法の原型バージョンだ。

 これが命中すると戦闘不能になる可能性がある。9高の選手もそれをわかっているのか、頭上にシールドを展開して防いだ。しかし、そのせいで周りに霧が発生して何も見えなくなる。

 

 急いで霧を払おうとするが、それより先に服部が次の魔法を発動して2人をダウンさせた。

 2人目は倒される前に魔法を服部に撃ち込んでいたが、それは当たる直前で見えない壁に阻まれる。それは服部の魔法ではなく、モノリスの前で仁王立ちしている克人が発動した『反射障壁』だ。

 その後服部は最後の選手を倒し、結果1高の勝利となった。

 

 

 「いやすごかったな」

 「うん。僕達とはレベルが違うね」

 「当たり前でしょー。経験の差よ」

 

 

 レオ、幹比古、エリカが感想を言い、その近くで達也はこのレベルの高い試合を深雪にも見習わせたいと思っていた。

 智宏がふと1高の生徒が座っている席を見るとほとんどがいなかった。どこかで買い食いでもしているのだろうか。

 

 

 「次は決勝戦だね」

 「ああ」

 「お兄様、時間があるので冷たい物でも食べませんか?」

 「それはいいね。確かアイスがどこかに売っていたはずだが・・・」

 「智宏さんもどう?」

 「・・・・・・」

 「智宏さん?」

 「あ、雫ごめん。会長から呼び出しだ」

 「・・・・・・ふーん」

 「じゃそゆことで」

 「あっ」

 

 

 試合まで時間があるので深雪や雫達はアイスを買いに席を立った。その際智宏も誘われたが、真由美からの呼び出しで行けなくなってしまう。とっとと行ってしまった智宏に、雫は捨てられた子犬のような視線を向けた。

 するとその場の空気を変えようと、深雪は達也の手を握ってアイスを買いに行く。ほのかやエリカも席を立ったので、雫も釣られるように深雪達について行った。

 

 真由美とホテルのロビーで待ち合わせしている智宏は、ごった返している観客席の出入口で他校の生徒をかき分けながら目的の場所に向かう。

 ロビーに到着すると真由美がソファーに座っており、智宏を見つけると手招きして呼び寄せた。

 

 

 「智宏君こっちこっち!」

 「会長、十師族に関する用事ってなんです?」

 「うん。じゃあ歩きながら話そうか」

 

 

 そう言って真由美は席を立ってエレベーターがある方向に歩いていく。智宏も慌てて真由美の横に並んで歩いた。

 

 

 「実は家からメールが来たのよ」

 「はぁ」

 「智宏君も私と同じ十師族ならわかるでしょ?」

 「・・・だいたいの予想はつきます。これから十文字先輩の所に行くんですか?」

 「そうよ」

 

 

 智宏がメールが来た時点で予想した通りだった。真由美がこのタイミングで智宏を呼び出すとなるとその要件は限られてくる。

 

 智宏と真由美はエレベーターで目的地の階まで上り、克人が待っているミーティングルームに向かう。

 

 

 「十文字君。私よ」

 

 

 真由美がミーティングルームの前に備え付けてあるインターホンみたいな機械を操作して中にいる克人に呼びかけた。

 するとドアが開き、智宏と真由美は中に入る。克人は上半身タンクトップ、下半身はプロテクション・スーツ姿。そして制汗剤の香りがした。おそらく真由美に会うため、汗の臭いを消すのに使用したのだろう。克人は無表情だが結構紳士なのだ。

 

 克人は真由美の後ろにいた智宏に一瞬視線を向け、何かを察したかのように椅子に座った。

 

 

 「用があるんだったな」

 「ええ。父から暗号メールが来たわ」

 「師族会議のだろう?四葉がいる時点で察せる」

 「でしょうね・・・・・・コホン、それでね?一昨日の新人戦モノリス・コードで一条君が達也君に倒されたでしょ?」

 「ああ。まさか勝つとは思わなかった」

 「・・・『十師族の魔法師は常に最強の存在でなければならない』か」

 「あら智宏君よく知ってるわね」

 「勉強しましたし」

 「そう・・・・・・あ、それでなんだけど。高校生であってもこれ以上十師族に泥を塗る真似は許さないらしいわ」

 「なるほど。力を示せという訳か」

 「ごめんなさい。本当はこんな茶番はやらせたくないのよ」

 「気にするな。これも宿命なのだろう」

 「じゃあ頼んでいい?」

 「任せろ」

 

 

 克人は真由美から・・・いや、十師族からの要請を受けて感情を表に出さずにそう応えた。

 それとこの話は克人だけに向けられた物ではない。智宏にも言っているのだ。智宏はあと2回の九校戦がある。絶対に手加減をせず、常に圧倒的な力で勝利しろとの事なんだろう。

 

 モノリス・コードの決勝戦は第1高校VS第3高校。

 ある意味宿命の対決となり、観客席は全て埋まっていた。ここで新人戦と違うのは、今回の試合は攻守が逆転している所だ。つまり、将輝がやっていた事を3高はやり返されているのだ。

 克人の姿が見えた瞬間、3高の選手は氷の礫や岩を飛ばしたりしているが、それは全て克人の展開したシールドによって防がれている。これこそあらゆる攻撃を幾重にも展開した防壁で無効化する十文字家の多重移動防壁魔法『ファランクス』。

 

 圧倒的防御力で一歩一歩進んでいく克人の姿はまるで古代ギリシャの重装歩兵のようだった。

 攻撃を弾きながら前進し、3高の陣地まであと少しという所でその歩みを止めた。そして勢いよく地面を蹴り、克人の巨体が相手選手に向けて飛び出した。ファランクスを展開したままタックルの体勢で突進したため、1人の選手が吹き飛ぶ。

 その後も克人の巨体は勢いを衰えることなく残りの2人も叩き潰した。

 

 全ての3高選手が跳ね飛ばされ、モノリス・コードの決勝戦は1高の勝利。それと同時に九校戦の総合優勝に花を添えたのだ。

 

 観客席が拍手に包まれる中、実力者達は克人の戦闘を観て素直に「凄い」と思ってしまう。今の試合は圧倒的では済まされない。まさに『蹂躙』だ。ファランクスがある限り攻撃は通用しないし近づいたら先程のように吹き飛ばされてしまうだろう。

 智宏は流星群があるためまだ余裕があったが、それでも克人に対する警戒レベルを上げた。

 

 観客が見守る中、克人は拳を突き上げて王者の如く声援に応えたのだった。




圧倒的勝利

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