四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第6話 達也のエンジニア入り

 

 

 

 「これよりエンジニアをどうするか。その会議を始めます」

 

 

 真由美が達也をエンジニアに誘ってから1週間後、正式に達也を九校戦のエンジニア担当として決定させるため、生徒会・風紀委員・九校戦選手を集めて会議を開く。

 

 克人も参加しており、なぜかこの場にいる達也に視線を向けている。

 

 

 「会長。エンジニアが決まったのですか?」

 「ええ。私は1年E組の司波達也君を推薦します」

 

 

 事情を知らない生徒が一気にざわつく。

 真由美が推薦したのがまさかの二科生だったからだ。

 

 ここで当然のごとく風紀委員のメンバーから否定的な声が上がる。

 

 

 「二科生が?それは危険では?」

 「そうです。事故に繋がりかねません」

 「・・・達也さんの実力も知らないで」

 「雫・・・」

 

 

 智宏は後ろにいた雫がぽそっと文句を言ったのを聞き逃さなかった。そして深雪の周りが徐々に凍っていくことも。

 

 すると文句を言っている一科生は、隣に座っていた智宏にも話しかけてくる。

 非常にめんどくさい。おそらく四葉という大義を得たいだけなのだろう。

 しかし智宏は――

 

 

 「四葉。お前はどう思う?」

 「俺ですか?もちろん賛成です」

 「「え?」」

 「・・・か、彼はウィードだぞ?」

 「ウィード・・・ね。そんなの関係ありません」

 

 

 当然智宏は賛成だ。

 智宏は問いかけてきた先輩に対し、深雪のフォローをするつもりで意思を込めながら逆に問う。

 

 

 「彼は正式な試合で服部先輩を負かしたのを知らないんですか?」

 「それはっ!・・・単なる偶然だ!」

 「ほう、その言いようでは服部先輩(・・・・)を侮辱するように聞こえますが?」

 「違う!」

 「達也の実力は本物です。技術力もこの学校1でしょう」

 「実力は渡辺先輩から聞かされている」

 「では二科生だからですか?二科生だからエンジニアにしたくないと?風紀委員ともあろう先輩がそんな馬鹿げた理由で」

 「うっ・・・」

 「お前達、やめろ。四葉。仮にも上級生相手に失礼だぞ」

 「わかりました。先輩、失礼しました」

 

 

 口論(智宏の一方的)がヒートアップするのを悟ったのか、克人が2人の間に割り込み会話を止めさせた。

 智宏も今は克人とやりあうつもりはないので素直に従っておく。その時すでに深雪は落ち着いており、深雪は智宏にありがとうございますと会釈した。

 

 事が落ち着くと、あずさが珍しく介入してくる。

 

 

 「わ、私が最初に司波君を推薦しました!」

 「あーちゃん?」

 「なので司波君に実力を証明してもらうのではどうでしょう・・・」

 「あっ、なるほど。それはいいわね」

 「だな。達也君の腕をみんなに見せた方がいいだろう」

 

 

 あずさの意見は真由美を動かすに至り、摩利もこれに賛成してくれた。

 克人も無言で頷き、その席から室内全てを見渡す。それは何も言わせない圧力がかかっている。

 

 そして克人はその実験台を誰にするかと聞いてくる。もちろん誰も手を挙げない。深雪や雫も挙げなかった。このテストは達也を認めていない者がやらないと意味が無いからだ。

 すると1人の生徒が立ち上がった。

 

 

 「俺がやりましょう。戦闘面は知っていますが技術面は知りません」

 「桐原か。司波、どうだ?」

 「問題ありません」

 「よし、では移動する。七草」

 「ええ。じゃあ行きましょうか」

 

 

 実験台になるのは桐原になった。

 克人は席から立ち上がると会議室から出ていく。真由美や摩利もそれに続き、他の全員も席を立ち上がった。

 

 この学校にはCADの調整設備が実験棟にあり、教員はもちろん生徒も使用できる。今回のテストで使用するのは九校戦で使用する車に搭載できる専用の調整機だ。

 達也と桐原は機械を挟んで向かい合わせになり、その周りを智宏達が囲った。

 

 達也は調整機を起動させると真由美にテストの条件を確認した。

 

 

 「それで会長。テスト内容はなんですか?」

 「そうねぇ・・・桐原君のCADの設定をコピーして競技用のCADに写すというのはどうかしら?」

 「それでは起動式はどうしましょうか」

 「競技用のはすぐデリートするからいじっても構わないわよ。桐原君もいいわよね?」

 「はい」

 「本来ならばスペックの違うCADのコピーはあまり勧められないのですが・・・わかりました。始めます」

 

 

 真由美に条件を指定され、達也は早速作業にとりかかる。桐原はCADを台に置き、計測用のパネルに両手を置いた。

 普通の生徒は自動で調整するのだが、今回はエンジニアとしてのテストのため、マニュアルで調整する事が腕の見せどころになる。

 

 桐原は計測が終了すると頭に付いていた機械を外し、移動して達也の作業を後ろで観察し始める。

 あずさが不意に達也の肩越しにディスプレイを見ると、驚きの声を上げた。今達也が見ている画面は計測結果ではなく、大量の文字列だったのだ。

 しばらく画面を見ていた達也は、高速でキーを叩き始めて競技用CADにコピーを開始する。するといくつもの小さいウィンドウが開かれては閉じ、開かれては閉じというのを繰り返している。あずさや五十里はすぐに達也が完全マニュアル調整をしていると理解した。そして悟った。達也が自分達よりも圧倒的に調整技術が優れているという事を。

 

 数分後、CADの調整を終わらせた達也は競技用CADを桐原に渡して魔法を発動させた。

 桐原は若干緊張していたが、『高周波ブレード』を発動するとその表情が一変し、驚いたものになる。

 

 

 「桐原。どうだ?」

 「問題ありませんね。それどころか今自分が使っているCADよりも使いやすいです」

 

 

 春の1件を知る者はまさか桐原が達也を庇ったりする行為をするなど思っても見なかっただろう。

 しかもいつもより使いやすいと言っている。この結果には最初に推薦した真由美もびっくりしていた。

 

 

 「これなら何も言いません。司波達也のエンジニア入りを俺も推薦します」

 「し、しかし・・・」

 「ふん。お前にこれができるのか?ところで司波兄、ついでに俺のCADも調整してくれよ」

 「構いませんよ。データは残っていますので」

 

 

 達也は桐原に頼まれ再びディスプレイに向き直る。

 そしてその後ろではどうするか審議が行われていた。

 

 あずさは珍しく気弱な表情を捨て、グッと手を握り達也を推薦する。

 

 

 「私は司波君のチーム入りを支持します!これはエンジニアとして見逃せません!」

 「僕も賛成かな。あんな芸当は僕にもできないよ」

 「自分も賛成です」

 「え?はんぞーくん?」

 「桐原の所持しているCADと競技用CADとの違いをほとんど感じさせなかったのは評価すべき事です。ましてや今は肩書きに拘わっている場合ではありません」

 

 

 まさか服部が達也入りに賛成してくれるとは誰も思っていなかった。これには作業中の達也も少し驚いている。

 達也を支持しなかった生徒にとってこれは以外だったのだろう。一気に反対派が静かになる。

 

 克人もこの状況でようやく結論を出す。

 

 

 「俺も賛成だ。お前達、いいな?」

 

 

 克人の達也支持により、達也のエンジニア入りが決まったのであった。

 

 

 




十文字先輩が達也を支持しちゃ何も言えんわな

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