智宏と達也、深雪は駅で友人達と別れ、それぞれの自宅まで歩いて行った。
達也と深雪は智宏とも別れて自宅まで来ると、駐車場にシティコミューターが停まっているのが見える。
達也は深雪の肩を抱いてドアを開けた。
すると――
「おかえりなさい。やっぱり仲いいわね」
「お久しぶりですね。小百合さん」
からかいまじりにかけられた言葉に達也は冷たい眼差しと冷却された声で応える。
玄関で待っていたこの女性は達也の義理の母、司波小百合。達也と深雪にとって、「父親の後妻」という存在だ。深雪から話を聞いている智宏もいい顔はしていない。
「お兄様。深雪は夕食の支度をいたします。何かリクエストはありますか?」
「深雪の作るものならなんでも」
「わかりました。それでは普段作らない物に挑戦したいと思います」
「ああ。ケガはしないようにね」
深雪がいなくなると、達也と小百合はリビングのソファに腰を下ろした。
「要件はなんですか?」
「相変わらず私の事が嫌いなのね」
「深雪はそうですね」
司波小百合。旧姓古葉小百合は司波龍郎と深夜と結婚する前に司波龍郎と付き合っていた。
しかし良質な遺伝子を欲した四葉によって強引に別れさせられた過去がある。向こうもこっちも良好な関係ではないのだ。
「まぁいいわ。本題よ。貴方に本社で手伝って欲しいことがあるのよ。高校を中退して」
「無理です」
「貴方が進学しない場合は別のガーディアンが手配されるはずよ?」
「いくら四葉でもガーディアンの代わりは見つかりません」
「自分を上回る護衛はいないと?」
「深雪に限れば」
小百合の遠慮のない要求に、達也も遠慮なく返答した。普通に考えればNOだろう。
「当主様のご子息がいるじゃない」
「・・・・・・本気で言ってます?次期当主の最有力をガーディアンとするなど。そんな事を提案した瞬間貴女の所に叔母上が乗り込んできますよ」
「冗談よ」
もちろん阿呆な提案も即答で返す。
まぁ智宏は深雪の護りくらい引き受けてくれだろう。だが事情が事情だ。智宏と深雪は達也が研究所に持ってかれるとなると絶対に怒るだろうし、本家の方でも智宏をガーディアンとするなどと聞いた真夜は本気で怒るはずだ。
その場合、司波龍郎や小百合は完全に四葉から追放されかねないし、最悪消される可能性がある。
さすがに小百合でもそれをわかっているので冗談で済ませた。
しかし彼女は今回「はいそうですか」と引き返せない理由があった。
FLTは元々CADのメーカーではなく、魔法工学の部品を作っていた場所なのだ。CADの完成品を売りに出して世間に知られるようになったのはシルバー・モデル、つまり達也の功績だ。さらに先の飛行デバイスはFLTをより有名にしている。目立った成果を上げていない小百合は嫉妬せざるを得ない。
小百合は研究職の人間。ハンドバッグから小さな箱を取り出すとそっと蓋を開けた。
「じゃあこのサンプルの解析だけでもしてちょうだい」
「これは・・・・・・
箱の中には赤い勾玉が入っていた。
レリックとはオーパーツの事を示している。キャスト・ジャミングを引き起こすアンティナイト等の人工的とも自然に作られたものとも言えない物。それがレリック。
「どこで?見つかったのですか?」
「・・・わからないわ」
「なるほど。軍絡みですか。まさかこの複製を作れと言うのではないでしょうね?」
「この仕事は軍からの強い要請があるの。断れないわ」
「しかし国防軍とてレリックの事は知っているはずです。いったいなぜ?」
達也の言葉に小百合は一瞬黙ったが、ため息をついてから話し出した。
「これには魔法式を保存する機能があるそうよ」
この言葉に達也は少し驚いた。
魔法式を保存する機能が普及されれば、魔法の自動化や半永遠的な魔法装置も必要なくなる。魔法師のいない部隊にも魔法兵器を配備することだって可能となる。
勾玉が量産されれば強力な兵器を製造可能なのだ。
「火中の栗を拾う必要はなかったのでは?」
「既に賽は投げられたわ」
「俺の魔法でも成功するとは限りません。どうしてもと言うならば開発第三課へ回してください」
正直達也もこれでいいと考えていた。なぜなら達也も魔法式の保存に興味があったからだ。
しかし小百合はそうはいかない。
FLTにおいてこれ以上第三課に手柄を立ててほしくはない。また、社内でのトーラス=シルバーもとい達也の発言力をこれ以上持たせたくなかった。
手柄を横取りすることができるが、いかんせん達也のシンパが第三課を初め、それ以外にもたくさんいる。そちらもあまり刺激したくない。というか第三課で今回の解析が成功したら達也の成果になりかねない、と小百合は考えている。
「それとも俺が直接預かりましょうか?」
「け、結構よ!」
助け舟を出したつもりの達也だったが、結果は決裂してしまった。
小百合はハンドバッグに勾玉を入れた箱を押し込んで廊下に出ていってしまう。
「駅まで送りますよ」
「必要ありません!」
刺々しい返事にまるで気を悪くした様子を見せない達也は、小百合が玄関を出る時に一礼した。
そして階段の上に隠れているような妹の気配を感じた。
「深雪」
「は、はい」
達也が玄関から声をかけると、深雪がオールインワンのキャミソールワンピースに着替えて2階から降りてきた。
むき出しの腕に肩。ほんのり口紅を塗っているあたり少しだけ気合いが入っているよう。
達也はちょっとはしたない格好をしている妹の頬を撫で、顎の下に指を滑らせた。そのまま深雪の顎をクイッと持ち上げる。
「あ、あの・・・お兄様?」
深雪の白い肌が赤く染まり、綺麗な髪はサラリと流れた。まるでキスでも迫られているかのようだった。
でもその視線は達也の目からそらしてはいない。
顎に当てられた指が頬を伝って這い上がると深雪は覚悟を決めて目を閉じた。
そして――
「うにゃっ!?」
くぐもった悲鳴を上げた。
「な、何をするのですか!」
「隠れていたお仕置き」
「お兄様の意地悪」
「少し出てくるよ。戸締りをしといてくれ」
「わかりました。行ってらっしゃいませ」
達也は深雪の頭を撫でると、2輪用のブーツを履き、ヘルメットを持って外へ出た。
駐車場にある大型電動二輪で家を出てからしばらくすると、黒い自動車が小百合の車に突進しているのが見えた。
2台の車が衝突防止の緊急停止システムによって止められると、黒い車から2人の男が出てきて小百合のコミューターのドアをこじ開けようとしている。
それを見た達也はライトを強めて速度を上げ、懐からCADを抜いた。
男達も達也に気づき、拳銃と真鍮の指輪を達也に向けた。
指輪からキャスト・ジャミングが発動し、魔法の妨害を試みる。もう1人も拳銃を向けてが撃つ事はなかった。引き金を引くより達也が拳銃を分解してしまったのだ。
達也はすぐに2人に魔法を放って無力化し、黒い車に目を向けた。こういう車には爆弾などがある可能性がある今はわからない。だが住宅が近くにあるこの場所ではそんな目立った事はしないだろうと判断してしまう。それが油断を生んでしまった。
突っ立っていると突然殺意の塊がある方向から飛んできた。達也がそれを認識した頃にはひだり左胸に熱い感覚と強い衝撃を感じていた。
これが狙撃だとわかった時には、小百合のコミューターの影に隠れて狙撃場所を探していた。傷は既に魔法によって完治している。
殺意の見えた方向と飛んできた銃弾の角度と周辺の地形や建物などを頭の中に展開し、発砲から命中までの弾道を計算した。
(あそこからか・・・・・・よし)
狙撃手がいるはずのビルに怪しい人影が視えると、達也はコミューターから飛び出してそのビルの屋上にCADを向けた。
そして達也を狙撃した狙撃手はスコープから襲撃現場を見ていた。
撃ったはずの達也が倒れずにコミューターに隠れてしまったのでしばらく様子を伺っていた。肩に当たったのなら出てきた時にもう一度撃てばいいと。
だが、達也が出てきたので照準を合わせると、CADがこちらを向いているのに気がついた。
(ば、バカな!こちらに気がついただと?)
最後に狙撃手が見たのはスコープの中て達也が自分に魔法を放った瞬間だった。
残ったのはライフルと薬莢。誰もいなくなった屋上にそれらは転がっていた。
その後達也は小百合を駅まで送った後、家の電話機で上司である風間に連絡をとった。
『なるほど。こちらで監視カメラの処理は済ませている。ライフルもこちらで回収しよう』
「ありがとうございます」
『うむ。お、車が見つかったらしい。こちらで処理するか?』
「お願いします」
ちなみにあの黒い車は達也が撃たれた時に倒した2人も一緒に逃げられており、行方が知れずにいた。しかし日本の監視網をくぐり抜けられる事はできなかったらしく、すぐに見つかってしまったのだ。
その後、達也は風間から今回の犯人は世界の組織の中でも有名な奴らで、脅威となりうる可能性がある事をしらされて警戒心を強めたのだった。
今回の劣等生は真面目な話でしたね。
あと千葉家の力を思い知りました。まさか辺り一面を閉鎖できるなんてね。