智宏は珍しく彩音を伴い達也の家に遊びに来ていた。
彩音はお茶をいれようとする深雪を出し抜きキッチンでお茶を入れ始める。この中で1番序列が低いのは彩音なので当然だろう。しかし深雪は達也に言われてソファーに座っているが、少しソワソワしている。そんなに家事がしたいのだろうか?
達也は智宏が来る前に国防軍の風間少佐と九校戦について話していた内容を智宏にも伝える。達也の所有権を持っている四葉には隠す必要はないと達也は判断したのだろう。
「智宏。実はさっき風間少佐から電話があった」
「風間少佐?もしかして独立魔装大隊の?」
「そうだ。少佐が言うには九校戦で何かあるらしい」
「何?」
「該当エリアに不正侵入者の痕跡と最近国際犯罪シンジケートの構成員の目撃情報、そしてその時期から九校戦が狙いだという結論が出たと少佐は仰っていた」
「ブランシュとは違うのか?」
「ああ。情報によれば香港系犯罪シンジケート『
「うーん・・・この事を母上は?」
「知っているはずだ」
「ま、当然か。よし!彩音!」
「ハッ」
「俺の家から四葉家に連絡を取り母上から指示を仰げ」
「かしこまりました。それではお先に帰宅させていただきます」
「今じゃなくてもいいんだぞ?」
「いえ。智宏様のご命令とあらば。失礼します」
そう言うと彩音は姿を消し、司波家から智宏の家に戻っていく。唯一聞こえたのはこの家のドアを閉める音だけだった。
「行っちゃったよ」
「智宏兄様。彩音ちゃんをあまりこき使わないでください」
「いやいやいや。彩音には無理しないでって言ってあるんだぞ?でも本人がやりたいんだってさ」
「智宏。彩音は調整体魔法師だ。それを忘れないでくれ」
「わ、わかってる」
「じゃあ深雪、智宏。俺は研究室でやる事があるから」
「かしこまりました」
「おう」
達也は地下の研究室に向かい、部屋には深雪と智宏だけが残された。
深雪はリビングに勉強道具(ディスプレイ状のノートとキーボードだけ)を持ってきて勉強を始める。智宏は既に予習を済ませてあるので深雪の勉強を見ることにした。智宏は達也ほど天才ではないが、それなりに知識を積んだつもりでいる。それをわかってるのか深雪も分からない所は智宏に聞いている。
そらから2時間は経っただろうか。深雪が時計を確認するともう9時になっている。
「ん?もうこんな時間か。深雪、今日の分は終わったかい?」
「はい。お陰様で。あの・・・お兄様に紅茶を持っていってもいいですか?」
「もちろんだ。そういや深雪はミラージ・バットに出るんだよな?」
「はい」
「じゃあその衣装で達也の所に行こう」
「それはいいですね!」
「俺がお湯を沸かしておくから深雪は着替えてきていいよ」
「ありがとうございます。では」
深雪がミラージ・バットの衣装に着替えている間、智宏はキッチンに向かいポットの中に水を入れて火にかける。
2分後、深雪が自室からリビングに戻ってきた。
智宏はうっかりその姿に見とれてしまう。
深雪はヒラヒラとしたミニスカートに髪を纏めているカチューシャは羽の飾りを付けている。上から下まで布で覆っているが、以外と薄手の生地なのかもしれない。
深雪は智宏の所に駆け寄ってくる。
「智宏兄様」
「深雪・・・よく似合ってるよ」
「そうですか!?ありがとうございます!」
「お湯も沸いた。後はよろしく」
「はい!」
深雪は慣れた手つきで紅茶を用意する。
お盆に3人分の紅茶を乗せると達也がいる地下研究室に2人は向かった。その時深雪の顔には悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。
研究室のドアが開かれると深雪はまっすぐに達也の座っている席に向かう。
「お兄様。紅茶をお持ちしました」
「そうか。ありが・・・それはミラージ・バットの衣装かい?」
「はい」
「よく似合ってるよ。とても可愛い」
「ありがとうございます・・・・・・!え?」
「ん?んん!?」
智宏と深雪は改めて達也を見ると、達也は座ったままのポーズで宙に浮いているではないか。
達也もしてやったりと言いたげな笑みでこちらを見ている。驚かされたのはどうやらこちらのようだ。
深雪は目に涙を浮かべて喜んだ。
「おめでとうございます!ついに飛行魔法が完成したのですね!さすがお兄様です。お兄様はまた不可能を可能にしました!」
「おめでとう。帰ったら母上に伝えておくよ」
「二人共ありがとう。深雪、紅茶を飲んだら実験をしてくれないか?もしかしたらミラージ・バットに使えるかもしれない」
「本当ですか!喜んで!」
深雪が作ったとても美味しい紅茶を飲んだ後、研究室の奥にある広い空間に移動する。そこは学校の演習室に少し似ていた。
深雪は達也から飛行魔法のデバイスを受け取ると、部屋の真ん中に移動してくるりとこちらを向く。その顔にはほんの少しだけ緊張が浮かんでいた。
「いきます」
深雪はCADのスイッチをONにした。
以外と小規模な起動式に驚きながらも頭の中に天井近くまで浮かび上がるイメージを浮かべる。
するとなんの違和感もなく深雪の身体は空中に浮かび、イメージした辺りまで上昇して行った。
そこから地面から1mくらいまで降下すると、達也は深雪に話しかけた。
「深雪。何か負担とかないか?」
「大丈夫です」
「じゃあ次は水平に移動してみてくれないか?」
「分かりました」
達也の指示通りに深雪は水平に動くイメージをすると、その通りに深雪の身体は移動した。
慣れてきたのか、深雪は徐々に飛行スピードを上げ始め、部屋中をいろんな風に飛び回っている。
達也と智宏はその美しさに実験の事など忘れるほど見とれていたのだった。
その後、未だに興奮を隠せない深雪とそれを苦笑しながら見ている達也に見送られて智宏は自宅へと戻る。出迎えてくれた彩音に飛行魔法の完成を伝えると、彩音もとても喜んでいた。
そして彩音は真夜に言われた事を智宏に伝える。
「智宏様。ご当主様の伝言です」
「言ってくれ」
「九校戦に四葉の援軍は送れない。しかし大会中何かあった場合は十師族として対処する事を許可するそうです」
「つまり敵が来た場合は捕獲または殲滅しろ・・・と」
「はい。それと周りにバレそうになったら消して構わないそうです」
「そうか、ご苦労だったな」
「い、いえ・・・」
智宏は労いに彩音の頭を撫でる。彩音は嬉しそうにそれを受け入れ、その顔は智宏に見えない角度でだらしなくデレっとしていた。
そして智宏は真夜にメールを送る。もちろんハッキング対策バッチリだ。内容は先程の飛行魔法の完成について。
その夜。2箇所の家では嬉しさのあまりベッドの上で無言で悶えている少女がいたのだった。
飛行魔法か・・・どこかの何コプターよりも使い勝手がよさそうだな
※指摘された話の誤字修正しました。ありがとうございます