四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第61話 警備隊模擬戦

 

 

 

 論文コンペまであと1週間と1日。

 プレゼンテーションのバックアップは全校一体となって取り組んでいた。

 発表に使う機械は完成しているが、より効率的で確実な成果を出すため、改良や調整が行われている。

 

 装置の製作や舞台の演出プラン、移動手段、弁当の配布などに関わっている生徒達はその才を存分に発揮させている。

 もちろん体育会も例外ではない。

 彼らは意外な大物が率先して訓練に励んでいた。

 

 学校に隣接する丘にはそこを改造して作られた野外演習場がある。

 ここはモノリス・コードなどの訓練場所にも使われており、他にも防衛大や警察へ行く生徒のための練習場にもなっているのだ。

 野外演習場にいるのは論文コンペで会場の警備を行う1高の警備隊員。もちろん全員生徒だ。

 今回の論文コンペでは9つの魔法科高校が共同で組織する会場警備隊が組織され、その総隊長に十文字克人が選ばれた。

 

 十文字家次期当主である克人本人が先頭に立ち、模擬戦をしながら指導することで警備隊の士気を高めるのが狙いだ。

 が、しかし―――

 

「十文字君・・・・・・味方の士気を高めるつもりなんだろうけど、返って皆の自信を無くしちゃわないかしら?」

 

「今のうちに後輩を絞っておきたいんだろ。なんたって今回十文字は警備隊総隊長だからな」

 

『ぐあっ!』

 

「・・・もう7人やられたか」

 

「あと残っているのは・・・?」

 

「えっと・・・お!あいつは」

 

 魔法を使用した模擬戦は事故防止と救護活動を目的としたモニター要員が必ずいる。

 今回は真由美と摩利がモニターの前に座って克人の前にバタバタと倒れていく生徒を見ていた。

 

 そして7人目がやられた時、摩利の目には1人の生徒が映っていた。

 

(早まったかも)

 

 木陰に身を潜め、克人から見つからないようにしているのは幹比古だった。

 幹比古は自分に模擬戦の誘いが来た時には物凄く喜んで話に乗った。しかし、開始30分で10人いた仲間が3人まで減らされてしまっている。幹比古は力の差を思い知った。

 十師族の十文字家次期当主の練習相手などめったにないはずなのだが、その強さを実感してからはまだ攻撃を受けていないにもかかわらず背中に汗がびっしょりだった。

 

 到底適う相手ではないのはわかってる。精々いい勉強をさせてもらえれば十分だ。

 幹比古はさっきからそう自分に言い聞かせている。そして自分の息が段々荒くなっている事に気が付き、慌てて息を潜めた。

 ところが克人は進行方向を変えて真っ直ぐこちらに向かってきている。やはり漏れた息で存在がバレてしまったようだ。

 

 こちらを狙う猛獣のような気配。

 隠れている場所がバレていないとしても自分のいる方向はわかっているのだろう。

 だが標的がこちらに向いたのなら仕方ない。幹比古は聴覚と触覚に精神を集中させた。

 

 片膝をついてズボンの生地を通して地面を伝わる微かな振動や気流の乱れ等を五感全て使い、情報を集めデータを構築していく。

 克人は1歩、また1歩と着実な足取りで幹比古の方へ近づく。

 

(3・・・2・・・1・・・今だ!)

 

 カウントをとって幹比古は右手を地面に叩きつけた。

 地中の導火線を通してサイオンはあらかじめ用意してあった呪陣へ送り込まれ、魔法が発動する。克人を取り囲むように4つの土柱か吹き上がり、地面がすり鉢状に勢いよく陥没した。

 

 これは古式魔法【土遁陥穽(どとんかんせい)】。

 相手に土砂を浴びせるだけでなく目くらましや足止めをして逃げる時間を稼ぐ魔法だ。

 弱い相手ならそのまま動きを封じて捕まえる事ができるが、今回は克人を相手にしているので魔法の効果が発揮されたかどうかはわからない。

 幹比古は結果を確認することなく全力で逃げ出した。

 

 魔法の効果はあったのか。

 それはモニターを見ていた人にしかわからない。ただし、この時の幹比古の逃げるという判断は間違っていなかったと言えよう。

 土砂が晴れた後には土埃1つ被っていない克人の姿があったのだ。

 彼の防壁は攻撃を完全にシャットアウトしていた。

 

(ほう)

 

 克人はニヤリと笑って足元に展開していた防壁から、再び地面に足を踏み出した。

 

 一方、真由美達も今の攻撃をモニターで見ていた。

 

「おー」

 

「達也君とは違った種類の上手さがあるわね。今年の1年生は面白いわ」

 

 1年生で二科生でありながらここまで生き残っているだけで幹比古は優秀だという事を示している。

 今の映像を見て摩利は感嘆を漏らしていた。

 

 真由美の話では、先生方曰く幹比古は九校戦を終えてから急激に伸びたと言っていたらしい。

 

「こんにちは」

 

「あら智宏君」

 

 幹比古が苦戦している時、智宏は真由美と摩利のいるテントにやって来た。

 

「四葉じゃないか。どうしたんだ?」

 

「自分も警備隊ですよ。先輩方の模擬戦はいい勉強になります」

 

 そう。実は智宏はこの間、摩利から警備隊に入らないかと連絡を受けたのだ。

 もちろん答えはOK。

 断る理由もないし実戦経験を積むにはちょうどいい機会だ。それに有事の際には実力を発揮できる可能性がある。

 

 だが、誘いに乗ったはいいものの、達也の護衛でこういった訓練はできなくなっている。

 今だってたまたま空いてる時間を見つけてこっちに来ているのだ。

 

「なぁ四葉。お前は模擬戦に参加しないのか?」

 

「したいのはやまやまなんですけど、達也の護衛がありますから」

 

「でも智宏君はそこまで訓練する必要はないんじゃないかしら?」

 

「それもそうか」

 

「買いかぶりすぎですよ。それにあと10分くらいしかここにいれません」

 

「だったら模擬戦を観てかない?私の隣、空いてるわよ」

 

「・・・・・・では失礼して」

 

 真由美の誘いに智宏は少しだけためらってから座った。

 ためらった理由は、真由美が用意したパイプ椅子を自分の椅子にぴったり寄せて置いたから。あきらかに狙っている光景だが、智宏はやれやれといった感じで座った。

 

 奥で摩利がニヤついているのを尻目に、なおかつ真由美にぴったり寄られているのを無視して智宏はモニターを見つめる。

 

「開始30分で7人やられたの」

 

「さすがですね・・・・・・あ、幹比古がやばい」

 

 モニターの中では幹比古が繰り出す攻撃をやすやすと止める克人の姿があった。

 体力的にも克人の方が有利。少しずつだが2人の距離は狭まって来ている。

 

 数分後、ついに幹比古はやられてしまった。善戦した方だろう。

 残りの2人もその後すぐに倒されてしまう。

 

「終わりましたね」

 

「十文字のやつまだ余裕そうだなぁ。四葉、やっぱり飛び入り参加しないか?」

 

「ダメよ摩利。智宏君はまだ仕事があるんだから」

 

「そういうことです。ではそろそろ失礼します」

 

「ああ。またな」

 

「じゃあね〜」

 

 こうして智宏は達也の所へ戻っていく。

 今日の模擬戦はあと何回かあるので、真由美と摩利もいそいそと再スタートの準備に入った。

 

 この日結局克人に一撃入れる者は現れなかったが、誰がどのくらいの実力なのかはっきりわかる模擬戦であった。

 特に幹比古の成長ぶりはモニターで見ていてもわかるほど。

 

 そして模擬戦に参加した警備隊一同は、より一層の訓練に励もうという意識が出てきたのだった。




すごい久々の投稿です。
少し内容整理してからまた投稿しようと思います。
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