四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第50話 会長選挙・後編

 演説会の前日、智宏達は再び生徒会室に集まっていた。

 

「明日はあーちゃんの演説かぁ」

 

「ですね(1人しかいないのに・・・)」

 

 演説に出るあずさは原稿用紙と睨めっこしながらなんとかセリフを覚えている真っ最中。

 一応あずさには既にCADは渡しており、先に餌付けしておけば就任するまでやる気は無くならないという達也の考えだった。いや全くその通りで、何度も何度も演説用紙を読み直している。

 

 その達也は深雪と2人でどこかへ行っており、智宏は真由美の相手をしなくてはならなくなってしまった。

 

「結果的に中条さんが当選するはずですが・・・・・・春の1件もありますし、まだ油断はできませんね」

 

「暴走する奴がいるかもしれない、か?いや〜ないだろう?この女を襲う愚か者は」

 

「し、失礼ね。私女の子よ?ねぇ?」

 

 真由美はいきなり智宏に話を振ってきた。

 鈴音と摩利にからかわれて逃げ場がないのはわかっていたが、自分の所には来て欲しくはなかった。

 まぁ真由美に襲いかかる阿呆はまずいない。返り討ちにあうだけだろう。

 

 それを本人もわかっているのか、智宏に助けを求めてきた顔には明らかに笑みが浮かんでいた。

 

「全くです。でも会長は美少女ですから気を付けた方がいいですよ」

 

「そ、そそそそうかしら?」

 

「おっ、真由美を口説くか。やるねぇ」

 

 智宏の反撃に年上の余裕を持って受け流そうとした真由美だったが、本当にいきなりきたので上手くいってなかった。摩利も智宏がいつものお返しで言ってるのはわかっていたので、合いの手を入れた。

 

 昼休みも終わりに近づき、智宏は生徒会室から出ていくと、後ろから摩利に声をかけられた。

 

「四葉」

 

「なんですか?」

 

「実はだな・・・・・・真由美のボディーガードをして欲しいんだ」

 

「会長の?」

 

「そうだ。真由美に闇討ちを喰らわせる輩が本当に出るかもしれないんだ。頼む、駅まででいいんだ」

 

 摩利のお願いに智宏は少し面食らった。

 さっきは冗談で真由美を襲う奴なんかって言っていたのに、今はこれだ。

 

「いいですよ。お任せください」

 

 親友を守ってやりたいという願いは智宏に十分伝わっている。

 なので智宏はすんなりOKした。

 

 が、摩利は智宏がニヤニヤと自分を見ているのに気がついた。

 

「た、他意はないぞ?アイツに怪我されたら困るし・・・・・・見てて危なかっかしいというか、別に心配ってわけじゃないぞ?じ、じゃあ頼む!司波兄妹も誘っていいから!」

 

 摩利は一生懸命言い訳をして、智宏が何か言う前にさっさと教室に戻ってしまった。智宏も一言言おうかなぁと思っていたらあっという間にいなくなってしまったので、ヤレヤレと肩を竦めて教室に戻った。

 

 達也と深雪に今の事を連絡すると、「わかった」と返ってきた。

 放課後、智宏と達也、深雪の3人は校門で真由美を待ち伏せ、4人で一緒に帰る事に成功する。真由美の隣りに智宏が立ち、その後ろを達也と深雪が歩く。余程のことがない限りこの防御は突破できないはずだ。

 

 普通の生徒なら楽しい帰宅路。しかしこのメンバーだけ雰囲気がピリピリしているのはほんの数人しか気づけない。真由美も珍しく大人しくなり、鞄を両手で体の前に持って歩いている。また、真由美は身長が低いためすっぽりと隠れてしまっていた。

 しかもいつもとは違い辺りを警戒しながら歩いていたので、駅に行くまでの道程の7割は4人に会話はなかった。

 

 駅舎が見えてくると、ついに真由美が口を開いた。

 

「ねぇ智宏君」

 

「なんでしょう?」

 

「この護衛って摩利に頼まれたからでしょ?」

 

「まぁそうですね」

 

 相変わらず鋭い。この鋭さを警戒心にも使って欲しいものだが、それができないから摩利も智宏達に頼んだのだろう。

 

「渡辺先輩は会長が心配なんですよ」

 

「そうですよ。いい友情じゃないですか」

 

「でも私ボディーガードいるのよ?」

 

「え?どこですか?」

 

 深雪が辺りをキョロキョロ見回したが、それらしき人影は発見できなかった。智宏と達也もその気配を探知でにていない。

 

「駅で待たせてるの」

 

「なるほど」

 

「だって通学路をボディーガード連れて歩くなんて・・・・・・恥ずかしいわよ」

 

「それなら納得ですね、お兄様」

 

「そうだな」

 

「でもありがと。あなた達3人は私の1番素敵な後輩よ」

 

 真由美に笑顔でこんな事を言われるとさすがに智宏も照れる。後ろにいる達也や深雪も絶句していた。

 しかし真由美が言ったことは間違いではないはずだ。その証拠に、彼女は清々しい顔をしていた。

 

 駅に着くと真由美の黒服ボディーガードが車の前で待っており、智宏達の姿を見つけると一礼してくれた。

 しかし、智宏と達也が気になったのはボディーガードである初老の紳士が只者ではないということ。一瞬見ただけではボディーガードというより【執事】が当てはまる。ただ、それにしては背筋はピンと伸びているし身体も細身ながらもガッシリとした体格と身のこなしから、軍務経験者だというのは直ぐにわかった。

 

 そこから家に帰った真由美は豪華な浴槽にゆったり身を沈め、自分の身体を見てため息をついていた。

 

(貧弱なプロポーションではないわ)

 

(エステの時にも手足が長いですねって言われるし)

 

 手足を見つめて湯船に戻し、胸や腰に手をやる。

 

(胸も身長の割りには大きい。ウエストも問題ないわ)

 

(正直イケてる方だと思う)

 

(でも深雪さんを前にするとなぁ)

 

 真由美の中で深雪の存在は大きくなっていた。

 

 深雪に会うまで真由美はあんな美少女を見た事が無かったし、腕も足も腰もあんないいバランスで保っている。正直その秘訣を教わりたいくらいだ。周りの男子生徒が自分より深雪を見てしまう事もわかっている。

 

 唯一真由美が有利なのは、智宏に対しての想いだけだ。

 

(智宏君は深雪さんの事をどう思ってるのかは知らないけど、多分友達とか・・・・・・親友って感じよね)

 

(だから警戒すべきは北山さんね。別荘でグイグイアタックするなんて計算外だった。千葉さんには感謝しなくちゃ)

 

 湯船の中でブクブク泡を立て、雫への警戒を怠らないように決意した。

 

「よし。頑張って距離を縮めよう!」

 

 真由美は小声だが浴室に軽く響く音量で呟いた。

 

 演説会当日。

 風紀委員として智宏と達也達は摩利に集められている。理由は簡単。風紀委員として会場の警備配置の再確認をするためだ。

 

「揃ったな?では再確認をするぞ」

 

「「はい」」

 

「我々の持ち場は講堂内だ。大扉に私と千代田。通用口に辰巳と森崎。演壇の上手が沢木、下手が司波。四葉はステージに座っている生徒会メンバーの警護につけ」

 

 智宏の持ち場はステージにいる生徒会メンバーの警護。達也と沢木の2人が最終防衛ラインを務める。もし壇上に上がって襲いかかる輩が出た場合、上がってくる場所に近い誰がが先に動く。

 しかし智宏と達也はあまりその心配はしていない。なぜなら、生徒会メンバーは一高でも高い戦闘能力を持っている。タイマンだとまず勝てないはずだ。

 

 さて、演説会が始まり、まずは真由美が生徒会役員の選任資格に関する制度の撤廃を提案していた。

 

「建前としては正論です。しかし現実問題として制度の変更は必要ないと思います」

 

「いいえ。必要ですよ?」

 

「では傍に囲っておきたい二科生がいるからでね?」

 

 毒の込められた言葉に会場がザワつく。

 騒がしくなると、「お静かに」と進行役の服部を補佐する深雪が注意を呼びかけた。

 

「それも否です。それ以前に、現状の制度であると二科生は生徒会に入る権利はないという生徒会の意思表示です。そんな事は認められません」

 

「き、詭弁です!」

 

 真由美の言葉に会場は拍手に包まれた。もちろんそれは二科生だけではないはずだ。

 

 どんなに鈍感な人間でも形成が不利になってきたのを自覚しているが、真由美と対立している浅野の口調はだんだんとヒステリックになって行く。

 

「会長はそこの二科生を引き入れたいだけでしょ!私知ってるのよ!この前、そこの彼らと駅まで一緒だったじゃない!」

 

 破れかぶれの発言に浅野達に発せられていたブーイングの嵐がシンと静まり、会場の目が智宏と達也、真由美の間を往復していた。

 智宏からは見えなかったが、達也や沢木の顔を見て真由美がどんな表情をしているのかが想像できた。実際、この時真由美はポっと頬を染めていた。

 しかし会場はその事実ではなく、一個人が四葉の次期当主候補の智宏を利用した発言をした事に固まってしまったのだ。これは個人というより、四葉に対する侮辱として受け入れられてもおかしくはない。まさに「やってしまった」状態である。

 

 すると――

 

 

 

「言いたい事はそれだけですか?」

 

 

 

 と、深雪が冷ややかな視線を浅野に向けて言い放った。それにプラスで智宏も先程から辺りを警戒しながら浅野をじっと見ているので、彼女は鷹に睨まれた獲物のように何もできなくなってしまう。

 ついに浅野は個人に対する中傷で強制的に席へ戻された。

 

 智宏と深雪のプレッシャーが効いたのか、その後の資格制限撤廃の議案は可決となり、あずさの演説も順調に進んでいた。進んでいたのだが・・・・・・

 

「あずさちゃんは年下が好きなの〜」

 

「そこの二科生よねー?」

 

 という野次に対し

 

「誰が言った!」

「つるし上げろ!」

「やっちまえ!」

 

 熱烈なあずさファンがキレて乱闘が始まってしまった。

 生徒会メンバーが落ち着くように呼びかけるが逆上した彼らには聞こえていない。達也達風紀委員もいつでも飛び込めるようにしていた。

 

(ちっ、黙って聞きゃあいいのに)

 

 智宏は内心で舌打ちをしていたが、この状況に怒りを覚えている者が智宏の他にもう1人いた。

 

 

 

「静まりなさい!!」

 

 

 

 深雪の叱責は全ての生徒の動きを止め、壇上に目を向けさせる。舞台の上では想子光の吹雪が荒れ狂っており、激しい怒りが世界を飲み込もうとしていた。

 それともう1つ。構造上なんの不具合もないはずの会場がミシミシと音を立てている。無意識に発動していた智宏の重力核はステージや演説台の木材にヒビを作り、天井からはほこりなどがパラパラと落ちてきている。今のところ人には影響はなさそうだが、このままでは座っていられないほどの圧力が生徒達を襲うだろう。

 

 重力核をよく知っている真由美は智宏を、達也は深雪を止めに入り、その他の生徒会と風紀委員のメンバーはCADに手を伸ばした。既に深雪の足元からは霜が発生し、智宏の近くにいる生徒会や風紀委員メンバーは自分にかかる圧力に耐え始めていた。

 

「智宏君、智宏君!」

 

「・・・・・・あっ、会長。大丈夫ですよ。攻撃はしませんから、ええ」

 

「よ、よかった」

 

 智宏は潰れる前に魔法を停止させ、深雪も達也に想子を体内に押し戻されていた。

 あれほど騒がしかった講堂も今では静まり返っている。ヤジを送っていた生徒達も大人しくなった。

 

 その後すぐに投票が行われ、あずさは見事生徒会長に就任する事ができた。

 しかし、集計中に投票用紙に智宏や達也、深雪(女王様、氷の女王等々)の名前が書かれていた事で、深雪が半泣きしてしまうのは放課後の事だった。




今回の劣等生のアニメ、話の進行スピード1期より早い・・・・・・早くない?

それと今回で夏休み編が終了となります。次回からは横浜騒乱編です。お楽しみに。
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