四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第64話 睡眠ガス

 

 

 達也と深雪は着替えるため、家を経由して学校へ向かった。到着と同時に雨が降り出し、2人を濡らした。

 しかし、そこは深雪の生徒会権限でもあるCADの常時携行を使用して服を乾かした。

 

 これから達也は作業に入る。

 ところが――

 

「雨では野外作業ができませんね」

 

「ああ。でもしょうがない。行ってくる」

 

「頑張ってください、お兄様」

 

 ここまでの作業は順調に進んでいるが、雨のため屋内作業を強いられる。それでも間に合わないという事はないだろう。

 もっとも、達也自身に限って言えば今日はロボ研のガレージでのバックアップ作業なので天気は関係ないのだ。

 

 一方達也と別れた深雪は生徒会室へ向かう。

 仕事がまだ残っているためだ。おそらくあずさも先に来て始めているだろう。

 その途中、深雪は廊下に智宏が窓の外を見ているのに気が付いた。

 

「智宏さん」

 

「やぁ深雪」

 

「いつこちらへ?」

 

「15分くらい前かな」

 

「そうでしたか。あ、先程はありがとうございました」

 

「いやいや、あの後俺を付けるやつはいなかったから問題はないよ。それよりそっちは大丈夫だったか?」

 

「いえ、その――」

 

 深雪は智宏にFLTで起きた出来事を話した。

 なんの理由でハッキングしてきたかわからない事も全て。

 

「――という訳なんです」

 

「なるほどな。今達也はどこだ?」

 

「ロボ研のガレージです。お1人にしたくはないのですが」

 

「わかった。じゃあ深雪は自分の仕事を終わらせるんだ。達也は俺が見てるから」

 

「よろしくお願いします」

 

 ロボ研は知っての通り【ロボット研究部】の略で、ガレージには部員達が大小様々なロボットやパワードスーツを制作したりする場所だ。

 そこには大型計算機も備わっており、論文コンペの準備期間では起動式のデバックや術式シュミレーションに提供されている。

 

 深雪を見送った智宏はガレージには行かず、室内からガレージがよく見える場所に移動した。達也を囮に使うようになってしまったが、智宏がいたら作業の邪魔になるかもしれないし、こうして全体を見張っておけばどこから襲撃者が来るかわかるのだ。

 ガレージの中を視ると達也が何事もなくいるのが視える。今のところ問題ないようだ。

 

 そして達也も椅子に座りながら順調に作業を進めていた。

 

「コーヒー・を・どうぞ」

 

 キーボードを叩いていると、後ろから電子的な声がする。達也が後ろを振り向くと一体のメイドロボットがいた。

 彼女の名前は人型家事手伝いロボット【3HタイプP94】。ロボ研では型番通り【ピクシー】と呼んでいる。どうやらロボ研の部員にこのロボットの大手メーカーの関係者がいるらしく、モニター用に貸し出されているのだ。

 完成度は高く、黙って座っていれば無表情な女子生徒でも通りそうな見た目だ。もちろんメイド服ではなく制服でだが。

 

 P94、ピクシーは達也にコーヒーを渡すと元の椅子のある場所に戻って腰を下ろした。

 コーヒーを飲みながら作業を続けていると時間が進むのが早く感じる。その証拠にもう作業開始から1時間が経過していた。

 

 すると達也は身体に不調を感じ、外の空気を吸おうとして立ち上がろうとした瞬間、ぐらっと不自然に達也の身体は揺れた。

 今睡魔が襲ってきているが、自分の意思で制御できない。これは明らかに異常だ。

 

(身体機能異常低下)

(強制的な睡眠。戦闘能力を阻害すると判断)

(自己修復術式、スタート)

(魔法式、ロード。コア・エイドス・データ、バックアップよりリード)

(修復開始・・・完了)

 

 再生により達也の身体は眠気に襲われる前の状態に戻る。

 だが問題はまだ解決していない。

 

(コーヒーは違う・・・・・・ガスか!)

 

 事前にコーヒーに薬物が入っていないのは確認済み。達也は空調システムに細工をされたのだろうと気が付いた。

 

 自分の分解は使えない。

 今の彼にできる事は外に逃げる事だけ。

 達也は出入口に向かおうとしたが、ピクシーが目の前に立った。

 

「空調システムに・異常が・発生しました。マスクをどうぞ」

 

「・・・・・・ピクシー、強制換気装置を作動。俺はここに残る。監視モードで待機し、救助のための入室に備え排除行動は禁止だ」

 

「かしこまりました。強制換気装置を・作動します」

 

 災害時対応の換気システムが作動し、室内の空気を外へ排出し始める。

 それと同時に空調システムの復旧も行われているはずなので、達也はある事を思いつき、端末の前に座り直して目を閉じ身体の力を抜いた。

 この後ここへ来るのはガスを仕掛けた犯人か、ここの様子を感知した智宏か、空調システムの異常を知った風紀委員のはずだ。

 

 待ち人はすぐにやって来た。

 神経を研ぎ澄ませてじっと待っていた達也は足音を忍ばせて近づいてくるのに即気が付いた。

 あらかじめピクシーに入室チェックを行わないようにさせたのは、忍び込みやすいようにしたからだ。

 

 

 

「司波?」

 

 

 

 聞き覚えのある声。

 達也が寝ているか確かめるために話しかけたらしいが、もうタイミング的にも言い訳はできないだろう。

 

「寝ているのか?」

 

 こう聞かれても達也は狸寝入りを続けた。

 

 もう一度確認をとった侵入者は何かを探す素振りをし、デモ機へと視線を向けた。

 そして達也やピクシーが見ているのにもかかわらず、侵入者はサブモニター用のコネクターからハッキングツールを使って起動式を吸いあげようとしている。

 

 そこで侵入者に入口から声がかけられた。

 

「関本さん。何をしてるんですか?」

 

「千代田に四葉!なぜここに!」

 

「そりゃ見張ってたらガレージの中で異変があったからですよ」

 

「私は空調装置の異常警報を受け取ったからですよ。四葉君とはここの入口で会ったんです」

 

「バカな!警報は切ったはず!」

 

 余程同様しているのか極端に予想外の出来事に弱いのかわからないが、関本は不用意すぎる一言を漏らしてしまう。

 警報を送ったのは達也ではなくピクシー。強制換気装置を作動させたと同時に行ったのだろう。

 

 花音は関本の失言を聞いて鋭く睨みつけた。

 

「警報を切った?どういうことですか?黙っているのは犯人だと自白しているのと同じですよ」

 

 黙っている関本に花音は稼働状態にあるCADを見せつけるように掲げた。

 起動式を即座に展開できるだけのサイオンがチャージされているのがわかる。

 

「千代田、冗談がキツイぞ。僕がなんの犯人なんだと言うんだ?」

 

「ここに睡眠ガスを流し込んだ犯人です」

 

「失礼だぞ!僕はバックアップをとっていただけた!」

 

「千代田先輩は失礼ではありません。それに、ハッキングツールでバックアップとるんですか?ありえないですよ・・・・・・なぁ達也」

 

 智宏の言葉にハッとなった関本は振り返るを

 愕然と振り返った関本の視線の先には達也が苦笑しながら立っていた。

 

 さすがに花音も達也の狸寝入りを見破っていたらしく、驚いた様子はなかった。

 

「ガスが効いていないのか!?」

 

「彼はそんなものでやられるほど可愛くありませんよ」

 

「可愛げがないのは認めますよ。まぁ智宏の言う通りバックアップは必要ありません」

 

「くっ」

 

「関本勲!CADを外して床に置きなさい!」

 

 さすがにもう逃げられないだろう。

 後ろに達也、前に智宏と花音。どう足掻いても未来は1つだ。

 

 しかしハッキングなんぞする輩に普通の考えは通じない。花音の警告は意外な答えを出させてしまった。

 

「ち、千代―ガバッ!」

 

「・・・攻撃対象者の名前を言うなんてアホですか?」

 

 花音の名前を叫んでCADを操作しようとした関本。

 しかし魔法は発動しなかった。なぜなら叫んだ瞬間智宏の拳が関本の腹に刺さっていたからだ。

 

 2年生後半からとはいえ、関本は風紀委員に選ばれる実力があった。

 魔法の発動手順や魔法式の構築までのスピードだって九校戦代表選手と比べても遜色がない。ただ、現代魔法は一瞬の勝負。標的の名前を言う必要など全くないのだ。

 

「四葉君、できれば魔法で無力化したかったんだけど」

 

「こっちの方が早いですよ」

 

「はぁ・・・・・・まあいいわ」

 

 気絶した関本は風紀委員の取調室へと連れていかれる。もちろん智宏も花音もついて行った。

 

 3人がいなくなった後、達也はピクシーから今までの映像を複製・コピーし、ピクシーの中にある記録は消去した。

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