四葉を継ぐ者   作:ムイト

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今回は短めです


第56話 男の後処理

 

「よ〜し。じゃ、いろいろと話してもらうぜ」

 

「そうね。名前は?」

 

「・・・・・・ジロー・マーシャル」

 

 男は2人の質問に本名か偽名かもわからない名を告げた。

 そして遠回しに自分がどの国の機関にも所属していない非合法工作員だということも。自分をここまで追い詰めるのだ。それくらいはわかるだろう。実際その通りだった。

 

 それからいくつかの質問を受けたが、もちろんその答えは全てYESでもなければNOでもない。後を付けていたとは言え、この男が何者かもわからない状態ではこれ以上疑っても意味はない。尋問は終わった。

 

「とにかく、私はスパイではない。逆にそれを防ぐ立場の人間だ」

 

 そう言って男はズボンの埃を払う仕草をする振りをして拳銃を取り出し、その銃口をエリカに向けた。

 

「っ!」

 

「てめぇ!」

 

「さて、結界を解いてもらおうか」

 

 魔法の存在とCADの発達により、現代魔法は銃器と渡り合うくらいのスピードを手に入れている。しかし、それは銃より魔法の発動が速いと言うわけではない。どちかというと銃の方が速い。

 現代魔法は起動式を読み込んでから魔法式を構築し魔法を発動するプロセスがあるので、攻撃魔法や防御魔法は発動するスピードが速くないと銃器には勝てないのだ。

 

 同時に、固まる2人を術式で見ていたのか幹比古は自分が張った結界を解除した。

 

「では失礼するよ。そうそう、学校の中だからと言って安心しない方がいい」

 

 男は自分とエリカ・レオの間にスモーク・グレネードを投げ、煙幕が2人の視界を封じている間に逃げた。

 エリカやレオが毒の煙ではないと判断して目を開けた時には既に男の姿はなかった。

 

 残った2人はその場に立ち尽くし、この一部始終は監視システムが見ていた。もちろん幹比古のおかげでカメラには映っていないが、幹比古の術式は記録に残ってしまっていた。

 そして彼らを見ていたのはカメラだけではない。藤林響子が魔改造してある自分のパソコンで見ていたのだ。

 

「全く・・・・・・吉田家の神童も詰めが甘いのよねぇ」

 

 そう言って響子は魔法の不正使用の映像と記録を消去した。

 電子の魔女と呼ばれる彼女ならこの程度のシステムに入り込むことなど造作もない。単身で電子戦ができる実力を持っている響子は、今のような証拠隠滅が任務ではないのだが、達也が余計に目立つのを防ぎたかったのだ。

 

 そしてエリカとレオから逃げたマーシャルは後ろから迫ってくる何者かに気づき、通りから十分に離れた場所で立ち止まり、その者を迎え撃つ準備をする。

 背後にいるのが先程の男女ではなく、別の存在。しかも力も2人より上だということもわかっていた。

 

(どこにいる!)

 

 マーシャルは全神経を集中させ、追ってくる者の気配を探した。このご時世、気配というものは訓練すればだいたいの者はそれを察知することができる。

 まだ自分を付けている相手はまだこちらを窺っているはず。ならばそれを突き止め制圧するというのが彼の判断だった。

 

 しかし、彼の予想は外れた。

 ゾッとするような気配を感じてその方向に目を向けると1人の男が立っていた。

 大柄なアジア人で至ってその辺にいそうな人ではあるが、その全身から人間を捕食する猛獣のような雰囲気が出ている。

 マーシャルは目の前の男に見覚えがあった。

 

「人喰い虎・・・・・・呂剛虎(リュウ カンフウ)だと!」

 

 呂剛虎(リュウ カンフウ)

 その名はマーシャルが今回の作戦に当たって配布された要注意人物リストのトップを飾っていた。

 白兵戦において人を殺すことに関しては大亜連合随一と噂されており、また大亜連合特殊工作部隊のエースでもある。

 

 目の前の人物が誰なのかを意識した時にはマーシャルは戦闘態勢に移っていた。

 

 右手に構えた拳銃で呂剛虎を撃とうとしたが、マーシャルが引き金を引くことはなかった。

 引き金を引くより速く呂剛虎の指が手首に突き刺さっていたのだ。

 いつこんな至近距離まで接近されていたのか、いつ手首を貫かれたのか。マーシャルは呂剛虎の動きが全く見えなかった。

 そしてマーシャルが痛みを認識する前に、彼の意識は永遠に閉ざされた。

 

 マーシャルの喉に刺さった右手をズルリと引き抜いた呂剛虎は、懐から取り出した紙で血を綺麗に拭う。拭き終わるとその紙は死体の上に放り投げられ、ペタッと張り付いた。

 すると紙は炎となって燃え上がり、マーシャルの死体を燃やし尽くす。

 死体が完全に燃え尽きたのを確認した呂剛虎は、踵を返して通りに戻って行った。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 翌日、学食で待ち合わせをしていた智宏と深雪は、待ち合わせの相手であるエリカが難しい顔をしているのを見て意外に思っていた

 

「まだ昨日の事を気にしているのかしら?」

 

「別に逃げられた事を気にしてるんじゃないよ」

 

 エリカは昨日駅に行くまで悔しがっていたが、まだ引きずっているとは思ってもいなかった。

 しかし帰ってきた返答は半分正解で半分否定。別の事を気にしているようだった。

 

「あいつが言ってた言葉が気になったのよ」

 

「確か『学校の中だからと言って安心しない方がいい』ってやつか?」

 

「うん。考えたくないけど生徒の中に・・・」

 

「可能性はあるかもな。春の事件の時は俺はいなかったけどある程度は聞いている。エリカが気になるのもわかるよ」

 

 ブランシュの事件当時、紗耶香がテロリストもとい海外の工作員に利用されていた。

 自身の記憶を塗り替えられ、それに気づかずに周りに迷惑をかけてしまった事を彼女は今でも吹っ切れていない。

 

 智宏はこの事件の詳細は実家でしか見ていない。だが何人かの二科生がブランシュに加担し、風紀委員に拘束された記録は頭の中に残っている。

 ただ騙されて利用されていた生徒も何人かいたらしく、事件後のメンタルケアが大変だったという。一高の保険医やカウンセラーは毎日来る生徒達の対応で、疲労の色が隠せなかったという。

 

「別にデータを持ち歩いているわけじゃないから物理的に盗む事はできないはずだ」

 

「だよなぁ。でも相手が誰だかわからない以上警戒はする必要があるだろう」

 

「ま、それもそうね」

 

 あんまり納得していなさそうなエリカだったが、得ている情報が少なすぎる上に生徒が裏切ってきる可能性もにわかに信じ難い。

 ひとまずこの場は警戒を強化する、という結論しか出なかった。

 コンペの護衛も、今より1層頑張る必要もあるだろう。




短めですいません。文字数はだいたい3000字以上は書いてるんですが、今回は諸事情で短くなりました。
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