放課後の風紀委員会本部にて。
「ダメ」
「理由を教えてくれませんか」
「ダメなものはダメ」
達也は花音に関本へと面会を申請していたが、答えはNO。
シンプルな答えだったが、議論になったら達也に丸め込まれてしまうのを恐れているのだう。
「ですから何故です。門前払いは納得いきません」
「・・・・・・面倒な事になるからよ」
「何を根拠に・・・?」
詰め寄った達也に花音は眉を顰めた。
本当に嫌そうな顔をしているのが智宏にもわかる。
達也の反論も当然なものなのだが、花音から返ってきたのは理不尽な逆ギレだった。
「じゃあ何も起こらないっての!?はっきり言うけどね!司波君はトラブルに愛されてるの!仕事増やさないでよ!」
このセリフは抗弁許さない勢いがある。
彼女の言うことも間違ってはいない。達也は入学してかはいろいろとトラブルに巻き込まれてきている。
智宏はそう考えながら2人を眺めていると、意外にもこちらに飛び火してきた。
「四葉君もなんとか言ってよ!」
「俺は達也の護衛ですが、その行動にあれこれ言う資格はありませんよ」
「そうだぞ花音。まぁわからなくはないが・・・」
「摩利さん!」
助け舟は引退したにも関わらず本部にいる摩利からもたらされた。
実際今の1高で最も安全なのはここだ。1人になるなという修次の言葉を摩利は守っている。
智宏と達也は摩利が弁護してくれているのがわかったので、そこに口を挟むような真似はしない。
「明日関本のとこに行くんだ。その時でいいだろ?」
「・・・まぁ摩利さんが言うなら」
「達也君もいいね。もちろん四葉も来るだろ?」
「ええ」
何があるかわからないので智宏が行くのは当然だ。
達也は少し不服だったが、せっかく摩利が手伝ってくれたので、文句は言わずに大人しく頷いた。
翌日。
智宏は達也と真由美、摩利の4人で関本が拘留されている八王子特殊鑑別所に来ていた。
入り口で色々面倒な手続きがあったが、中に入ってしまうと案外フリーな状態だった。
本来ならば職員が同行するのだろうが、真由美が「七草」の名を使ったらしく、4人だけで関本の所へ行くことができた。
関本の部屋は牢屋ではなく、普通の病室のようだった。ただし、横には部屋を監視できる隠し部屋が設置されている。
隠し部屋には智宏と達也と真由美が入る。摩利は尋問のため関本の部屋に入った。
これで一対一の状況だが、智宏達は摩利が関本に魔法で負けるとは思えないし、近接戦でもそうは思わない。なので摩利1人を行かせるのに誰も反対しなかった。
「渡辺。なんの用だ」
「事情を聞きにな」
「いくらお前でもここでは魔法は・・・はっ!」
関本の指摘は正しい。
ここでは魔法を使うとガスなりゴム弾なりが使用者を無力化し、アンティナイトを身につけた職員がすっとんでくる仕組みになっている。もちろん摩利もその事を承知しているはずだ。
元風紀委員長である摩利のやり方はよく知っている関本。魔法を使えないと言ったすぐ後、何かに気が付き口元を押さえた。
しかし、その時には手遅れで関本の意識に霞がかかってしまう。摩利の術中に落ちた彼は淡々と質問に答え始めた。
その様子は隠し部屋でもしっかり見られた。
「なるほど。匂いですか」
目の前の部屋で摩利が何をしたのか、智宏と達也はすぐにわかった。
摩利は気流を操作して複数の香料を関本の鼻に送り込んで強制的に自白剤と同じような効果を生み出させたのだ。
「2人共見るのは初めてだっけ?」
「初めてですね」
「俺もです」
真由美は智宏と達也が術式を見抜いたことに意外感は覚えなかった。
むしろ当然だと思ってる。
3人は会話をしながらも関本の自白を聞き逃してはいない。しっかり頭の中にはいっている。どうやら関本の目的はデモ機のデータと宝玉のレリックだったらしい。
この時真由美は達也に「そんなものを持っていたのか?」と聞くと達也は「いいえ」と答えた。
持っていたのだが、それを答えられるかとなると難しくなっている。結局達也はレリックの調べ物をしていたからだとそれらしい理由を付けた。嘘は言っていない。
これ以上の追求は無意味だと思った真由美は、これ以上聞いてこなかった。
そして3人が再び関本の方へ視線を向けた瞬間、館内の非常警報が鳴り響いた。
警報を聞いた智宏達は廊下に飛び出すと、ちょうど摩利も部屋から出てきたところだった。智宏は摩利がドアを閉める時に中をチラッと見たが、警報が鳴ったのに関本は寝ていた。いや、寝かされた方が正しいのかもしれない。
「どうした!」
「侵入者のようね」
「俺達も行きますか?」
「待て智宏。どうやらここが本命のようだ」
ここの施設は警察官が巡回している。しかもここは通常の倍の警戒態勢をしいているので、そう簡単には忍び込めない。
屋上から来たと推測される。
彼ら4人は学生だが、魔法師として侵入者を迎撃する義務がある。
智宏が動こうとすると、達也が肩を掴んで止めた。
その理由はすぐにわかった。
廊下の曲がり角から大柄な男が姿を現したのだ。
巨大な野獣のようなオーラを放ち、巨体ながらも引き締まった身体からは強者の雰囲気が見て取れる。
摩利はその男に見覚えがあった。
「呂・・・剛虎」
「え?誰?」
摩利の呟きを智宏と真由美は聞き逃さなかった。達也は目の前の男を知っているようだが、智宏と真由美は知らない。しかし摩利の表情から相手がどれだけの実力者なのかを理解した。
こちらに歩いていた呂は歩みを止め、智宏達・・・いや、摩利に視線を向けた。そりゃそうだ。この前戦った相手の1人なのだから。
「ここは逃げるべきでしたね」
そう言いながら達也は前に出ようとする。
「まてまて。俺は達也の護衛だから前に出られちゃ困る。俺がやる。室内戦なら任せとけ」
智宏はさっき達也にやられた様に達也の肩を掴んで止め、前へ出た。
室内戦なら流星群の本領を発揮できるからだ。
ところが――
「いや、あたしにやらせてくれ。2人は真由美のガードを」
「・・・わかりました」
「摩利、気をつけて」
今度は摩利が智宏を止めた。
智宏も達也も本当は摩利を前に立たせたくなかった。摩利の戦闘技術は高校生にして一流といえるだろう。しかし、呂剛虎は近接戦において超一流であり、勝ち目は低い。
だが意外な事に真由美は摩利を止めなかった。今は内輪もめしてる場合ではないので、2人は真由美の前まで引き下がった。
陣形は先頭に摩利、その後ろに智宏と達也、1番後ろは2人の後輩に守られている真由美だ。
「ああ。油断はしないさ」
呂をしっかり見たまま、摩利は自分のスカートをずらし、綺麗な太腿に巻いたホルスターから獲物を取り出した。
それは20cmくらいの角棒だった。
それまで呂は何もしていない。もちろん摩利の太腿に見とれていたわけではあるまい。獲物を摩利が構えると、ようやく戦闘態勢をとったからだ。やはり摩利の準備を待っていたのだろう。
呂は両手を身体の前に垂らし、前傾姿勢のまま摩利に突進した。
最初に攻撃を仕掛けたのは真由美だった。
智宏と達也の影からCADを操作してドライアイスの弾丸を呂に撃ち込むが、効果は見られない。
速度を変えずに近づくと、今度は摩利が40cmの刃で迎えった。
鈍い金属音でその攻撃が防がれたのがわかったが、呂の顔の横を鋭い短冊が通り過ぎる。なんと摩利の獲物は鋭い短冊3つをワイヤーで繋いだ3節構造の剣だったのだ。
呂は再び自分に放たれたドライアイスの弾丸を今度は避ける。
ここで初めて呂に人間らしい表情が浮かぶ。
確かに真由美の援護射撃は鬱陶しい。呂は標的を摩利から真由美に変えた。
呂は再度の突進をし、摩利とぶつかる直前で姿を消した。
「なに・・・!」
摩利は呂の姿が消えたのに驚き、反射的に右を見る。その判断は正しかった。
次に呂が現れたのは摩利と智宏達の間。呂は標的の真由美に突進するが、それは2人の男に阻まれた。
まず達也が
呂の両眼が驚愕に染まる。
すかさず真由美は先程より巨大なドライアイスを呂に放ち、両肩と腹に命中させた。
治癒魔法も吹き飛ばされた呂は、脇腹と新たに追加された両足の傷の痛みに耐えながら3人を睨みつける。
その背後から摩利が近づき、右手から黒い粉を呂に飛ばした。
その粉をまともにくらってしまった呂は粉を払い除けようとしたが、摩利が粉を燃焼させて呂の顔付近に低酸素空間を瞬間的に作り出し、獲物を大きく振り上げた。
そして呂は摩利が振り下ろした獲物を避けた。避けたが、その刃は1本では無いのだ。摩利は振り上げた瞬間に呂の頭上に2枚の短冊を展開しており、避けた呂の両肩に短冊が突き刺さる。
智宏と真由美の攻撃に加え、達也の術式解体と瞬間的な低酸素で防御ができていない呂は骨は砕けなかったが直撃をくらって肉が裂け、そのショックでようやく崩れ落ちた。
「終わったか」
「ああ」
「すまん真由美。標的を変えられるとは・・・」
「私は大丈夫よ」
「そうか・・・しかし2人はよくこいつを殺さなかったな」
「何者かわからない以上殺すわけにはいかないでしょう。達也は知っているみたいですけど」
そう。
相手がたとえ工作員でも智宏と真由美は呂が何者なのかわからない。
日本人なのか、外国人なのか、いずれにせよ後は警察の仕事なので殺す必要はないのだ。
その後、警察官が来て血まみれの呂を見て驚いていたが、すぐに呂の拘束に取り掛かった。
通常戦闘に参加した智宏も事情聴取を受けるのだが、あっさりスルーされる。これも「七草」の名前の威力だ。しかも智宏もいるので下手な事はできない。「四葉」がいかに恐れられているのかがわかる。
4人は警察官にここを出る事を伝えると、鑑別所の外へ出た。
しかし襲撃は終わったがまだ油断はできない。智宏と達也は家に到着するまで周囲を警戒していた。
また最近暑くなりやがって〜。涼しかったあの日はどこへ?