四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第46話 ほのかの大勝負

 

 

 部屋に戻って来た雫からGOサインを貰ったほのかは、ドレッサーの前に座っている。

 昼間の羞恥刑は完全なアクシデントだったが、その後達也を独り占めできたのはほのかにとって嬉しい事だった。

 そして親友である雫は、なんと告白のために深雪と話を付けてきたらしい。潮風に当たった雫と深雪は現在風呂に入っている。つまりこの瞬間が勝負時なのだ。

 少し迷ったほのかは淡いルージュを薄く引き、髪と服装を整えて気合いを入れる。

 

 準備ができたほのかは、微かに震える足を落ち着かせるために深呼吸してから達也がいるリビングへと向かった。

 

 数分後、「外に行きませんか?」と誘ったほのかと、2つ返事で承諾した達也は砂浜を歩いていた。

 しばらく2人は波が寄せ来る砂浜を黙って歩く。自分の方から踏み出さなければ呼び出した意味がない、という危機感が緊張していたほのかの背中を押した。

 

 「達也さん」

 

 ほのかの振り絞った声に呼び止められた達也は足を止めて振り向いた。

 既にここは別荘の明かりが届かない場所。波の音と月や星の光の中、ほのかは達也と正面から向かい合う。

 

 しかし、そこから先に行くには少し時間がかかった。

 

 「あの・・・・・・」

 

 「なんだい?」

 

 さっきから「あの」とか「その」しかほのかの口から出なかったが、いつもより柔らかい達也の声に勇気づけられ、ほのかは達也の目をしっかり見つめてこう言った。

 

 「私・・・達也さんの事が好きです!」

 

 以外に大きな声だったので、もしかすると別荘に届いたかもしれない。

 

 しかしそんな事を考える余裕は今のほのかにはなかった。

 今、ほのかの世界は達也と自分だけで作られているのだ。

 

 「達也さんは・・・私の事どう思っていますか?それともご迷惑でしたか?」

 

 涙声で恐る恐る問いかけたほのかに達也は笑って答えた。

 

 「迷惑じゃないよ。まぁ告白されるかもしれないって気づいたのは今日の昼だからね。でも――」

 

 ここまできてほのかは「振られるかも・・・」と思い、自然と押し寄せてくる悲しみに耐えるべく、ギュッと手を握った。

 

 だが達也から返ってきたのは予想外の返答だった。

 

 「――実は・・・俺は精神に欠落を抱えた人間なんだ」

 

 「え?」

 

 「小さい頃に事故に遭ってね・・・・・・その時に精神のいろんな機能が消えたんだよ」

 

 「そんな・・・」

 

 「その時に恋愛感情もなくなったんだろう。壊れたり閉ざされたりしたわけじゃないから治す事もできていない。俺には【恋愛】という感情はわからないから人を好きにはなれても恋をすることができないんだ」

 

 ほのかは口を押さえたまま何も言わなかった。まさに文字通り絶句状態。

 

 「こんなのは卑怯かもしれないが・・・・・・俺はほのかのことも好きだ。でもそれは友達としてであって、1人の特別な女性とは想えない。傷つけたくはないけど、俺はほのかの気持ちには答えられない」

 

 この言葉を最後に達也は黙ってしまう。

 ほのかも何も喋らない。

 2人の足元に近づいてくる波の音だけがこの空間を満たしていた。

 

 しばらくして、ついに足元に波が届こうかという時にほのかは顔を上げた。

 

 「実は・・・私、達也さんは深雪が好きなんだって思ってました」

 

 「誤解だよ」

 

 「みたいですね。私は達也さんの事信じてますから。だから精神の事も信じます。でもですよ?達也さんは私以外を恋人にする気はないということですよね?」

 

 「そうだが・・・・・・」

 

 「ならいいです」

 

 「?」

 

 「そうなら達也さんにはこれからも好きな人はできない。なら・・・私はずっと達也さんの事好きでいます!他に好きな人ができるまでですけどね」

 

 「ほのか・・・・・・全く、適わないな」

 

 他に好きな人ができるまで。

 それはつまり、ほのかは絶対に達也の事を諦めないというほのかの意思だ。

 そしてその意思を読み取れないほど達也も鈍くはなかった。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 翌日。

 この日も朝から強い日差しがジリジリと地面を熱していた。

 

 しかもただでさえ暑いのに、素足で歩いたら立っていられないほどに熱せられた砂浜の上で、熱い、とても熱い闘いが繰り広げられていた。

 

 「お兄様!お背中に日焼け止めを塗ります!」

 

 「達也さん、ジュースをどうぞ!」

 

 とか

 

 「ジェットスキーに乗りましょう」

 

 「沖の方にダイビングスポットがあるみたいですよ?」

 

 とか

 

 「砂浜が熱いので抱き抱えてくれませんか?」

 

 「また2人でボートに乗りたいです!」

 

 などと、第三者から見れば3人のいる場所からは熱気が発散されていた。

 

 「深雪・・・昨日相当我慢してたのね」

 

 「ほのかさんも随分吹っ切れてませんか?」

 

 やや呆れ気味のエリカと美月に、

 

 「・・・・・・」

 

 ちょっと困った顔をした雫、

 

 「大変だな」

 

 「・・・(いいなぁ)」

 

 「あの2人喧嘩しなきゃいいけど・・・」

 

 しみじみと反応したレオ、幹比古、智宏の男性陣は3人を見つめていた。

 

 達也は絡んでくる深雪とほのかのリクエストを順番にさばきながら対応しており、誰から見てもすごいと思うはず。

 日焼け止めを塗ったり塗られたり、左右から海の幸を「あーん」されたり、本当にお熱い空間が展開されていた。

 

 その後、親友の行動に勇気づけられたのか、雫も智宏に次々とリクエストを出してあっちへ行ったりこっちへ行ったりし、全員で遊んで帰る頃には皆クタクタになっていた。

 しかし久々に全力で遊んだからか、ボートの中で疲れて眠っている智宏達の顔には、疲労より幸せそうな笑みが浮かんでいたのだった。

 




ついに劣等生の最終巻が出てしまいましたね。
でも続編の発売が決定したということでホッとしている自分がいます。
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