四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第41話 ダンスパーティー

 九校戦が表彰式まで終わると、その夜は懇親会を開いた場所でダンスパーティーがある。

 

 懇親会の時の牽制し合うような雰囲気とは違い、ホールには和やかな空気が流れている。それに加え、10日間に渡る激闘とも言っていい日々から解放された生徒達はその解放感からいささかフレンドリーな状態になり、他校の生徒と混じって今回の九校戦についてお互いに感想を言っている。

 

 智宏も他校の女子生徒から話しかけられている。その隣では深雪が3重の人垣に囲まれていた。

 先程深雪にまとわりついていたCM制作会社や芸能プロダクションの関係者を蹴散らしたばかりなのだが、自分も囲まれて目を離した隙にまた人垣が出来てしまった。しかし、今度は鈴音が深雪の隣に立って変な奴らを撃退しているのでありがたかった。あまり深雪を庇うと変な噂が流れかねないだろうし。

 

 深雪の兄貴である達也も妹よりは少なかったが、エンジニアとしての腕を観たビジネスマン達に話しかけられていた。

 その後なぜか摩利が達也の所に歩いて行き、しばらく話した後達也の肩をポンポンと叩いてどこかに行ってしまう。どうやら達也はからかわれただけのようだ。

 

 智宏は「めんどくせー」と思いながら、作った笑顔(四葉の悪いイメージを軽減させるため)で話しかけてくる女子生徒達に対応し、タイミングを見計らって人垣を脱出して深雪の所に向かう。

 それと同時に管弦の音が会場に流れ始める。この時間までになんとかパートナーを見つける事ができた男子生徒は女子生徒の手を取って中央に進んでいったが、それでも深雪の周りには少年達が群がっていた。深雪も笑顔で接しているが智宏にはわかる。あれは迷惑している顔だ、と。

 深雪に群がる奴らの後ろに立つと、智宏に気がついた男子生徒がサッと智宏を避けた。智宏はゆっくり歩き、モーゼのように人垣が割れたスペースを進んだ。

 

 

 「あ、智宏さん」

 「やあ深雪。大変そうじゃないか」

 

 

 もう1人の兄の接近に気がついた深雪は少しホッとした雰囲気で智宏に話しかけた。智宏が深雪をダンスに誘ったと勘違いした男子もいたようで、半分の男子が深雪を諦め他の女子生徒の所に向かった。

 

 するとさらに人垣の中から2人の男子が進み出た。達也と将輝である。

 

 

 「司波達也と・・・・・・・・・四葉智宏か」

 「一条、2日ぶりか?」

 「どうも(あ、そっか。達也は一条と話した事あったんだっけな)」

 

 

 堅苦しい挨拶をしている2人は周りから見ると見えないはずの火花が散っているように見えたのだろう。深雪を囲んでいた残った男子達は巻き込まれまいとどこかに行ってしまう。

 

 達也を心配そうな視線を送っている深雪を見た将輝はここで1つの事に気がついた。

 

 

 「も、もしかしてお前ら兄妹か!?」

 「・・・・・・今まで気がついていなかったのか?」

 「マジで?」

 「あ、いや」

 「一条さんは私とお兄様が兄妹に見えなかったようですね」

 「・・・はい」

 

 

 ガックリ項垂れた将輝を見て深雪はニコニコ笑っている。達也はこのままではいけないな

 と思いこう言った。

 

 

 「深雪、ここにいるのはなんだから一条と踊ってきたらどうだい?」

 「ッ!」

 「一条さんはどういたしますか?」

 「あ、その四葉は・・・」

 「俺はいい。最初は一条に譲るよ」

 「ありがとう。で、でででは1曲お相手願えませんか?」

 「はい。こちらこそ」

 

 

 深雪は差し出された将輝の手を取ってホールの中央に向かって行った。中央に向かう将輝の顔は少し得意げな顔をしており、周りから来る嫉妬の視線(男女両方)を気にせず見せつけるように歩いていく。

 

 ダンスを踊りに行く従妹を見送っていた智宏は、服の袖が引っ張られているに気がついた。

 後ろを見ると雫が立っている。

 

 

 「雫?」

 「・・・・・・」

 

(なんだジッと見つめて・・・あ、そうか!)

 

 「コホン。雫、俺と踊らないか?」

 「うん!」

 

 

 雫の期待するような視線を理解した智宏は雫をダンスに誘う。すると雫は「ないか?」と言うタイミングと同時に食い気味だったがOKした。

 

 中央に向かう途中、いつの間にか隣から消えていた達也を探すとほのかとウエトレス姿のエリカが達也と話している。どうやらエリカは達也がほのかにダンスを申し込むのを促してているみたいだ。エリカは苦笑しながら2人の前から姿を消し、ほのかはもう一歩達也に近づいた。

 そして達也はほのかの前に手を差し出し、ほのかは笑顔でそれに応えて2人はホールの中央に向かう。

 

 しばらくしてある程度の人数が集まると音楽が別の曲に変わる。

 パートナーを見つけられた男女の生徒達はくるくると踊り、智宏も嬉しそうな顔をしている雫を見つめながら1曲を終えた。

 すると智宏を待っていたのは女子生徒による誘いの嵐。知っている顔から全く知らない顔の女子生徒が智宏に押し寄せたが、その中でも圧倒的な存在を誇っていたのは深雪と真由美だった。

 

 

 「会長?」

 「智宏くん、いいわね?」

 「アッハイ。こちらこそお願いしま―おっとっと」

 

 

 真由美は有無を言わさず智宏を中央に引きずっていった。さっきの雫との踊りを見られていたらしく、なんで最初に選んでくれなかったんだと言いたげな視線を向けながら智宏の肩に手を添える。そして真由美のクセがあるダンスに智宏は巻き込まれていった。

 

 それからというもの、智宏は押しかけてくる女子生徒と休むことなく踊っていた。深雪にほのか、英美、スバル達1高女子を初め、他校の見知らぬ女子とホールをくるくる回っていた。ちなみに将輝は深雪と踊り終わると各校の上級生のお姉様方の間で引っ張りだこ状態になっている。

 途中達也の姿も見えたが、達也もそれなりに踊っているようだ。

 

 智宏が3高の制服を来た女子生徒と踊っていると、壁際で休んでいた達也が克人についてどこかに行くのが見えた。

 

 その中庭に連れてこられた達也はなぜここに来たのか疑問に思っていた。

 

 

 「会頭、なぜここへ?」

 「単刀直入に言う。司波、お前は十師族だな?」

 「いいえ」

 

 

 達也は克人の質問に危うく身構えそうになったが、冷静を装って答えた。

 

 

 「そうか・・・では俺は十文字家次期当主として助言する。お前は十師族になるべきだ」

 「十師族に?」

 「一般の生徒はわかっていないだろうがお前はそれだけの実力を持っている」

 「買いかぶりです」

 「・・・どうだろうな」

 

 

 達也はこの瞬間に克人に対して1つの戦慄を抱いた。

 この先輩は間違いなく天敵だ、と。

 この洞察力は尋常ではない。もちろん戦闘能力もだ。

 本来達也の分解は克人のファランクスに対して相性は最悪と言っていい。防壁を分解してもまた防壁が展開される。その繰り返しでは克人には勝てないだろう。

 

 ただ、達也の知る限り3人の人物が克人に勝てると確信している。

 1人目は智宏。

 2人目は真夜。

 3人目は師匠の九重八雲

 九重は達也より魔法を工夫して使用し、克人に対しても何らかの方法で勝ってしまうだろう。智宏と真夜は流星群があるためファランクスは意味をなさないはずだ。

 

 

 「司波。この件についてはあまり時間がない。十師族の次期当主を正面から倒してしまった事実はお前が考えているよりずっと重いぞ」

 「それは理解しています」

 「そうか・・・・・・嫁を取るとしたら七草・・・いや、その妹か」

 「会頭?」

 「何でもない。そろそろ戻る、遅れるなよ」

 

 

 何か怪しい事を呟いていた克人に達也が声をかけると、克人は何もなかったかのように去っていった。

 

 その場で呆然と立っていた達也は、後から来る人の気配に気がついていなかった。

 

 

 「お兄様?」

 「深雪か」

 「どうされたのですか?」

 「何でもないよ」

 「そろそろパーティーが終わります」

 「部屋に戻りたいんだがそうはいかないか」

 「お部屋に戻られてもほのか達の襲撃を受けますよ」

 「そうだな。智宏はどうしてる?」

 「智宏兄様なら雫と会長に挟まれて動けなくなっています。他校の生徒も智宏兄様に近づきたいようですけど」

 「智宏も案外人気だな」

 「そうですね・・・・・・あら?お兄様、最後の曲ではありませんか?」

 

 

 2人が黙るとパーティーホールの方から音楽が再び流れてきた。だが達也にはそれが最後なのかわからない。

 

 

 「お兄様。ラストは私と踊っていただけませんか?」

 「ここでかい?」

 「はい。演奏でしたらここでも聞こえますし、靴も芝生の上なら問題ありません」

 

 

 笑顔で誘ってくる妹に達也には断るという選択肢はない。もとよりあっても選ばないだろう。達也にとって深雪が全てなのだから。

 

 

 「わかった。踊ろうか」

 「はい!」

 

 

 そして2人は踊る。

 星空の下、誰もいない庭の噴水の前で2人の身体はくるくる回り、達也は深雪の、深雪は達也の顔だけを見ていた。

 全てが回る中、自分達を誰かが見ていても気にしなかっただろう。この2人だけの空間は誰にも崩せないのだから。

 

 その後の祝賀会でも、大会で活躍した智宏達は休む暇もなく先輩や友人と話した。

 翌日のバスでは九校戦で溜まった疲労が一気に押し寄せ、ほとんどの生徒は帰り道で寝てしまう。ちなみに帰りのバスで智宏の隣に座っているのは行きで約束した雫だ。と言っても2人は寝ていたので隣に座っていた感覚はあんまりなかったが・・・。

 

 夕方。

 学校に到着すると1高の生徒達はその場で解散し、それぞれ久々の自宅に帰った。

 智宏も自宅まで達也と深雪の3人で歩き、途中で2人に別れを告げて自宅のドアを開けた。

 

 

 「ただいまー」

 「おかえりなさいませ!」

 

 

 玄関のドアを閉めるとリビングからエプロン姿の彩音がパタパタと出てくる。

 

 

 「いつ帰ったんだ?」

 「半日ほど前です」

 「そっかそっか」

 「夕食は出来ていますよ」

 「じゃあいただこうかな。着替えてくるから先に用意しといて」

 「かしこまりました」

 

 

 嬉しそうな顔をした彩音は、夕食をテーブルに並べにリビングに戻る。智宏は部屋で着替えた後、彩音が用意してくれた美味しい夕食を九校戦の思い出話をしながら食べたのだった。




これで九校戦編は終わりです。
次回から夏休み編に入りますので、よろしくお願いします

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