第42話 海へ!
「え、来週の金・土・日で海に?」
『ダメ?』
九校戦が終わり夏休みが中盤になった頃、智宏は四葉の本家に帰ってきて夏休みをのんびりと満喫していた。彩音もこれを機に四葉のメイド長に色々と教わっているらしい。
実家に帰ってきて数日後、智宏の部屋に設置されているテレビ電話に雫から着信が入ってきた。内容は「海にいかないか?」というもの。
突然の事で聞き返してしまい、案の定雫は断られると思ってしまう。
「いやいやいや。大丈夫だよ」
『本当?』
「ああ。でも俺本家にいるんだよなぁ」
『集合場所は葉山のマリーナだよ』
「葉山のマリーナ?ヘリポートってあったっけ?」
『ちょっと待って・・・・・・・・・・・・・・・うん、あるって』
「じゃあそっちまでヘリで行くよ」
『よかった。じゃあまた来週』
「おう」
智宏がOKすると、雫は嬉しそうに電話を切った。
さて、なぜこのような事になったのか。時は昨日まで遡る。
昨日雫はほのかと深雪の3人でテレビ電話を使用して同時通話をしていた。
「ねぇ、海行かない?」
『海?』
『海水浴にでも行くのかしら?』
「うん」
『あ、もしかして』
「そうだよ」
『?』
『あのね、雫はプライベートビーチを持っているんだよ』
『そうだったの』
「お父さんがお友達を連れて遊びに来なさいって言ってた」
北山家は小笠原の無人島を別荘地として所有している。もちろん四葉も何個かあるはずだ。
現在小笠原の周辺には荒れた無人島がいくつも存在し、太陽光発電を利用した高級リゾート地を作る事が盛んになっている。1部の無知者はそれを自然破壊だとほざいているが、これは荒れた国土を開拓しているのでなんの問題もない。と言うか国から「買ってくれない?」と持ちかけられるほどだ。
『叔父様が?』
「あ、でも顔を見るのは最初だけだよ。仕事が溜まってるんだって」
『そうなの?』
『でもご挨拶はできるのね』
「うん」
『じゃあお兄様に聞いてみるわ』
『私はエリカに連絡するね!』
「よろしく。私は智宏さんに声をかけてみる」
と、まぁこんな感じで海行きは決まり今に至る。四葉のビーチを使ってもよかったが、それだと達也と深雪が来られなくなってしまうだろう。
智宏は部屋を出ると真夜の執務室に向かう。
「母上」
『どうぞ』
「失礼します。お話ししたいことが・・・」
「何です―んんっ!とりあえず座りなさいな」
真夜は先程まで四葉当主として仕事をしていたのだろう。書類の上にペンが置いてあり、電話も近くにある。敬語を使っているのは大体仕事をしていた時だ。
智宏はいつの間にか現れた葉山から紅茶をもらい、ソファーに座った。
「それで?」
「クラスメイトの雫から海に行かないかと誘われまして」
「あら、北山さん?あの北山財閥の」
「はい」
「北山さんのお父様には私もお世話になってるわ。最近からだけど取引を始めたの。資金援助をする代わりに最新技術の合同研究と武器の個人売買をね」
「それって外にバレたらやばいやつじゃ・・・・・・」
「大丈夫、情報操作が得意な人材がいるから。智宏さんにも高校卒業したら詳しい事は教えるわ」
四葉は戦争でも始める気なのだろうか。しかし数は少なくても十師族の中でも戦闘力はトップクラス。戦略級レベルの魔法師を少なくとも2人も抱えているので、日本はもとより一国だけでは四葉にかすり傷を負わせるだけで勝てないだろう。と、智宏は思っている。
話が逸れてしまったので、真夜は一旦紅茶を口にしてから元の路線に話を戻した。
「それでいつ行くの?」
「来週の金・土・日です」
「いいわね〜、私も行こうかしら」
「いや勘弁してください。大変な事になります」
真夜が現地に行ったら騒ぎになるどころではない。何かあったと他の十師族達に思われてしまうだろう。と言うかのんびり過ごせない。
「冗談よ。ところで彩音さんは連れていくの?」
「母上のお許しがあれば。来年1高に入学させるおつもりでしたら皆と顔合わせをするのもいいかと思いまして」
「なるほど・・・・・・じゃあ連れて行っていいわ。入学に関しては私に任せなさい」
「ありがとうございます」
こうして彩音も海に連れていく事が決定する。最後にヘリで集合場所まで行きたいから送ってくれない?と聞くと、真夜は快く承諾してくれた。
この後、智宏は部屋にいる彩音に2人で北山家のプライベートビーチに行く事を告げると、驚き半分喜び半分といった反応だった。彩音は相当嬉しかったのか、智宏が去った後に自分のベットの上でコロコロ転がっていた。
翌日。
彩音を従えた智宏はマリーナまでヘリで飛んで行く。ヘリポートに着くと、雫や達也達が出迎えてくれた。どうやら智宏達が最後だったようだ。
歩ってくる達也達を置いて小走りで智宏に近寄ってきた雫は、後ろにいる彩音の存在に気がついた。
「やあ雫」
「久しぶり。その人は?」
「俺の付き人。ほら彩音」
「はい、初めまして北山様。私は智宏様のメイドの香月彩音と申します」
「メイドさんなの?若いね」
「今年で15だからな。確か達也と深雪は会ったことあるよな」
「おひさしぶりです」
「ん・・・?ああ。1回な」
彩音には達也と深雪の接し方について注意してある。四葉の血筋としてではなく、智宏の友人として接しろ・・・と。
「あれ?智宏君その娘は?」
「うちのメイド。あ、実は来年から1高に入学する事になってるから皆よろしくな」
「後輩になるんですか?」
「智宏君のメイドがねぇ」
「皆様よろしくお願いします」
エリカや美月が来たところで来年彩音が1高に入学する事を発表した智宏はとある人物を探した。それは雫の父親である。行きだけ顔を見せると言っていたらしいがその姿は見えない。どこにいるのだろうか。
船着場まで歩きながら智宏が辺りを見渡していると、雫は智宏が何をしているのかに気がついた。
「お父さんなら船にいるよ」
「船?」
「あの船」
雫の指さす先には立派なクルーザーが浮かんでいた。近くまで来るとその豪華さはさらにわかるようになる。さすがは北山家と言うべきか、このクルーザーはそこらの物よりも外見が違う。外見だけで高そうだなぁとわかってしまうのだ。
じーっとクルーザーを見ていると、中からラフな格好をした男が出てきた。
「やぁ来たね」
「えーっと、あなたは?」
「初めまして四葉智宏君。私は雫の父親、北山潮だ」
「こちらこそお世話になります。四葉智宏です」
船長っぽい格好で出てきたのはなんと雫の父親だった。てっきり使用人かと思ってしまった。
「四葉家当主殿には本当に世話になっている。これからも御贔屓に」
「はい」
「ところで・・・どうやらウチの雫と仲がいいようなのだが?」
「え、まぁ」
「ふぅ〜〜ん」
潮はジロジロと智宏を観察するように見た。まぁ娘を心配する親なら別に変な行動でもないのだろう。
智宏は潮と握手をした時軽く握ったつもりだったが、潮はガッシリ手を掴んでいた。
「お父さん?」
「し、雫・・・いや、あはは。これは失礼」
雫に軽く睨まれた潮は慌てて智宏から距離を取る。雫からすれば自分の父親が智宏に何かしているのだと思ってしまったのだろう。
挨拶を終えると、智宏の近くに達也が寄ってきた。
「こんにちは、北山さん。司波達也です」
「おお、君が!いやーウチに来てくれなくて残念だよ〜」
「すいません」
「いやいや。私も無理強いはしないさ」
「ありがとうございます・・・・・深雪!」
「お呼びですか?」
「雫の父だ。挨拶なさい」
「はい!初めまして、司波深雪です。本日はお招きありがとうございます」
「こちらこそ来てくれて感謝するよ、レディ。北山潮です。とても美しいお嬢さんを迎えられるとは当家の栄誉でございます」
芝居っ気たっぷりの潮の行動に深雪は嫌がることなくニッコリ笑って膝を軽く折って見せた。
深雪の誰もが振り返るその美貌と立ち振る舞いを目の前で見る事ができる。これだけでもありがたいと思うだろう。
なので潮の顔がふにゃ〜と緩んでしまっても仕方の無い事だ。
「小父様、私の時はそんなこと仰らなかったじゃないですか」
「お父さん!恥ずかしいから鼻の下伸ばさないで」
「むむ。私はそんなみっともない事はしていない・・・・・・・・・おお!そちらの君達も雫のお友達だね!歓迎するよ!さぁ乗ってくれたまえ!はっはっはっ」
「「・・・・・・・・・」」
ほのかと雫のダブルパンチに潮は否定しながらも1歩後ろに下がった。
雫だけならなんとかなったのかもしれないが、さすがにもう1人の娘のように可愛がっているほのかにも言われてしまってはもうどうしようもない。潮はとっさにエリカ達に話しかけたが、この状況では話を逸らした事は誤魔化せないだろう。
その後智宏達はクルーザーに乗せられ、「仕事だから」といそいそと黒い車に戻っていく潮を見ながら別荘へ出発したのであった。
お久しぶりです。
夏休み編始まります!